home

ミステリの祭典

login
びーじぇーさんの登録情報
平均点:6.23点 書評数:86件

プロフィール| 書評

No.46 7点 ピルグリム
テリー・ヘイズ
(2023/03/29 18:32登録)
アメリカ諜報機関の伝説のスパイが、サウジアラビア出身のテロリストを追求する話だが、9・11の直後に起きたマンハッタンでの凄惨な殺人事件、スパイの出自から諜報戦史、イスラムの迫害された家族の物語とテロリストとしての成長譚、さらに悪魔の計画まで盛り込み、ぐいぐいと引っ張っていく。
特に引き付けるのは、綿密な計画を立てるテロリストと肉薄していくスパイの追跡劇。国際政治を舞台にした壮大なスケールにもかかわらず実に精緻で、意外性に満ち溢れ、サスペンスたっぷりでワクワクする。
素晴らしいのは、約千二百ページにも及ぶ膨大な物語にもかかわらず、一切無駄がなくすべてが繋がり、全てがスパイの内的ドラマへと結実していくことだ。スパイ小説であり、サスペンス小説であり、家族小説であり、そして何より愛の小説であるのがいい。


No.45 6点 キャピタルダンス
井上尚登
(2023/03/03 22:51登録)
画期的なサーチエンジンをビジネスチャンスに結びつけようとする林青が、担保主義の銀行によって資金調達を阻まれたり、検索システムが高性能すぎたことが維持管理費を増大させ、会社を危機に追い込むことになったりと、次々襲い来る危機を創意工夫で乗り越えていく過程は、冒険小説風な展開になっている。
この流れが次第に変わっていくのは、林青を陥れる計画が明らかになる第二部の中盤からである。陰謀の存在だけは分かるものの、犯人も方法も動機も不明なままストーリーが進んでいくのでフーダニット、ハウダニットの興味が顕在化していく。それだけに、経済小説に過ぎないと思われていた第一部に、周到かつ緻密な伏線が張り巡らされていたことがわかる謎解きの場面は圧巻である。経済問題を扱っているが、決して暗くはなく読後感も心地よい。


No.44 5点 ターミナル 末期症状
ロビン・クック
(2023/02/04 23:17登録)
フロリダのマイアミにあるフォーブズ癌センター。そこではある特殊な型のがんの治療を100%成功させているという。論文での正式な発表はなされていないものの、ハーバード大学の医学生ショーン・マーフィーの耳にもその噂は伝わっていた。
奇跡のがん治療に隠された秘密を追っているが、頻出する専門用語を読み飛ばしても十分楽しめるようになっているのでご安心を。日本人が主要な人物として登場するということもあり、作者がどのような日本人観を持っているかが興味深いが、ショーンを付け回すヒロシ・ウシハマはとりわけ愉快だ。彼の身のこなしは、誇張されているものの、全く的外れというわけでもないところが、なんとも身につまされるところである。他にも、やたらと無鉄砲なショーンの豪傑ぶりや、彼とジャネットの愉快なやり取りも楽しめる。


No.43 5点 ウルトラ・ダラー
手嶋龍一
(2023/01/15 22:45登録)
日本人印刷技術者の失踪、マカオの企業に買い付けられた後に行方不明になった高性能印刷機。それらの事件から長い時を経て、アイルランド・ダブリンに、極めて精巧な新種の偽100ドル札があらわれた。その名は「ウルトラ・ダラー」。製造した国の真の目的は。
前NHKワシントン支局長による初の小説である本作は、豊富な取材に基づくリアリティーと、現実に国際問題化している北朝鮮による米ドル札偽造容疑と響き合いながら、生々しい謎解きの世界に誘う。
主人公は英BBCの東京特派員スティーブン・ブラッドレー。彼の活躍ももちろんだが、その恋人となる篠笛の師匠・槙原麻子、日本政府のキーパーソンとして登場する内閣官房長官・高遠希恵、そしてアメリカから偽造紙幣の背景を狩り出していくシークレット・サービスの主任捜査官・オリアナ・ファルコーネら、強く魅力的な女性たちが織り成す人間模様が物語の柱になっていく。
現実とシンクロしたピースを組み合わせ、事実に基づいて大胆な仮説が展開される、そんなタイプの小説。


