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ミステリの祭典

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ブルー・シャンペン
〈八世界〉、アンナ=ルイーゼ・バッハシリーズ

作家 ジョン・ヴァーリイ
出版日1994年09月
平均点8.00点
書評数2人

No.2 8点 ことは
(2022/06/19 01:04登録)
「プッシー」と「タンゴ・チャーリーとフォックストロット・ロミオ」以外は既読。この2作を目当てで読んだ。
「プッシー」
ちょっと切ないSF話。いい話だけど、これがヒューゴー賞/ローカス賞受賞はちょっとできすぎ。
「タンゴ・チャーリーとフォックストロット・ロミオ」
これはいい。
最初はどういう状況かわからない。説明抜きで現場の描写がされる。それから少しずつ、どこで、なにが起きていて、以前になにがあったのか、これからどうなりそうなのか、見えてくる。状況が見えてくるにしたがい、どんどん深刻さがわかってくる。そこからはスリリング。一気読み。最終盤はかなり深刻な状況なのに、描写は淡々としていて、これもヴァーリイの味だ。これが絶版か。残念。
解説の「あらゆる悲劇がTVカメラの眼でとらえられ(中略)提示される、今の現実の世界の苦さ」というのは秀逸。解説が書かれたのは1995年だが、これは今のほうが皮膚感覚でわかる。
また解説に、「ブルー・シャンペン」の続編とあるが、メインストーリーは「ブルー・シャンペン」と全然絡まず、バッハ以外にも共通の登場人物が登場して「ブルー・シャンペン」の後日談が近況報告のように少しあるだけなので、続編といっても、映画のシリーズ(007シリーズでQとかMとかは毎回でるといったような)ものの第2作というほどの感覚だろう。シリーズ第3作がないのが残念だ。
短編集全体としては、これも『逆光の夏』と同レベルのベスト盤といってもいい。個人的には「残像」がもっとも好きなので、『逆光の夏』を押すけれども。

No.1 8点
(2018/12/02 12:23登録)
 異星人に地球を追われた人類は、〈へびつかい座ホットライン〉と呼ばれる異世界ネットワークから新たな情報を仕入れ、太陽系の各惑星や外惑星の衛星に〈八世界(エイト・ワールド)と呼ばれる文明世界を築き上げた――
 70年代、アメリカSF界に彗星のように登場した超新星ジョン・ヴァーリイ。彼のヒューゴー、ネビュラ、ローカス各賞受賞及びノミネート作品ほかで構成された第三短編集。中編3本を含む全6編を収録。
 性転換・クローン・肉体改造などがスナック感覚で行われる社会、それらを独自のセンスで再構成したのがヴァーリイ世界。斬新なアイデアこそ無いものの、遥か遠い世界のものと思われていた数々のSFガジェットを、肌に触れるような身近な素材として用い、それらが齎す価値観の変容を描いた一連の作品は、読者に大きな衝撃を与えました。本書には1977~1985年に発表された、初期から中期の作品が収められています。
 ミステリ寄りの作品ではまず表題作の「ブルー・シャンペン」。月の周回軌道上に浮かぶ、二重の球形エネルギー力場で固定された、シャンペン・グラスを思わせる二億リットルの人工プール〈バブル〉を発端にした愛と別れの物語。
 「なぜ、メガン・ギャロウェイは主人公クーパーを熱愛しながら別れなければならなかったのか?」というハウダニット作品。この謎に、彼女が装着する精緻な金細工や宝石で飾られた、宇宙にたった一台しかない人工骨格〈黄金のジプシー〉が絡みます。
 「タンゴ・チャーリーとフォックストロット・ロミオ」はその続編。人工衛星に犬たちやコンピューターと暮らす歳を取らない少女と、前作の登場人物たちのその後が語られます。どちらかと言えばアクション寄り。シリーズ主人公アンナ=ルイーゼ・バッハが、月警察の署長に就任するいきさつもここで描かれます。
 しかしそれらを上回る密度なのは「ブラックホールとロリポップ」。太陽系辺境、冥王星の彼方の彗星帯でブラックホール探査に携わるゾウイと、彼女の「娘」ザンジア。密閉空間のザンジアと〈口をきくブラックホール〉が出会う時、そこに狂気が炸裂する・・・。
 幾重にも趣向を秘めた、一種のリドルストーリーとも読める作品。個人的にオールタイム・ベスト短編の隠し玉候補。
 トリを取るのは不気味極まりない最長作品「PRESS ENTER■」。唯一現代アメリカが舞台で、コンピュータ社会の恐怖を扱っていますが、今となっては若干古いでしょうか。それでも1984年発表でこの切り口の鋭さは流石。併せてヒロインの出生に絡めて語られるアジア各人種間の考察は、時の影響を受けないだけに全く古びていません。
 残る二編もハズレ無し。ミステリ読者向けの優良SF中短編集です。

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