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ミステリの祭典

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みりんさんの登録情報
平均点:6.66点 書評数:518件

プロフィール| 書評

No.498 7点 屍海峡
西村寿行
(2025/10/23 20:34登録)
「みんな教えて」の調査第三弾!…なのですが、「黒潮の流れが鍵になるミステリー」はこの作品でもありませんでした。で、ネットで調べてたんですけど、おそらく本作の翌年(1975)に発表された西村寿行の『蒼き海の伝説』がお探しの作品である可能性が高いです。詳細は「みんな教えて」に記しておきます。

東京のアパートで、日南化成の守衛が毒殺された。容疑者として第一候補に挙げられたのが養殖業を営んでいる秋宗。しかし、秋宗には重度の記憶障害と精神異常が認められ、「青い水を持ってきた」と息も絶え絶えに証言する。
工場による海洋汚染がテーマの社会派ミステリーだが、前代未聞のトリック(凶器)が採用されているところは本格魂を感じた。その凶器の悍ましさは生命への冒涜だと犯人に軽く憤りを覚えるレベルであった。「青い水」の正体といい、ハナから読者に推理させる気はなさそうだが、著者の専門性を存分に生かした内容と警察と公害省職員のコンビが、別々に捜査した末に、同じ「屍海峡」に辿り着くという魅せ方に惚れ惚れ。社会派として『安楽死』ほど深く切り込んでいるわけではないが、確かな満足感があった。


No.497 7点 ポアロのクリスマス
アガサ・クリスティー
(2025/10/21 17:55登録)
『死との約束』を書いている途中に、この被害者設定をそのまま借用して、直球の本格を書こうと思いついたのだろうか。またもや財力で一家を支配し、家族をゲームの駒のように動かして楽しむ富豪が登場する。おそらく『メソポタミヤの殺人』のような広義のものを除き、ポアロ初の密室らしい密室。実際は、終盤にとある証言が出てようやく、不可能状況(犯人消失もの)だったということが判明する。
【ややネタバレ】

記憶に残る伏線を大量に敷き、それでもなお欺いてくる真犯人の隠し方の上手さはいつも通りだが、今回はクリスティーでは滅多にお目にかかれない物理トリックで新鮮だった。
さすクリ要素は死体発見時の引用セリフ「あの年寄りが、あんなにたくさんの血を持っていたと、誰が考えただろう?」
この引用、かっこいいだけじゃない!血まみれで血ぬられた血生臭いミステリーか、なるほど。
当時の血に関する科学捜査ってこのレベルも見抜けなかったの?てのは少々意外だった。


No.496 6点 死との約束
アガサ・クリスティー
(2025/10/19 09:34登録)
本作のネタバレをくらったと勝手に思い込んでいたのだが、読んでみるとネタバレでもなんでもなかった(笑)
一家を財力で支配するサディスティックな未亡人。ボイントン一家の人間が自由を手にするためには、専制君主気取りの女王を死に追いやらなければならない。「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ」という一文から始まるのが魅力的。ただ、一家の人間は被害者以外は薄味というか、あまり記憶に残らないキャラクター造形でレノックスとレイモンドがややこしくて何度冒頭を振り返ったか。部外者サラが一家の人間を救い出そうと奮闘するも、君主にすべて気取られて釘を刺される展開は一種のディストピアもののような趣向で面白い。実はこの出来事が事件の謎を解く鍵となっている…
誰からも憎まれる被害者の設定が、登場人物たちの行動・証言をより複雑にして、不可思議な状況が出来上がるという趣向もいい。あのクリスティーの名作の亜種みたいな印象だ。


No.495 7点 護られなかった者たちへ
中山七里
(2025/10/18 22:29登録)
テーマ自体は危うい作品だと思う
犯人側には止むに止まれぬ事情があり、2人の人間を餓死させるのも致し方ないだろうと、捉えようによってはそう読めてしまう。そして、被害者は既存の規定に従って職務を全うしたただの公職者だという見方もできる。この手の話を描く上で、上手いと思ったのは、語り手の刑事笘篠が「大事な者を護れなかった一般人」と「犯罪を犯した者を規定に従って逮捕する公職者」という二面性を待っていることで、両者の問題点をバランスよく炙り出してくれていることだ。また、これは必ずしも個の問題に帰着しているわけではない。真に断罪すべき犯人は税金の無駄遣いに目を向けずに真っ先に社会保障を削る政府とその政府を支持する我々国民なのではないか。

