謎のクィン氏 別題『クィン氏の事件簿』『ハーリー・クィンの事件簿』/ポケミスは『翼の折れた鳥』『海から来た男』の分冊 |
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作家 | アガサ・クリスティー |
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出版日 | 1963年01月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 13人 |
No.13 | 5点 | 虫暮部 | |
(2024/08/09 11:47登録) シリーズものとしての枠組みのヴァリエーションを工夫しているところが良いし(降霊術で呼び出すくだりが最高)、その中に収めた個々の事件も再確認してみると決して悪くないけれど、読み物としては淡々としているせいか結局クィン氏の印象しか残らず、しかしそれだけで良しと出来る程に素晴らしいキャラクターではないのである。 |
No.12 | 4点 | いいちこ | |
(2023/01/18 13:04登録) 非常に世評が高い作品であるが、真相解明プロセスに論理性がまるでなく、ファンタジーのような印象を受ける。 読者をかなり選ぶだろう |
No.11 | 8点 | ことは | |
(2022/04/21 01:37登録) 私だけではなく他の人も同じだと思うのだか、作品を好きだと感じるとき、「面白い/面白くない」とは微妙に違うベクトルで、「愛着がわく/わかない」というのがある。私は他のクリスティー作のコメントに「クリスティーのよい読者ではない」と書いたが、それは「愛着がわく」作品がすくないからだ。(そんなに面白くないけど「愛着がわく」作品というのが、クイーン、カーにはあったりする) 本作は、クリスティー作では例外的に強く「愛着がわく」作品。1作ずつ見ていきたいと思う。今回は創元推理文庫の新訳で読了。 1.「ミスター・クィン、登場」 1作目から定形ができている。「時間をおいてから事件を再度検討する」「クィンはキューを出す演出家」など。本作は、「現在の問題」「10年前の事件」「その1年前の事件」と3層の構造で、かなり複雑だ。そのせいでかなり駆け足な部分もあるが、情報を的確に配置して、話の落とし所に説得力をもたせているのは、さすがにクリスティー。情報の出し方の上手さは、精読の価値あり。 2.「ガラスに映る影」 これはクィン物としては例外だろう。クィンをポワロと入れ替えても成立するほど、クィンが探偵をしている。ミステリの定形通りという感じで、話としては面白くないが、後期クリスティーの作風の萌芽ともみれるので、そういう視点では興味深い。 3.「鈴と道化服亭にて」 作中に「時間がたってからのほうが物事がよく見える」との文もあるとおり、典型的クィン譚。真相はかなり大胆な仕掛けだが、情報は的確にだされているので、読者はうまく誘導される。1作目と枠組が似ているが、「現在」の人物が整理され、ふと立ち寄った場所という設定の導入で語りもスムーズになっている。1作目(1924年)から本作(1925年)で、うまくなったのだろう。 4.「空に描かれたしるし」 サタスウェイトが捜査をするところがアクセント。「なぜ彼女はアメリカに?」が謎のポイントで、日常の謎のような趣がある。真相の構図は平凡だが、謎のポイントが気が利いているのがよい。 5.「クルピエの真情」 ミステリではなく、ある人物のある事情を引き出す人情譚。1920年代の社交界(どこまで当時の事実に近いのかはわからないが)が、興味深いが、他にみるべきところはないかな。 6.「海から来た男」 あるタイミングである場所に居合わせたサタスウェイトがある行動を行う話。ミステリではないが、ヒューマン・ドラマとして味わい深い。(時をおいて書かれた1編を除くと)雑誌掲載で最終話というのも、ふさわしい。 7.「闇のなかの声」 これは見るべきところがない。真相は納得感が薄いし、手段は迂遠すぎるし、とくに見せ場も感じられない。1つ覚書。クィンとサタスウェイトが出会う場面で「コルシカ島以来」とあるが、このコルシカ島は「世界の果て」のことと思われる。創元推理文庫の解説で初出順があるが、「世界の果て」「闇のなかの声」と連続して雑誌掲載されているので、きっとそのときの名残。 