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ミステリの祭典

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ねここねこ男爵さんの登録情報
平均点:5.65点 書評数:172件

プロフィール| 書評

No.152 7点 黒白の囮
高木彬光
(2020/04/08 21:40登録)
面白い。そして惜しい。

犯人の企みと仕掛けはなかなかに素晴らしいし、登場人物も整理されており読みやすい。
まず惜しいのは読者への挑戦を取り巻く状況で、挑戦後に重要証拠がどんどん後出しされること、中でも決定的なものが幸運な偶然であること、その発覚のタイミングが(作者に)非常に都合がいいこと、つまりは論理的な犯人の指摘が基本的に不可能なことなど(メタ視点で当てるのは容易)。挑戦が無ければ良かったのに。
そして犯人側にミスらしいミスはないのでそこを突くわけでもなく、誰もが盲点となっていた急所を突くわけでもなく、やたら有能な脇役が勝手に証拠を集めてきてくれるのを黙って見ているだけなのが残念。あと、容疑者のあの人が素直に警察に通報したら犯人はどうするつもりだったのだろう…検事が言う通り通報しても別に問題ないと思うのだが。

それらが修正不可でもなく少し工夫すればなんとでもなりそうなので、それだけに惜しい。それらの疵を踏まえてもかなり面白いので。


No.151 7点 見えないグリーン
ジョン・スラデック
(2020/04/08 01:34登録)
面白い。
「こういうのでいいんだよ」と言いたくなるような魅力的な謎と思わせぶりな探偵、そして真相。テンプレを踏まえつつきちんと水準以上の作品に仕上がっているのが素晴らしい。
個人的に密室トリックそのものはどうでもいいと思っているし賛否があるだろうけれど、本作の密室はけっこう感心した。


No.150 3点 わが一高時代の犯罪
高木彬光
(2020/04/08 01:16登録)
表題作のみの採点。

若かりし頃の神津恭介や、当時の雰囲気を楽しめるかどうかだけの作品かと…残念ながら。
消失トリックは「雪道に足跡をつけたくなかったのでジャンプした」くらいのノリです。必要な材料をあんなにあからさまに盗んだりしたら騒ぎになるのは当然で、隠蔽したいのか発覚させたいのかよく分からない(もちろん現場の不可思議な状況を無理やりにでも作りたかったのであろうことは分かるが)。
何より、あんなに手数をかけて密室状態にする必然性が全く無い。普通に失踪すればよい。「密室の謎が解けない限り失踪した人間は見つけられない」とでも思っているのだろうか…
いないとは思うけれど、もし高評価に釣られて他の神津恭介シリーズを読まずにこの作品に触れる人がいたら、多分怒ると思う。


No.149 4点 神津恭介、密室に挑む: 神津恭介傑作セレクション1
高木彬光
(2020/04/03 01:59登録)
ネタバレ風味です。

発表当時はどうだったのか分からないが、1〜4作目は現代の視点からでははっきり言って凡作…少なくとも古さを感じさせない名作とは言い難い。
この作者の密室は機械的なものがかなり多いのだが、長編では(作中人物が述べている通り)あくまで作成法はどうでもよく、密室作成理由こそ本質としていて、実際その通りの作品に仕上がっている。
一方それが短編になると…機械的であること、作成理由が「密室になってるから自分は犯人ではないよ」のケースが多いこと、トリックが想像の延長上にあるものばかりなこと(隠れる場所がない→こうすれば隠れられるよねとか、足跡がない→こうすれば足跡を残さず移動できるよねとか)でかなりイマイチ。劣悪密室の条件が揃ってしまっている。

5作目の「影なき女」がやはり突出している。これがあるので3点にしたいところを4点とした。
6作目は当時としては斬新だったろう…現代の読者は「手記」であることから例の人物が登場した瞬間にピンときてしまうだろうけど。
また、犯人あてとしては候補2人から1人に絞れないと思うのだが…スリッパと人形の件は「不要な偽装工作であるが不気味さ演出のためやってしまった」と言われたらどうしようもないと思う。やる理由に乏しいだけで実行可能ではあるのだから。もちろん真犯人の人形の活用法は素晴らしい。