【ネタバレ】



ちなみに騙された。如何にも中山七里がやりそうなことではあるので、付き合いの長い読者は気づくでしょう(笑)


No.494 6点 ミステリーの書き方
評論・エッセイ
(2025/10/12 13:52登録)
面白そうな密室殺人(主観)のプロットができたんで、物語に起こそうと思案中。東野圭吾を読んでストーリーテリングを勉強しているが、正直真似できる気がしないなあ。というような経緯で本書を読んだわけだが、Tetchyさんも書かれているように、これは作家になるための指南書ではない。各々の作家がどのように苦心してミステリー小説を捻り出しているのかというエッセイ的な側面が強い。冒頭の福井晴敏氏はただちにこの本を閉じて、多くの作品に触れ、小説を書き始めろといっているくらいですから。
ミステリーの書き方に手順のような物や確立していそうだなと勝手に期待していた法月綸太郎や有栖川有栖は読んでみると微妙に参考にならず(笑)
作家によっても色々あって、伊坂幸太郎や船戸与一とかは書きたいもののイメージが勝手に降りてくる天才型なのに対して、東野圭吾は気に入った映像作品を繰り返し視聴して、何が気に入ったのか、何が面白いと思ったのかを徹底的に分析したりするタイプというのが意外だった。
本書の東野圭吾、森村誠一、二階堂黎人あたりの小説作法を参考にしつつ、稚拙な作品になることは覚悟の上、じっくり書き始めてみるかな。好きな作家の項を読むだけでもミステリー読者なら楽しめると思います。


No.493 7点 聖女の救済
東野圭吾
(2025/10/12 00:53登録)
倒叙形式にして、犯人当ての趣向を除去し、ハウダニットの解明一本に絞ることで、この狂気のトリックを際立たせている。ついでに、何度も行ったSpring-8が登場してテンションが上がる。短編向き、物足りないという意見にも賛同できるが、聖女の救済というワンアイデアでよくぞここまで膨らませたなという気持ちも強い。犯人の造形、動機、タイトル、構成…いやこの物語のすべてがあの虚数解のために捧げられたと言っても過言ではないのか?
被害者は紛うことなきゴミなので聖女の救済しちゃっても良かったと思うよ?
ところで湯川は普段なんの研究してんだ?


No.492 6点 安楽死
西村寿行
(2025/10/08 18:12登録)
「みんな教えて」の調査第二弾。なんの暗示なのかよく分からないが黒潮の描写は度々ある。しかし、「黒潮の流れが鍵になる」ミステリーではありませんので、消去法でお探しの品は『屍海峡』かと思われます。

『瀬戸内殺人海流』からパズル要素をかなり薄めた社会派だ。病院と製薬会社の癒着、医療過誤に安楽死の是非など医療問題について深めに切り込んでいる。それでも、自ら退職を望む刑事による捜査が紙面のほとんどを占めるので、一見無関係に見える人間関係が全て繋がっていくミステリ的愉悦も味わえる。被告が検挙した刑事が被告の弁護を勤めるという異色のリーガルミステリー要素もあり、十分に楽しめたが、現代では擦られすぎた議題で真新しさはない。といっても1973年の作品なのだから、逆に言えば先見の明があったということなのだろう。


No.491 9点 その可能性はすでに考えた
井上真偽
(2025/10/07 22:28登録)
いや凄い。真偽っち天才すぎるわこれ。これぞザ・新本格。
初回の決め台詞には厨二心がくすぐられたぜ。
【ややネタバレ】
同じ多重解決の『毒入りチョコレート事件』や『ミステリーアリーナ』と明確に違うのは、最初に推理に必要な手がかりをすべて開示し、かつ不可能性が極めて高い逆密室状況で、多重解決が繰り広げられること。これは奇跡の存在を証明するために、あらゆる可能性を否定する名探偵という設定が功を奏している。名探偵と推理対決をする相手はただ「可能性」を示すだけでよくなるのだから、フィージビリティーの問題を元から排除しているという隙の無さ。なにより、3つの説が出揃ってからなされる"ある趣向"には、細部まで精緻に練られたプロットと真の狙いに度肝を抜かれた。だが、本作はそこで終わらない。名探偵とライバルの対決の末に、やはり人智を超えた奇蹟は否定される。ただ、血の通った人間の生み出した奇蹟だったと… パチパチ 『名探偵のいけにえ』もそうだが何食ってたらこんなん思いつくんやろねぇほんと。
解説で言われているように、従来のミステリーを1歩進化させた作品というのには完全に同意だが、エンターテイメントとして面白いかという問題は確かにある。まあなんつってもミステリの祭典なんでね(便利)


