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ミステリの祭典

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戻り川心中

作家 連城三紀彦
出版日1980年09月
平均点8.21点
書評数53人

No.53 7点 パメル
(2024/01/30 07:01登録)
再読です。流麗な文章、詩的叙情性の中に潜む悪魔的な企みがある5編からなる短編集。
「藤の香」色街に集う男と女。ある者は家庭の事情で売り飛ばされ、ある者は夫の薬代の稼ぎのために。そんな色街で殺人事件が起きる。時代設定が上手く生かされた文学的な香りが濃厚な作品。
「桔梗の宿」梢風館へ行った客が他殺死体で発見された。その死体からは、200円という当時としてはかなりの額の金額が失われていた。何ともやるせない動機が胸に迫ってくる。
「桐の柩」次雄は親分を殺した。兄貴分の貫田が次雄に殺させたのだ。病で半年も、もたなかったはずなのに何故か。逆転の発想の動機が見事だが少し強引か。
「白蓮の寺」鍵野史朗は、幼い時の炎の記憶の中で、母が人を殺すところを見ている。母は誰を殺したのか。鮮やかな反転と意外な動機。
「戻り川心中」大正を代表する天才歌人・苑田岳葉。彼が残した「桂川情死」と「菖蒲心中」は彼の心中事件を題材に自分自身が詠んだ歌で、この二冊で岳葉は名を残したといっても良い。そして彼が起こした心中事件は「戻り川心中」と呼ばれる心中の追随者さえ出た。驚愕の真相、美しくも哀しいラスト。日本推理作家協会賞に輝くのも当然。

No.52 9点 みりん
(2023/01/28 14:20登録)
藤の香 8点 
桔梗の宿 9点 
桐の棺 7点 
白蓮の寺 9点
戻り川心中 10点
傑作短編集

No.51 8点 虫暮部
(2022/09/08 13:54登録)
 全編、恐ろしい濃度が維持されている。
 但し、ミステリとしての骨格は見事ながら、肉付けである世界観や文体が微妙に私の嗜好とは食い違っていて、読むのに幾ばくかの努力が必要だったことは認めざるを得ない。特に、“男は男らしく女は女らしい” ことに寄り掛かり過ぎていると思った。

 「桔梗の宿」。ラストの手紙は、“今更そんなこと教えてどうなる?” と言う意味で後味の悪さが残る。嫌がらせとしか思えんよ。真相の提示方法はもっと工夫すべきだったのでは。
 「桐の柩」。あの世界の人が今更、誰が誰を殺したとか気にしてそんな極端な行動をするものだろうか。隠したい真相と隠蔽工作の重さのバランスが取れていない。
 表題作が一番好き&ショッキング。でも “全くの偶然で同じ日に自害” とのエピソードはやり過ぎ。ここに何かの理屈を付けられていたらなぁ。

No.50 9点 バード
(2021/12/23 06:52登録)
平均点の高い作品であることを承知で読んだが、期待以上に良い出来だった。
特に表題作は複数のミスリードからの真相到達で、インパクト大の満点。短編集としても9点です。

古い時代の話にもかかわらず非常に読みやすく、文章力の高さも伺えた。謎と薄暗い舞台が上手く溶け合っており、面白さを高めあっている。もしどちらかが欠けていたら良くて7点だったろう。

最後に面白さとは別の感想だが、全体的に動機で謎を盛り立てており、連城さんの得意な手法なのかしら?と感じた。


<各話の書評>
・藤の香(7点)
真相をミスリードっぽく見せて驚かせるって構造は、他作品にもありそうだが案外パッと思いつかないな。まあまあ面白く好調な滑り出し。

・桔梗の宿(7点)
非常にむなしいお話。収録作の中で一番鬱度が高い。

・桐の柩(8点)
動機が面白く、物語に引き込む導入も上手い。表題作以外では一番好き。

・白蓮の寺(7点)
収録作の中で唯一読みづらさを感じた。やはり他人の夢の話にはのめりこめないっす。夢説明パートが終わり事件の核心に迫ってからは一気に面白くなった。例の犯行によって母の目的が達成できるかは相当綱渡りだがその分印象的だった。犯罪関係以外にも蓮に役割がある点には推理小説の枠を超えた上手さを感じた。

・戻り川心中(10点)
文句の付け所無し。完全に余談だが苑田の動機って『ネウロ』の世界観にマッチしそう。

No.49 10点 okutetsu
(2021/08/21 22:34登録)
文章が美しく、ミステリとは思えない出来で惹き込まれた。
全部好きだが、特に「桔梗の宿」の読後感はなんとも言えないものだった。
表題作も素晴らしく、読んでてほんとにあったことなんじゃないかと思うほどだった。
国内短編ミステリの最高傑作に挙げられるのも納得の一冊だった。

