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ミステリの祭典

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sophiaさんの登録情報
平均点:6.94点 書評数:370件

プロフィール| 書評

No.310 8点 真夜中のマリオネット
知念実希人
(2022/03/16 01:12登録)
ネタバレあり

「私が救ったのは天使か悪魔か」という大きな柱を崩しちゃった割には真犯人の意外性に乏しい。これは完全に「悪魔」のパターンでしょ、とんだ竜頭蛇尾だと思っていたらエピローグ・・・。「硝子の塔の殺人」のヒットで脂の乗り切った知念実希人という作家を見くびっていました。すみません。世間でも賛否がはっきり分かれているようですが、まあよく出来ている作品だと思いますよ。映画「セブン」並みに後味が悪いです。しかしここまで行くと逆に清々しいのです(笑)


No.309 9点 同志少女よ、敵を撃て
逢坂冬馬
(2022/02/24 23:20登録)
少女兵バージョンの「戦場のコックたち」という感じでした。女性の深緑野分が「戦場のコックたち」を書き、男性の逢坂冬馬が本作を書くというのは面白いですね。味方がテンポよく次々と死んでいき、その描写も至って淡泊なのですが、それはいつ誰が死んでもおかしくない戦場の過酷さを知らしめる著者の狙いなのだと思います。特に第三章でのあの人物の早々の離脱が象徴的です。
当初は復讐のため、途中からは女性を守るためという目的をも持って軍隊に身を投じたはずのセラフィマですが、次第に初心を失っていき、何のために戦うのかを自問自答し成長していく姿は共感を呼びます。そしてそれが衝撃的なラストへつながってゆくのですから、壮大な伏線回収を見た思いです。歴史ものとしても冒険ものとしてもミステリーとしても一級品であったと思います。なお、エピローグでロシアとウクライナの関係に触れられているのが実にタイムリーです。


No.308 4点 ゴースト≠ノイズ(リダクション)
十市社
(2022/02/18 00:32登録)
思いっきりネタバレします

新人離れした心理描写の上手さには目を見張るものがありますが(後半だんだんくどく感じられはしました)それだけで、ミステリーとしての完成度は低いです。最後真相が明かされるところできょとんですよ。まさか自分のことをそう思い込んでただけってこと?紙切れ一枚で?みたいな。さすがにこれは無理ですよ。「手のひらが透けた」とか「握手が空振りした」とか書いてしまってるじゃないですか。完全にアンフェアであると私も思います。
作品内で扱われるいくつかの事象、主人公の家庭問題、高町の家庭問題、クラス内のいざこざ、校内で起きる動物虐殺事件などは全部がバラバラで、ひとつの主流を形成できていません。結局何を読まされたのか?というすっきりしない読後感です。タイトルもセンスないですし、ツッコミどころはまだまだたくさんあるのですが、最後にひとつだけどうしても言いたいことがあります。やかん事件のことどんだけ根に持つんだよこいつらは(笑)


No.307 9点 名探偵に甘美なる死を
方丈貴恵
(2022/02/09 18:41登録)
VRゲームと現実世界の両方を舞台にした、全く新しい最先端の館ものミステリー。「インシテミル」のようなデスゲームものが好きな人へも是非お勧めします。使われる数々のトリックは「そんなの分かるわけないだろう」と怒ってもいいレベルのぶっ飛んだものなのですが、怒らずに済むのは考え抜かれた二つの館の構造やさり気なく出されている数字など、伏線に対する感心が勝るからなのです。ゲームのルールは複雑で、ゲームマスターの気分による後付けルールも続出します。こういう頭を使う凝った作品は本来ページがなかなか進まないものですが、ほぼ一気に読まされてしまいました。
なお本作はシリーズ第3作ですが、第1作と第2作の主人公が共演するという、夢のような(?)作品となっています。二人に最大限に感情移入するために是非第1作から読んでいただきたいと思います。


No.306 8点 望み
雫井脩介
(2022/02/04 22:47登録)
設定が少々凝っているだけで割とありがちな少年犯罪ものかなと思って読んでいましたが、そうではありませんでした。ナイフに一喜一憂する父親、息子の無実を訴える友人に反駁してしまう母親、自分の人生が閉ざされることを何よりも恐れる妹、三者三様のパラドックスにより紡がれるドラマの結末に胸を締め付けられる思いでした。


