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ミステリの祭典

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zusoさんの登録情報
平均点:6.29点 書評数:228件

プロフィール| 書評

No.128 8点 地図と拳
小川哲
(2023/01/07 23:12登録)
旧満州の架空の都市を舞台に、日中戦争を世界史の中でとらえる視点と、人々の個人史を絡ませて時代性を見事に浮かび上がらせた異色作。
主人公が登場するまでの前史をまるで創世記のように語り、満州に異世界を創り出す才気に引き込まれる。
SF的な新感覚の歴史小説とでもいえる。これからの歴史小説の可能性すら感じさせる。


No.127 5点 午前0時の身代金
京橋史織
(2023/01/07 23:07登録)
クラウドファンディングで10億円の身代金要求という設定が奇抜。誘拐小説の興趣は身代金の受け渡しにあり、どういう風に行うのかが肝となるが、作者は身代金募集に力点を置いて、誘拐の裏側に何があるのかを探っていく。
設定が十二分に生かし切れていない点や、訳ありの家族模様は目を引くが、主人公にもうひとつヒーローとしての魅力が乏しいのが難。それでも語りは滑らかで、真相を追求するくだりは起伏があって面白い。


No.126 6点
東山彰良
(2022/12/22 22:56登録)
いわば自分探しが描かれるが、一九七五年の台湾を起点としたところに妙味がある。蒋介石が死去した年だ。蒋介石の死後、何者かに惨殺された祖父の死を軸に物語は展開するのだが、その謎には日本の植民地だった時代に由来する大陸との対立が潜んでいる。
台湾の歴史という重く大きなテーマを、一青年の冒険活劇的な成長譚に託し、世相や風俗もふんだんに織り込んで、エンターテインメントに仕立てた力量には、こんな混沌をよくも一編にまとめ上げたものだと感服するばかりだ。


No.125 7点 ラッシュライフ
伊坂幸太郎
(2022/12/22 22:51登録)
発端と結末を繋ぐのは、傲慢な拝金主義者に、どん底の人間が意地を示し一矢報いるまでの経過。それだけならありがちな「ちょっといい話」。ところが発端と結末の中間に、皮肉な偶然に彩られたストーリーのパズルが挿入されているために、ニュアンスが複雑になっている。
作中では、仙台駅の近くの展望塔に関する言及が何回も出てくる。しかし、登場人物が塔に上り下界を見渡す場面自体は、最後まで描かれない。このことは、各自のストーリーを生きる彼らが、五つのストーリー全部を展開する能力を持たないのを象徴している。
個々のストーリーに閉じ込められた人生。パズル的構成で浮かび上がる苦みがここにある。


No.124 7点
荻原浩
(2022/12/12 22:32登録)
口コミを使った香水の販売戦略によって都市伝説化した、ひとつの噂が連続殺人を生み出す。主人公は犯人と戦うと同時に「獣」とも戦うことになる。そして犯人は捕まってもかたちのない「獣」は捕まらない。
この二重性が結末の鮮やかなどんでん返しを支えている。衝撃のラスト一行に驚いた。


No.123 5点 遺品
若竹七海
(2022/12/12 22:21登録)
死せる佳人の妖影たゆたう洋館というゴシック・ロマン本流の設定による怨霊譚かと見せかけて、最後に意想外の真相を用意した構成は、実に鮮やか。ホテルをめぐる人間模様もよく書き込まれている。ただし、エンディングは賛否分かれるかもしれない。


No.122 7点 盤上の夜
宮内悠介
(2022/11/27 23:11登録)
囲碁や将棋など対局ゲームをテーマにした奇想短編集。
この分野は近年コンピューターによる解析が急激に進んできた。ゲームという機械向きの「演算の山塊」に、生身で立ち向かう人間の苦しみと狂気が色濃く漂う。表題作では、四肢を切断された少女が囲碁棋士となり、碁盤を介して新たな感覚の世界を構築しようとする。
作者は元プログラマーだが、麻雀のプロを目指したこともある。三人の男たちが我欲を混乱させようとする「清められた卓」は、さすがに勝負へのアヤへの洞察力が深く秀逸だ。


No.121 6点 夕潮
日影丈吉
(2022/11/27 23:02登録)
伊豆諸島のくすんだ風光を背景に、二十余年を経て再現される奇怪な水死事件を、内向的な新妻の目を通して描いた異常な心理小説。
ベックリンの絵画から抜け出してきたような女流歌人の妖艶さと不気味さが、読後も忘れ難い印象を残す。


No.120 9点 方舟
夕木春央
(2022/11/14 22:47登録)
猛烈な勢いで浸水が始まっており、脱出のタイムリミットはおよそ一週間。それまでに生贄を決めようとしていた矢先、一人が殺される。一体こんな時になぜ?
タイムリミット付きの密室。それだけでミステリ好きの心をくすぐるのに、事件の謎を解いた先に衝撃が待ち受ける、最凶のエピローグ。
フーダニット、ホワイダニットともに楽しめる。本格ミステリとしてとても優秀。方舟というタイトルには何重にも意味があるのではと考えてしまう。