No.42 5点 ハリー・オーガスト、15回目の人生
クレア・ノース
(2022/12/22 22:43登録)
「リプレイ」と同じくループものだが、本書では死ぬとまた赤子として誕生するところから人生をやり直す。主人公のハリーは、最初の数回は心が大混乱に陥るが、医師になったり研究者になったりして人生を繰り返すうち、倒すべき仇敵が浮かび上がって世界の終わりをもたらす科学技術を巡って戦うことになる。
途中で拷問のシーンが何度かあって心が折れそうになるが、辛抱して読み続けると雲が晴れたように、登場人物の関係や時空間が浮かび上がってくる。13回目の人生辺りからグンと面白くなる。


No.41 4点 遅番記者
ジェイムズ・ジラード
(2022/12/02 23:25登録)
ウィチタ警察署のルーミス警部は、腐臭を漂わせ、もはや原形を失っている死体とその傍らに置かれていた五本の花を前にして茫然と立ちすくんでいた。それはまさしく六年前の連続殺人事件の再現に他ならなかったからだ。一方、新聞記者のサム・ホーンは、愛妻クレアと娘を交通事故で失った後、自ら望んで遅番記者になっていた。
妻と別れた苦い経験のあるルーミス、上司の愛人関係を続けている女性記者バビッキ、息子との幸せな生活を望みながらも復讐の衝動に駆られるサム。連続殺人事件にかかわることになったこの三人の心理の移ろいが交互に、そして綿密に描き出されているのが印象的である。
三人はそれぞれまだ見ぬ犯人のイメージを追うことによって、事件の影響を受けるのだが、心理描写を重視するあまりその肝心の事件が空洞化してしまっている印象は否めない。
最も作者の意図はそこにあり、事件を解決することにないのであろうが、やはり釈然しないものに感じたり、いささか感傷的すぎる心理描写のくどさにうんざりしてしまう。


No.40 6点 鶴屋南北の殺人
芦辺拓
(2022/11/15 21:43登録)
ロンドンで発見された鶴屋南北の幻の戯曲が京都で上演されようとしていた。交渉のために弁護士の森江春策が京都へ赴いたところ、劇場に死体が出現した。江戸と現代、舞台と現実が交錯する謎を森江はいかに解明するか。
現代に事件の謎もさることながら、最も魅力的なのは作中の南北の戯曲。「仮名手本忠臣蔵」の登場人物を借用しながら、原点と史実の赤穂事件とも似ても似つかない、あまりにも不可解な内容となっている。
室町時代に仮託して当時の世相を批判した「仮名手本忠臣蔵」を踏まえて南北がある人物を自身の戯曲で批判し、それが著者自身による現代の世相への批判と重ねられているという三重の入れ子構成が周到。


No.39 8点 屍人荘の殺人
今村昌弘
(2022/10/28 22:41登録)
主人公である大学一回生の葉村譲は、所属するミステリ愛好家の先輩であり、名探偵でもある三回生の明智恭介とともに、映画研究部の合宿に参加する。同じ大学のもう一人の名探偵、剣崎比留子の導きによるものだった。紫湛荘での合宿初日は、ホラームービー撮影やバーベキュー、肝試しと進行するが、その最中に事件が。
この紫湛荘が、クローズドサークルになるのだが、その密閉環境が新鮮極まりない。その紫湛荘で人が次々と殺されていく。密室状態とか奇妙なメッセージとか奇怪な姿態の状況とか、そうした彩りを伴って殺人が連続するのだ。
その果てにある謎解きも、圧倒的に素晴らしい。不可解な死体の状況は真相を知ると必然としか思えなくなるし、細かな手掛かりを積み重ねることで犯人を特定していくロジックの丁寧さも嬉しい。
名探偵はなぜ事件を解くのか、という興味までもが新鮮な味付けでトッピングされており満足。