全体として、この短編集自体に価値は見出しづらい。後半の有名作は色々な場所で読めたりするので。


No.148 4点 Wの悲劇
夏樹静子
(2020/03/08 01:21登録)
クイーン公認とのことだが、レーンのようなロジカルな推理など微塵もなく、犯行そのものは大抵の登場人物が実行可能であるにも関わらず「目に見える動機があるのはコイツだけだからコイツが犯人!」というめちゃくちゃな言いがかりで犯人を指摘する。…まぁこれは勝手にロジックを期待した自分が悪いか。

また、この年代の日本の推理小説の多くと同じで登場人物の描写が乏しく、単なる記号やパーツになっている。いわゆる黄金時代の作品よりも更に。推理小説が批判されるときによく指摘されることであるし、自分は普段そんなことどうでも良いと思っているのだが本作では結構気になった。主人公(?)のロマンスが唐突すぎたり…

ただややこしい推理パートがほぼ皆無だし真相も演出次第で衝撃的に出来るのでTVドラマの原作としてはもってこいだと思う。登場人物たち全員が無個性なのを逆手に取ってドラマオリジナル要素を入れ放題だろうし。


No.147 3点 キリオン・スレイの敗北と逆襲
都筑道夫
(2019/12/28 12:23登録)
とても読みにくい…
キリオンはじめ登場人物たちがすぐに話を脱線させるので、一つの事件が起こったときその概要を掴むのすらストレス。本筋と無関係なところでやるとか、概要説明は会話形式にしないとか、いくらでもやり方はあると思うのだが…これがユーモアだった時代もあるということか

内容としては程々だけれども、主要登場人物のうち数名の行動や言動が明らかに不自然で浮いてるので、論理的ではないけれどメタ的な視点でかなり早くネタバレしてしまうのがマイナスかと


No.146 10点 戻り川心中
連城三紀彦
(2019/09/27 10:59登録)
恐ろしく美しく素晴らしい短編集。

一つだけ。光文社文庫版は、裏表紙の内容紹介文が表題作の微妙なネタバレになっているので、見ずに本文を読み始めたほうがいいと思います。

有名な作品ですし、映画版のウィキペディアのページではあらすじで思いっきりネタバレしていますし、本作の魅力はそれだけではないので「このくらいはいいだろ」という意見もあるかとは思いますが…


No.145 6点 法月綸太郎の消息
法月綸太郎
(2019/09/27 10:37登録)
「あべこべの遺書」は初出のアンソロジーではツッコミどころ満載だったが、この短編集Verでは一応形になっている(構造を変えたのではなくツッコまれそうな部分に予め言い訳している、という感じだが)。
ただ構造がそのまま故、服毒死の下りなどはだいぶ苦しく、結局真相は分からずじまいにしていることなど全盛期ほどのキレはないと思った。

長期シリーズの小説だと、作者が歳を重ねたため考え方感性が変化しキャラクターが別人になることがままある。本作ではキャラクターはそのままだが作風が…。作者は評論を多く手掛けているためか、「白面のたてがみ」「カーテンコール」はモロにそうなってしまっているというか。クオリティはともかく(面白いけど)、評論で書くべきネタを無理やり小説化したという印象が拭えない。


No.144 5点 花の棺
山村美紗
(2018/06/14 05:18登録)
時代を感じる作品。読んでいるときはそれなりに面白かった。2時間ドラマの原作としては満点ではなかろうか。

トリック単独ではとても良くできているのだが、トリックを用いる必然性に極めて難があり、それどころか用いたことで犯人バレするという典型的な手段が目的化している小説。みんながみんな、不要な偽装工作で証拠を残したり工作中に目撃されたりで苦笑。
ミステリをあまり読まない人と話すと、『ミステリはトリックを見るもの』『トリックに必然性なんてあるの?』ということがとても多く、それはこの時代にそういう作品が乱発されイメージが固定化してしまった事が大きいんだなぁと。そういう意味で時代を感じる。
ただリーダビリティは高いし、トリック観賞作品と思えば悪くない。

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犯人の独白の中に、「美人だった母には、堅実だが地味な公務員の父はふさわしくなかった」「そんな母はふさわしいイケメンと浮気した」「浮気がバレて離婚し、それがもとで母は死んだ」「あのとき父が母を許していれば母は死なずに済んだのに」とさらっと書いてあるのを読んで、作者の倫理観に寒気を覚えた。そういう時代だったのかも知れないが…