No.305 8点 模像殺人事件
佐々木俊介
(2022/01/30 17:03登録)
隠れた名作と音に聞く本作、待望の復刊を機に読んでみました。これは入り組んでますねえ。人物記述の点でアンフェアにならないよう第三者の手記という体裁を採ったのですね。その手記がさらに人の手に渡ることで物語が厚みを増すという仕組みです。
予想をはるかに上回るハチャメチャな話で、正直な話毒気に当てられてしまったような気分なのですが、論理の面では非常にしっかりしており面白く、高評価せざるを得ないといったところです。


No.304 7点 魔術師
佐々木俊介
(2022/01/24 18:28登録)
舞台設定が麻耶雄嵩「夏と冬の奏鳴曲」に似ていますが、それとはまた違う狂気じみた作品です。真相は衝撃的でありますし、○○○○に基づいた見立てなどよく出来ている部分はありますが、何の根拠もない与太話を盲信してあれだけのことをするのかという釈然としない思いも残りました。「魔術師」「秘儀(アルカナ)」「神秘学」などというミステリアスな用語で装飾したり、手帳の文面におどろおどろしいフォントを用いたりして雰囲気を出そうとしているのは分かるのですけれども。


No.303 5点 1話3分で驚きの結末!大どんでん返しの物語
アンソロジー(出版社編)
(2021/12/30 23:11登録)
宝島社出版の「5分で読めるひと駅ストーリー」「3分で読める喫茶店の物語」「10分間ミステリー」等から今回のテーマに沿った16短編を収録したもの。正直に言いまして傑作選でこの水準なのかという軽い失望はあります。それでも「フレンチプレスといくつかの嘘」「祈り捧げる」「柿」「盆帰り」は読み応えがありました。ベストは悩みますが、恋心と信仰の板挟みが苦い「祈り捧げる」と、唯一しっかり本格ミステリーとしても成立している「盆帰り」の2作を挙げさせていただきます。


No.302 6点 カミサマはそういない
深緑野分
(2021/12/07 01:40登録)
現実的事件から無限ループ地獄から戦争ミステリーから終末的世界の冒険譚から、これでもかというくらい多種多様な短編集です。特に今回はファンタジーホラーへの挑戦が見られます。全7話飽きずに読めてお得である反面、少しまとまりを欠いてしまいましたかね。「オーブランの少女」のように、ある程度の括りがあった方が評価しやすかったかもしれません。救いのない話ばかりですが、「新しい音楽、海賊ラジオ」は希望を感じさせる爽やかな読後感でした。この話がラストで本当によかったです。


No.301 7点 神のダイスを見上げて
知念実希人
(2021/11/25 23:34登録)
小惑星の衝突による地球滅亡をタイムリミットとしたフーダニット&復讐劇。接触した人物が次々と殺されていき主人公自身も容疑者になってしまうというというサスペンス要素もあり、謎めいた同級生の女の子との青春もあり、それら全てが終末的な潮流に支配されているという、言うなれば一種の特殊設定ミステリーといった作品です。追いかける犯人像が二転三転していくのはこの手の作品の王道なのですが、最後の最後のどんでん返しが推測に過ぎず雑に感じました。もう少し根拠となるような伏線を張ってもらいたかったです。それと市川憂人の某作を先に読んでいなければなあという個人的事情も併記しておきます。


No.300 6点 野球が好きすぎて
東川篤哉
(2021/11/15 23:20登録)
ネタバレあり

プロ野球ファンなら思わず笑ってしまう小ネタが織り交ぜられたライトな作品で楽しく読めましたが、ミステリーとしては粗さが目立ちます。主な突っ込み所としては、第3話の中断の時間も当然飛ばすのでは?というところと、第4話の犯行現場を偽装するメリットが感じられないというところです。第1話「カープレッドよりも真っ赤な嘘」がシンプルながら綺麗にまとまっていてこの中では一番よかったですかね。あとはパ・リーグの話がもっと欲しかったところです。