8.「ヘレネの顔」 ある場にいあわせたサタスウェイトが、運命に導かれるように(運命にキューを出されるように)、事件に絡んでいく。その絡み方にクイン物としての特徴がでている。サタスウェイトが自分の過去を回想するシーンがあったりして、なにか懐古的な雰囲気があり、お気に入りの作。 9.「死せる道化師」 物語の構造はクィン物の定形。過去の事件を再考することや、クィンの現れ方など、特徴が明確にでている。ミステリの作りとしては、絵が書かれた背景が不透明だったり、当時の捜査が杜撰すぎるだろう、など、評価できない点があるが、一同に関係者が会するという演出で一気に押し切っている。演出が冴えた1作。 10.「翼の折れた鳥」 ヒロインのキャラクターは魅力的だが、それ以外は見るべきところがない。事件も魅力的でないし、解決も唐突。クィンの登場の仕方も今回は違和感のほうが大きい。 11.「世界の果て」 ミステリとしては、事件と解決があわせて説明されるようなもので、なにもないに等しいが、本編の主眼は人間ドラマ。”世界の果て”と呼ぶ魅力的な舞台設定で、ある人物の思いに焦点があたる。謎の提示が前半にあれば、すっかり「日常の謎」。「日常の謎」の先駆ととらえて読んでもよいかも。 12.「ハーリクィンの小径」 本作も「世界の果て」と同様、ミステリとしては、なにもないに等しい。主眼はある人物の思いであり、最終作にふさわしく、別れの空気感が濃く漂う。作品前半で、<恋人たちの小径>の”小径の果て”が描かれ、これが最後に象徴的に思い出される構成が冴える。本編も、「日常の謎」の先駆としても読める。 ベスト3を選ぶなら、「海から来た男」、「死せる道化師」、「ヘレネの顔」。 |
No.10 | 5点 | レッドキング | |
(2022/04/10 18:34登録) アガサ・クリスティー第三短編集。 「初老趣味人と妖精(幻想我)のための殺人」てな 「クィン氏登場」 男女情念の死に至る執着と疑念。時を隔てた毒殺疑惑の決着は・・4点。 「窓ガラスに映る影」 三角関係の要の移転、窓に映る幽霊と銃弾の謎の解決は・・5点。 「"鈴と道化服亭"にて」 蒸発した男と残された女、手品の目眩ましに隠された結果は・・6点。 「空のしるし」 相当な・だが絶対的ではない・状況証拠のアリバイトリック崩し。3点。 「クルピエの真情」 支配と献身、矜持と被虐愛、初老と青年、ラテンと米国・・男と女のお伽噺。(採点対象外) 「海から来た男」 享受としての生とその挫折、止揚される生のメルヘン。(素晴らしいが、採点対象外、残念!) 「闇の声」 夜な夜な貴族令嬢に纏わりつく怨念の声。幽霊の正体や如何に・・6点。 「ヘレンの顔」 唯その美形だけで・他に何もないのに、戦争から殺人まで誘発する麗しのかんばせ。3点。 「死んだ道化師」 殺された道化師の絵と密室殺人の時を経た解明。5点。 「翼の折れた鳥」 音楽の魔性と幻影の狂喜、見えない男の衝動を絡めたWhoダニット見事。7点。 「世界の果て」 絵を描く女の絶望と、秘密の箱の解明からの再生。4点。 「道化師の小径」 愛する者にも愛してくれる者にも「真の愛」を認められないのならば、死しか・・(採点対象外) で、12作中、ミステリ採点対象 9作の平均、(4+5+6+3+6+3+5+7+4)÷9=4.777…5点。 |
No.9 | 10点 | 弾十六 | |
(2020/02/18 22:22登録) 1930年4月出版。初出誌はGrand MagazineやStory-Teller、1924〜1929に断続的に掲載。同時期の短篇が1作だけ『愛の探偵たち』に収録されています。もう少し後で読むつもりでしたが、古本屋で見つけて思わず入手、待ちきれずに読み始めちゃいました。やはり素晴らしい!好きすぎるので殿堂入り10点です。40年前は創元の一ノ瀬さんの訳。今回読んでいる早川クリスティー文庫の嵯峨静枝さんの訳は上品で非常に良い感じです。 発表順に少しずつ読んで行きます。読み終わるのが勿体無いような気持ち。 タイトルは初出優先で記載。カッコ付き数字は単行本収録順。おまけで「愛の探偵たち」もリストアップしておきました。フィナーレを飾る「クィン氏のティー・セット」(『マン島の黄金』収録)も加えるべきでしょうかね。 ********** ⑴クィン氏登場 The Passing of Mr Quinn (初出Grand Magazine 1924-3 挿絵Toby Hoyn) 単行本タイトルThe Coming of Mr Quin: 評価7点 不穏な冒頭から謎の人物の登場、炉辺での昔語りは佳境に入り、そしてサタスウェイト氏に突然ピンスポットがあたるところまで絶妙な流れ。掲載時期から『茶色の服』の後に書いたものと思われます。初出誌では名前がQuinnとなっています。お正月の話だったのですね。(執筆も正月かも) 初出タイトルはUn ange passe(天使のお通り)を連想させ、単行本タイトルはキリスト降臨を思わせます。(考え過ぎです) p15 若い頃は、みんなで手をつないで輪になって《懐かしき日々》(ほたるの光)を歌ったもの(In my young days we all joined hands in a circle and sang “Auld Lang Syne”)♠️語っている女性は六十代くらいか。 p18 元日に黒髪の男性が最初に訪ねてくると、その家に幸運が(To bring luck to the house it must be a dark man who first steps over the door step on New Year’s Day)♠️wikiのFirst-footに記載あり。背が高く、黒髪の男(a tall, dark-haired male)が良いらしい。ある地方では、女性や金髪の男(a female or fair-haired male)は不運だという。 (2020-2-18記載) ********** ⑵窓ガラスに映る影 The Shadow on the Glass (初出Grand Magazine 1924-10): 評価4点 登場人物があまり印象に残らない。人物紹介がごたついている。これ、アガサさんには死の場面の強烈なイメージが先に思い浮かんで、そこを上手に描けなかったのでは? (2022-4-27記載) ********** ⑷空のしるし The Sign in the Sky (米初出The Police Magazine 1925-6; 英初出Grand Magazine 1925-7 as ‘A Sign in the Sky’) 単行本タイトルThe Sign in the Sky: 評価4点 発端は非常にワクワクさせられるが、残念な話になっちゃうのが惜しい。前作「検察側の証人」(1925-1)の残響が作者にあって法廷シーンから始まっているのかも。本作の初出が米国雑誌というところも「検察側の証人」と共通している) 列車が時刻に非常に正確だというイメージがある、というところに注目。やはり当時は定時運行が当たり前だったのだ。(メチャクチャ遅れるのが普通ならクロフツのアリバイ・トリックなんて成立しないだろう) p127 銃(the gun)♣️猟銃(散弾銃)のようだ。 p127 九月十三日、金曜日♣️直近は1913年だが、アガサさんは1924年をイメージしていたかも。(普通は曜日は1日ずつズレるのだが、1924年は閏年なので二日ズレている。正月だけに注目してると間違えることが多い) p129 ジャズ♣️当時ならニューオリンズ・スタイル(Louis ArmstrongのHot Fiveなど)のイメージ p129 古めかしい表現♣️「これはこれは(God bless my soul)」のこと。 p130 三度♣️単行本で書き換えた可能性あり。雑誌掲載順なら「二度」が正しい。 p142 ヨハネ祭の前日(Midsummer’s Eve)♣️英国のMidsummer’s dayは6月24日、これは四旬日のひとつでもある。何か意味ありげな会話だが、趣旨が良くわからない。前回、といえば連載順だと(2)のはず、これは6月の事件である可能性は十分にある。短篇集収録順だと(3)になるが、その作中現在は3月〜5月なので該当しない。 p144 バンフ(Banff)♣️アガサさんが当時行きたいと思っていた観光地なのだろう、と妄想した。 (2022-5-4記載) ********** ⑶〈鈴と道化服〉亭奇聞 A Man of Magic (初出Grand Magazine 1925-11) 単行本タイトルAt the Bells and Motley: 評価4点 冒頭の好きな人に偶然会えた時のトキメキが非常に良い。