No.143 3点 感染領域
くろきすがや
(2018/06/09 17:49登録)
なんとなくパラサイト・イヴを思い出してしまった。
その分野の専門の研究者が執筆していたあちらと比べて、本作は経歴を見るにそうではないようで、その分遺伝子関連部分は分かりやすいものになっている。

ただ、バイオテロの動機等々がありがちというか、単に道具を目新しいものにしただけで、話の展開などに斬新さは無かった。あーなってこーなってそーするんだろうな、と。あと、一時期そっち系の研究室に在籍していた経験から言うと、最後の解決策は学会はじめ各機関から猛反発を食らうと思う。そんなアプリの更新みたいに単純にはいきません。この指摘は野暮だとは思いますが。
また、登場人物が極めてテンプレ的というかアニメ的というか…主人公の身近に世界トップクラスの有能な人材が最初から揃いまくっており、彼らのスーパーな能力や装置で課題がサクサク解決していくので、主人公が攫われようが殴られようが基本的にどうでもよく、結果として危機感に乏しくカタルシスもなくスピード感に欠ける。一応最後のアイデアを出すのは主人公なのだが、これはそうしないと「なんでコイツが主人公なの?」って読者からツッコミが入るからだろうし。そもそも過去に内部告発をやらかした『札付き』の主人公に最重要機密を託すというのが意味不明だ。主人公にこれまでにない斬新な設定を与えようとしておかしくなったのか。

最後に…登場する女性キャラが理由なく主人公に好意を抱く展開、特に頭脳明晰容姿端麗エリート階級の元カノが主人公だけに依然ベタ惚れで各種世話をやいてくれていやーまいるぜという「別れはしたけど女はいまだに俺の事が好き、しかも女は『血統書』付き」パターンはオッサン世代のツボなんだろうか…


No.142 5点 悪魔の手毬唄
横溝正史
(2018/05/18 19:09登録)
この書評が個人攻撃である、との指摘を受けていますが、特に他の方の書評に対して難癖をつける意図はありません。正直かなりびっくりしました。
「~という人は」という部分なのかなと思うのですが、この見立て殺人に意味がないことは個人や作家の評論等でも指摘されていること、それに対して意味がある!という意見もあちこちにあって、その意見に対して「~という人は」という表現を使い自分の意見を書いたのですが。本サイトはもちろん特定の書評や個人を名指しするものではありません。こう書いても信じてはいただけなさそうですが…。
また、今回の件で自分の書評を書き直すつもりはありません。サイトのポリシーに反するようでしたら管理人さんの方で本書評の削除をお願いします。

また「ネタバレがあることを書け」とのご指摘なので追加しました。
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タイトルを変えて、見立て殺人じゃなくしたら相当の名作だったかと…。


以下ネタバレ含みます。

最大の欠点は、見立て殺人にその理由が無い事でしょう。単に読者の興味をひくためだけのものになってしまっています。連載作だったので次回へのヒキのためやむを得ないかもしれませんが、作者のコメントを見るにノリノリだったようですし。無意味にリスクを犯し見立てた結果犯人バレするわけですから…。
「獄門島」も見立てそのものは無意味なのですが、あちらは別方向から必然性をもってきているので名作たり得ています。「獄門島」は見立てである事がずっとふせられており、あとがきによると作者はそこが不満だったようで、「連続殺人中に村人たちが見立てに恐れおののく話が書きたい!」というのが本作の執筆動機。つまり、必然性に関しては最初から頭になかった様子。
「容疑を別の人間に押し付けるためなので意味がある!」という人は作者と同じで、作者と読者と犯人とその他登場人物それぞれが持っている情報と持っていない情報の区別がついていないため勘違いをしています。
長くなるので書きませんが、「容疑を押し付ける意図があるなら、犯人が見立て殺人である事を公開していないのは矛盾」「手毬唄の発覚とそのタイミング、伝承と記録の改竄は犯人の手の内にはなく偶然」「容疑を押し付けるなら、最後に自殺するのは何故?」と言えば破綻しているのが伝わるでしょうか。読者は冒頭で手毬唄を知らされるため勘違いしやすいのです。
他に、「第一殺人で血を残すメリットなし」「老婆登場のメリットなし」「見立て殺人により犯人バレ」「影絵意味なし」などなど、ウケ狙いで不気味な事を書くのが目的で理由を後付しているためかなり苦しい。特に影絵のくだりは『作者がやりたかった』以外の理由が全くない…
作者は「クイーンはつまらない。カーが好き」「クイーンのような型が決まったものはトリックさえ思いつけばいいが、カーは小説全体のスタイルも考えないといけないので難しい」と言っていることから、作者はカーのスタイルと共に欠点も継承してしまっている事が分かります。カーは「可能性が大事で必然性は二の次」と言ってしまっている人ですから…

