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ミステリの祭典

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模像殺人事件

作家 佐々木俊介
出版日2004年12月
平均点6.57点
書評数7人

No.7 6点 nukkam
(2022/05/22 02:40登録)
(ネタバレなしです) デビュー作の「繭の夏」(1995年)からかなりの時間を経て2004年に発表された第2作の本格派推理小説です。8年前に家出した長男を名乗る男が2人帰郷し、しかもどちらも頭部全体を包帯で覆われている包帯男という異常な事態が起こります。果たしてどちらが本物なのかという謎で前半を引っ張りますが片方が失踪するに至ってからどんどんややこしいことになります。会話の中に登場するけど直接描写がほとんどない登場人物が結構いますが、これが謎を深めるのに効果的です。「人物に存在感がない」と書くと通常は否定的評価ですが、本書の場合は当てはまらないでしょう。とらえどころがなくて読みにくいと感じる読者もいるかもしれませんが。何が起こったのかという網羅的な謎解きは読者が当てるのは難しいと思いますが、複雑怪奇な真相を丁寧な推理で説明している力作です。

No.6 6点 虫暮部
(2022/04/26 13:17登録)
 長らく疎遠だった親類なり知人なりに再会した時、相手を見分けられるか? 入れ替わっていたら気付くか? 本作では、入れ替わりが成立している反面、“気付かないのはおかしい” と言うロジックが推理に採用されていて二重基準っぽい(アンフェアだとは言わないが)。
 骨格は悪くないが書き方で損をしていると思う。整理するところはして。横溝正史ばりの展開の中に “モバイル接続” とか出て来るのはやはり興醒め。冒頭を読み返すと味わい深い。

 “ホワットダニット” は変な言い方だね。 whodunit の who が what に変わっただけだから “何がやったか” の意味でしかない。“ホワッツダン(what's done)”とでも言うべき、と言うかあんな台詞はいらん。

No.5 8点 sophia
(2022/01/30 17:03登録)
隠れた名作と音に聞く本作、待望の復刊を機に読んでみました。これは入り組んでますねえ。人物記述の点でアンフェアにならないよう第三者の手記という体裁を採ったのですね。その手記がさらに人の手に渡ることで物語が厚みを増すという仕組みです。
予想をはるかに上回るハチャメチャな話で、正直な話毒気に当てられてしまったような気分なのですが、論理の面では非常にしっかりしており面白く、高評価せざるを得ないといったところです。

No.4 6点 E-BANKER
(2020/11/02 21:47登録)
「創元クライム・クラブ」として配本された作品。
作者は本作のほか、デビュー作となる「繭の夏」の2作品しか発表していない模様・・・
2004年の発表。

~木乃家の長男・秋人が八年ぶりに帰郷を果たした。大怪我を負ったという顔は一面包帯で覆われている。その二日後、全く同じ外見をした包帯男が到着。我こそは秋人なりと主張する。二人のいずれが本物ならんという騒動の渦中に飛び込んだ大川戸孝平は、車のトラブルで足止めを食い、数日を木乃家で過ごすこととなった。日頃は人跡稀な山中の邸に続発する椿事。ついには死体の処理を手伝いさえした大川戸は一連の出来事を手記に綴る。後日この手記を読んだ進藤啓作は、不可解な要素の組み合わせを説明づける真相を求めてひとり北辺の邸に赴く~

何とも不思議な感覚に陥った。そんな感じ。
作品そのものが纏っている雰囲気が実に曖昧模糊としているのだ。
探偵役となる進藤啓作が物語の中盤、「その屋敷(木乃家)でいったい何が起こったのか?」という疑問を呈するに及び、本作のメインテーマが「What done it」だということが判明する。

確かに。関係者が残した「手記」をもとに推理するという形式からは、単純なWho done itということではなく、読者に隠された“大いなる欺瞞”を暴くことこそがプロットの主軸となることはもはや自明の理だろう。
そして、この“大いなる欺瞞”が問題。
「犬神家」を彷彿させる二人の包帯男を登場させた段階で、もはや人物の入れ〇〇りは想定されてしまう。しかし、本作のスゴ味は、この欺瞞をかなり大きなスケールでやってしまったこと。
もちろんこれには無理が生じる。普通なら気付かれるリスクが半端ない。で、それを現実的にさせる仕掛けが人里離れ、隔離された旧家という舞台なわけだ。
そしてもうひとつが、幻想的ともいえる筆致。(筆致だけなら、綾辻の「霧越邸」を何となく思い出した)
先に「曖昧模糊」と表現したけど、霧の中をさまよいながら読書しているという感覚に陥ってしまった。

なんか、とりとめもない書評になってますが、これまであまり接したことのない作品だったのは事実。横溝や三津田などの作風は想起させるけど、こういう独特な作品が二作だけなんて実にもったいない。作者はその後どうしちゃったんだろうか?

No.3 7点 蟷螂の斧
(2019/04/14 20:47登録)
あるプロットの先例作品(更なる先例もあるようですが)ということで拝読。オチはわかっているはずなのに、うまく騙されました(笑)。現代の物語ですが、全篇に亘る古風な雰囲気が魅力的です。二人の「包帯男」が自分が当家の長男と主張します。この事件はあっけなく決着がついてしまいますが、その後に、フーダニットでもハウダニットでもない、ホワットダニット(何が起こったのか?)に移行します。このあたりが珍しい作品。

No.2 7点 青い車
(2017/01/01 17:50登録)
 本格ミステリ・ベスト10ランクイン作品を網羅していこうと思い立ち、近所の図書館で借りました。
 なり替わりネタは手法としては既に古く、『犬神家の一族』のような名作の先例があるので今さら面白くは料理できないように思えますが、大胆なツイストを利かせた使い方は完全に盲点でした。そして、その大胆なトリックが意外にも隅々まで考え尽くされているなかなかの佳作です。古めかしさを漂わせた筆致も好みでした。

No.1 6点 kanamori
(2010/09/14 17:42登録)
山奥で道に迷いある屋敷に辿りつく探偵小説作家、顔を包帯で隠した二人の男の真贋問題、その物語を手記にして謎を解く構成など、扱われているガシェットは横溝正史や三津田信三を髣髴させるはずですが、淡々と煽りのない展開は全く異質な味わいがありました。
ミステリとしての本質の謎が何なのか解らないまま進展するプロットは読者を選びそうです。屋敷に住む人々の造形が書き込み不足なのですが、これは仕掛け上やむを得ないのかもしれません。

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