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ミステリの祭典

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カナリヤ殺人事件
別題『カナリア殺人事件』

作家 S・S・ヴァン・ダイン
出版日1954年11月
平均点5.67点
書評数18人

No.18 3点 レッドキング
(2020/10/12 19:44登録)
「ベンスン殺人事件」に続いて、新訳文庫本にて再読。やはり、昔、記憶にあった通りのファイロ・ヴァンスだった。デビュー作のシンプルにして鮮やかな「現象学的解釈」推理が、ここでは単なる「心理学的」・・類型的行動学、~型人間学・・の独断のレベルにまで薄まってしまっていて残念。
「ポーカーは人生の縮図だ!」「碁を打てば相手の人間がわかる!」「車の運転は男の人生の象徴!」etc 今でもいろいろウンチクあるけどねえ・・。それにつけても、この二つの機械トリック、ショボすぎ(でもキライじゃない)

No.17 6点 虫暮部
(2020/02/20 13:45登録)
 なにしろ有名な“アンフェアな手掛かり”のネタバレ作品であるからして、答え合わせ程度のつもりで読み始めたが、それだけでは解釈しきれない矛盾が色々あるし、警察は無能だし、かなりやきもきさせられ予想以上に楽しめた。
 ところで、当時は四階建て程度の規模のアパートメントで専属の“電話交換手”と言う職業が成立したんだ? いつの世もテクノロジーは職を奪うね……。

No.16 6点 弾十六
(2018/10/30 02:33登録)
ヴァンス第2の事件 1927年出版 新訳(2018年)で読みました。
またも実在の未解決事件がモデルです。元ネタのDorothy King殺人事件(1923年3月)の記事をWebで探してみましたが、残念ながら日本語で書かれたものはありませんでした。どのくらい設定が似てるのか気になります。
さて小説の方は一種の密室殺人で探偵小説の王道ですね。軽薄な口調で捜査をからかうファイロの探偵術が冴え渡ります。大ネタはああそうですか、という感じ(あの図解は読者にとても親切、JDC/CDは特に見習って欲しい!)ですが結構楽しい読書でした。でも重要容疑者を見張ってた警官はドジすぎですね。
次のグリーン家は新訳がいつ出るかわからないので井上勇さんで読もうかな…
銃は38口径コルト オートマチック(38 Colt automatic)が登場。M1903 Pocket Hammerだと思われます。

No.15 6点 ボナンザ
(2018/08/05 22:42登録)
有名な例の密室トリックとポーカー心理試験を含む第二作。それに今となっては反則かもしれないが、あの時間差トリックもこれが初出か。
今読むと古びて見えるが、歴史的な意義が大きい記念碑的作品。

No.14 7点 クリスティ再読
(2018/07/01 23:39登録)
ヴァン・ダイン第二作も、1923年に起きた「ドット・キング殺し」に基づくストーリーなのだが、「ベンスン」と「エルウェル事件」の関係よりはずっと自由度が高い印象だ。「ベンスン」よりも展開もこなれていて、格段の進歩を見せている。今回も前回と同じく「アリバイも物証も全部無意味!」なミステリである。
とはいえ、後半にヒース部長が立てて見せる推理が無理がなくて見事だとか、実際の真相の人の出入りとその心理的辻褄もなかなか、いい。「ベンスン」とは比較にならないくらいにうまく組み立てられている。まあ本作は伝統的に、1)犯人のトリックが古臭い、2)その発覚が偶然、3)密室状況が針と糸、4)性格からの推理が好まれない...というあたりが批判されるのだけども、改めて読んでこれらは不当な判定のように感じる。というのも「ベンスン」から引き続き、本作も「アリバイも物証も全部無意味!」というのが作品コンセプトの根底にあるからだ。ヴァンスはあまりに選民的な探偵のために、無様で機械的なアリバイ・トリックが解らずに、証拠も偶然手に入る。トリックもバカバカしく、証拠も棚ぼた、それでいいじゃないか、コンセプトに忠実な結果と肯定するのがナイスと思う。
で、ついでなので1929年の映画も見た。今どきだとYouTubeに上がってるのが素晴らしい。時代の寵児だったルイーズ・ブルックスは被害者で、頭に少し出るだけだが、コケトリィが凄い美人さん。レビュー・ショーをちゃんと絵にしているので、原作ではアリス・ラ・フォスとの会話の中でちょっと出るだけで欲求不満なのが解消される。実際、本作地味だけども雰囲気のイイ映画である。一応そのアリス・ラ・フォスが4人のうちの一人の息子と恋仲で、オリキャラの息子に容疑が...との脚色があってアリスがサブヒロイン(ジーン・アーサー)だったりする。まあヴァンスのウィリアム・パウエル、マーカムの後ろに立って腕を組んでるだけで絵になる。あと、トニー殺しで、トニーが机に向かって脅迫状を書いている...凝視するカメラ、突如フレーム外から紐を持った手が伸びて絞殺される、という流れが、ミステリ映画の常套手段である「顔を隠した(犯人主観カメラ風の)殺人シーン」の史上初だ、という話を昔読んだ記憶がある。サイレント映画だと情報量的にサスペンス・活劇でない推理中心のミステリ映画は不可能だから、そもそも狭い意味での「ミステリ映画の元祖」になると思うよ。