ときめいているのはいい歳をした金持ちのおっさんなんだが… 本作もミステリ的には凡作。 p92 へんぴなところ(God-forsaken hole) p92 料理の名人(a cordon bleu) p97 冬の事件の3か月後なので、作中現在は3月〜5月に絞られる。 p114 百年後が2025年、という事は作中現在は1925年 p115 クロスワード・パズル(Crossword Puzzles)♠️1924年のトピック。サタスウェイト氏はこのパズルに馴染みがない。Crossword Puzzleは米国1913年の発明、英国初上陸はPearson’s Magazine 1922年2月号、新聞紙ではSunday Express 1924-11-2が最初。セイヤーズのクロスワード小説は1925年7月号掲載。 p115 天窓強盗(Cat Burglar)♠️1924年にスコットランド・ヤードが逮捕したRobert Augustus Delaney(?-1948)がCat Burglarのあだ名で有名になった嚆矢だという。フォーマルウェアで外出し、するりと窓から侵入して盗むスタイル。 (2022-5-4記載) ********** ◆愛の探偵たち(『愛の探偵たち』に収録) At the Crossroads (米初出Flynn’s Weekly 1926-10-30; 英初出Story-Teller 1926-12 連載タイトルThe Magic of Mr. Quin, No. I. At the Cross Roads) 単行本タイトルThe Love Detectives ********** ⑸クルピエの真情 The Soul of the Croupier (米初出Flynn’s Weekly 1926-11-13; 英初出Story-Teller 1927-1 連載タイトルThe Magic of Mr. Quin, No. II. The Soul of the Croupier): 評価4点 モンテ・カルロの話。私はアノーの友人リカード氏を大人しくしたのがサタスウェイト氏なのでは?と勝手に思っているのだが、その薄い根拠が毎年モンテ・カルロに滞在している、というここら辺の記述。まあ人生の傍観者なら満遍なく社交の舞台に顔を出しているだろうから当然なんだが… 本作は話自体は単純なもの。米国風味と欧州風味の掛け合わせが見どころ。(2022-5-17追記: 寓話なので、イチャモン的な文句だが、全員が顔を合わせた時点で、こういう話の流れに絶対ならないよね…) p161 社交カレンダーあり。 p162 為替相場♣️サタスウェイト氏は戦前と比較しているのか?1911年は1ポンド=25.25フラン、1926年は1ポンド=149.21フラン(5.9倍)。ドル・ベースなら1911年は5.20フラン、1926年は30.72フラン(5.9倍)。フランの価値がかなり低下しているようだが… (2022-5-17追記: 私は貧乏人なので、値段が安くなったのに文句を言ってるのが理解出来なかった。よく考えてみると、フランが非常に安くなったので、有象無象が押しかけてくるようになり、本物の金持ちはモンテ・カルロを避けるようになった、ということなのだろう) p162 例のスイスの観光地(these Swiss places) p163 かぎ鼻で顔色の悪いヘブライ系(Hebraic extraction, sallow men with hooked noses)♣️今はこういう表現はダメなんだろうね。 p176 浅黒く、魅力的な顔(his dark attractive face) p181 “掻き集め”パーティ(“Hedges and Highways” party)♣️ルカ伝14:23から。(KJV) And the lord said unto the servant, Go out into the highways and hedges, and compel them to come in, that my house may be filled. (文語訳) 主人、僕に言ふ「道や籬の邊にゆき、人々を強ひて連れきたり、我が家に充たしめよ。 