No.38 6点 殉教カテリナ車輪
飛鳥部勝則
(2022/10/07 22:58登録)
大学教授が自宅の密室状況の浴室で刺殺され、ほぼ同時刻に別の部屋で女性の刺殺体が発見される。凶器は同じナイフで、その真相が事件に関係した画家が遺した絵画と手記とによって解かれていく。絵の隠された主題を探っていく図像学を殺人事件の推理に応用しているが、基礎となるキリスト教の知識が十全はないから、作中人物の蘊蓄に頷くしかない。
推理小説的には、別にもっと大胆な仕掛けがあり、伏線も几帳面なほど張られている。ただ、せっかく作者自身が描いた絵画を用いての視覚的な作品なのに、印刷上の工夫が逆効果になって読みにくい。


No.37 9点 テスカトリポカ
佐藤究
(2022/09/28 20:41登録)
カサソラ兄弟はメキシコ北東部の麻薬組織の頂点に君臨する存在だが、ある日、敵対勢力によって壊滅させられる。唯一難を逃れた三男のバルミロは、インドネシアのジャカルタに潜伏し街頭の商人に身をやつして復讐の時を待つ。一方、暴力の横行するメキシコを逃れて日本にやってきた女性ルシアは、日本人との間にコシモという息子を預かっていた。両親の育児放棄によってほとんど教育を受けずに育つコシモだったが、猛獣のようなたくましい肉体の持ち主になる。バルミロとコシモ。この二人が日本で邂逅を果たすのである。
神秘的な物語構造に極めて現代的な要素を組み合わせている。暴力によって他者の生命を奪うことで人間の歴史は発展してきた。その進化形というべき犯罪事業によって再び王国を築くため、バルミロは新たな組織を築き始める。
バルミロが企図するのは、人間をモノとして扱うことで成り立つ合理的なビジネス。その非情なほどに現代的な行いが、祖母から教えられて彼の血肉になっている土俗信仰と結びつく点が極めて興味深い。
犯罪小説として独自性が高いだけではなく、登場人物の個性も脇役の一人一人に至るまですべて際立っている。バルミロの王国に犯罪者たちが加わってくる展開は、梁山泊に豪傑が集う「水滸伝」のようだ。そのどこかに、もう一人の主役であるコシモがいる。そして感嘆の言葉すら奪い去る、活劇描写の素晴らしさ。暴力を描いたエンターテインメントとして完璧である。


No.36 7点 父を撃った12の銃弾
ハンナ・ティンティ
(2022/08/11 19:08登録)
十二歳の少女ルーは、海辺の町オリンパスで暮らし始めた。それまで父と二人で各地を転々としていたが、ルーの亡き母親リリーが生まれた土地に定住することにしたのだ。地元の学校に通いだしたルーは、さまざまな体験を通じて成長していく。一方、父の身体には多くの弾痕があった。その傷にまつわる出来事が現在の物語と交互に語られる。やがて母親の死の真相をはじめ、すべての謎が明らかになっていく。
訳ありの父子家庭で育った気の強い少女の物語は決して珍しくないが、そんな話の要約では伝えることのできない魅力にあふれている。特に若き父をめぐる十二の「銃弾」の章は、緊張感あふれた展開に終始しており、密度が濃い。銃弾を身体に浴びるという経験、つまり生死にかかわる事件は細部まで深く記憶に刻まれるものだ。そうした見せ場の描き方が鮮やかで、断章ごとにそれぞれが独立した短編のように切れ味を帯びている。ルーの日常をめぐる章とはあまりにも対比的だ。
こうした構成のとりかたが巧みである。悪さをする男たちの活劇、道行き、恋愛、復讐といった大衆娯楽もののさまざまな要素が満載でありながら、見事な語りのためか、洗練された文芸作品のごとき風格が全編に漂う。


