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ミステリの祭典

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人並由真さんの登録情報
平均点:6.34点 書評数:2231件

プロフィール| 書評

No.311 5点 dele ディーリー
本多孝好
(2018/03/19 18:13登録)
 依頼人の死後、誰にも見られたくないデータを(当たり前だが、今はもういない)当人に代わって、デジタルデバイスから削除する会社『dele.LIFE』。そこに勤める若者・真柴祐太郎を主人公にしたミステリ連作。

 仕様としてはよくある『ブラック・ジャック』もの(専門職もの)だが、<プライベートに関する記録内容を消去すべき約束>に待ったがかかる筋運びは、連作のそれぞれに一応の工夫が凝らされていて、まあ面白い。
 主要登場人物の設定のなかには決着していない部分もあるようだから、シリーズ二冊目も書かれそうではある。


No.310 6点 5まで数える
松崎有理
(2018/03/19 18:06登録)
 半年かけて、少しずつ味わうように、ちびちび楽しんでいた中短編集。
 早川の「異色作家短篇集」を21世紀の国内作品として再生させたら、こんなのになるんじゃないかなという感じでとても愉しかった。
 ジャンルを超えて、本を読むことは面白いと素直に思える一冊である。


No.309 6点 黙視論
一肇
(2018/03/19 17:59登録)
 主人公ヒロインの繊細な内面に対しては読み手の興も乗るのだが、フェイクに終わったサブキャラがあとから薄っぺらく感じるのがちょっと辛い。
 あと事件(というか事態)の陰に隠された真実はとてもジーンとくるんだけれど、キーパーソンの登場のさせ方が少し後手すぎるんじゃないだろうか。まあそのさじ加減が難しいのはわかるんだけれど。


No.308 6点 探偵さえいなければ
東川篤哉
(2018/03/19 17:55登録)
 このシリーズは実は初めて触れますが、とても楽しかったですな。一本一本ごとに、自分自身も楽しんでミステリを書いてるのであろう送り手の心情が透けて見えて、実に快い。
 機会を見て少しずつ本シリーズを楽しませてもらいます。


No.307 5点 分かったで済むなら、名探偵はいらない
林泰広
(2018/03/19 17:50登録)
「♪暗い闇ひきさいて~明るい光が差すように~地獄から甦る『見えない精霊』林泰広の白い牙」という感じの大復活であったが、できたものはフツーに手堅い日常の謎風な連作もの(殺人事件もあるが)であった。
 とはいえエピソード全部に一貫する「ロミオとジュリエット」のウラ読みという趣向など、ほかとはひと味違う妙な才気は今回も感じさせる。
 次回は、剛速球のトリッキィな長編を期待しています。


No.306 6点 悪寒
伊岡瞬
(2018/03/19 17:46登録)
 ドラマチックな導入部のうまさと、いびつな悪人像の鮮烈さ。この辺はさすがに伊岡作品といった手応え。
 前作『痣』の主人公だった刑事・真壁が再登場し(さらに別作品の白石弁護士一家ともリンク)、この作者としては珍しい? シリーズキャラクターの活躍という趣向もうれしい。
 ただ最後に真相が明らかになったあとで中盤を読み返すと、ある人物の目撃証言はいったい何だったろうかと疑問が生じる(特に虚言を吐く理由も思い当たらない)。
 事件の真っ只中でややこしい事態が起きて主人公の焦燥が煽られたのはいいものの、トータルで見ると描写に整合を欠いたということであろうか。


No.305 5点 スマホを落としただけなのに
志駕晃
(2018/03/19 17:31登録)
 中盤の展開上の重要な局面で、あまりにも大きな偶然が作用しすぎているんじゃないかと。つまらなくはないが、ありふれたサイコサスペンスという感じでした。悪い意味でマンガみたい、と言ったら、よくできた漫画やアニメに失礼か。


No.304 8点 さよなら僕らのスツールハウス
岡崎琢磨
(2018/03/19 17:28登録)
 トリックや伏線などの面で一編一編の出来不出来は感じるものの、連作を通して読んで、とても心の燃焼感の大きい一冊。

 人間関係が順繰りに有機的に交錯して前のエピソードと次のエピソードとの関係性を紡ぎあってゆく手法はことさら珍しいものでもないのだろう。
 しかしこの趣向が、いろんな入居者がそれぞれの人生の一時期を送ってきた物語の舞台を際立たせるという意味で、とても効果を上げている。

