風よ僕らの前髪を |
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作家 | 弥生小夜子 |
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出版日 | 2021年05月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 5人 |
No.5 | 6点 | ROM大臣 | |
(2024/02/19 12:52登録) 探偵の経験のある主人公・悠紀が伯母の高子から奇妙な依頼を受ける。散歩中に殺害された夫を殺したのが、養子の志史ではないと証明してほしいと高子は請うのである。その矢先、志史の実の父・斉木が死んだとの報せが高子からもたらされる。斉木の死を追ううちに悠紀は、志史と関係の深い理都という青年の存在に行き当たり、彼の周辺で不審死が相次いでいることを知る。 二人の人物が中心となって構成される複雑で異様な人間関係。絡み合う因果の中で暗く輝く二つの星が浮かび上がった時点で、真相を導く構造に思い当たる人もいるだろう。だが、それで興趣が削がれることはない。動機に繋がるであろう謎が次々と浮かび上がってくるからだ。人間を多角的に造形する流麗な筆致で容疑者たちの心模様が描かれるなかに、鮮やかにちりばめられている。 |
No.4 | 6点 | びーじぇー | |
(2024/01/12 21:12登録) 主人公の若林悠紀は、探偵事務所に勤務した経験のある青年。彼は伯母の高子から、ある殺人事件の調査をしてほしいと頼まれる。高子の夫で弁護士の立原恭吾が、犬の散歩中に何者かに銃殺されたのだ。高子が言うには恭吾を殺したのは、夫妻の養子である志史ではないかという。悠紀は志史の周辺を調べ始める。 悠紀は様々な人物にインタビューを繰り返しながら、立原志史という人物像を完成させようとする。関係者の証言を積み重ねることで、人間の多面的な姿を浮かび上がらせ、一見バラバラに思える情報の断片を組み合わせて、志史の本当の姿を導き出す。 本書は既存のミステリで使われた趣向を匂わせながら、最後に明かされる真相は実に独創的なアイデアが盛り込まれている。 |
No.3 | 7点 | 人並由真 | |
(2022/01/12 08:40登録) (ネタバレなし) その年の11月10日。愛犬と散歩中の74歳の弁護士・立原恭吾が何者かに絞殺された。恭吾の甥にあたる青年で、少し前まで探偵事務所に勤めていた若林悠紀は、彼の伯母で恭吾の妻である67歳の高子に呼び出され、犯人の可能性のある人物を秘密裏に調査するように願われる。その相手とは、立原夫妻の実の孫だが、今は訳あって老夫婦のもとに養子縁組している大学生・立原志史(しふみ)だった。その志史は、悠紀がかつて家庭教師を務めた少年でもあった。だがほどなく志史のアリバイは立証され、高子の疑念は払底される。しかしさらに何かを気取った悠紀は、関係者と思われる人物の対象を広げながら、独自の判断で調査を続行するが。 第30回鮎川哲也賞・優秀賞受賞作。 端正な文章、会話がかなり多い(特に後半)くせに安っぽさを感じない小説の風格を認めつつ、一晩で徹夜で、一気読みしてしまった。 評者はこれまでの鮎川賞の方向性についてどーのこーの言えるほど、作品の数を読んでいないが(試みに数えてみたら本賞分だけで、まだ10冊前後しか読んでなかった……・汗)、その上であえて本作の方向性を語ることを許してもらえるなら、その鮎川賞よりも<乱歩賞受賞作の良く出来たもの>的な、印象がある。 犯人や関係者の物語上での伏せられた配置や根幹のネタなどはおおむね予想がつくし、中盤~後半で表面に登場してくる謎の? 某キャラクターの素性なども見え見え。 が、たぶん作者自身もこれを山場での勝負球にしたらしい「なぜ(中略)だったのか」のホワイダニットのアイデア、これはなかなか感じ入るものがあった。 もしかしたら類例のものもすでにどこかにあるのかもしれないが、犯人側のこの<動機>の部分は、おそらく評価すべき創意であろう? 主人公・悠紀の内面に秘められた、探偵としての原動をふくめてどこか、評者のオールタイム国産ベスト作品のひとつ、あの、仁木悦子の『冷えきった街』を想起させるものがあり、そんな感触もまた、こちらの読み進める勢いをさらに増加させた。 とはいえ本作の場合は、込み入った事件の構造を読者にわかりやすく捌く作業がタスクとなって、後半やや失速した気配もある。 ただし一方で、終盤には先述の相応のサプライズとアイデアも用意されているので、全体としては、やはり秀作とホメるにやぶさかではないだろう。 さすがに、自分の心の中の殿堂入りしている傑作『冷えきった街』を押しのけるまでには行かなかったけどね。 でもまあこの作品が、若い世代の多くの読者にとって、今後かなり長く心に残る一作になりそうな予感めいたものもある。 作中の犯罪にからむ実質的なメインキャラたちの描写もさながら、事件の渦中に当人なりのモチベーションで食いさがっていく主人公のひとり、悠紀の内面に、前述の『冷えきった街』の主人公・三影潤にも通じる<国産ハードボイルドの魂>を認めて、自分の本作へのジャンル投票は「ハードボイルド」ということで。 |
No.2 | 6点 | じきる | |
(2021/12/07 16:19登録) 文章が綺麗で、仕掛けも無理なく決まっている。 それなりに楽しめたが、もう一押し欲しいところではある。 |
No.1 | 5点 | HORNET | |
(2021/08/15 21:45登録) 大学生・若林悠紀の伯父が何者かに殺害された。犯人が分からない中、妻である伯母はなんと、養子の志史を疑っており、悠紀に調査を依頼する。悠紀は従弟である志史の家庭教師をしていたことがあったが、確かに超然孤立した雰囲気に、何を考えているか分からないところがあった。誰にも心を許そうとしなかった志史の過去を調べるうちに、事件の背後にある切ないまでの志史の生きざまを知ることになる。第30回鮎川哲也賞優秀賞受賞作。 保護者に虐げられた子供たちの慟哭を描いた快作。ただ、昨今似たような雰囲気の作品があふれていて、こちらも慣れてきてしまっている・・・。 十分によく描けた作品だと思うのだが。 まぁ楽しめます。 |