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ミステリの祭典

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平均点:6.28点 書評数:254件

プロフィール| 書評

No.114 5点 標的
ディック・フランシス
(2021/08/28 21:13登録)
中期のフランシスをいくつか読んでみようと考えて、2冊目として手にとった。
意外なことに家庭内サスペンス。フランシスらしいのは、主人公の造形と、家庭が厩舎であること。事件の構成は、クリスティー作品にもありそうなもの。
家庭内サスペンスは好みでないので、全体的にいまひとつだった。
主人公が陥るラストの苦境は読み応えがあったが、それ以外の部分はいまひとつ。解決の付け方も気に入らない。
でも、もう少し中期のフランシスはいくつか読んでみよう。


No.113 7点 骨折
ディック・フランシス
(2021/08/28 21:11登録)
久しぶりのディック・フランシス。
フランシスを何作か読んだのはだいぶ前だが、世評の高い初期作品より、(2、3作読んだ)中期の作品のほうが面白かった記憶がある。
このサイトの書評を色々読んで、中期はサイド・ストーリーを膨らませているのだなと認識し、「なるほど、私はフランシスについては、メイン・ストーリーよりサブ・ストーリーのほうが好みなんだ」と思い、本サイトでサイド・ストーリーの評価の高い本作を読んでみた。本作のメイン・ストーリーが「敵との戦い」なら、サイド・ストーリーは「少年との交流」になる。
うん、これは確かにサイド・ストーリーのほうが好み。いいなあ、フランシス。ハードボイルド風の語り口。ストイックで有能な主人公。せまる敵。おそってくる苦痛。こういうものが一体となって「これがフランシス」という世界がつくられている。
これは、中期のフランシスをいくつか読んでみよう。


No.112 5点 張込み
松本清張
(2021/08/28 20:47登録)
やはり、社会派は好みでないことを再確認した。
本書は当サイトで点が高かったので、若い頃とは少し好みが変わったかもと思い手にとってみた。たしかに若い頃より楽しめる部分もできていた。若い頃なら「つまらん」と切り捨てていたと思うが、今回はそれなりに楽しめたしね。特に文章は簡潔でスッキリしていて、実に読みやすい。今でも読まれる理由はわかった気がする。それでも好みではないかな。
個々の作品に触れてみよう。
「張込み」。刑事の捜査のスケッチ。刑事が張り込む女の人物像が浮かび上がる。うまいなぁと思うが、ミステリ的興趣ではないかな。
「顔」。これは緊張感が全編にあり、面白かった。私としては、本編のベスト。
「声」。前半、事件に巻き込まれる女性の部分はサスペンスがある。後半、事件の捜査パートも迫真性があり、面白い。しかし真相がわかってくると、どうもいただけない。真相だけが作り物めいているんだよな。それまでの迫真性とマッチしないで、浮いている感じ。
「地方紙を買う女」。これも、前半の事件をかぎつける部分のサスペンスは秀逸。でも「声」同様、後半が作り物めいてくる。やはり全体のバランスは大事なんだなぁと思う。
「鬼畜」。犯罪が起きるまでを追ったドラマ。ジャンルとしてのミステリに入れるかどうかは、ボーダーラインですね。「罪と罰」がボーダーラインかな、と同じ感覚でボーダーライン。
「一年半待て」。定形的作品で、可もなし、不可もなし。
「投影」。犯行手段の手の込みようが作り物めいている。タイトルの意図も読み取れなかった。主人公の造形は陰影があってよい。
「カルネアデスの舟板」。考古学教授の「犯罪に至る心理」を追ったドラマ。「鬼畜」と同様、ミステリのボーダーライン。


No.111 7点 疑惑の霧
クリスチアナ・ブランド
(2021/08/09 12:54登録)
本作も、後半に仮説の構築を何度か繰り返す。そのなかのひとつのあるものを落とす説は、ゾクリとした。これはいい。
前半は、動機があることを示すために、いつにも増して愛憎劇に割かれているが、やはりキャラクターの立て方がいまひとつに見える。翻訳の問題なのかもしれないが、そうならば新訳してほしいなぁ。
フィニッシング・ストロークをよく言われるが、これは、最後に気の利いたオチをつけたといったもので、ここの期待値を高くしてもがっかりするだけだろう。
ブランドの最高傑作に推す気にはならないが、他ブランド作品を楽しめたなら、本作も十分楽しめるはず。