No.35 7点 忘れられた花園
ケイト・モートン
(2022/08/11 18:53登録)
時は1931年、ロンドンからオーストラリアに到着した船の中に、4歳の女の子が一人で乗っていた。保護者は見つからず、なぜその子が一人で乗っていたのかもわからないまま、入国審査官の人が家に連れて帰ってしばらく一緒に暮らしているうちに、我が家で引き取ろうっていう話になる。そしてネルという名前をもらい養女になり、過去の事情が分からないまま時が過ぎていく。
現代パートの他に、ネル自身が1970年代に自分のルーツを求めて英国に渡った時の話と、20世紀初頭の英国を舞台に長じて物語作家となるイライザ・メイクピースの数奇な生涯を描くパートと、全部で3つのパートがあって、それぞれのプロットが、絡み合うように進んでいく。一つのパートで明らかになった話を受けて、別の時代でさらに情報が開示されるみたいな構成。語りの巧みさとプロットの面白さとキャラクターの魅力が渾然一体となっている。


No.34 8点 運河の家 人殺し
ジョルジュ・シムノン
(2022/08/01 18:16登録)
「人殺し」は、妻が不倫しているという事実を知った男が、妻とその不倫相手を拳銃で撃ち殺し、二人の死体を運河に投げ込むという、実にありふれたシチュエーションで始まる。犯人は誰でどうして殺したのかといったような、謎をはらんだ重大な出来事だろうが、「人殺し」では、物語のほとんど発端にすぎず、力点はむしろその後の成り行きに置かれていると言っても構わない。
中年男が、ある出来事をきっかけにして、次第に身の破滅へと追い込まれていく。「人殺し」と子供たちから後ろ指をさされることになる主人公の末路を描いた冷酷な最終章は、戦慄させられる。
「運河の家」と「人殺し」に共通しているのは、視点をほぼ主人公に固定する手法によって、対象となる人間をつかまえるシムノンのグリップの強さである。さらには、主人公がはっきりと意識することなく抱いている社会規範からの逸脱の衝動、そして自己破滅の衝動であり、それが物語を破局へと導く要因になる。ここでは、人と人がお互いに分かりあうことはない。暗い灰色に彩られたシムノンの小説世界が引きつけて離さない。


No.33 7点 イヴリン嬢は七回殺される
スチュアート・タートン
(2020/11/09 20:55登録)
主人公の人格転移とタイムスリープという奇想と、黄金期を思わせる館ものミステリというクラシックな舞台を融合させた意欲作。
医師セバスチャンとして目覚めた記憶喪失の男が持つ最後の記憶は、森の中で何者かからアナという女性を守れなかったという苦いものだった。男はブラックヒース館の仮面舞踏会に招待され、館の主人の娘イヴリン嬢と親交を深めるが、何者かの仕業で意識を失う。そして目覚めた瞬間、男の意識はセバスチャンではなく、館の執事の体に乗り移っていた。
気絶から殺害されるたびに他の人間として物語の「一日目」からくり返しブラックヒース館の数日、館を経験するようになった主人公は謎の男からイヴリン嬢の死の謎を解くことが館のタイムリープから脱出する鍵だと告げられる。
緻密な設定と積極的な小道具の使い方によって、複数の登場人物の視点からブラックヒース館の数日間の様々な意味での「すべて」を描き出す腕はお見事。


No.32 6点 最悪の館
ローリー・レーダー=デイ
(2020/10/12 20:06登録)
夫を亡くした女性が偶然に若者たちと宿で一晩を過ごすことになり、彼らの一人が殺されたことから事件に巻き込まれるフーダニットの作品。
作者は別作品でメアリー・ヒギンズ・クラーク賞の受賞歴もあるが、本作も「さよならを言う前に」などクラークが得意としたトラウマを持つ女性が事件を通してトラウマを克服するまでを描くサスペンスの延長線上にある作品と考えると理解しやすい。殺人事件の謎を追う作品であるが、それ以上に主人公となる女性が事件を通して肉体的にも精神的にも何度も追い詰められながら、自分の過去を直視することが出来るようになるまでを描く作品なのだ。クラークのように視覚的な描写が得意というタイプの作品ではないが、その分、心理描写が深掘りされている。


