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ミステリの祭典

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みりんさんの登録情報
平均点:6.66点 書評数:385件

プロフィール| 書評

No.365 9点 ビッグ・ボウの殺人
イズレイル・ザングウィル
(2024/10/20 02:11登録)
まさに青天の霹靂…実にショッキングな出来事であった…私が好きな某推理漫画の中でベストトリックに堂々と認定していたものが、まさか1892年で既に編み出されていたなんて…
ソチラの方では他の方々が指摘しているようなトリック露呈の可能性を著しく低めてはいるものの、ほとんど本作のアイデアの流用であった。少年時代にソチラで味わった時の衝撃を本作の評点に加味して9点とする。心理密室の元祖であることやトリックのシンプルさ・独創性・破壊力を考えても『黄色い部屋の謎』より有名になるべき作品な気がします。いや、もう十分有名なのか?また、トリックだけでなく幕引きも完璧です。

※こちらも「みんな教えて」の「この密室トリックがすごい ベスト5」にてお二方が挙げていたので読みました。カルチャーショック!


No.364 6点 雪密室
法月綸太郎
(2024/10/19 20:47登録)
シリーズ1作目。後の『頼子のために』『一の悲劇』に繋がるような親子がテーマの内容です。警視のオヤジが初っ端から息子の頭脳をアテにしすぎていて笑いました。あの信頼関係はシリーズを通して徐々に構築されてきたのではないのですね。
肝心の密室トリック、ひさびさの「読者への挑戦状」に心が踊りましたが、いささか簡単すぎましたね。映像を思い浮かべながら読んでいくと、明らかに怪しい奴がいるんだなこれが(笑) ああもうこいつで決まり決まり。と思っていたら…まさかの…嗚呼…私はいつまでこういうのに騙されるんでしょう…
簡単すぎた方には、検死で「絞殺」ではなく「縊死」と診断された背景を推理するのもまた一興です。

やはり法月綸太郎はイイね


No.363 6点 明智恭介の奔走
今村昌弘
(2024/10/17 19:11登録)
前回最下位の者として、今年の「みんな教えて」のこのミス予想企画をガチで当てに行くために(嘘)、注目度の高い新刊も読みます。
ネタバレになるからあまり言えませんが、これはシリーズのファンにとっては待望の一冊だったのではないかと思います。自分はあっちよりこっちの方が好きです。
大学が舞台の学園ミステリをあまり読んだことがないので、『最初でも最後でもない事件』と『宗教学試験問題漏洩事件』の2つは特に楽しかったです。前者は動機の推理、後者は事件の規模の割にかなり本格風トリックで嬉しくなります。
「とある日常の謎」については夫婦関係に焦点が当てられる日常の謎ミステリです。夫婦という題材にせよ、日常の謎にせよ、今まで本格の中の本格を書いてきた今村昌弘とは一風変わった作風といった印象で、読了後に心が温まるお話です。『でぃすぺる』も早く読まないとな。


No.362 5点 夢野久作全集 2
夢野久作
(2024/10/15 00:36登録)
夢野久作が記者時代に記した関東大震災の1年後の東京のルポルタージュ。前半には江戸っ子の人口減少問題について論じられます。そこには「一般に或る人種が文化の絶頂に達すると人口が減少する」と書かれています。これには驚きました。この言説が1924年で既に議論の的になっていることにです。現代において、少子化の原因は様々ですが、先進国の大半が抱える問題であることを考慮すると、やはり文化の絶頂であることかなあと。文化の発展によって人間がゆとりを持ち、子孫の繁栄以外の方法で幸福を追求できるようになったことが1番なのではないでしょうか。と、こんな黴の生えた議論が丁度100年前から既に交わされていたのだと考えると感慨深いです。そして結婚相談所(当時は結婚媒介所)が存在していたことにも衝撃です。入会料5円、会見料5円、結婚成立料30円。現代基準ではどのくらいなのでしょう。本書を読まなければ、私は100年前の東京の姿など知る由もなかったでしょう。100年で科学技術は恐ろしく進化を遂げましたが、人間の性質というものはたいして変わりません。今とは何もかも違う、大昔だと思っていた100年前の日本にも現代とさほど変わりのない生活や慣習があったのだと大変勉強になりました。
いつもの怪奇小説をお求めの方はスルー推奨の巻です。


No.361 6点 バベル消滅
飛鳥部勝則
(2024/10/14 10:30登録)
『殉教カテリナ車輪』に続き、図像学×本格ミステリ。とはいえこちらは前作ほどの親和性を生み出せていない印象。前作と流れも似ているが、風変わりなヒロインや田舎特有の人間関係の狭さとどこか退廃的で荒んだ登場人物たちが魅力。ミッシングリンクものとしては前例があるかはわからないが、結構ユニークな動機。やはり密室がほしいところ。