No.110 8点 自宅にて急逝
クリスチアナ・ブランド
(2021/08/09 12:53登録)
自分で勝手につくった「バークリー/ブランド/デクスター・スクール」と言葉があり、この作者たちの「仮説の構築を何度も繰り返すことを物語の面白さの中心にすえた作品群」をイメージしている。
上記作風の代表をブランド作の中で1作選ぶとすれば、それは本作になるだろう。
AさんがA’の仮説でBさんを犯人と指摘し、EさんがE’の仮説でFさんを犯人と指摘し……、と、都度「仮説の構築者」と「指摘された犯人」が違う説が繰り返される。しかも、そのひとつひとつが説得力があり、なかなか魅力的だ。
しかも、作の4分の1あたりから、それは始まる。残りの4分の3ほどが、すべて仮説の構築の繰り返しに費やされる。全体の構成を俯瞰すると、バークリーの「毒入りチョコレート事件」を彷彿とさせる。「毒入りチョコレート事件」の成功は、全体の構成を「趣向」として提示する”犯罪研究会”という設定にあると思うが、本作にも似たような”構成を提示する仕掛け”があれば、もっと評価されるのにと思う。
ただ残念なのは、最後に繰り出される真相が一番魅力的かというと、そうでもないところ。
けれど、謎解きミステリファン必読の作品と思う。


No.109 6点 緑は危険
クリスチアナ・ブランド
(2021/08/09 12:51登録)
ブランドの作では色々な仮説が繰り出される。後年の作では、それは「どうやったか」も含めた仮設のため、仮説毎におおきく事件の様相が変わっていた。本作でも後半に色々な仮説が繰り出されるが、動機に関しての仮説の構築が主のため、後年の作ほどのダイナミックさは感じられない。
また、(やはりこれは視点の問題が大きいと思うのだが)キャラクターの立て方がいまひとつに見えるので、愛憎劇の部分はそれほど楽しめなかった。
中盤の手術のシーンや、最終場面のコックリルの行動が引き起こす結果など、面白いシーンもあるが、この後の傑作群へステップアップする前段階の作品と感じた。


No.108 8点 ジェゼベルの死
クリスチアナ・ブランド
(2021/08/09 12:50登録)
まずは欠点から書いてみよう。(これはブランド作品全般に当てはまるのだが)読みづらい。
読みづらさの原因は、第一に、三人称他視点にあると思う。日本の小説では三人称他視点はあまりなく、あっても章ごとに視点を変えるなどして、読者は常に誰かの視点に寄り添っているのが普通だ。ところがブランドは「Aはxxと思った。Bはxxと思った」とつづけて書く。
(セイヤーズの「死体をどうぞ」の解説で法月綸太郎が「サタイア」について書いていて、「喜劇性の濃い風刺文学、イギリス小説の”伝統”を形成する」とあり、風刺文学との視点ならば、三人称他視点も違和感がないのかもしれない。こうなると、これはもう国民性/文化の差異で、しょうがないのかもしれない)
あと、登場人物の心理がわからない。色々な仮説が繰り出されるが、その仮説をふまえた心理的背景まで説明されないので、表面的に流れ去ってしまうところがある。また、状況説明の段取りも不十分、もしくは下手だと思う。本作でもアリバイの状況提示は断片的に会話で行われるだけだ。
それなのに”本作は面白い”というところがすごい。(まあ、面白がれるのは、謎解きミステリを好きな人だけだと思うが)
途中に繰り出される仮設がひとつひとつ魅力的だし、演出も冴えた部分がおおい。中盤、箱を開けるときの演出はゾクゾクした。
そして、最後に繰り出される真相……。これはいい。
多くの仮設が提出される作品ではよくあることだが、最終的な解決が最も魅力的ではないことが、よくある。しかし本作では、最終的な解決が圧倒的にいい。途中に繰り出される仮設もいいのに、それを上回っていい。いやいや、これはもう、ブランドの最高傑作であると思う。


No.107 6点 鷺と雪
北村薫
(2021/05/16 14:28登録)
さらにミステリ度は下がっている気がする。謎は解決はあるが、検討がないために、そう感じるのだと思う。そのため直木賞受賞作だが、評価はあがらないなぁ。
不在の父:「馬さん」の人物造形がよい。やはり北村薫はキャラクターの作り方がいいなぁ。
獅子と地下鉄:謎自体がたわいもない。この話に直接関係なくブッポウソウが登場する。参考文献によると実際にあったこととのこと。前に出したのはこのための布石だったのだな。
鷺と雪:当時の時事の話が一段と多い。それは、やはりラストの効果のための布石なのだと思う。このラストは確かにいい。ミステリとしてはどこかで見たような手口。悪意の見せ方は、北村薫らしい。