事件の真相や意外性などはとても素晴らしいので、見立てさえなければ…


No.141 7点 真昼に別れるのはいや
笹沢左保
(2018/05/17 20:11登録)
非常に特殊なアリバイ工作。是非はともかく唯一無二。
この作者のアリバイトリックは率直に言えば玉石混交なのだが、筆力の高さゆえ異様な説得力を持つ。
入手はなかなか難しいかもしれないが読む価値はあるかと。


No.140 8点 贈る物語 Mystery
アンソロジー(国内編集者)
(2018/05/15 17:17登録)
名作揃いの短編集。ハズレなし。
「密室の行者」「妖魔の森の家」「長方形の部屋」が一冊に収録されているというだけでも価値あり。「長方形の部屋」は一時期なかなか読めなかったので…
もちろん日本人作家の作品も必読もの。


No.139 2点 密室蒐集家
大山誠一郎
(2018/05/15 16:43登録)
マニアの学生が書いたトリック当て短編、というところ。
同人誌だったりネットで公開するなら微笑ましいが、出版されているとなると…。
トリック当てと書いたが、密室は読者が納得できるようにかつそれが唯一の解答になるように伏線を張ったり話を構築することが難しく、本作も登場人物の発言が(嘘の自覚無く)虚実入り混じりであったり、それがわかっていれば話が終わるような(しかも初動捜査で明らかになるような)証拠がどんどん後出しであったり、証拠の解釈が独善的であったり、記述の手際が悪くトリックがすぐ露見してしまったりと高評価しづらい。


以下ネタバレ含みます。


密室は作成法より必然性が重要なはずだが、本作はそこも弱い。
また、とにかく証拠解釈がおかしいように感じる。後出しも多いし。後出しを許すなら第一話は以下のような真相でも良いのではないか。

校長と橋爪と小使いは全員被害者に恐喝されていて、共謀して殺人を計画。窓から侵入したような工作をし、殺害。腕時計を盗み、内側の指紋を拭き取り、鍵で施錠する。途中で待っていた小使いに鍵を渡し校長は拳銃を持って逃亡。その後時間が経ってから鍵を開け死体を発見通報の流れ。
橋爪と小使いは見張りと人払い。むしろこの二人を抱き込んでいないとそれこそ目撃されるだろう(実際に逃げるところを見つかってるし)。施錠したのは、万一他の教師が忘れ物でもとりにやってきて(校舎の鍵は閉まっているので橋爪か小使いが付き添うだろう)、ちょっと被害者に挨拶をとなったときいきなり開けられるのを防ぐため。「熱心に演奏しているので邪魔すると悪い」とでも言えばよい。勿論通報時には「鍵はかかっていませんでした。犯人は被害者に開けてもらい、そのまま逃げたんですねぇ」と嘘証言をする。
腕時計を盗んだのは、例えば校長は不倫をして強請られていて、腕時計の裏に自分と愛人の名前が刻んであり、被害者がそれを証拠として取り上げいやみったらしく身につけていたとすればよい。残る二人が疑われたら「疑うなら身体検査や校内を調べてください。どこに拳銃があるのですか?」でよい。というか、よく橋爪の拳銃が見つからなかったと思う。
警察が調べれば恐喝されていたことが分かる?それは本編の校長も同じだろう。

この計画の途中で予期せぬ目撃者がいても作品通りになるはず。少なくとも伏線ゼロで懐中時計をでっち上げるより論理的と思うが。それが嫌なら時計が複数あった伏線を張るなり、現場から時計の風防の破片が見つかったなりすれば良い。もちろん作者が思いつかなかった訳ではなく、それを書くと真相が読者にバレてしまうのを嫌ったのだろうが。

