home

ミステリの祭典

login
ウロボロスの波動

作家 林譲治
出版日2002年07月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 びーじぇー
(2023/06/14 21:23登録)
二十二世紀、人類は太陽系に接近したブラックホール・カーリーの軌道を改変し、周囲に巨大な人工降着円を建設して、そこから膨大なエネルギーを取り出すことに成功。更にそれをもとにして火星のテラフォーミングを初めとする太陽系全体の改造に乗り出していた。
本作は、そうした時代を背景に太陽系の各所を舞台にした連作短編集である。人工降着円盤をはじめとする科学的デティールが綿密に描かれるのはもちろんだが、この作品のテーマは実はそこにはない。各編で語られるのは、人類と人工知能、人類と異星生物といった、異質な存在同士のディスコミュニケーション。そして全編を通じて追及されているのは、地球外へ乗り出していったAADDの人々と地球人との社会体制や価値観の相克、という極めて人間臭いテーマなのである。
二十二世紀の太陽系世界全体を正面から丸ごと描き出した壮大な連作である。

No.1 7点 糸色女少
(2022/10/25 22:34登録)
太陽系に進入した小型ブラックホールを利用し、無限のエネルギーを得ようと企てる科学者たち。だがこの破天荒な計画を無数の困難が待ち構えていた。
人工知能や他の生命体に接触した人間の戸惑い、あるいは宇宙に生きる人間集団と地球政府との軋轢。そうした認識のずれが事件を作り上げてしまう。
凶暴な怪獣、敵対する異星人、反逆する人工知能といった悪役が、引き起こしたかのような怪事件が現れるが、科学的知見を駆使した指輪が導き出す真相は、こうした悪とは無縁なものなのだ。
異常な事件と思われた出来事が、異常でなく事件でさえないものへと解体されてゆく意外性に驚かされた。

2レコード表示中です 書評