No.106 7点 玻璃の天
北村薫
(2021/05/16 14:27登録)
個々の話と、全体を通しての話が同等の分量で描かれている。個々の話はミステリだが、全体を通しての話はミステリではない。でも、面白いのは、全体を通しての話なので、ミステリを期待すると肩すかしかもしれない。シリーズ3作では本書がベストと感じた。
幻の橋:犯人が「すぐにばれない」と考える理由が思い当たらない計画なので、ミステリ的には杜撰かな。まあ、落とし所(意図を込めた絵の選択)が見せたいところなのだとは思うが。ここは好み。ベッキーさんの背景話、英子の出会いなどの別の部分が見どころ。
想夫恋:ラストのベッキーさんの諭しがよい。
玻璃の天:犯人の行動は「こんな複雑なてつづきが必要とは思えない」が、シリーズのテーマにそった動機が読みどころ。個人的にはこれがシリーズのベスト作。


No.105 6点 街の灯
北村薫
(2021/05/16 14:25登録)
ミステリ部分と、当時の風俗を描く部分、キャラクター紹介部分が、同等の分量というところ。
ミステリ部分も小ぶりで、ミステリを期待すると肩すかしかもしれない。ただ、やはり北村薫はよみやすくて、するする読めてしまう。
また、桐原家の人々は、シリーズを通して登場するので、そのためキャラクター紹介部分の分量も多いのだろう。
虚栄の市:乱歩を引き合いに出したミステリ部分は、付け足し程度。第1話のため、舞台設定もふくめた主人公たちの紹介の話。
銀座八丁:暗号部分は、これもサブストーリー感がある。当時の風俗、桐原家の紹介、ベッキーさんの紹介が主。「鷺と雪」まで読むと、服部時計店の紹介もポイントだったのだなとわかる。
街の灯:ミステリ的には、これが一番しっかりしている。ある人物の気持ちが(北村薫らしく)どす黒いのが面白い。解決のしかたばどうなのかと思ったが、「鷺と雪」まで読むと、これはそういうテーマで作られているのだとわかる。また、ブッポウソウの紹介もポイントだったのだな。


No.104 6点 むかし僕が死んだ家
東野圭吾
(2021/05/16 14:24登録)
プロットはいい。事実がみえてくる展開も軽快で(少し軽快すぎるかも)一気読みだ。
ただ、読んでいて、話が分散して感じられた。「その家の過去を推理する話」「女性の過去を探す話」「語り手の抱えている問題」のそれぞれが、うまく関連していない。展開としても「女性の過去を探す話」が、「その家の過去を推理する話」にかわり、最後に急に「女性の過去を探す話」に戻るという感じで、どこかアンバランス。ラストの落とし所も、少し無理が感じられる。
また、(上記展開のためもあると思うが)人物描写がよくない(悪くないけと、迫真性が足りない)ので、登場人物に共感できなかった。(共感が小説に必須とは思わないが)この話は登場人物に共感させてこそ、最後がいきるプロットだと思う。
ある程度面白いのだけど、「もう少しで、そうとう面白くなったのに」と悔やまれる作と感じた。


No.103 7点 白馬山荘殺人事件
東野圭吾
(2021/04/03 23:59登録)
東野圭吾作品で一番愛着のある作品。
初期作品だからだろうけど、東野圭吾では珍しく作者の思いを感じる作品。
出版された当時に読んで、期待して何作か読んだけど、以降の作品は(少し冷めた)”職人”になってしまって、継続してよむことはしなくなってしまった。
冒頭の人物の属性に関することに触れている書評がいくつかありますが、出版が綾辻以前であることを考えると、こなれていないことより、先進性を評価すべきだと思いますね。綾辻以前の出版当時に読んで、面白い趣向だなとワクワクしました。


No.102 7点 秘密
東野圭吾
(2021/04/03 23:46登録)
これは東野圭吾作品では、人物描写が濃厚。ラストは個人的にはぴんとこなかったけど、いいなぁと思うシーンがいくつもある。
でもミステリではないよなぁ。