No.119 5点 希望と殺意はレールに乗って アメかぶ探偵の事件簿
山本巧次
(2022/11/14 22:39登録)
一九五七年、南信州の清田村の村会議員が東京で何者かに殺害され、政治献金を奪われたという事件。
複雑かつ秘密めいた人間関係から情報を引き出せるのは、アメかぶと呼ばれる城之内の遠慮を知らない態度と、旧領主のお嬢様という真優の立場の強さがあればこそ。小さな村の出来事ながら、登場人物が時代の大きな流れと無縁ではなかったことを点描する最終章の余韻が味わい深い。


No.118 5点 テュポーンの楽園
梅原克文
(2022/11/03 22:26登録)
織見奈々を中心に、自衛隊や警察がテュポーンと呼ばれる怪物と闘う物語。
舞台となるのは、安須という人口九百人ほどの町。この限られた場所での戦闘を圧倒的な迫力で描きつつ、怪物の成り立ちや存在意義などを徐々に明かしていく手つきは鮮やか。強大な敵と戦うための知恵、さまざまな知識に裏打ちされた知恵でも愉しませてくれる。


No.117 6点 護られなかった者たちへ
中山七里
(2022/11/03 22:16登録)
生活保護受給を中心とした社会福祉の問題点を核として進むストーリー展開に気を取られ、見事に騙された。予想外のラストである人から語られるメッセージが胸に突き刺さり、心から離れない。


No.116 6点 風神の手
道尾秀介
(2022/10/17 23:09登録)
三つの中編とエピローグ的な短編一つという作品集。
第一話では夜の鮎漁をモチーフに、二十七年前の恋心と殺意、そしてその想定外の顛末が描かれる。続く第二章では小学生コンビの冒険が、さらに第三章ではある脅迫事件が語られる。そしてこの三つの物語を併せ読むことで、巧妙に散りばめられたエピソードの数々が結び付き、それぞれがまた別の意味を持つことを知り、そして一陣の風が多くの人生にどう影響を与えたかが見えてくる。最後の短編も含め、心に刺さる良い物語を読ませてもらった。


No.115 7点 義経号、北溟を疾る
辻真先
(2022/10/17 23:01登録)
明治天皇を乗せた蒸気機関車を巡る冒険小説。
予定に反して夜汽車になってしまったという史実を活かし、そこに新選組の残党や清水次郎長の子分、あるいは狼に育てられた少女を配置して列車襲撃の攻防を描き、さらに不可能犯罪の謎解きを加える。キャラクターもいいし疾走感もいい。北の大地を轟音とともに疾る蒸気機関車の迫力は、ベテラン鉄道マニアの作者ならでは。


No.114 5点 不思議絵師 蓮十
かたやま和華
(2022/10/06 22:18登録)
描いた絵が動き出す特殊な能力がある絵師の蓮十を主人公にした連作集。収録作の完成度にバラツキはあるが、蓮十が刺青の下絵を描いた火消しの周囲で放火が連続する「桜褪」は、超常現象が起こることを前提にした謎解きとして高く評価できる。


No.113 8点 新宿鮫
大沢在昌
(2022/10/06 22:11登録)
拳銃密売犯を追う防犯課の鮫島警察部の捜査活動と、警察官殺害事件を追う捜査本部の活動を、同時進行的に描いていく警察小説。
冒頭からラストまで、目一杯に緊迫感がみなぎっており、ストーリー構成から人物造形に至るまで素晴らしい。


No.112 7点 白光
連城三紀彦
(2022/09/17 22:40登録)
本書が優れているのは、多重解決が解釈ゲームにとどまらず、家族や夫婦における人間関係の空虚さを背景とすることで、推理や解決がそのままキャラクターを際立たせる要素となっている点にある。
推理とは、他者意識とナルシシズムを前提としなければ成り立たないことを、見事に描き切っている。


No.111 6点 未完成
古処誠二
(2022/09/17 22:36登録)
舞台となる島はある種、意識の上でのクローズド・サークルになっている。自衛隊の基地があることによって島の中で思い込まれていることがあり、そういう部分で動機を設定している。
メルヘン的にではなく、ジャーナリスティックな問題設定で、独自の論理が特定地域を支配しているという状況を描き得た点を評価したい。


No.110 7点 火蛾
古泉迦十
(2022/08/29 22:42登録)
第十七回メフィスト賞を受賞した異色作。蠟燭の炎が揺れるテントで物語られる話は、果たして現実なのか幻想なのか。
殺害方法、動機、そして真犯人など、本格ミステリにおけるロジックが、イスラム教などの宗教観念に支配された世界に従属して展開される。そのさまは実にスリリング。


No.109 6点 裂けて海峡
志水辰夫
(2022/08/29 22:39登録)
作者ならではの感傷や抒情といった面はもちろんのこと、日本の小説ではあまりお目にかからない上質なユーモアが作品に散りばめられており、キャラクター造型や見事な文章と相まって、痛快かつ感動的な物語を創り出している。

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