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ミステリの祭典

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みりんさんの登録情報
平均点:6.66点 書評数:385件

プロフィール| 書評

No.345 6点 暗黒星
江戸川乱歩
(2024/09/10 01:57登録)
このレベルのミスリードにすっかり騙されてしまうのは私くらいなものか…(苦笑)
手垢のついたプロットかもしれないが、少年の気持ちになって雰囲気を存分に楽しんだ。「暗黒星」とは明智小五郎にとってだけではなかった。伊志田一家にとっても、十年以上目に見えぬ脅威として鳴りを潜めていた。まさに隕石級の底知れぬ執念がそこにはあったということか。


No.344 6点 屋根裏の散歩者
江戸川乱歩
(2024/09/09 22:40登録)
犯罪のもつ魅力に取り憑かれてしまった男。狂人の異常心理を扱った犯罪小説パートが80%、シンプルなトリックと明智小五郎の冴え渡る推理を楽しむ本格探偵小説パートが20%。どちらかというと前者が乱歩の持ち味かな〜という風に思います。こういうトリックも好きですけどね
そういえば『陰獣』にもこんなやついたなあ。というか元ネタか。読む順番逆だったな。


No.343 7点 迷蝶の島
泡坂妻夫
(2024/09/08 21:31登録)
長編は極めて本格プロットだった泡坂妻夫(たぶん)、第五長編ではじめてサスペンスに舵を取る。
清涼感あふれる青春の幕開けかと思いきや愛憎渦巻く三角関係へと発展し、中盤以降は船と孤島でのサバイバル。本格成分薄めでありながら、小説として大変面白くて一気読みしてしまいました。そして毎度アーサカさんに騙される私。
精神科医の分析がいい味出しています。逆にこれがなかったらアンフェアとまではいかなくても不満だったかも。


No.342 7点 煙の殺意
泡坂妻夫
(2024/09/08 12:26登録)
うーんこの人今のところハズレがない。すごい。
いつもの泡坂流逆説が楽しく、なかでも『椛山訪雪図』は芸術的な域の"騙し"に仕上がっています。『歯と胴』は短編集の中では一風変わった倒叙もの。某技術は1980年頃には既にあったのか…現代ほど浸透していたら、逆に特定には繋がらないだろうなと。『開橋式次第』の鮮やかな伏線と論理は『亜愛一郎の狼狽』を彷彿とさせ、読後清々しい気持ちになります。特に上記の3つが気に入り、泡坂短編集の最高傑作との評価にも頷けます。まだ短編4作しか読んでないけど。


No.341 7点 信仰
村田沙耶香
(2024/09/07 13:20登録)
世の中には虚業(超広義)があまりにも多すぎますよね。コンサル、銀行、商社、保険、広告代理店など挙げ始めるとキリがありません。そして虚業ほど儲かるのがこの世の中です。
財やサービスで挙げるとブランド服・高級腕時計・葬式・結婚式などは私の中ではカルト宗教と変わりありません。商品の価値は材料、機能性、利便性などで評価されるべきであると切実に願っています。目に見えない幻想に金を使いたがらず、口癖は「原価はいくら?」である主人公ミキの考え方には甚く共感してしまいました。しかしながら、この考え方は『現実』を信仰している一種のカルトであるとこの作品は問いかけてきます。そうか、私も『幻想』を信仰できたらどれほど良かったのだろうかと思いを馳せるのです。まだまだ青臭い考えを捨てきれません。


No.340 6点 チョコレートゲーム
岡嶋二人
(2024/09/01 03:46登録)
昭和の推理作家協会受賞作。
ずっとひた隠しにされていた"チョコレートゲーム"が私にも馴染みのあるものだったとは… 中学校は社会から隔絶した閉塞空間。そんな歪な環境が時には大人も驚愕するほどの闇を生むことも…将来子育てをする際に心がけるべきなのでしょう。
いやしかしこの作家はやたらめったら読みやすい。会話中心だからかな?


No.339 7点 殺人出産
村田沙耶香
(2024/08/31 22:15登録)
『コンビニ人間』で衝撃を受けた村田沙耶香の奇想・異常・狂気の詰まったSF短編集。「10人出産すれば1人を殺すことが許される」という異次元の少子化対策を打ち出した日本。その制度に対する意見の割れ方が現代における死刑制度の比ではないことは想像に容易いですね。あまりにもショッキングなラストは『コンビニ人間』の狂気のラストを連想せずにはいられない。異常の描き方に著者の信念のようなものを感じる。
他にも生殖や生死に関する短編が3つ。1時間半ほどで読める満足度と完成度の高い短編集。
非ミステリ作家の中で今最も気になっている作家です。