No.101 8点 ある閉ざされた雪の山荘で
東野圭吾
(2021/04/03 23:40登録)
(10作くらいしか読んでないですが)東野圭吾の中で一番好き。
やはり、語りの仕掛けが好き。これは好みだなぁ。この仕掛であの部分やあの部分がアンフェアにならないという、この反転がいいよねぇ。


No.100 6点 悪意
東野圭吾
(2021/04/03 23:34登録)
このサイトで評価が高い東野作品の中で、未読なので読んでみた。プロット展開は二転三転して最後まで面白く読めたし、文章もするする読みやすい。
東野圭吾の特徴がよくでていると思う。
でも、悪い点でも、東野圭吾の特徴がよくでているかなと思う。(10作くらいしか読んでないですが)
たとえば、「文章表現として”いいなぁ”と思う点はない」「(好みかもしれないが)キャラクター描写はいまひとつ(イメージがわかない)」「登場人物の心理が迫ってこない(迫真性がない、よくわからない)」など。
東野圭吾は私の感覚では技術力のある”職人”なのだが、作品に対する思い入れがほとんど感じられない。カーなどは失敗作でも「これがやりたかったんだな」と思わせる部分があるのだが、東野圭吾はそういうものが感じられないため、熱心に応援しようという気にならないんだよな。でも(”職人”だけあって)駄作もないんだけど。


No.99 7点 原罪
P・D・ジェイムズ
(2021/03/14 15:11登録)
ミスキン警部を追いかけようと(登場人物一覧にミスキン警部がない「策謀と欲望」はとばして)原罪に手をだしてみた。
読んてみると「死の味」に対する言及も複数箇所あり、本作でミスキン警部が最初に出るシーンは「死の味」の直後の感じが濃厚にあり、シリーズ的には、完全に「死の味」の次作となっているように思える。
「死の味」以前の作品は「罪なき血」以外は読んでいるが、今まで読んだジェイムズ作品では、「死の味」よりさらに読みやすく、間違いなく一番面白かった。
今回、出版社が舞台ということで(家族関係が主になっていなく)、事件関係者視点の部分もいろいろな動機が蠢くミステリとして読める。これまでのジェイムズ作品では、一番文学味を感じなかった。今回6割ほどが事件関係者視点なのに、一番ミステリだと思った。
キャラクター描写も冴えていて、アリバイを証言する子供(人物表にない)などは、頭がよい、かつ、子供であることを両立させていて、実に魅力的。
ラストもなかなか意外。途中のあのエピソードがフィーチャーされるとは。ミステリ的カタルシスは無い意外性であるところは、やはりジェイムズだなぁと思うけど。
ラストシーンは、ダルグリッシュよりもミスキンに寄った描写になっていて、ここも個人的には好感触。作者はミスキンの方に心情的に寄り添っていそうで、次回以降もミスキンの活躍が期待できそうだ。
いやいや、これは、今後のダルグリッシュ&ミスキンものも楽しみだ。


No.98 5点 死の味
P・D・ジェイムズ
(2021/03/14 15:09登録)
他の方の記述にもでてくるが、確かにこれはジャンル分けするならば「警察小説」だ。
事件が起き、捜査が行われ、犯人がつかまる。しかし、ミステリ的興趣、謎に対する興味、謎を追う冒険感、謎が解けたときのカタルシスなどは無い。事件は警察の操作で解決される。
ミステリ観点からは否定的にみえるコメントになってしまったが、今まで読んだ(「死の味」以前の作品は、「罪なき血」以外読んでいる)ジェイムズ作品では、断然読みやすかった。
これは、間違いなく捜査側をチームとし、複数視点を導入したためだと思う。特にダルグリッシュは、捜査陣の視点からどうみえるかが書かれたことで、キャラクターイメージがくっきりしたと思う。検死医などについてもシリーズ・キャラにしようという目論見が濃いので、作者もかなり意図的に、捜査側をチームとして描こうとしていると想像する。
ただし、「警察小説」といっても半分だけで、残りは家庭内ドラマだ。
視点は三人称多視点だが、警察サイドでない視点が半分を占める。この部分、つまらなくはないのだが、やはりあまり好みではなかった。「警察小説」側だけで書いてもらえば、私の評価は上がるのだが、それだとジェイムズの個性が薄れてしまうしなぁ。
とはいえ、ミスキン警部は印象的なので(後続作の人物表をみると、シリーズ・キャラとして定着するようなので)継続して読む気にはなった。