No.48 10点 じきる
(2021/05/09 16:12登録)
これは余りにも美しい……。

No.47 7点 レッドキング
(2020/07/13 21:50登録)
・「藤の香」 寂れた湊町の色街を舞台にした連続殺人の哀しくも「美しい」ホワイダニット。5点。
・「桔梗の宿」 極貧遊郭街で起きた連続殺人の「何故に(美しすぎてホワイなんて言葉じゃ足りない)」の物語。9点つけざるを得ない。
・「桐の柩」 殺意と区別できない程に強い執着心で結ばれた男女情念の道具となった男。5点。
・「白蓮の寺」 少年の記憶に明滅する殺人と火炎と白蓮の映像断片が、驚くべきホワットダニットに収束。7点。
・「戻り川心中」 いわば究極の見立てミステリ。8点。
  (5+9+5+7+8)÷5=6.8 で、平均して7点。
※他の4編は「花」題なのに、タイトル作のみ「菖蒲の歌」とか花がつかないのね。

No.46 4点 Gorgonzola
(2020/05/05 12:48登録)
綺麗な作品だったが、良さがイマイチ分からず。。時間をおいて再読したい

No.45 10点 雪の日
(2020/04/09 14:08登録)
短編ミステリの最高傑作

No.44 9点 クリスティ再読
(2020/02/21 21:33登録)
さて「幻影城」作家にも取り掛かることにしようか。名作短編集なのは言うまでもなく、皆さんも大好きみたいだ。講談社文庫なので5作収録。表題作は協会賞受賞+映画化で有名なのだが、今回読み直して他の4作の方が好きだな。
遊郭をはじめ昭和初期の暗い風俗を背景に、日本情緒と昏い情念の溢れる「花」を象徴する5つの事件である。どれもこれも、ミステリ的などんでん返しで、さらに女性の情念が引き立つような味わい深い仕掛けが決まる。個人的なベストは「桔梗の宿」。語り手の刑事が真相を知って、どんな哀しみを感じたのだろう...
本当に意外な犯行動機の「藤の香」、博徒渡世の中にどこか同性愛的なエロスを感じる「桐の柩」、真宗寺で育った語り手が母の秘密を知る「白蓮の寺」と情念の深い名作が続く。「ミステリの仕掛」が小説的な仕掛けにするりと変貌するのがスリリングなものばかり。
で問題の「戻り川心中」だけど、これはやや作りすぎの気がする。わかりやすいけどねえ。昔から歌物語というのはあるわけだしね。それでも小説中に登場する歌は作者が自分で作ったわけだから、さすがなものだ。思い出話だが、昔神代辰巳監督で映画「もどり川」が公開されたときに、見に行く予定を立てていたんだ。でもあえなくショーケンがハッパで捕まって公開中止、見に行けなかったよ。神代監督も一般映画に進出して意気盛んな頃で「恋文」は2年後か。

No.43 10点 ねここねこ男爵
(2019/09/27 10:59登録)
恐ろしく美しく素晴らしい短編集。

一つだけ。光文社文庫版は、裏表紙の内容紹介文が表題作の微妙なネタバレになっているので、見ずに本文を読み始めたほうがいいと思います。

有名な作品ですし、映画版のウィキペディアのページではあらすじで思いっきりネタバレしていますし、本作の魅力はそれだけではないので「このくらいはいいだろ」という意見もあるかとは思いますが…

No.42 10点 mediocrity
(2019/08/24 06:57登録)
光文社文庫。「ミステリー史上に輝く、花にまつわる傑作五編」という裏表紙の謳い文句は誇張ではありませんでした。

①『藤の香』
お見事。読み終わった後、余韻を味わいたくて次の作品を読み始める気が起こらなかった。
②『桔梗の宿』
ということで日を変えて再開。前作に増して美しい作品だ。これもよくできた話だと思っていたら最終節でもう一ひねりあって驚愕。
③『桐の柩』
最後まで読むとタイトルに納得。これも十分名作だと思う。この中だと埋もれてしまうが。
④『白蓮の寺』
短編を引き延ばして長編にしたような作品は多いが、これは長編1本分の素材を短編の中に詰め込んだ感じ。当然異様に凝縮されていて素晴らしい。今までの3作以上に「花」に大きな意味があるのも良い。
⑤『戻り川心中』
適当な言葉がなかなか見つからないのだが、非常に多面的?な作品だと感じた。色々な方向から見ないと全貌がわからないとでも言いましょうか。不思議な感覚を味わえました。