 最後は藤子・F・不二雄先生の「×××××」になるかと思いきや…読み手の緊張をうっちゃるラストの捌き方も見事。個人的に昨年の収穫の一つだと思う。和製・青春ミステリ版『聖アンセルム923号室』かもしれん。


No.303 6点 (仮)ヴィラ・アーク 設計主旨 VILLA ARC (tentative)
家原英生
(2018/03/19 17:16登録)
 最後の主題を語るためにミステリの結構全体が奉仕する、ある意味でとても感銘を呼ぶ作品のはずなのに、そういうパトスがあまり湧き上がってこないのは何でだろう。
 どうだ、俺は凡百の館ものを凌いで、崇高なメッセージをトリックとロジックの核にしたぞと言いたげな、送り手のドヤ顔がちらつくためか。
 いや、悪意的な読み方ですみません。マジで(汗)。


No.302 5点 ifの悲劇
浦賀和宏
(2018/03/19 17:09登録)
 文字通り&評点通り「まぁまぁ楽しめた」のだけれど、この作品に関しては、先行するBLOWさんのレビュー「やっぱりそこに着地するのかあ、と落胆。とんかつ屋に入ったらラーメンが出てきた、みたいな感じ」という一言が、ものの見事に作品の素性を語りきっていると思います。
 アニメ『正解するカド』終盤のポカーンぶりみたいじゃ。


No.301 5点 合理的にあり得ない
柚月裕子
(2018/03/19 17:05登録)
読み物としての連作キャラクターミステリ的には、決して悪くないと思う。ただし最初のニセ天才預言者のカラクリを暴く話、あまりにもトリックが昭和で、21世紀の現代にこれはないのでは、と呆れた。
 総じて軽く読めることは悪い事じゃないんだけどね。
 
 それにしても作者は美人ですな。数年前のミステリマガジンをたまたま読み返していて、インタビュー記事で、ハッと思いました(汗・笑)。 


No.300 7点 怪盗ニック全仕事(4)
エドワード・D・ホック
(2018/03/19 16:41登録)
 サンドラ共演ものなんて以前に一冊でまとまって出てるじゃん、すでに読んだ話も多いんだろうな…と思いきや
①予想以上に初訳編多し
②そもそもサンドラはポイント的に、良い塩梅でのみ登場
③昔読んだけれど忘れてる話も少なくない
という三つの理由で、予想以上に楽しめた。

そのサンドラ自身もかなりバラエティに富んだシリーズ上の運用で、その辺は連作を読み進む読者を退屈させない、ホックの職人作家ぶりを感じます。
 シリーズ前巻のようにとびぬけてぞっとするような優秀作はないんだけれど、全体のアベレージは第3巻よりも上かもしれない。
 あとグロリアとニックとの別れ話については、ホックの当時の構想を聞きたかったな。どっかですでに語っているのだろうか。


No.299 4点 偽りのレベッカ
アンナ・スヌクストラ
(2018/03/19 16:29登録)
 十数年前に誘拐された? 失踪した? まま、いま現在も行方不明な娘レベッカ。その顔をニュースで見て、偶然にも自分にそっくりだと意識した若い悪女がそのレベッカを偽って、当該の家庭に「帰って」なりすます。だが…というストーリー。
 21世紀現代の話だから当然DNA鑑定とかあるよねと思って読んでいると、作者はそんな疑問に中盤の筋運びのなかで一応は応えてくれるものの、これがまた、そういうストーリー上の配慮自体はいいとして、劇中の関係者はそれ以上ツッコマないんですが、という気もする描写であった。
 あと後半のサプライズは良くも悪くもそう来るだろうな、という流れだが、警察は以前の捜査時に<その事実>に気がつかなかったのだろうか。
 エピローグはちょっと良かった。

 ただし(中略・ネタバレになるので秘す)の読者である自分としては、えらく不愉快な場面があったのでこの評点。時崎狂三ちゃん、出番です。


No.298 6点 ピカデリー・パズル
ファーガス・ヒューム
(2018/03/19 16:19登録)
『ピカデリーパズル』『小人が棲む室』という短めの長編二本が三本の短編『緑玉の神様と株式仲買人』『幽霊の手触り』『紅蓮のダンサー』をサンドイッチする構成。
 表題作はWEBで「この時代にこんな××トリックの趣向を…」とかなんとか話題になってました。んでもって、それはまあ分かるんですが、この作品は、むしろ<さらに古典のあの作品(非ヒューム作品)>の変奏じゃないでしょうか、とも思う(もちろん詳しくは書けんが)。