No.97 8点 オランダ靴の秘密
エラリイ・クイーン
(2021/01/23 17:07登録)
創元推理の新訳で再読。
あぁ、これが良い謎解きミステリの読み心地だなぁと思う。推理の「これしかない」感が、クイーン作品でも最上位だ。再読してあらためて感じたのは、終盤のよさだ。エラリーが手がかりを掴んでから後の展開は、演出もよく一気に読める。ここはいいなぁ。
それに法月の解説がよい。ひとつひとつ説得力がある。特に「なるほど」と思ったのが、兼業作家/専任作家に目をつけて、作風が変わる("推理中心の小説"はオランダまでの3作目まで)というところ。ローマ、フランスを再読したのも、これに触発されて、3作を間をあまり開けずに読んでみたかったからというのが実際のところだ。
これをふまえて全体の構成をみてみると、3作とも、事件発覚から捜査が始まり、初日の操作が完了するのは、半ば過ぎ。オランダでは200ページくらいで、ローマ、フランスと似たようなボリューム感だ。その後、捜査の手が広がり、この部分が150ページくらいで、残りが解決編になる。こうしてみると、ローマ、フランス、オランダまでの3作は、同様の枠組みの中に、違う趣向を盛り込んだのだと思える。そしてこれ以降の国名/レーン4部作は、確かに同様の枠組みのものはなく、ここまでが兼業作家クイーンだったのだなぁと思わされた。
気になった点もいくつかあげてみよう。
まずは、事件の捜査が単調かな。フランスでは少しずつ事件の全貌(当日になにがあったのか?)がわかっていくのだが、オランダでは事件の全貌はシンプルで、捜査の後半は事件の背景(家族関係、仕事関係の人間関係と、動機の可能性)になっている。私の好みでは、ここがやや単調だった。
また、推理についても質はよいが、ボリュームが少ない気がする。クイーンの最高傑作に押す人もいるが、私の好みでは、この点で国名シリーズの最高作にはならないなぁ。
それでも、「謎解きミステリ」の典型としてあげるなら、確かに「オランダ靴の謎」は最適の1冊であることは再確認できた。


No.96 7点 悪の起源
エラリイ・クイーン
(2020/12/14 00:09登録)
ン十年ぶりの再読。
プロットは、このころのクイーン好み。構想は面白いが、事件のつなぎの調査が、どうも退屈で夢中になれない。最後の落とし所も、意外ではあるが、もう一度全体を振り返って考えてみると、どうもいろいろ腑に落ちないところがでてきて、傑作というわけにはいかない。
それでも、クイーン好みの構想は好きなので(ここが面白がれないと、そうとうこの話はつまらなく感じると思うが)、点数は甘めです。
また、クイーン作品では、かなりキャラクターが印象的な作品。個々の人物に際立った個性がある。
「災厄」などは、キャラクターは掘り下げてあるが現実にいそうなキャラクターだが(「災厄」それがよいのだが)、本作は現実にはいないようなキャラクターばかり。
(ここから、プロットの構造のネタばれ)
そこで、ふと気づいたのが、この作品「十日間の不思議」と似ていないか?
似ているところと、ちょうど相反するところがいろいろあり、表裏をなすようにみえる。
似ているところは「キャラクターの個性的なこと」「人間関係(二人の男と一人の女)」「不可解な事件が起こっていく構成」「解決編の構成」。ちょうど相反するところは「解決時の探偵の立ち位置」「犯人の扱い」「リンクの元が宗教的/科学的」「人間関係のパワーバランス」。
北村薫が、どこかで”「十日間」「九尾」「悪の起源」で探偵エラリイの挫折から復活を描いた”といったような記述をしていたと思うのだが、忘れてしまった。「十日間」との類似をふまえて改めて読み直したいのだが、どうにかわからないかなぁ。


No.95 5点 ビール職人の醸造と推理
エリー・アレグザンダー
(2020/10/18 01:21登録)
ミステリとしては、2、3点。もうね、ミステリはただの風味付け(笑)。
これは、ビール醸造所のお仕事小説です。(と思っていたら、2作目の解説に「お仕事小説」とあった。そうだよね)
ビール醸造所のお仕事小説としては、(2作目も読むつもりになったくらいには)面白かったので、間をとってこの点で。
あ、ミステリ・ファン(ミステリを期待する人)は読む必要なしです。
アメリカのコージー派って、この手ののりなのかも! 仕事を変えれば色々できるしね。それはそれで面白そうだけど、ミステリではないよなぁ。

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