No.338 7点 Another
綾辻行人
(2024/08/31 19:19登録)
夏の終わりにとっておきのホラー 

【以下鋭い人にはネタバレになると思われる】





あの趣向は伏線の妙・衝撃度・納得感どれもが確実にレベルアップ。ただなあ… 島田荘司の某作を読んだ時と同じ感じの・・・そう、アレよ。呪いの設定は緻密に作り込まれており館シリーズよりも空間的な広がりがあって、 760ページあっても一切飽きさせない力作であることは確実です。一般人(というか私の友達)には「綾辻行人って『Another』の人?」と言われるほど、その後のメディア展開で出世した新たなる代表作。デビューから20年を経て再度脚光を浴びた人ってあまりいない気がする…いや、結構いるんか??もう37年経ったのでそろそろ円熟期、3度目のデビューを期待していますよ。
雰囲気は同じ学園ホラーの『緋色の囁き』の方が好きだったりする。


No.337 5点 空飛ぶ馬
北村薫
(2024/08/29 20:51登録)
これは美しい…得点分布が。普通に万人受けする作品かと思っていたら、『黒死館殺人事件』並みの評点の割れ方(笑)
「日常の謎」のはしりとして著名な作品をいまさら読みました。謎のスケールに興奮を覚える殺人・密室・首無中毒者の私には少々物足りないけど、等身大の女子大生を主人公にして、日常に潜む謎と人間心理をハートフルに描き出す。
-人間というのも捨てたものじゃないでしょう-


No.336 3点 誰が勇者を殺したか
駄犬
(2024/08/27 03:19登録)
ライトノベル新作歴代売上第1位で今大ヒットしてるそうですよ。Amazonのレビューも超高評価だし、タイトルもザ・フーダニットミステリで、知人にも勧められたのでこれは読むしかありません。
しかし、珍しく大ネタが分かってしまったんですよね。エピローグはほのぼのしてて好き。
これが大ヒットするのならば、数多の本格ミステリはもう少し脚光を浴びても良いのでは…… 評点は辛口かと思いますが、↑のように捻くれた目で見なければ普通に楽しめると思います。まあ誰にでも逆張りしたい時期ってありますよね。そういうことです。


No.335 7点 この闇と光
服部まゆみ
(2024/08/27 02:28登録)
印象に残った一文があったので引用しようとしたら、お二方が既に挙げておられるのでやめた(笑)
独自の幻想世界の構築という点でここまでのめり込むように魅せられる作家はそういないのでは。盲目の少女の想像する世界が鮮やかな色彩を持って見えてきます。解説では中井英夫や赤江瀑(最近読んだ^ ^)が引き合いに出されていますが、その通りだと思います。

【察しのいい人は察するかもしれない感想注意】




前半は人の心を惑わすようなあやうい美しさを放つメルヘンファンタジー。前半の路線をずっと期待しつつ、心の中では種明かしを欲しがっている2人の自分がいました。物語がどこへ向かうかは読んだ方のお楽しみ。この主人公は三島由紀夫『金閣寺』の主人公と重なった。ミステリーというより文学よね後半。

※こちらもみんな教えてで知った作品です。ありがとうございました。


No.334 9点 少女には向かない完全犯罪
方丈貴恵
(2024/08/24 10:14登録)
私は本サイトのレビュアーの方々を大まかに4種類に分類してます。
思ったことを率直に書く「感想型」と作品の位置付けや優劣を客観的に書く「評論型」で2通り。お気に入りの作家の評点を甘く付ける「贔屓型」、好きな作家でも作品に対しては一歩引いて吟味する「平等型」で2通り。まあ「感想型」のなかにもパッション系とか評論入り混じり系とか色々いらっしゃるわけで、十人十色なこのサイトを眺めるのは楽しいですよね。
で、私はというと完全なる「感想/贔屓」型。よって評点はバリバリ贔屓してます。下記の感想もポジティブ部分ばかりに着目してしまっています(笑) なのであまり参考にしない&期待値上げないでください。

【ここから感想】
「少女×幽霊」最弱にして最強の異色コンビによる復讐譚です。
幽霊と聞くと方丈先生お得意の特殊設定か?と思いきや、今作は鳴りを潜めています。その代わりに中盤の不気味な犯人とのチェイスには心臓が縮み上がり、圧巻の多重解決が読者に襲いかかってきます。雪密室や天井の足跡などの不可解な謎を起点として扱われる膨大な伏線の量とクレイジーな謎解きにはもはや唖然というほかありません。そしていつも通り優秀なパズラーとしてだけでなく、小説としても進化を遂げている方丈貴恵の新境地!この飛ぶ鳥を落とす勢いのまま、本格の道を突っ走って欲しいです。多重解決が好きな方にオススメですね。