p190 五万フラン札(A fifty thousand franc bank note)♣️当時の最高額紙幣は5000フラン札なので10枚分という意味か?(多分この場面は違う) 5000フラン札はこの頃ならBillet de 5 000 francs Flameng(1918-1938)サイズ256x128mm。仏国消費者物価指数基準1926/2022(451.45倍)で1フラン=0.69€=93円。 (2022-5-15記載) ********** (11)世界の果て World's End (米初出Flynn’s Weekly 1926-11-20; 英初出Story-Teller 1927-2 連載タイトルThe Magic of Mr. Quin, No. III. World’s End) 単行本タイトルThe World's End: 評価7点 コルシカ島の話。世界のどん詰まりという舞台、公爵夫人のキャラ、若い娘の態度、全てが上出来。二人が変に活躍しないのも逆に良い。淀みない話の流れが非常に素晴らしい。 p417 アヤッチオ(Ajaccio)♠️コルシカ島の実在の地名。 p424 エドウィン・ランドシア♠️Sir Edwin Henry Landseer(1802-1873)、動物の絵で有名。最も知られている作品はトラファルガー広場のライオン像。 p425 一枚五ギニー♠️絵の値段。 p431 コチ・キャヴェエリ(Coti Chiaveeri)♠️架空地名かと思ったら、実在だった。コルシカ島南西、Coti-Chiavariが正しい綴りのようだ。話のイメージにぴったりの風景。アガサさんは行ったことがあったのだろうか。 p440 あの女は食い物のために生きている(That woman lives for food)♠️女優に対する、このセリフも実に良い。 p441 ジム・ザ・ペンマン(Jim the Penman)♠️Theatre Royal Haymarket, Londonで1886年4月に初演、大当たりとなり、映画化(1915, 1922)もされた戯曲。Charles Lawrence Young(1839-1887)作、とされるが、実際はドイツのFelix Philippi(1851-1921)作Der Advokat(1885?)の翻案のようだ。 p443 二シリング銀貨ほどの大きさ(the size of a two-shilling piece)♠️当時のフローリン銀貨(=2s.)はジョージ五世の肖像、1920-1936鋳造のものなら.500 Silver, 11.3g, 直径28.3mm。こういう大きさは訳注で処理してほしいなあ… (英国人なら身体に染み込んでると思うので) ついでに言っておくと五百円玉が26.5mm。 (2022-5-17記載) ********** ⑺闇の声 The Voice in the Dark (米初出Flynn’s Weekly 1926-12-4; 英初出Story-Teller 1927-3 連載タイトルThe Magic of Mr. Quin, No. IV. The Voice in the Dark): 評価4点 いつものようにレディの描写が上手。読書中はアガサ・マジックに幻惑されたが、ちょっと考えると、とても成立しなさそうなところがある変テコなオハナシ。雰囲気は良いので残念。 p255 事故◆数年前にこの鉄道路線で起こった事故。カンヌからの帰りなのでフランスか。 p256 コルシカ◆「世界の果て」を指す。 p258 ユーレリア号の難破(the wreck of the “Uralia”)◆ニュージーランド沖合いで沈没。40年前(p265)だと言う。サタスウェイト氏が若い頃、と言っている感じからすると、彼は少なくとも五十代後半。 p259 鈴と道化服◆再登場。アボッツ・ミードから15マイルほどのところ(p277)。 (2022-5-18記載) ********** ⑻ヘレンの顔 The Magic of Mr. Quin, No. V. The Face of Helen (初出Story-Teller 1927-4): 評価6点 何気なくサスペンスを高めていくところが上手。