No.490 7点 天使の傷痕
西村京太郎
(2025/10/06 19:38登録)
なぜ、西村京太郎は、読点を、こんなに、多用する癖が、あるのでしょうか?
というのは誇張ですが、途中からは読点の多さが気にならなくなるほど夢中になって読んでるのだから不思議です。10ページで殺人が起こり、20ページで警察の捜査、100ページ以内に3人が殺されるという風に、話の展開に一切寄り道がなくとにかくテンポがいい。テンポ厨俺歓喜。
犯人の意外性やトリックもわりと好きだが、やはり犯人が判明してからの動機探しがメイン。主人公は相手の境遇やその土地の因習も知らずにおめでたい理想論を唱える偽善者だと捉えられる描写もしっかりあるのがいい。個人的には主人公が最後に母親に求めた行為は必ずしも正しいとは思えない。慎ましく生きるのが善という価値観もあるだろう。一面的な問題提起ではないのが良い社会派ミステリの証かな。


No.489 7点 帆船軍艦の殺人
岡本好貴
(2025/10/05 19:13登録)
良作。鮎川哲也賞って本格に大きく偏っているイメージなんだが、本作は謎解き部分はかなりあっさりしており、どちらかというと、強制徴用により妊娠中の妻と離別した男の苦難を描いた冒険譚的なパートが非常に面白かった。
水兵は4時間ごとの2交代制で過酷な肉体労働を強いられ、睡眠時間もわずか4時間。食べ物はウジ虫の沸いたビスケットと塩漬けにされた硬い肉。士官に気に入らないことがあると水兵は鞭を打たれて、全身に赤い模様が浮かび上がる。そんな環境で精神が荒廃し、狂い出す者も多い水兵達だが、語り手ネビルは同じ水兵仲間と打ち解け合うことでなんとか正気を保っているが、仲間と共に船からの脱出を試みる。そんななか不可能状況で水平達が次々殺されていき…という内容。
不可能状況は1つ目と3つ目で、前者は暗闇の中でどう標的を狙ったのか?後者は密室からの犯人の消失であり、いずれも舞台設定を存分に生かしたユニークなトリックである。ただ、数十人単位で死ぬ海上戦が描かれてしまうと、連続殺人はいささか添え物の感があり、本格厨の私でさえ緻密に計画された脱出劇を見たかったという思いがないこともない。
映画化したらすごい映えると思うぜこれ。原作の枯渇を嘆いてる映画業界さん、ここに素晴らしい原作ありますぜ。

選評を読むと著者は最終候補に残るのは5度目ということで、著者の精神力と体力が本作の水兵達を凌ぐレベルで凄い。本作は受賞して然るべき作品と思う。鮎川哲也賞にハズレなしが今のところ継続されている。


No.488 8点 瀬戸内殺人海流
西村寿行
(2025/10/04 12:11登録)
「みんな教えて」に探偵ナイトスクープのような依頼が届いており、その奇抜なあらすじに興味を持った私が調査することに。調査といっても既に優秀な人並探偵が3作に絞っているので、私はそれらを発表順に読んでいくだけですがね。結論から申し上げるとお探しの品は本作品ではありませんでした(既に解決済みだったらスミマセンが…笑)