No.333 7点 女には向かない職業
P・D・ジェイムズ
(2024/08/24 09:35登録)
いかにも代表作ですみたいな顔をしておいてまさかの異色作だった。ダルグリッシュ警視がいつもは探偵役なのね…有名作からではなく、刊行年度順に読むのが吉と教訓を得た。読む速度と盛り上がりの両方ともに序盤はゆるやか、徐々に加速、終盤で最高速に。なるほど、すべてはエピローグでアレをやりたかったかがための布石だったわけか。秀逸なタイトルに感心してしまった。

<教訓メモ>
「お金のために結婚をするのはよくないよ、でも、お金のある人と結婚おし」

文庫本で370ページであるが、改行が異常に少なく、ねちっこい文章のためか体感は500ページほど。元ネタ学習のつもりで軽い気持ちで読むと、途中で投げ出したくなった。それもそのはずで、解説によるとP・D・ジェイムズは私のような初心者が手を出してはいけない典型的なマニア好み作家だそうだ。本作はジェイムズ作品群の中でも抜群に読みやすく、人気を博しているとのこと。全然読みやすくはなかったけどなあ(泣) 読みにくさを打ち消すほど面白かったからいいけど!


No.332 7点 真珠母の匣
中井英夫
(2024/08/23 00:01登録)
『幻想博物館』『悪夢の骨牌』『人外境通信』に続くとらんぷ譚4 ♦️
ついに完結編はダイヤということで、神秘な宝石伝説になぞらえた摩訶不思議な物語かと思いきや、初老の三姉妹が主人公の地味なお話。戦後生まれが増えてきた1972年、いまいちど大正という時代を振り返る。大正時代を生きた三女は心の中にどこか空虚さを抱えており、卑屈で無欲な側面を持つ。宝石でいうとダイヤモンドやサファイヤを追い求めずに贋作で我慢する。タイトル『真珠母の匣』は大正時代≒戦争が三女に植え付けた諦観を表現したものだと解釈しました。本作はそんな人々への熱いエール。あとがきでは"戦争とはついに何だったのか"をこの連作の締めくくりにしたかったと述べていますが、物語の面白さを損なわずにこのテーマを描けているので、目論見は成功でしょう。とらんぷ譚という一連のシリーズとして読むと『悪夢の骨牌』の『薔薇の獄』あたりが境界線となって、まったく別物になっているという印象を受けました。
ちなみに『真珠母の匣』の続きとして、とらんぷのジョーカーに該当する『影の狩人』『幻戯』も載っていますが、両方とも独特で味わい深い良作です。特に『影の狩人』の友情でもましてや恋人でもない絶妙な男同士の関係が好きです。
これでとらんぷ譚全54話読み終わりました。『悪夢の骨牌』に収録されている『大星蝕の夜』が1番のお気に入りです。中井英夫は非ミステリ作家だけど、これからも少しずつ読もうかな。


No.331 5点 人外境通信
中井英夫
(2024/08/20 01:20登録)
『幻想博物館』『悪夢の骨牌』に続くとらんぷ譚3 ♥️
む、ややパワーダウンか。前2作にあった妖美な幻想文学というよりはショートショート微SFというような感じのお話が多い。『鏡に棲む男』や『扉の彼方には』にピーマンを憎み続けし男や内開きの扉を出ることに過度に罪悪感を感じる男などが登場するが、狂人の異常心理・異常行動に狂人なりの論理と納得感があり、読んでいて楽しい。著者の生い立ちが1番反映されていそうなのは『美味迫真』。ロマンスとしては『藍いろの夜』が捻り付きのオチで面白いが、短編集として見ると少し浮いてる印象。というか全体的にこの『人外境通信』はとらんぷ譚にする必要あったのかな?と少し疑問。

どこかで役立つ豆知識(確証なし):中井英夫は絶対ピーマンが大嫌い


No.330 7点 悪夢の骨牌
中井英夫
(2024/08/17 14:48登録)
『幻想博物館』に続くとらんぷ譚2 ♣️(※勝手にシリーズ名を追記したので、まずかったら変更願います)
『幻想博物館』は後半にお気に入りが固まっていましたが、今作の後半は幻想小説というよりはノスタルジックな時空旅行SFであまり刺さらなかったかな。泉鏡花文学賞受賞のインタビューを読むと、中井英夫の生い立ちや戦時中の出来事が作品の後半部分に大きく反映されていることがわかります。戦争や軍国主義への嫌悪から反戦思想に繋がるのは当然だが、当時の無力さが虚無・虚構への逃避、非現実や反世界などのテーマに結びついているっぽい。(このへんは『私の憲法論』『彼方より』等のエッセイを読んでみないとわからんが)
その代わりに1つ飛び抜けて気に入ったのが『大星蝕の夜』で10点満点。ここだけ3回読んでしまった(笑) 稀代の悪女と詩人の男が妄想世界で2人だけの夢の棲家を築きあげるお話。悪女が提唱するミロのヴィーナスの本質は悪女そのもの。ハリボテのユートピアに詩人は最後の最後で最高の復讐を口にする。この歪んだ愛と独特の浮遊感に私の好きな曲がリピートする。きっと今は♪自由に♪空も飛べるはず…