※飛鳥部勝則を刊行順に読んでいく計画が入手困難な『N・Aの扉』のせいで早くも頓挫しそう


No.360 7点 第四の扉
ポール・アルテ
(2024/10/11 12:57登録)
密室×2は正直しょぼい…最近読んだ「スウェーデンのディクスン・カー」や「中国のディクスン・カー」と比べても派手さがまるでない。でもこのしょぼさがなんか嫌いになれない…というか好きだ。怪奇、憑依、密室、メタネタなどサービス精神旺盛なのに、ここまでコンパクトにまとまっている点も評価したい。(日本の作家だったら500ページは優に超えそうw)ということで6点ではなく7点。
本サイトを利用していて痛切に感じるのは、どうやら私は早急にジョン・ディクスン・カーを読むべきであるということだ。


No.359 8点 江戸川乱歩傑作選(新潮文庫)
江戸川乱歩
(2024/10/09 11:15登録)
これは乱歩初心者の私にとって珠玉の短編集だった。
国内最古の暗号と密室『二銭銅貨』『D坂の殺人事件』、明智のプロファイリング能力が光る『心理試験』などの有名な探偵小説寄りの代表作群に加えて 、乱歩の持ち味である異常心理・性愛・残虐嗜好が存分に活かされる『芋虫』『人間椅子』『鏡地獄』も揃ってて隙が無い。
ただし『鏡地獄』があるならば、『目羅博士の不思議な犯罪』も収録しといて欲しかったかな。結構気に入ってるので。あと有名所で入ってないのは『押絵と旅する男』とか?
何気に『パノラマ島奇談』がないのはかなり痛い。まあ、あれは短編とは呼べない分量だから仕方ないのかな?


No.358 6点 蜘蛛男
江戸川乱歩
(2024/10/09 11:03登録)
犯人やトリックは見え見えで前半で真相のほとんどが看破できてしまう。犯人の行動には必然性を感じないし、プロットの瑕疵にも突っ込みたくなる………のにどうしてこんなに夢中になって読んでしまうのか分からない。乱歩の卓越したストーリーテリングの力というものを見せつけられた。戦前にこんな特大のエンターテイメントがあれば少年たちが夢中になるのも当然だよねぇ。


No.357 8点 プロジェクト・ヘイル・メアリー
アンディ・ウィアー
(2024/10/07 22:26登録)
『星を継ぐもの』と並んでハードSFの暫定ツートップ。なぜそう言い切れるのか?それは私がこの2作しかSFを読んだことがないからである(^^) こんなに面白いジャンルであるならばもっと読もうかなSF。 ネタ改題案『星を断つもの-アストロファージ-』

(上)巻が特に面白い。記憶喪失の男が、徐々に記憶を取り戻しながら、ヘイルメアリー号の目的を思い出していく。己の知と技術を頼りに未知の生物の謎を解析していくプロセスが実にアカデミック。自分自身が普段研究で用いる解析理論や実験の手法が登場したりしてとても楽しい。星が違えど物理法則は宇宙共通。自然科学がいかに普遍性のある学問であるかを思い知らされる。問題が発生し、科学的な思考を重ねて解決に導くというサイクルが宇宙船という閉鎖空間の中でずっと繰り返されているだけなので、読む人によっては単調に感じるかもしれない。

【ややネタバレ】


博学で利発で勇敢でたくましく思えた主人公がその実、死を恐れる等身大の人間であったことが本作の最大のサプライズ。幾度も発生する謎の現象が科学的に解明される知的興奮。協力して困難に立ち向かうバディものとしての面白さ。この二つが絶妙なバランスでブレンドされた素晴らしい作品だと思います。


No.356 8点 花束は毒
織守きょうや
(2024/09/29 02:24登録)
冤罪をテーマにした探偵捜査小説。中盤は捜査プロセスが冗長的で内容も起伏に乏しく、あくびを噛み殺しながら読んでいると、ひさびさに背筋が凍るような読書体験をしました。それも衝撃は2度やってくるのです。これは油断していて良かった。
周りが敵になっても、たった1人信頼し続けてくれる人がいるだけでどれだけ心が救われるのか。というようなことを想像してしまいました。

【以下ネタバレ】








よくよく考えるとタイトルがあまりにも攻めすぎているため、鋭い方は早々に気付くかもしれません。それでも脅迫手紙の中の1通の内容が実に巧みに真相を覆い隠しています。怪しい人物は指摘できるかもしれませんが、その人物の執念と手紙の真の目的にまで気づけた方はレアだと思われます。私は木瀬と心情が連動しており、衝撃の連続でした(笑)