恥ずかしながら著者のことは初耳・初読。見慣れない語句や地名が多くてやや疲れ気味だが、予想以上に面白かった!序盤は旅館の密室状況で起こる転倒溺死。しかし現場には転倒時に残るはずの掌紋がなく、また、ドアには奇妙な形状の針が残されており、遠野刑事はただ1人事故死に異論を唱え、自ら捜査を開始する。次に、貞淑で清楚な人妻が失踪し、瀬戸内海で無惨な死体となって発見される。妻の無念を晴らすべく夫狩野は新聞社を退職し、義妹と共に瀬戸内海周辺を調査する。
話のほとんどは遠野刑事と狩野の捜査であるが、二人の連携によってとある画家が捜査線上に浮かび上がるまでの過程がこういう捜査小説の魅力だなあと思う。熊鷹を相棒にする画家は冷静沈着・冷酷無比で、警察や狩野敵として実に見応えのある造形である。
著者は以前に動物小説を書いているらしく、熊鷹と山犬の対決アクション描写などもあるが、やや間延び感もあってここはあまり乗り切れず。
最後に崩される鉄壁のアリバイとドアに残された針の謎、最序盤の腋臭の伏線などには本格心が宿っており、細やかな人物描写を隠れ蓑にしてここまで周到に作られていたのか!と驚いた。社会派・冒険・サスペンス系の色が強くても本格にジャンル投票されている理由がわかりました。


ネタバレ(?)


※あ、あれ?そういや現場の部屋って密室じゃなかったっけ?(→と思ったけど、そうか!その部屋の鍵を持っていったのは犯人か…いやでも時間差が…?)


No.487 7点 ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!
深水黎一郎
(2025/10/01 11:51登録)
文庫本で読みました。
【ネタバレ】



「読者が犯人」を言葉遊びや皮肉などではなく、一定の水準以上で成立させた史上初の本格ミステリーとのこと。読者は小説世界の住人ではないので、読者が架空の小説のキャラクターを殺すなんて本来は無理だ。これは本作にも該当すると思う。あくまで小説世界にいる新聞連載を読んだ者=犯人であって、俺は犯人ではない。そう貶すこともできる。
では、俺(現実読者)を犯人にするには?本作の語り手・深水黎一郎が本作を書籍化し、広く読まれたことで、香坂誠一が死んだことにすれば良いのではないか?とすると、本作内で香坂の死亡を描いてはいけなかった。例えば、シリーズ1作目では羞恥の手紙までで留めておき、シリーズ2作目で我々ミステリ読者がシリーズ1作目を読んだことで香坂は死んだのだという内容を描いたらどうか?これでシリーズを順に読んだ読者はシリーズ1作目の立派な犯人として仕立て上げられる。ん、でもこれだと香坂の死が実話でないと意味がないのか?まあその辺はご愛嬌ということで。
おそらく、著者もそんなことは当然考えただろう(知らんけど)。だが、デビュー作だったのだからそんな趣向は不可能だ。1作目の時点でそんなオチのない内容のミステリーは見限られるだろう。売れなければ、いや、読まれなければ元も子もない。その様な裏事情があって、著者は「作中作の読者が犯人」にせざるを得なかったのだと類推する。

物語性は希薄だが、『ミステリー・アリーナ』と同じく、ミステリーの限界に挑戦する作風に好感が持てる。


No.486 5点 月明かりの闇
ジョン・ディクスン・カー
(2025/09/29 23:34登録)
60年代のアメリカ南部にあるメイナード邸で起こる奇妙な事件。案山子やトマホークの盗難、月明かりに照らされた怪しい人影から始まり、ついにはヘンリー・メイナードは過去の事件と同じ様に頭の右側を潰され、死体で発見される。しかし、浜辺には被害者の足跡以外はなく、先祖の亡霊の仕業としか思えない状況であった…

連休中にチラッと読むだけの予定だったフェル博士シリーズもあれよあれよという間に最終作。最終作はというと先祖の幽霊という怪奇要素・足跡のない密室・令嬢と逢引していた幻の男というカーの欲張り3点セットが完備されている。シリーズ1作目『魔女の隠れ家』から34年経っても稚気溢れる本格嗜好なのは嬉しいが、本格作家の宿命かやはりここ数作は衰えも感じさせる。トリックに限界がきた分、人間関係で魅せており、真相にも深く関わる。夫婦漫才を繰り広げるカップルが癒し。
「フェル博士最後の事件」という副題は原書にはないらしく、シリーズ読者を釣ろうという魂胆がミエミエだが、そういうのには弱い。81歳の哀愁漂うフェル博士…劇的なお別れシーンはなくスーッと姿を消すだけであったが、それはそれでフェル博士らしいのかもしれない