No.329 8点 幻想博物館
中井英夫
(2024/08/16 23:12登録)
「流薔園」は夢遊病者の中でも特に程度の高い幻視者が集う精神病院。精神科の元教授が反地上的な夢を蒐集する幻想博物館として築いた一種の楽園。現代ならお叱りを受けるかもしれないほど攻めた内容ですね。1つ1つはそこまで難解ではありませんが、連作短編として他の話との繋がりを考えはじめると、『ドグラ・マグラ』を連想するほど迷宮に陥ります。
著者の毒物雑学が披露される『黒闇天女』や『チッペンデールの寝台』は傍から見ると滑稽で、図らずもコメディタッチなのが笑えます。
常識からは逸脱した愛の証しに満ち足りる『地下街』、不吉な美が生む○○愛の悲劇『蘇るオルフェウス』、車椅子と白人女の運命の出会いから流薔園送りになった経緯が明かされる『薔薇の夜を旅するとき』の3つが特に気に入りました。
怪奇幻想(妄想)小説として、夢野久作に負けず劣らずの満足感。続きも読みます。


No.328 7点 切断島の殺戮理論
森晶麿
(2024/08/15 04:36登録)
江戸時代の囚人の流刑地「鳥喰島」で起こる因習村系ミステリ。奇妙な因習とか謎の儀式とか複雑な家系図とか、こういうの1番心踊っちゃう。設定を見ると『凶鳥の如き忌むもの』が完全強化フルリメイクされて戻ってきたような嬉しさ。設定だけでなく、ぶっ飛び具合もこちらの方が上。犯人は結構わかりやすいけど、そのさらに上をいく終盤の<あの一撃>には眠気が吹っ飛んだ。わがままだけど、あとはトリックさえあれば…

※ 本サイトの新着書評を四六時中監視していると良い事尽くめですね^ ^

【以下微ネタバレ】





で、途中から突如現れた謎人格はいったいなんやねん


No.327 3点 サージウスの死神
佐藤憲胤
(2024/08/14 11:00登録)
『テスカトリポカ』で有名な佐藤究の幻のデビュー作にして、群像新人文学賞優秀作を受賞した純文学作品。別名義で登録されていたのに気づかず、重複登録するところだった…笑

等身自殺を目撃したことを機に、主人公が賭博に傾倒していく小説。短いセンテンスで描かれる主人公の思考や行動原理や会話に脈絡がなくて支離滅裂。飢餓感や渇望感が常に漂う狂気の世界。それも「さァ、○ケグルイましょう!」アハ みたいなわかりやすい類のヤツではなく、理解不能な真の狂気(少なくとも私には)。さらに、ギャンブル哲学・カネの本質のようなものが話の難解さに拍車をかける。
薬物中毒者から見た世界とはこのようなものであろうかと陶酔感、酩酊感に浸れるのは間違いないが、一般ミステリ読者にはおすすめしない。でも、分かる人が読めば9点・10点つけてもなんらおかしくはない、そんな不思議な小説。
こんな低評価をつけたにもかかわらず、作者の無限大のポテンシャルに期待し、他有名作をはやく読んでみたいと思わせる、そんな不思議な小説。


No.326 6点 オイディプスの刃
赤江瀑
(2024/08/14 01:02登録)
研師と調香師というニッチな世界のお話が主軸として存在する。また、中井英夫(赤江瀑ファンらしい)よろしくゲイバー、すなわち同性愛であったり、オイディプス王モチーフの母親への執着心であったり、一般人にはよくわからん世界のオンパレードである。が、妖刀に幻惑される描写や破滅を齎すラベンダーが香る描写などで「んなアホな」とはならないのが、著者の卓越した筆力を感じさせます。
1番気に入ったのは雪景色と鮮血のコントラスト。幻想文学とまではいかないけど、芸術家肌(ちなみに刀≠芸術らしい笑)で耽美性を求める方には刺さると思います。
母親とその不倫相手を両方愛してしまうとか、ミステリというより純文学やねこれは。もう深淵すぎてよく分からん。うん。

あと現代感覚からすると作品内の関西弁は違和感しかないが、1974年の作品と知り、こんな感じだったのかなと(?)

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