1926年のある短篇とちょっとした共通点あり。 p290 近頃では、だれもが刈りあげている(It’s more noticeable now that everyone is shingled)♣️Aileen PringleのPringle Shingle(1925)が有名のようだ。 p293 “芸術家気取り”の連中(be of the ‘Arty’ class) (2022-9-17記載) ********** (12)道化師の小径 The Magic of Mr. Quin, No. VI. Harlequin’s Lane (初出Story-Teller 1927-5): 評価7点 ラストまで不可思議な話。傍観者がうろたえるところが良い。執筆時期はアガサさんが一番混乱していた時期なのかも。 p460 『幸福な王子』の一節… 「この町でいちばん美しいものを二つ持っていらっしゃい、と神様はおっしゃいました」(Bring me the two most beautiful things in the city, said God)♠️原文に『幸福な王子』は無し。The Happy Princeの原文だとthe two most precious things、神様に答えて天使が運んできたゴミ同然の物とは… p464 オランダ人形(Dutch Doll)♠️英Wiki “Peg wooden doll”参照。ああ、こういうイメージなんだね。 p476 ワルキューレの第一幕… ジークムントとジークリンデ♠️ここら辺は、このオペラを知っていた方が面白いと思う。 p480 古いアイルランド民謡… シーラ、黒い髪のシーラ (後略) (Shiela, dark Shiela, what is it that you’re seeing? / What is it that you’re seeing, that you’re seeing in the fire?’ / ‘I see a lad that loves me – and I see a lad that leaves me, / And a third lad, a Shadow Lad – and he’s the lad that grieves me.)♠️どうやらアガサさん自作の詩をアレンジしたものらしい。 p482 ワルキューレの恋の主題歌(the love motif from the Walküre)♠️某Tubeでは“Wagner Leitmotives - 39 - Love”で聴けます。 (2022-9-17記載) ********** ⑼死んだ道化役者 The Dead Harlequin (初出Grand Magazine 1929-3) ********** ⑹海から来た男 The Man From the Sea (初出Britannia and Eve 1929-10 挿絵Steven Spurrier) ********** ⑽翼の折れた鳥 The Bird with the Broken Wing (初出不明) |
No.8 | 6点 | ボナンザ | |
(2019/11/14 20:39登録) クリスティらしい人間の機微を上手に描写した良作集。 |
No.7 | 6点 | 蟷螂の斧 | |
(2018/05/22 14:31登録) 「雑誌でこういう短篇が好まれるらしいし、わたし自身好きだが、どんな定期刊行物からの連載申し入れもすべてお断りした。わたしが書きたいと思った時だけに書きたいのである。」(自伝より)ということで、著者の作品群からはかなり距離のあるファンタジー的色彩の濃い作品集。そんな中でも本格ミステリー要素のある作品が4本ぐらいありましたね。「窓ガラスに映る影」「闇の声」など長編で読みたい。でもオカルトチックな展開なので、某巨匠とかぶってしまうか?(笑)。 |
No.6 | 10点 | ALFA | |