No.485 6点 仮面劇場の殺人
ジョン・ディクスン・カー
(2025/09/27 00:56登録)
仮面劇場で、シェイクスピア劇のリハーサル中に特等個室「ボックス席」で起こった石弓による殺人。たったひとつの扉は完全に施錠され、舞台に向いた窓は衆人環視下にあった。被害者は背中を下から上に打たれており、凶器は現場から離れた場所で発見された…
前作は『死が二人をわかつまで』だったが、今作は劇場で起こる殺人で容疑者全員に鉄壁のアリバイという展開で『緑のカプセルの謎』を思い出した。個人的にはトリックのみを切り出すと『緑のカプセルの謎』に比類すると思いますが(元々カプセル評価低め)、事件とは無関係の記述があまりにも多く、事件の概要や重要なポイントをわざと(?)掴ませないようにしている感じがして、犯人当ても難しいです。位置関係が重要になるのだから、劇場の見取り図くらいはつけてほしかったな。

本書の解説はカーに対する並々ならぬ熱量がある二階堂黎人氏。ありがたいことにカーの全長編作品の中で密室を扱った作品が何作あるかをカウントしてくれている。完全なる密室が18作、準密室が17作、足跡のない殺人が5作でなんと全長編71作中40作が密室(広義の密室を含めると+α)であるらしい。どうやらジョン・ディクスン・カーは俺をまだまだワクワクさせてくれるようだ。


No.484 6点 悪魔のひじの家
ジョン・ディクスン・カー
(2025/09/25 19:17登録)
5年ぶりに発表されたフェル博士シリーズの21作目で初翻訳は1998年とかなり最近なのに驚く。そりゃ書評数少ないわけだ。ちなみに創元の新訳(2024)で読みました。
200年前の当主の幽霊が出る「緑樹館」で起こる二度の殺人未遂事件。一つ目は犯人(幽霊!?)の消失で二つ目は完全な密室。トリックはどちらも拍子抜けですが、コートの件などよく練られています。シリーズの原点『魔女の隠れ家』の雰囲気と『死が二人を分かつまで』のシナリオをミックスしたような懐かしさにリアルタイムの読者はあの時のカーが戻ってきたと歓喜したことでしょう(妄想)。私も楽しく一気読みしてしまいました。動機当てられた人ゼロだとおもうw


No.483 4点 雷鳴の中でも
ジョン・ディクスン・カー
(2025/09/23 10:59登録)
つまらなくはないが話がタルくてかなり微妙だった。
まず、事件に魅力がない。一応不可能犯罪っぽくはあるが、転落死の時点で興が乗らない。同じ転落死でも『連続自殺事件』みたいに部屋が密室だったら話は違ってくるんですがね。トリックもイマイチ工夫が感じられず、シリーズの中では最低クラスのもの。
見るべきところは意外な人間関係が動機に繋がる点くらいか
表紙、ショーシャンクの空にみたいだな


No.482 7点 死者のノック
ジョン・ディクスン・カー
(2025/09/21 23:13登録)
結婚5年目の夫婦は互いの浮気を容認し、冷え切った関係となっていた。そんな中、夫の浮気相手と思われる女性が窓とドアの閉め切られた密室で死んでいた。驚くべきことに、その殺害状況はウィルキー・コリンズの未発表作品「死者のノック」に記された密室殺人と同じ状況であった…

やはり密室は読む手を加速させる。コリンズ(未読)の未発表作品を出した理由は特になかったように思われるが、個人的にはお手本のようにシンプルな心理密室で上手いと思ったし、誤訳(?)には気づかなかった… 鍵穴が貫通している&ペンなどで外から押せば内側に刺さっている鍵が取れるというのは確かによく分からない鍵の構造ではある。
世界で初めて(ほんとか?)読者に推理材料を提示したフェアな探偵小説『月長石』とやらが気になったが、800ページもあるんかいな…要検討。

【ややネタバレ】



密室以外では、夫婦を中心に複雑な男女関係が色濃く描写されており、被害者はただの傍迷惑な奴であるが、その異常な性格によって事件の構造がやや複雑になっている。警察の最後の処理は賛否が分かれるでしょう。被害者は確かにやな奴ではあるが、これはちょっと甘くないかなあ…
あれ、ところで「死者のノック」ってタイトルはどういう意味だったんだ?