他の話も別解作成が可能で、それは蒐集家の推理が論理的でなく独善的なことが理由なので…。
結局、「真相を当てなさい。ただし問題文は間違いもあります。何箇所間違いかは秘密です。また、解くためのデータも不足しています。自分で想像してください。なお、作者の用意した解答以外は無条件で不正解とします。」ということか。それが気にならないほど面白かったら良かったのに。


********
疑問点に一つ一つ突っ込むとキリがないのだが特大のを一つだけ。
「部屋に忍び込み、部屋主がいきなり帰って来たときの時間稼ぎにドアチェーン」とあるが意味不明。その状況で時間稼いでどうすんの?(むしろ開けておいて隠れてやりすごし、部屋主のスキを突いて逃げるほうがワンチャンある)。
時間稼ぎ中に逃げる?高層階からどうやって?


No.138 7点 殉教カテリナ車輪
飛鳥部勝則
(2018/05/14 19:52登録)
面白かった。
狭義のミステリ要素のみを抽出して評価するなら斬新なものではないかもしれないけれど、シンプルで抑制の効いた文章とそこからの雰囲気が非常によい。図像学について多くのページが割かれているが、それを新要素としてゴリ押すことなくあくまで調味料の一つとして扱っている事もすごい。
巻末の評者コメントにもある通り、「桂氏がなぜあのような人格を獲得したのか?」の描写があればより魅力的になったかもしれずそこがやや残念だけれど、作者的にはそれも冗長な要素だったのかもしれない。ひょっとして作者が本当に描きたかったのは仕掛けではなく絵なのかもとも思う。

以下ネタバレ含みます。
メインの仕掛けは、あの章が明らかに表現が浮いているので読み慣れた人ならすぐ分かるのではなかろうか。実際、あまり細かい事まで考えず読む自分には珍しく、あの章の時点でほぼ完璧に密室も真相も分かった。ほぼというのは、義母が(ひょっとしたら歯科医も)犯人を目撃していながらそれを庇っていた、記述者は更にそれを隠そうとした、と言うのが最後のオチだろうと思っていたので…この二人は動機が十分なのでむしろ犯人を応援する側だろうし、目撃していないと義母の発言がやや不自然かと。
それから、手記は特定の人物に容疑が向くように終わっているがあれは無理だろう。その人物は渋滞情報に言及していて、ケータイのない時代にほぼリアルタイムで情報を得る事はできないから。潜伏しながらラジオやテレビをチェックすることはできないし。
不可能状況を偶然の産物とする向きもあろうが、偶然というより「びっくりしてお皿を落として割ってしまった」が適性かと思う。都合の良い偶然に酷評を浴びせる自分がそう思うくらいなので。


No.137 2点 死の命題
門前典之
(2018/05/13 11:51登録)
バカミスにもなってない作品。前半で登場人物の口を借りて語られる推理小説観があまりにも薄っぺらいので嫌な予感はしたのだが。

オリンピック金メダル級の超人的身体能力をもった少なくとも3人以上の人間達が、死が近づいたときに助かろうとするのではなく状況を不可解にするためだけに超人的な力を発揮し、さらに万馬券級の運に恵まれてようやく…という。
「確率がゼロでない限り、偶然的であってもそれは偶然ではなく必然」(←この台詞、日本語を生業としてるのに正気か?と思う)「私は偶然というものを信じない」と言いつつこれでは…(これは狙って書いている節もあるけど)。そんなこと言ったら、隕石が降ってきていい感じに当たって死んだ、という確率もゼロじゃないぞ?誰もが知ってる超有名作家の作品に前例がある。
読者への挑戦が本来の意味ではなく仕掛けの一つということは分かるが、超重要証拠が解決編でどんどん後出しされるので衝撃もへったくれもない。
目に余る点は他の方が評価で書かれている通り。『とにかく読者の予想を外してやろう』『何が何でも前例のないものを書いてやろう』『この犯人と被害者の関係の美しさに読者は感動するに違いない』という歪んだ自己顕示欲のためにどんどん明後日の方向に向いていったのではなかろうか。
特に『被害者達と加害者達が何らかの対称性を持っている』というネタ(全員が被害者であり加害者とか、被害者加害者が一つずつずれてるとか)は本作以外にもたまに見かけるが、ほとんどが作者の「うーん美しい!」という自己満足であって話が面白くなるわけでは微塵もない。と言うか、対称性優先で話がおかしくなったり強引になったりで手段が目的化している典型。皆一度は考えるのでオリジナリティ皆無だし。黎明期ならともかくこの時代でいまだにこんなことをしてるとか…