No.355 6点 向日葵の咲かない夏
道尾秀介
(2024/09/28 20:25登録)
ま、まだ夏なんで滑り込みセーフ…
タイトル「向日葵の咲かない夏」は、自分の世界に閉じこもって、結局抜け出せなかった主人公のことだったのかな。
どことなく『夏と花火と私の死体』感があったのでホラーに投票しとこ。
ひとつだけ腑に落ちないのは駅員さんとの会話だね。


No.354 7点 喜劇悲奇劇
泡坂妻夫
(2024/09/27 11:08登録)
相変わらず奇術がお好きな泡坂妻夫の第6長編!第5長編『迷蝶の島』に引き続き、船内が舞台。

【以下鋭い方にはネタバレになるかも】


前作にはない楽しみとしては、奇術師集団であることを活かしたハウダニット。奇術師とミステリ作家って、聴衆を欺くトリックを思索し続けなければならないという点で親和性の高い職業ですな。
そしてなにより回文のオンパレード。ミステリの構造が回文そのものだったというところに本作最大の狙いがあるように思えました。ことごとく登場する回文にもよくぞここまで思いつくものだなと感心しましたが、何気に↓の虫暮部さんのオリジナル回文(?)がそれなりに物語の概略となっており、完成度が凄まじいです。


No.353 7点 人間椅子
江戸川乱歩
(2024/09/24 10:08登録)
可愛らしいデザインの角川文庫のもので読みました。
『人間椅子』は乙女の本棚シリーズで読んでいたので再読。
初読時はよくぞこんなニッチな異常性癖を…と楽しみましたが、あの『芋虫』を読んでしまった後はまだまだ振り切れていないなと。感覚器官欠損の美学として『芋虫』は『人間椅子』の強化版です(私見)。そして、最後の最後でリアリズムというか、著者の中の理智が勝ってしまったような葛藤が読み取れる。
『目羅博士の不思議な犯罪』は鏡(模倣)の恐怖をテーマにしていて、怪奇短編『鏡地獄』が探偵小説寄りになったような感じか?これは両者引き分け。なんだかこの目羅博士、夢野久作の作品にも出てきそうな感じがする(笑)
『押絵と旅する男』も人ならぬものに恋煩った男の話。これもどこか『人でなしの恋』とダブる。老化はやはり人生における最大の敵ですな。


No.352 5点 ポー詩集
エドガー・アラン・ポー
(2024/09/24 00:34登録)
短編『ライジーア』からポーの詩集に興味を持って読んだ。リズムや旋律、韻が大事な詩を翻訳版で読んで、果たして意味があるのか?それは知らん。
『大鴉』は詩人ポーが名声を得た出世作。愛するレノアを失った男はただの鴉を見るだけでも激情に駆られる。亡くなってしまった人はネバーモア(またとない)ゆえに正気ではいられない。うむ、こんな単純な解釈しかできん(^^;)
詩の内容がかろうじて理解できなくもないのは、私からするとこの『大鴉』と『アナベル・リイ』と『黄金卿』あたりか。
ポーは母親や義母、従姉妹の妻など、愛する女性達に尽く先立たれているそうです。その暗澹たる人生のためか、女性に関する詩は神秘的な美しさの陰で底知れぬ寂寥感を伴う詩ばかりですね。愛する女性の死を詠うポーの哀愁と憂鬱を感じ取れたらひとまずは良いのかな。


No.351 7点 黒猫・アッシャー家の崩壊 -ポー短編集Ⅰ ゴシック編-
エドガー・アラン・ポー
(2024/09/23 20:18登録)
【注意】【感想の最後にダフネ・デュ・モーリア『レベッカ』のネタバレのようなものがあると思われる(うろ覚え)】
再読はほぼしない私だが、エドガー・アラン・ポーはお話について行くだけで精一杯なので2周するくらいがちょうど良い。巽孝之氏の解説を読んで結構満足。
『黒猫』は何度でも読める犯罪小説。
『赤き死の仮面』は初読時には雰囲気に惑わされていたが、7つの部屋は一体何を表しているのでしょうかね。最後が「死」を表しているのだとして、人生におけるターニングポイントのようなもの?それともすべて死にまつわる何か?うーんわからん。「仮面の人物に実体がなかった」というのも不思議だ。実体を伴わない方が恐怖が増大するというだけの理由でそうしたとは思えない。うーんわからん。結論:再読してもわからん。
『ライジーア』は意志は肉体を超越するということについてだけど。最後の"奇跡"については、ライジーアの意志なのか語り手の意志なのか、対象が謎ですよね。ポーの詩集も読んでみるかな。
『落とし穴と振り子』は幻想風味はなく、リアリティと臨場感溢れる脱出ホラー。まあまあ。
『ウィリアム・ウィルソン』はドッペルゲンガーを扱った恐怖小説。今読むとよくある話だなあと思ってしまいますが、やはりポーがこのジャンルの先駆者なのでしょう。