No.299 5点 変な家
雨穴
(2021/11/11 23:49登録)
本作は人気のYouTube動画を書籍化したものだとか。「不動産ミステリー」の謳い文句に相応しく、話の折々に間取り図が挿入されるという親切設計です。しかし「不動産ミステリー」だったのは第二章まで。第三章はもはや単なる隠し部屋・隠し通路捜しミステリーになってしまい、あまつさえ第四章は家系図ミステリーになってしまいました。こういう無理に長編に仕立てたものではなく、独立した複数の短編が読みたかったですね。真相の現実味のなさは棚に上げておきます。


No.298 7点 invert 城塚翡翠倒叙集
相沢沙呼
(2021/11/02 22:41登録)
ネタバレあり

あらら?(あれれ?でしたっけ)というのが正直な感想です。今作は正真正銘の霊媒師として事件に立ち向かうと思っていましたので、まだそこをリドルにしたままで進めるのかとまず思いました。霊媒師として描かれない翡翠は魅力半減です。さらに各エピソード終わりに「and again」なんて書いてあるものですから、前作のように最後に別角度から伏線回収していくものだと思っていたのですが当てが外れました。恐らく今作の目玉であろう3話目の叙述トリックも奇を衒いすぎてちょっと受け入れがたい。この作品に求めているサプライズはこういうのじゃないんですよね。衝撃的だった前作に比べて何だか普通のミステリーになってしまって残念です。個人的にこれはシリーズ化しない方がよかったと思います。

追記 酷評してしまったようですが、軽く読み返してみたところ、「medium」の続編という枷を外せば及第点は付けていいのかなあと思いましたので1点プラスしておきます。


No.297 10点 黒牢城
米澤穂信
(2021/10/24 18:45登録)
わたくし日本史にはとんと疎く、どこまでが史実かも分からなかったのですが、それが却ってよかったのでしょうか、フィクションと割り切って楽しむことが出来ました。行き詰った捜査員が囚人の知恵を借りて事件を解決するなどというのは映画などでもままあるパターンですが、本作は囚人の官兵衛からの働きかけもある点が新しいです。いや、壮大な遠望です。この戦乱の時代の武士道や死生観が四つの大きな事件と絡み合っており、ミステリーとしても時代小説としても抜群の読み応えです。この作品を著者名を伏せられた状態で読んでいたとしたら、米澤穂信だとはまず分からなかったと思います。まさに新境地です。
そしてこの作品には優れた点がまだあります。私は先述の通り日本史に疎いがゆえに、ラストの「×××は実は~」のくだりで驚くことが出来ましたが、恐らく歴史に詳しい人とそうでない人で異なる楽しみ方ができる作りになっているのだと思います。個人的に著者の最高傑作は「折れた竜骨」でしたが、これはあるいは超えたかもしれません。


No.296 6点 金色の獣、彼方に向かう
恒川光太郎
(2021/10/15 21:28登録)
文句なしに面白いのは歴史スペクタクル「異神千夜」だけです。「風天孔参り」は「夜行の冬」と「秋の牢獄」を足したような話。中盤まで面白かっただけに、オチをちゃんと付けて欲しかったです。「森の神、夢に還る」と「金色の獣、彼方に向かう」はいずれも超自然的な存在とシンクロする話です。この二話は抽象的で、私があまり好きじゃない方の恒川光太郎でした。


No.295 9点 硝子の塔の殺人
知念実希人
(2021/10/10 22:14登録)
若干ネタバレ気味です

外界から孤立したガラス張りの奇妙な塔で起こる連続密室殺人。知念実希人氏が満を持して贈る本格ファン待望の館ミステリー。と思いきや、まさかの倒叙もの?えっ、どういうこと?とプロローグの時点で術中に嵌ってしまいました。最初から最後まで意表を突く展開でずっと面白く、舞台設定ともリンクしている二段構えの構成は実に美しいです。
この作品は「問題作」や「賛否両論」という触れ込みですが、真相は私が思っていたほど滅茶苦茶なものではなく、普通に傑作だと思いました。動機部分が問題ということなのかもしれませんが、私は割とすんなり受け入れられました。これはコテコテの舞台設定や人物設定、本格ミステリーへの愛が止まらない探偵など序盤からメタミステリーのオーラがこれでもかと充満していたことが大きいと思います。これは本格ミステリーの新たなマイルストーンと呼んでも良い作品なのではないでしょうか。しかし「硝子館の殺人」より出来の悪い館シリーズありますよね(禁句?)。