No.13 7点 E-BANKER
(2017/01/28 22:23登録)
「ベンスン殺人事件」に続いて刊行されたファイロ・ヴァンスシリーズの二作目。
終盤に出てくるあのシーンが有名な長編作品。
1927年発表。

~ブリードウェイの名花《カナリア》が密室で殺された。容疑者は四人しかいない。その四人のアリバイはいずれも欠陥はあるが、犯人と確認し得る決め手はひとつもない。ファイロ・ヴァンスは容疑者を集めてポーカーを遊び、ポーカーの勝負を通じて犯人を指摘しついにヴェートーベンの『アンダンテ』によって決定的証拠を掴む。ヴァン・ダインの二作目にして、ワールド紙が推理小説の貴族階級に属するものと評した傑作~

実は未読だった作品・・・なのだが(今さら)、読んで良かったというのが率直な感想。
世評については昔から耳に入っていて、好意的というよりはやや辛辣な意見が多いことも既知であった。
確かに・・・
例のポーカーによる心理的推理にしても、二つの密室トリックにしても、前者はこれだけでは決め手にはなり得ないだろうし、後者については時代背景を勘案しても「子供騙し」という感覚になってしまう。
(特に裏口のトリックは果たしてうまくいくのか甚だ疑問)

しかしながら、個人的に感じたのは、本作の良さはそんなところではなく、謎の呈示と構成、舞台設定の妙にあるということ。
四人しかいない容疑者たちが、ヴァンスの卓越した推理力で徐々に化けの皮が剥がされていく過程や、それぞれが微妙に絡み合って構成されるアリバイ、人の目に触れることなしでは入れなかった被害者の部屋などなど、本格ファンの心をくすぐるギミックに事欠かない。
(その辺りは、訳者あとがきで故中島河太郎氏も指摘しておられる)
もちろん時代経過による経年劣化には晒されているが、当時の読者には相当ハイカラな読み物と映ったに違いないだろう。

ヴァンスのペダンティックな語り口が気に障る、なんでいつも皮肉めいた台詞を吐くのだという方もいるかもしれない。
でも好きなのだ。そんなファイロ・ヴァンスが!
そのことに改めて気付かされた今回。残りの未読作は僅かになり、駄作ぞろいで有名な九作目以降となったが、それでも手に取るだろうな。

No.12 7点 青い車
(2016/01/28 19:35登録)
現代の読者の目で見たら、トリックは古びていて確かに物足りないものでしょう。ポーカーのプレイ・スタイルから犯人を推理するなど、前作以上に恣意的で危なっかしく思えます。ですが、僕はその古臭さも含めかなり気に入っている作品です。密室やアリバイ・トリックの古さも作品世界にクラシカルな味を付けるファクターといえると思います。ヴァンスのシニカルな言葉で締める結末も印象的です。『グリーン家』『僧正』と比べてあまり読まれない作品ではありますが、アメリカの本格黄金時代の雰囲気を味わいたい、という人には是非おすすめしたい佳品。

No.11 5点 nukkam
(2015/08/28 23:27登録)
(ネタバレなしです) 1927年発表の第2作である本書で、ファイロ・ヴァンスはあるやり方(私の読んだ創元推理文庫版の粗筋紹介では堂々とネタバレされてました)で容疑者の性格を分析して犯人を見出します。しかし分析の信憑性はさておくとしても容疑者ごとに異なるやり方で検証しているので、これでは公平な比較になってないように思えますが(笑)。警察のアリバイ捜査や物的証拠を徹底的に馬鹿にして心理分析のみを重視するヴァンスの探偵方法に作者としても限界を感じたのか、次作の「グリーン家殺人事件」(1928年)以降は物的証拠にもっと重点を置くようになり、心理分析は補完的な役割を果たすようになります。本書のトリックはさすがに古臭さを感じさせる苦しいトリックですがまあ実際古い作品なので勘弁するか(笑)。

No.10 8点 斎藤警部
(2015/05/18 18:53登録)
中一の時「グリーン家」と合わせて、初めて自分で買った創元推理文庫を読んだ作品(「カナリヤ」が先です)。
「カナリヤ」も「グリーン家」も、当時の感覚ではちょっと手強い存在だった「大人向け推理小説」とは思えないほど読みやすく、面白く、当時の感覚で一気読み(と言っても一週間くらい掛かったかな)した覚えがあります。今思うと、あんな気取った文体なのにどうして? と不思議ですが、外見はともかく中身はそれだけエンタテインメント性に富んでいたという事でしょうか。どちらも実に素晴らしい旧き良き推理小説でしたが、採点するなら結構差が付きますね。「グリーン家」が特別過ぎたので仕方無いです。旧き良きアメリカの華やいだ世界にざわめくムードの描写が素敵です。トリックの古さもスパイスに。愉しいスリルと香るサスペンスに満ちた名作。