私の頭の中でガバガバゴシック方程式ができました。『ライジーア』+『アッシャー家の崩壊』=『レベッカ』


No.350 7点 黒蜥蜴
三島由紀夫
(2024/09/20 22:58登録)
『金閣寺』を読んだ時に三島由紀夫が本サイトに登録されていて驚いた記憶があるのですが、『黒蜥蜴』のおかげだったのですね。
謎解き要素や怪奇趣味を薄めてロマンスを主軸にしたため、かなり別物になっています。戯曲版ゆえにセリフや演出がすこぶる洒落ていて、何度も読み返したくなるようなセリフがたくさんありました。
なんといってもルパン三世『カリオストロの城』の誰もが知る銭形警部のあの有名なセリフ!アレですよ!まさか元ネタが三島由紀夫だったとはね…(未調査)

原作だけでなく、こちらも絶対に読むべきですよ。あ〜『黒蜥蜴』の舞台どっかでやってねえかなあ…


No.349 7点 心理試験
江戸川乱歩
(2024/09/13 01:47登録)
本サイトに登録されている乱歩作品の中で最高評価を受けているのが本作。この雑味のないシンプルさと心理分析の納得感に起因しているのでしょう。罠の引っかかり方だけを抽出すれば犯人はただのアホにしか見えないところなのだが、犯人の行動原理を的確にプロファイリングした明智の賢さを実に巧みに示している点が流石乱歩だと思います。


【ネタバレのようなもの】



お金を半分だけ盗む→自演で交番に届ける
もし仮に強盗目的であることが発覚しても、逮捕には繋がらない。これ何気に賢いなと思いました。これのせいで疑われたことを差し引いても、なかなかのトリックじゃあないですか?


No.348 6点 D坂の殺人事件
江戸川乱歩
(2024/09/13 00:08登録)
日本最古の密室もの(1925)らしい。ソースはwikipedia(^^;)
海外ではポー、ドイル、ルルーなどが既に優れた密室を生み出していた中、本作の功績は「日本の家屋で密室を成立させるのは不可能」という定説を覆したことらしい。ほんとですか?じゃあ+1点しとくか。
全体的に『モルグ街の殺人』の影響が色濃く出ているのを感じますが、真相のぶっ飛び具合で遠く及んでいないという印象。明智小五郎という探偵が有名になりすぎてしまったのも一つの弊害か。
密室ものだけどその構築方法は肩透かしで、HowよりWhyの方がはるかに印象に残りました。


No.347 6点 黒蜥蜴
江戸川乱歩
(2024/09/11 13:15登録)
明智ィ〜さすがにモブ盗賊の命の扱い酷くねえか?笑
流石に誘拐犯対名探偵の頭脳戦はご都合主義で子供騙しに感じてしまいましたが、私は好敵手から想い人へと変わってしまう黒衣婦人のヒロイン小説として楽しみました。最後のキスシーンで、毒を口移しにして共倒れエンドにしていたら、私の好みの結末でした。
三島由紀夫ってこういうのも好きなんだ、意外。三島由紀夫版も読まないとねえ…


No.346 8点 芋虫 江戸川乱歩ベストセレクション2
江戸川乱歩
(2024/09/10 17:27登録)
表題作『芋虫』はあまりにも凄惨を極めた内容で衝撃を受けました。評点は『芋虫』だけの評価。
外界からの(性的)刺激を受信する感覚器官の欠損という点で『人間椅子』に通ずる異常性愛の形であると読み取ることもできます。
『人でなしの恋』は性愛の異常さでいえば、『芋虫』には遠く及びません(我基準)が、両作ともに残された妻は生涯罪の意識に苛まれることでしょう。

探偵小説的趣向が強いのは『夢遊病者の死』とせいぜい『双生児』くらいで他はほぼ怪奇小説。
『芋虫』と『人でなしの恋』以外は正直4〜6点ほどで、『踊る一寸法師』が結構よかったかな。元ネタのエドガー・アラン・ポー『ちんば蛙』も読まねばならん。

あと巻末の三津田先生の解説が良い。未収録の『陰獣』で解説を〆るほどお気に入りなのが面白い。

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