(2017/04/01 16:37登録) 「愛」「救済」をテーマにした12編の短編集。しかし決してミステリ風味の恋愛小説ではない。12編すべて本格的なミステリの骨格を持っていて当たり外れはない。後の長編に昇華するテーマやモチーフもいくつか見受けられる。 と、ここまでならよく出来た短編集という評価で終わりなのだが、この作品を濃く彩っているのは探偵役二人、クィン氏とサタスウェイト氏。 クィン氏は半ばスピリチュアルな存在として描かれていて、二人の関係はホームズ、ワトソンやポアロ、ヘイスティングスとは大いに違う。普段は社交界のスノッブな老人サタスウェイト氏が、どこからともなく現れるクィン氏に出会った時だけインスピレーションを得て謎を解き明かす。 したがって二人(?)の関係は生身の人間同士というよりは霊と霊媒のようなものか。あるいはクィン氏とはサタスウェイト氏が夢見た理想の自分、若く自由で俗物根性とは無縁の自分自身なのも知れない。 個性の強いキャラ設定だけあって好き嫌いは分かれるかもしれない。しかしいうまでもなく「相性は読者側の都合であって作品の質とは無関係」である。自分の世界観と合わない場合、すぐれた作品であればあるほど論評には客観性と表現力が求められる。したがって極端に好みに合わない場合は論評を差し控えるというのも一つの見識だろう。珍妙な言説を弄して自爆されてもはた迷惑である。 いずれにしてもこの探偵役によって優れたミステリがさらに幻想的な持ち味になった。 クリスティの短編集の中でも「死の猟犬」と並ぶ個性の強い名作。 印象に残るフレーズ 「私はまだ一度もあなたの小径を通ったことがありません」(サタスウェイト氏) 「後悔していますか」(クィン氏) 「い、いえ」(サタスウェイト氏) セリフの持つ象徴性はぜひ本編で・・・・ |
No.5 | 5点 | mini | |
(2016/04/19 10:03登録) 私がこれ読んだのは結構初心者の頃で、『おしどり探偵』や『火曜クラブ』(『パーカー・パイン』は未読)と並んで同時期に読んだ 『おしどり探偵』では物真似される未知の作家に対して興味を持ったし、『火曜クラブ』に見る独特のエキゾチズムは魅力だったが、『謎のクィン氏』だけはどうにも合わなかった 一応断っておくと、私は初心者の頃からパズル的要素だけを求めるタイプの読者では決してなかったし、『クィン氏』にパズル要素だけを求めてもいない 私も小説的世界と謎解きとの融合という点で質は高いとは思ってる しかし質の高さと、個人的な好き嫌いとはまた別の問題なわけで とにかく私はこの短編集が嫌いである、質自体が標準クラスだったら4点以下にするところだ じゃあどういう点が嫌いなのか 初めて読んだ時に、読んでるこっちが恥ずかしくなってきたんだよね、これ だって、これって例えば日本だったら、スサノオとかひょっとこを、まるで白馬にまたがった王子様風に登場させる感じなんだもん 初読時に思ったのは、少女漫画の世界かよだった(苦笑) ハーレクィンのアバターという基本発想自体がクリスティの独創性を感じるよりも、他の作家でも思い付きそうだけど、他の作家なら恥ずかしいから書かないんじゃないかと感じたんだよね 私が作家だったら、そうだな「真夏の夜の夢」に登場する妖精パックの化身でも使うかな あとねサタスェイト氏が大嫌い、とにかく嫌い 何て言うかこの人物、作者の化身とでも言おうか、作者の性別を変更して年配にしたような感じがするんだよね サタスェイト氏と事件の渦中に居る登場人物との絡みがもう、読んでて恥ずかしくなるんだよね もう駄目、とにかく私には合わない よく通好みみたいに言われる事の多い『謎のクィン氏』だけど、案外とね、通な読者よりもさ 例えば読者の知恵比べとしてのパズル的ゲーム性を重んじて人物キャラなどには全く興味の無い読者がむしろ高く評価しそうな感じも有るんだよね、案外とね あるいはハードボイルドとか警察小説とか社会派とかのリアリズム系ジャンルには全く興味が無い的なタイプの読者にも合うだろうな、リアリズムとは対極を目指したような感じだもんね ちなみに読んだ数少ないクリスティ短編集の中で、特定の探偵役が居ないノンシリーズ短編集だけど私が一番好きなのは『死の猟犬』である |
No.4 | 10点 | クリスティ再読 | |