No.9 5点 アイス・コーヒー
(2014/09/13 17:59登録)
高等遊民で名探偵のファイロ・ヴァンスが登場する長編第二作。相変わらずの心理的探偵法で、今度はポーカーによって容疑者を突き止める。

現場が一種の密室状況であったことと、主要な容疑者のほとんどがアリバイを持っていた事が本作の肝となるが、どちらもかなり古典的な(使い古された)トリック。
ポーカーを使った犯人当ても前衛的ではあるが、微妙で面白いとは云い難い。結局はあの推理も穴だらけだし、少し納得がいかない。まぁヴァンスがそれで犯人に気付いたならそれでいいけど。
客観的な視点から殺人事件を謎解きに昇華させ、様式を成り立たせたという点では興味深いが、これでは「ベンスン殺人事件」の色違いでしかないように思う。

No.8 4点 初老人
(2014/06/12 10:55登録)
かなり前に読んだ作品ですが、使われているトリックは残念ながら子どもだましであり、犯人も再三に渡って不自然な言動が見られる事からポーカーの勝負による心理的分析を待つまでもなくその正体は明らかになっている、と言えるでしょう。
やはりヴァン・ダインの入門書としてはインパクトの弱い本書ではなくグリーン家か僧正、世界観に触れてみたいという方であればグリーン家をおすすめしたい所です。

No.7 6点 りゅう
(2011/05/07 17:08登録)
 使われている2つのトリックそのものは、今となっては確かに陳腐に感じますが、謎の造形という面では優れた作品だと思います。容疑者それぞれが謎めいた行動をした結果に出来あがった謎は非常に面白いもので、謎の見せ方や提示の仕方も魅力的です。ポーカーなどのカードゲームによる心理面からの犯人推理手法は、普遍性が無くて説得力に欠けますが、作品の見せ場にはなっていると思います。

No.6 5点 toyotama
(2010/11/11 17:56登録)
テープじゃなくてレコードってのがすごいかな。
今より先端技術のイメージがありました。

No.5 6点 kanamori
(2010/08/31 20:31登録)
ファイロ・ヴァンスの蘊蓄もさほど気にならず、ポーカーによる心理的探偵法など華のある展開が気に入っていて、シリーズの中で比較的好きな作品です。
機械的な密室作りや、陳腐なアイテムによるアリバイ創りなどは、現在の基準で考えると見るべきものがないかもしれませんが、アリバイが崩れる劇的シーンなど強く印象に残っていて、初読当時は相当楽しめた覚えがあります。
しかし、心理的探偵法が本作限りになったのは、作者もその限界に気付いたのでしょうか(笑)。

No.4 3点 こう
(2010/07/19 02:16登録)
 「グリーン家」と「僧正」の次に高校生の頃読んだのですが「なんだこりゃ」と思った作品でした。機械トリックもポーカーも個人的には認められませんでした。当時はクリスティ、チェスタトン、クイーン以外を読み始めた頃でしたが古典の中でもヴァン・ダインの作品はあまり楽しめた記憶がありません。

No.3 5点 文生
(2010/01/23 14:32登録)
本格ミステリーの古典としては興味深いが、密室殺人とアリバイトリックは今となってはいくらんでも単純すぎる。
ポーカーによる心理的推理法もプロファイリングなめんなよという感じ。
歴史的価値を加味してこの点数。

No.2 7点 測量ボ-イ
(2009/05/31 16:52登録)
(ネタばれ有!)

この作品のメイントリック、今なら小学生でも思いつきそう
なものですよね。
でも当時(1930年頃?)は録音機がまだ珍しかった時代だと
思いますので、当時読んだ人にとっては驚愕のトリックだっ
たかも知れません。そういう意味では今評価されるとどうし
ても損な扱いを受ける作品だと思います。
この作品の名場面で、ファイロ・ヴァンスがポ-カ-に興じ
て(その性格分析から)犯人を絞り込む、というシ-ンがあ
ります。
高木彬光氏のデビュ-作「刺青殺人事件」で神津恭介が容疑
者と将棋を指して犯人を絞り込むという場面がありますが、
おそらくこの作品の影響を受けているのでしょう。

No.1 6点
(2008/12/20 12:13登録)
機械的密室トリックは、現在ではあまりにも初歩的という感じかもしれません。もう一つのトリックも、同時期クリスティーの某作品で使われているのと同工異曲ですが、クリスティーの犯人が巧みに殺人現場から証拠品を持ち去るのに対し、こちらでは平然とそのまま残しています。これはいくらなんでも危険過ぎないか、という不満はあるでしょう。
ポーカーによる心理分析によって犯人が特定できても、犯人が使った後者のトリックは不明なままです。最後に殺人現場を再度検証した際、唐突にトリックが判明するという段取は、ヴァン・ダインがこの作品までは、後のクイーンのような、読者との知恵比べという意識がなかったことを示しているように思われます。

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