No.294 7点 崩れる脳を抱きしめて
知念実希人
(2021/10/02 23:53登録)
第二部で病院側が採った「君の××だよ」作戦はだいぶ無理があると思いますけれども(笑)、無駄のない文章とストーリー運びですらすら読めましたし、プロローグで描かれている主人公の決意が読者の思っていたものとは全く異なるものに変貌する様が素晴らしかったです。注文を付けるとするならば、第一部で「ユウさん」の描写をもう少し緻密にしていたら最後真相が明らかになるところで効いたのではないでしょうか(敢えてそうしなかった面もあるとは思いますが)。


No.293 7点 超短編!大どんでん返し
アンソロジー(出版社編)
(2021/09/27 23:02登録)
初歩的な叙述トリックの作品、期待とは違うあらぬ方向に着地する作品、読者の想像に委ねる味わい深い作品等々、一口に「どんでん返し」とは言っても作風に幅の広さがあり中々楽しめました。各作家の個性もよく表れています。後半に進むに連れて凝った作品が増えていきますが、私が好きな話は前半に多いです。ベストは法月綸太郎「親友交歓」、2番目は蘇部健一「トカレフとスタンウェイとダルエスサラーム」、3番目は葉真中顕「究極の密室」です。あ、似鳥鶏だけは許しません(笑)


No.292 6点 流れ星と遊んだころ
連城三紀彦
(2021/09/21 19:32登録)
復刊を機に読んでみましたが、だいぶ疲れました。本作は技巧派ミステリの肩書き通りの作品ですが、技巧を凝らし過ぎたあまりストーリーは支離滅裂です。メインの三人の関係が面倒臭すぎますし、全員ひねくれ者で何がしたいのかが分かりませんでした。例えが秀逸な心情描写は著者の持ち味だと思いますが、今回はくどくどしさも感じてしまいました。長編だからなのでしょうか。

以下ネタバレ

一人称視点と三人称視点が入り混じるという奇妙な構造の意味を考えると叙述トリックを疑うのは必然であり、身構えて読んでしまったために種明かしにそこまで驚けませんでした。「俺」の使い分けを許容するかどうかでこの作品の評価は決まるのかもしれませんが、自分はずるいと感じてしまいました。不必要に思えた三人称視点をちょくちょく挟むのは二人の「俺」のクッションの役割だったのでしょうが、それを加味しても力技の印象を拭えません。読むのに使った労力に見合ったリターンではなかったというのが正直なところです。


No.291 9点 兇人邸の殺人
今村昌弘
(2021/08/16 00:23登録)
「屍人荘の殺人」と同じくクリーチャーによって人の行動が支配される特殊設定ミステリー。今作は更にホラーサスペンス色が強いです。毎度映画に例えてすみませんが、これは「バイオハザード」ですね。読者を引き付ける力は作を重ねるごとに上がっています。
恒例のクローズドサークルものでもありますが1、2作目とは性質の異なる第3のクローズドサークルです。なぜテーマパークのど真ん中などという雰囲気の出ない開けたところを舞台にするのかと思っていましたが、そうすることでむしろクローズドサークルになるという逆説的な舞台設定です。
殺人事件の解明は、恒例の細かい論理の積み重ねによる消去法推理です。著者にこの辺りの基礎体力がしっかりあるから奇抜な設定も生きるんですよね。しかし「犯人は探偵の敵なのか」の言葉通り、この作品において犯人当てはさほど重要ではありません。目玉は巨人の正体と鍵を取り戻す方法であり、考え抜かれた建物の複雑な構造がそれを下支えしています。そしてそれは読者を驚かせるのみならず人間ドラマにも繋がっていくのです。これぞ館ものミステリーではないでしょうか。
この作品で語られる名探偵論は阿津川辰海の葛城シリーズと似通ったところがあります。葉村の考えは葛城寄り、比留子は飛鳥井光流寄りでしょうか。しかしながら「雨降って地固まる」で最後に二人の信頼関係が深まったのは良かったと思います。「彼を侮るな」には心を打たれました。
もったいないのは終盤のとある伏線です。あそこまで話が進んだ上でのあの描写ではこの人物が××だと教えているようなものでした。あれはいらなかったかも。最後になりますが、未解決の大きな謎が一つありますね。比留子さん、トイレどうしたんでしょうか。

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