No.31 6点 隠れ家の女
ダン・フェスパーマン
(2020/09/12 20:10登録)
殺人事件を発端に素がエスピオナージに巻き込まれる形のスパイ小説。
主人公の女性アンナの現代アメリカを描くパートと、彼女の母親ヘレンが若かりし日にCIA職員として過ごした冷戦下のベルリンが交互にに描かれる。アンナのパートでは障害をもつ弟が両親を銃殺したという事件の謎を追うのだが、これが隠れ家で起きた事件を目撃する母親のパートとどのようにリンクするのかという興味で最後まで引っ張られる。
アイデアに対して物語が長大すぎる点は否めないが、諜報史の忠実を交えた作りもあいまってスパイ活動の真実が、どこにあるのかが見えてこない奥深さを感じられる。


No.30 5点 浮かんだ男
シャーロット・マクラウド
(2020/07/20 20:21登録)
ボストンの名士、ケリング一族のセーラは、夫マックスの甥の結婚式を仕切ることになった。その式の最中、マックスは新郎新婦への贈り物の中にセーラと因縁のある宝石セットを見つけてしまう。セットの出所を探るために会場内を捜索し始めたマックスは、ビニール袋に入った人体らしきものを発見する。
次々と発生する事件をコミカルに描きつつ、シリーズを貫くテーマとなっているセーラとケリング一族の過去に完全な決着をつけようとする、まさに集大成というべき物語だ。これまでシリーズを彩ってきたキャラクターも続々と登場し、大団円を盛り上げている。


No.29 6点 喪失のブルース
シーナ・カマル
(2020/06/01 20:44登録)
主人公のノラ・ワッパはバンクーバーで人捜しを生業とする探偵。ある日、ノラはエヴァレットという男性からの電話を受けて呼び出される。エヴァレットの娘であるボニーが行方不明なので、探し出してほしいというのだ。
探す相手が生き別れた娘、という設定が失踪人捜しのプロットにひねりを与えている。事件に探偵自身の家族や過去が絡まってくる女性PIものという意味で、スー・グラフトンの<キンジー・ミルホーン>シリーズを思い起こす面もあるが、ノラはキンジーよりも破滅的で型破り。このキャラクターが暴れ出す後半の展開が、最大の見せ場といってよいだろう。
積極的な移民政策を進めるカナダでは、様々な出自の人間が街を行き交う。そうした多様性を持った社会の在り方を知る小説としても、本書を読む価値はある。


No.28 5点 帰郷戦線―爆走―
ニコラス・ペトリ
(2020/04/29 20:39登録)
主人公は帰還兵のピーター。登場人物の大半が退役軍人とその家族が占める本作は、帰国後、苦悩を続ける帰還兵たちに焦点を当てた社会派ハードボイルドだ。
決して主人公がスーパーマンではないがゆえにアクション小説としても秀逸。類まれなる戦闘力を持つ主人公ながら閉所恐怖症というハンデゆえに緊張感あるアクションが続く。そして実は本作、犬好きにもお薦めだ。なぜかジミーの家のポーチに巣食っていたピッドブルの雑種犬を相棒に、ピーターは事件を戦い抜くことになる。凶暴な彼の意外な正体も本作の読みどころのひとつだ。


No.27 5点 人形は指をさす
ダニエル・コール
(2020/04/23 19:37登録)
そんなに犯人の意図どおりに動くだろうか、警察の動きとしておかしいだろう、等々、ご都合主義で荒唐無稽なところも見えるのだが、次々と場面を転換させ章ごとに何かを起こしてくれる過剰なまでのサービス精神は実にお見事。
このあたりはテレビドラマからの影響も強そうだが、実は本作、主人公ウルフと事件のみを描く小説ではない。ウルフの元相棒で彼と精神的に深い絆があるエミリー・バクスターや、その現相棒で詐欺捜査課から異動してきた若者エドマンズ。彼らが互いを認め成長していく様子をはじめ、様々な脇役が英国人らしい皮肉とユーモアを交えて生き生きと描かれている。

86中の書評を表示しています 41 - 60