No.41 10点 タピオカ
(2019/08/15 05:07登録)
表題作のみ採点。

二転三転するプロットの他、思いもよらない動機が秀逸。

でも見方によると、歌のために女性たちを殺したクズ歌人とも見れる。てもそこは藝術家でしか理解できない境地というものがあるのだろう。

No.40 9点 sophia
(2017/06/09 01:53登録)
この作品を読むのは今回で3回目ぐらいになるのですが、毎回「戻り川心中」以外の4編の筋を綺麗さっぱり忘れてしまっています。どれも良作なのに何故なのでしょう。でもそのお蔭で毎回新鮮な気持ちで再読できるのでよしとします(笑)

No.39 10点 ALFA
(2017/03/05 09:53登録)
連城三紀彦はそのケレン味たっぷりなペンネームに恐れをなして敬遠していた。
もっと早く読めばよかった。
大正から昭和初期の時代設定、花をモチーフにした抒情的な五つの短編は、いずれも大仕掛けな構図の反転によって見事なミステリーになっている。
お気に入りは「戻り川心中」「藤の香」「桔梗の宿」。
表題作は、真の動機が明かされた瞬間、犯人の才能と肥大化した自我のありようが腑に落ちて、謎解きだけではなく文学創作の本質をも問う作品である。
「桐の棺」はチェスタトン張りの逆説的なトリック、「白蓮の寺」は構図の反転がともに見事だが、心理的にしっくりこない。
つまりこのような犯人がこの動機でこの犯罪をするか?と思わされる。
ディテールが美しいだけに残念。

No.38 9点 青い車
(2016/11/03 13:39登録)
 有名な『戻り川心中』目的で読みましたが、それ以外の4篇も極めてレベルが高いのには驚き。どれが表題作になってもおかしくないほどです。格調高い文章と鮮やかな反転の数々に圧倒されました。どこか乾いた印象の話が多かった『夜よ鼠たちのために』よりも好みです。

No.37 10点 夏みかん
(2016/02/11 20:43登録)
こっちもかなり好きな作品
他の作品集で読んだ桔梗の宿が目当てでしたが、
その他の作品もどれもすごく上手いと思いました。
桔梗の宿のほかには、一番目の代書屋の作品が特に好きです

No.36 10点 斎藤警部
(2015/05/11 11:49登録)
これには参りました。
完璧に構築された本格推理小説群です。腑に落ちる大胆な伏線、腑に落ちるまさかのトリック、腑に落ちる意外な動機。そして誰もが口にする美しい文章、且つ読みやすい文章。骨のある人物描写、スリルとサスペンス。どれもこれも推理小説、小説に求められる様々な要素を優しく兼ね備えた一級品ばかり。
よくぞここまで文芸とミステリーの勘所をシームレスに融合させたものだと感心します。それもトリック重視の本格ミステリーの形式で。
敢えて喩えれば、山田風太郎の本格短編をよりフェミニンな文体で書き直した様な感触を受けましたかね。
9.85点、四捨五入で10点です。

No.35 7点 いいちこ
(2015/04/28 17:37登録)
短編集として常にオールタイムベストの上位にランクインする本作。
収録作品はいずれも優れたホワイダニットで、手段としての殺人や心中に冴えを見せる。
特に「戻り川心中」「藤の香」「桔梗の宿」が上位。
大正・昭和の暗い世相や舞台設定を伏線として活かし、プロットを反転させる手法で生み出す意外性と、高い抒情性を両立させており、世評に違わぬ作品。

No.34 8点 名探偵ジャパン
(2015/04/22 18:09登録)
本格ミステリ小説というものは、パズルに小説的演出を施したものか。小説にパズル的要素を持ち込んだものか。作品によって違いがあり、また、どちらが優れている、正解であるといった優劣は付けられないだろう。
文学と言って過言ではない美しい文体で綴られた、連城三紀彦の傑作「戻り川心中
」(もちろん表題作以外の短編も含む)はどちらだろうか。圧倒的に前者である。
作者は「まず謎ありき」で、その謎を不自然なく包み込める舞台、人物設定を構築している。まぎれもない本格ミステリの作り方だ。
連城三紀彦の文章が美しすぎるがため、ミステリというには気恥ずかしいくらい「文学」してしまっているのだ。もちろん私は、「文学のほうが本格ミステリよりも上である」などと思ったことは(その逆も)一度もない。本格ミステリだろうと、文学だろうと、ライトノベルだろうと、面白いものは面白い。
ジャンルに優劣はないが、文章に美醜はあるのだ。
文章だけではなく、ミステリ的トリック、仕掛けも秀逸。(多少無理のあるものもなくはないが)
昨今の作家であれば、「これひとつで長編に仕立ててやれ。『予想を裏切る結末!』とか帯に書いてもらって、映画化を狙ってやれ」と、水増し水増ししかねないようなものも、惜しげもなく短編に、きゅっと詰めてくる。粋だなぁ、と思った。

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