 一昨年に邦訳された連作短編集『質屋探偵ヘイガー・スタンリーの事件簿』の、良い意味でおとぎ話的なミステリの面白さが相当にツボだったので、今回も期待したヒュームですが、そっちには及ばないもののまあ悪くはなかった、それなり以上に面白かった、という印象です。
 特に『小人が棲む室』は正に、そのおとぎ話というか大昔の正統派ジュブナイルという仕上げでなんか心地よい。


No.297 7点 素性を明かさぬ死
マイルズ・バートン
(2018/03/19 16:09登録)
 作者は、ジョン・ロードの別名義。
 それで内容はジョン・ロードの昨年の新刊(商業出版としての)『代診医の死』同様、脇目も振らず徹頭徹尾、殺人事件とその捜査に本編の叙述が費やされるその潔さ。ああ、この直球のパズラーぶりがたまらない。
 トリックのわかりやすさ、明快なメカニズムは、1960年代までに日本に紹介されていたら、藤原宰太郎とかのミステリクイズ本に必ず引用されているんじゃないかという感じだが、そういう面白さを久々に十全に新刊で味わった。その意味でこれは○(マル)。
 バートンの正編シリーズの方も紹介してください。


No.296 7点 ファントマ
ピエール・スヴェストル&マルセル・アラン
(2018/03/19 16:01登録)
 旧作の古典ながら娯楽作品としてはさすがの面白さで、王道に安心して身を預けられる快感…かと思っていると、中盤のホテルのくだりなど、えー、この時代でもそれはないでしょ、と、素っ頓狂な趣向を見せるのがまたたまらない。
 しかしそんな一部の凸凹した筋運びがまた良い感じの起伏感になり、最後まで退屈しないで読み終えられた。まあ翻訳の流麗さもあるんだろうけど。
 ただまあいくつかのトリック・ギミックの面白さは良いものの、凶悪犯罪者ファントマの暴れっぷりには、まだまだ節度がある印象で、解説で紹介されている、もっともっとキャラクターの狂いっぷりに磨きがかかってくる後続作の方の紹介も願いたいもんです。


No.295 7点 東の果て、夜へ
ビル・ビバリー
(2018/03/19 15:53登録)
 私的にはかなりシンクロしました。
 ややこしい旅路の果てに、汚れた渡世から抜き出せそうな平凡な幸福を一瞬だけ夢見かける主人公、しかしそれを血とドロにまみれた過去の自分が容赦しない…って、1960年代の日活青春アクションか、1930年代のワーナー映画か。
 しかしこの作品は、そんな王道を衒いも無く語ったところに価値があると思います。自分みたいなおっさんの方が惹かれる一冊ではあろう。


No.294 6点 嘘の木
フランシス・ハーディング
(2018/03/19 15:44登録)
 某サイトでミステリ評論家の皆さんが2017年の最高傑作と推していたようなので手に取ってみたが、そこまではいかないにせよ、手堅く楽しめた。
 幻想小説風味、時代小説ティスト、青春ドラマ要素などの側面を備えながら全体として格調の高いヤングアダルト小説+犯人捜しのパズラーに仕上げており、感触は悪くない(謎解きの手順も丁寧だとは思う)。
 ただまあ世を挙げて賛美するような作品でもなく、誰も誉めなければ初めてそこでこういう佳作~秀作もありますよ、と言って、そっと差し出せばいい一冊という気もするが。


No.293 6点 老いたる詐欺師
ニコラス・サール
(2018/03/19 15:35登録)
 普通に書いたらなんと言うこともない話を、(クライマックスの手前まで)時系列を逆行して語る『瓶詰地獄』形式のクライムストーリー。
 なんでこんなややこしい手法を採るのかの意図は物語中盤で見えてくるが、物語の様相が変わってくるある意味グロテスクな迫力と、人間の悪と執念について一考させる筆致は個人的にはなかなか良かった。
 仕掛けのいくつかが見え見えなところあるが、まあそれは定石として寛容できる範囲内であった。


No.292 5点 青鉛筆の女
ゴードン・マカルパイン
(2018/03/19 15:28登録)
もうちょっと技巧的なものを予期していたが、現物はそれほどでもなかったという歯ごたえ。
 ただし本書が2015年に原書刊行という現実を考えると、第二次大戦から70年(以上)が経ったいま、欧米の読書人の意識を探る意味では興味深い。
 とはいえ読み終わってからひと月ほどが経過した今、このタイミングでじわじわ来る部分もたしかにあり、そこら辺はこの作品の強みかもしれない。

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