※創元推理文庫の文字が小せえとハヤカワを持ち上げていたが、昔はハヤカワも文字小さかったんだな…スマン創元


No.481 7点 疑惑の影
ジョン・ディクスン・カー
(2025/09/21 09:22登録)
序盤は毒殺の罪で逮捕された無実の女性を救う王道の法廷ミステリー。弁護士である冷笑系・ナルシスト・自己中心的で自惚れの激しい弁護士・バトラー(情にアツい一面もある!)が主人公である。その女性にしか機会のなかった殺人事件を、バトラーの機転で無罪判決を勝ち取る。
ここまでは文句なしに面白い。二つ目の事件でもバトラーは第一容疑者の別の女性の潔白を証明しようとする。フェル博士が登場し、なにやら事件の背景には悪魔崇拝教団が深く関わっているという展開に…ごろつきや教団達とのバトル描写で露骨に失速。
典型的な竜頭蛇尾作品で4〜5点が妥当だと思っていたところ、終盤に物語は急展開を迎えて、竜頭蛇体竜尾となる。

【完全にネタバレ】







最初に疑われた(投獄された)者が結局は黒幕で、時間差によるアリバイトリックという展開。これはアレですよねアレ。共犯者によるアリバイトリックなのでいくらでも貶すことはできる…が、バトラーの「ぼくは決して間違わない」というセリフの信憑性が"彼女は無実である"という地の文を上回るというミスリードが最終盤まで効果的であった。犯人とバトラーの二人だけのオトナな世界でアクセル全開、劇的なクライマックスを迎える…好み。


No.480 6点 眠れるスフィンクス
ジョン・ディクスン・カー
(2025/09/20 14:50登録)
諜報機関に属していたため、都合上4んだ事にされていた語り手ホールデンが復員し、数年ぶりに旧友ソーリィと恋人シーリアに再開する場面から始まる。「なにか特別な任務で遠くへいらしていたのね。」恋人の第一声に込められた思いは後に如何ほどのものであったか分かる。
ホールデンは旧友の妻であり恋人の姉であったマーゴットが脳出血で4んだと聞かされる。旧友ソーリィは病死と説明するが、恋人シーリアはソーリィの虐待を苦にしての自死であると完全に意見が食い違っており、ホールデンは旧友と恋人のどちらを信頼するか悩んだ挙句に殺人という結論を出す。

物語の核となるのが二者択一の苦悩。旧友が正しければ恋人は精神異常者であり、恋人が正しければ旧友は殺人犯となる。ホールデンが大切な人が狂っているかもしれないと悩み続けながらも、事件を推理していく展開が実に面白く三気読み。そして、この二者択一の決着の付け方は流石だと思った。
他の方も書いているように納骨堂の密室のカラクリは特に本筋とは関係ないので、とってつけたようでもったいない。一つ目の事件の方も、浴槽水浸しの論理などはよく出来ているが、過去作の使い回し感もあってミステリーとしては微妙かな。
石橋を叩いて渡る善人よりも向かうみずな犯罪者の方がなんて…女心はわからんね。カーおじさんもそんな経験あり?


No.479 8点 囁く影
ジョン・ディクスン・カー
(2025/09/19 20:05登録)
最近のカーやたら面白いなあ。アイデア命のミステリー作品なのにシリーズ中盤からエンジンかかっていくって珍しいんじゃね。

殺人クラブに招かれたマイルズは、主賓の大学教授から6年前に古塔の頂で起こった不可解な刺殺事件の話を聞く。犯行時間にその塔には誰も入った者がおらず、塔の死角から上空20mをよじ登ることも不可能。動機を持つ容疑者として真っ先に浮かび上がったのが被害者の息子の婚約者フェイ・シートンだった…

【ネタバレ】



マイルズはフェイ・シートンを司書として迎え入れると、同じ家にいた妹マリオンが「囁く何者か」への恐怖で心肺停止する事件が起こり…と徐々に十八番の怪奇性が増していく。戦争が影を落としていることもあって雰囲気は暗め。
何番煎じかの○○○○○トリックも6年前の事件と現在の事件の間に戦争を挟むことで見事に決まっている。塔の上での不可能犯罪はあの作品を思い出したが、レインコート・胸壁の岩・ブリーフケースなどの小さな謎の集積でとびきりの謎を創出する趣向や登場人物の細かな描写に伏線を忍ばせる(伏線の数が尋常じゃない!)手腕に恐れ入った。マイルズが赤毛の薄命美人フェイ・シートンに魅了され、彼女の潔白を信じ、闇雲に追い続けるという儚いロマンス要素もこの薄暗い雰囲気とマッチしている。

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