(2016/04/18 20:21登録) 本短編集は評者は何回読んだかわからない。クリスティの中でも格別好きで好きでしょうがないくらいの作品集だ。なのでこのプロジェクトを始める前から10点をつけるつもりでいたくらいである。 どこがいいって...1930年なんてクリスティの初期に属する作品集だけど、後期に典型的に見られるような独自な性格のキャラを立てた性格悲劇の色彩をもっていて、その描写が実によく書けているだけでなく、うまくミステリに埋め込まれているあたりである。ミステリの教科書にしたいくらいに、小説とミステリのバランスのとり方がいい。 しかも狂言回しのサタスウェイト氏のキャラがいい。独身者=人生の観客という等式を、クィン氏という触媒によって破るダイナミズムが、ちょいと身につまされるぜ....あくまでも事件はサタスウェイト氏の主観の中で起き、その主観の中でのちょっとした「違和感」がクィン氏によって照明を当てられて真相を悟る、という結構になっていることもあって、ファンタジックなトリックや事件も決して突飛には感じない。 「しかし、私は、まだ一度もあなたの道を通ったことがない...」「で、後悔しているのですか?」この会話こそが、独身者の機械としてのミステリのあり方を如実に示しているとさえ思う。 評者にとっての愛の対象の1冊。 付記:けどねえ、婉曲に書いたから分らない人多いだろうな。サタスウェイト氏ってゲイだよね....まあ、ヘイ×ポアロだってネタの定番のわけで、クリスティのキャラってそういう腐視点での面白みってのがある。実際クィン氏×サタスウェイトで引っ張っておいて、ゲイ趣味ともかなり関連の深いバレエネタで〆る、という構成のわけなんだしね。特に日本じゃミステリは乱歩四郎の昔から、中井英夫を経由してそもそもホモホモしたジャンルであるわけで、そういう読みをしていけない、かな? |
No.3 | 7点 | あびびび | |
(2012/06/07 15:23登録) サタースウェイト氏はイギリス上流社会のレギュラーと言うべき存在だが、特に大金持ちというわけではなく、階級?的にも目立たない男。しかし、人間関係のひずみには超人的?な嗅覚を持つ。 そして、その場には必ずクイン氏が登場し、サタースウェイト氏の推理、疑問に一石を投じる。ほんの一言助言するだけだが、そのヒントでサタースウェイト氏は鮮やかに事件を解決する短編集だ。 ミステリ的な要素の少ない作品もあるが、どれも重みががあり、アガサ・クリスティという作家の底力を感じさせる。 |
No.2 | 7点 | りゅう | |
(2011/05/24 19:49登録) 本格ミステリ作品ではありませんが、読後に独特な余韻を醸し出す、叙情性のあるミステリ短編集です。クイン氏が探偵役かと思っていましたが、実際に問題を解決するのはサタースウェイト氏です。謎の人物クイン氏は、どこからともなく現われ、サタースウェイト氏にヒントを与えると、いつの間にかいなくなってしまいます。サタースウェイト氏は老人で、普段は人生の傍観者なのですが、クイン氏の言葉に励まされて、人生で自分に与えられた役割をこなそうと努力するようになります。クイン氏とは何者なのか、それがこの短編集の最大の謎だと思いました(文学的な意味が込められているのでしょうか)。 「海から来た男」 文学性の高い作品で、ミステリとは言えませんが、最も印象に残った作品です。 「ヘレンの顔」 ミステリとしてみた場合に、最も面白かった作品です。奇抜なトリックが使われています(〇〇を経由してそんなことが本当にできるのか、実現可能性には疑問を感じますが)。 |
No.1 | 8点 | 空 | |
(2009/10/24 14:09登録) 名探偵の名前がハーリ・クィンというだけでも、本作がファンタジー的な要素を持っていることは明らかでしょう。いや、名探偵と言えるかどうかも疑問なミステリアスな存在です。クリスティー自身が高級感を狙ったと説明している、不思議な雰囲気を重視した短編集です。 最初の『クィン氏登場』でのクィン氏の登場シーンからして幻想的です。ミステリとは呼びがたいような秀作『海から来た男』からの5編では、ただ幽霊のように存在しているだけになり、事件解決はほとんど人生の傍観者を自認するサタースウェイト氏(ポアロものの『三幕の殺人』にも登場)にまかされてしまいます。そして二人とも名探偵役と言えない『世界の果て』を経て、最後の『道化師の小径』になると、完全にファンタジーであるとともに、クリスティー自身がやがて書くことになる某長編も連想させる作品になっています。 このシリーズならではの上述作の他、純粋な謎解きミステリとしては『道化荘奇聞』『ヘレンの顔』が印象に残ります。 |