バカミスは「細かい整合性を気にしてたら書けないとんでもなく壮大なアイデア」があって初めてバカミス足り得るのに、本作は苦しい言い訳を連発し、作者は苦しいと思っていないように読める。ひょっとしたら何か秘められた狙いがあったのかもしれないが、自分には分からなかった。ただ、確かに必読ではある。

***********
不勉強で知らなかったのだが、原書房のミステリー・リーグというのはこういうミステリを出版するところらしい。知らずここの本を何冊も読んで違和感を覚え、調べて知った。
論理性よりびっくり仰天重視なら楽しめるのかも知れない。


No.136 9点 不完全犯罪 鬼貫警部全事件(2)
鮎川哲也
(2018/05/09 19:34登録)
間違いなく世界一のアリバイ崩し。
「五つの時計」の蕎麦屋はまさに真骨頂。
脳みそのどこらへんを使えばこんなミステリが書けるんだろう。


No.135 7点 天使の耳
東野圭吾
(2018/05/08 15:37登録)
面白い!粒ぞろいの短編集。
交通警察の夜、となっているが、現場のタイヤ痕や車の破損具合から事故の真相を探り出す…というガチガチの事故ミステリではなく、物語の発端が交通事故に由来しているという程度。

表題作が最もミステリ色が濃く、話の出来も突出している。この話だけでも読む価値あり。
他はミステリというより交通事故にからんだ復讐譚や因果応報話(当世風に言うなら『嘘松』『スカッとジャパン』っぽい)で、ややご都合主義だったりオチが見えすくものもあるが十分に面白い。


No.134 1点 珈琲店タレーランの事件簿
岡崎琢磨
(2018/05/05 21:58登録)
「ビブリア古書店」が非常に良かったので、似てそうなこちらも期待したのだが…。

このタイプの本はキャラクターの魅力が不可欠だと思うのだが、本作は好感のもてる人物が一人もいない。「外見は良いが、客に他の客の悪口を言ったり、店員の老人を客の前で平然と口汚く罵倒するバリスタ」「恋人が浮気をしていると誤解し話も聞かず大内刈りをかます女性」「その友人で、男が女性店員と会話してるだけで浮気と断定し窃盗を働いた上ビンタをかます女性」「気に入らないという理由だけで見ず知らずの男性をいきなり殴る女性」などなど。悪い意味で衝撃だった。特にバリスタはよく客商売ができるなと思うレベル。客ごとに接客態度変えるし…。現実にいる、客前でバイトを罵倒するラーメン屋みたいなもんで、読んでて不快感しかない。

謎がしょうもないというよりそもそも謎じゃない。傘が無くなる場面があるが、「誰かが間違えて持っていったor盗まれた」というもっとも自然な考えをせず無意味にこね回したり。
メアドに「ブルーマウンテン」とあるから「名前アオヤマさんでしょ?」「すげぇぇぇぇ!!」って言われてもなぁ…(一応ラストに向けての伏線ということになってはいるが)。

なにより作者の売れたい欲映像化メディアミックスしたい欲が剥き出しで、決め台詞「その謎、大変よく挽けました」は震えた。寒すぎて。というかこの手のいかにもな決め台詞って原作時点で言わせるもんじゃないと思うけど…(たとえばホームズの「初歩だよワトスン君」は舞台化のとき生まれた台詞で、火村英生の「この犯罪は美しくない」はドラマのみ)

というわけで色々すごいので一度は読んでみることをおすすめする。


No.133 7点 碑文谷事件 鬼貫警部全事件(1)
鮎川哲也
(2018/05/05 21:06登録)
粒ぞろいの短編集。作者得意のアリバイもの中心に水準以上の話が多く楽しい。個人的に「1時10分」「誰の屍体か」がよかった。
「青いエチュード」は、こんな話ないかなとずっと思っていたものの具現化で少々驚いた。やっぱりみんな考えるんだなぁ。
また、「人それを情死と呼ぶ」の中編バージョンが読める貴重な本。

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