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ミステリの祭典

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安楽死

作家 西村寿行
出版日1973年01月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 7点 人並由真
(2020/09/05 05:29登録)
(ネタバレなし)
 その年の9月8日。静岡県・石廊崎の海中で、26歳の美人看護婦、佐藤道子がスキューバダイビング中に死亡した。死因は呼吸装置の操作を誤っての事故と判断されたが、その十日後、警視庁に、道子の死は事故ではなく殺人だという匿名の通報があった。そして9月20日、新宿の雑踏のなかで一人の記憶喪失の男が見つかり、身柄を一時的に保護された。やがてこの二つの事件は、一つの流れに繋がってゆく。

 ガチガチの社会派ミステリ(体裁は警察小説)だが、海底の自然描写、病苦の果てに絶命する老犬や海中の生き物などの動物描写に作者らしい筆づかいが感じられる。
 初期作で、のちのちの作風とはかなり趣を違えるとはいえ、ああ、西村寿行の作品だという実感に変わりはない。
 登場人物では、主人公の二人(鳴海と倉持)も良いが、独自の倫理と矜持を最大限まで冷徹に追い求めることにロマンを感じる医師会の大物・九嶋のキャラクターが出色。初期の寿行はこういう、味方にすれば心強いが敵に回したらコワイ、タイプのキャラも書いていたんだねえ。
 殺人トリックへの執着は、いかにも寿行の初期作品らしい組み立てぶりだけれど、被害者に向けて仕掛けた、(中略)まで利用するという発想にはニヤリとした。寿行作品のなかではたぶんトップクラスにマトモなミステリっぽい作品だとは思うけれど、それでも<こういうイカれたファクター>を混ぜ込んでくるあたり、やっぱりこの人だなあ、という思いを強くする。
 扱っている社会派ミステリ的な主題は、とにもかくにもマジメなもので、この一冊でたぶん、当時の時点で作者が抱え込んでいた、この方面へのルサンチマンは、すべて吐き出したんだとは思うよ。
 エンターテインメントとしてはちょっとこなれのよくないところも感じたものの、読み応えは十分にあった。

No.1 5点 E-BANKER
(2019/09/07 11:46登録)
処女長編とされる「瀬戸内殺人海流」に続いて発表された第二長編。
1973年の発表。

~警視庁に奇妙な通報があった。石廊崎で起きた女性ダイバーの溺死は事故ではなく殺人である、と。妻の裏切り以来、刑事としての情熱を失っていた鳴海は、特命を受け大病院の看護師であった被害者の調査を開始する。医療過誤や製薬会社との癒着、患者の自殺関与。病院内部の黒い疑惑を追うが、取り憑かれたように奔走する鳴海刑事に強大な圧力が降りかかる。人間の尊厳を問い、病院組織の暗部に切り込む社会派ミステリの傑作~

大量の作品を遺した西村寿行。初期の「社会派ミステリー」の一冊。
“ノン・エロス”である。
“ノン・エロス”の寿行なんて、何の価値があるのか? 私なんかはついついそう思ってしまう・・・
(どうしても「ハードロマン」っていうイメージが強いからね・・・)

それはともかく、本作のテーマはタイトルどおり「安楽死」だと思ってたけど、それだけでもない。
むしろ「安楽死」は疑似餌的な使われ方で、本筋は医療事故、医師のモラルに切り込んでいるという感覚。
そういうテーマというと「白い巨塔」が直感的に思い浮かぶけど、60年代後半に発表された「白い-」から考えても、この時期割と普遍的な題材だったんだろう。

ただ、どうも本作、全体的にスッキリしない、というかモヤモヤしてる。
「動機」が全体通しての大きな謎として焦点が当てられるんだけど、最終的に判明した動機が実に矮小なのだ。
法廷で散々に打ちのめされた鳴海刑事が、停職中にも関わらず、命を賭して冬の海中深く潜って暴き出した結論が「それかよ!」・・・
いやいや、これでは財前教授も浮かばれまい。(関係ないけど)

まーでも、作者にもこういう時代があったんだねぇ。
実に硬質で一直線な作風。追い詰められた境遇の男が己の矜持をかけて・・・っていうのはその後の作品群にも受け継がれたんだな。
ただ、個人的にいえば、「魔の牙」や「滅びの笛」などのパニック小説の方が好み。
もちろんそれ以上にハードロマンの方が好きなんですけど・・・

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