東の果て、夜へ |
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作家 | ビル・ビバリー |
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出版日 | 2017年09月 |
平均点 | 6.20点 |
書評数 | 5人 |
No.5 | 7点 | YMY | |
(2023/01/25 22:25登録) 犯罪小説、ロード・ノベル、少年の成長物語という三つの要素を兼ね備えているが、それらの要素がことごとく定型を裏返している。十五歳の主人公はボスである叔父の命令で、弟らと四人でLAから五大湖のほうへ、日本列島が横に二つ並ぶほどの距離を車で向かう。ロード・ノベルの旅は、当てもないか善意の目的が多いのに反して、本書は裏切り者を殺すため。普通ニューヨークあたりから西行きの話が多いのに、これも逆だ。 旅の一同は黒人。白人たちに怪しまれないようにドジャースのファンを装うが、むしろドジな連中で、ご難続きなのはロード・ノベルの常道とはいえ、道中の仲間が増えていかない点が斬新だ。 |
No.4 | 7点 | 八二一 | |
(2020/05/19 19:25登録) 犯罪小説であり成長小説でもある作品で、セオリーを崩していく計算尽くの部分が見え隠れするところも含め、端正な美しさに魅了された。 |
No.3 | 7点 | びーじぇー | |
(2019/09/19 18:35登録) 詩的な邦題がつけられたこの作品の原題は、ただDodgersである。解説にもあるように切り抜けるという意味の動(=dodge)にも掛けられているようだが、ずばりメジャー・リーグのロサンジェルス・ドジャースを指している。 ドジャースといえば、数年前にデーブ・ロバーツが初の非白人監督に就任して騒がれたが、本作は主人公ら黒人の四人組が、組織から支給された白人主義を象徴するこの球団のキャップとシャツに、鼻を鳴らす場面がある。「裁判の証人を消せ」と命じられた三人の少年と二十歳の男は、このお揃いの姿で青いミニバンを走らせ、二千マイル彼方のウィスコンシンを目指して殺人の旅に出る。 主人公のイーストとマイケル、さらに主人公の腹違いの弟で殺し屋の異名をとるタイ、コンピュータに詳しいウォルターの四人は、自らの勇気を試すため死体捜しの旅に出るキングの「スタンド・バイ・ミー」の少年たちを連想させる。三部からなる本作の第二部「バン」では、若く未熟なアウトサイダーたちがたどる苦難の行程がじっくりと描かれていく。 小説全体の半分以上を費やすこのクライム・ロード・ノベルの部分で、イーストら一行が次々想定外の事態に見舞わられる展開は、犯罪小説の血と暴力よりも、主人公らの恐怖の匂いが濃厚に立ち上る。殺人という行為への怯えや仲間との噛み合わない関係への苛立ちなど、イーストの心中には複雑な葛藤が渦巻いていく。 そんな混沌の中で関心が向かうのは、自らの生きる道を必死に見出そうとする主人公の姿でしょう。足取りは重いが、ボスの命令という重圧感に押し潰されながらも、少年は前進をやめない。やがて思いがけない展開が第三部で待ち受けるが、キングの小説とはまたひと味違う成長の物語の余韻を残しつつ、物語の幕は降りる。 巻末には「Go East」と題した諏訪部浩一氏の解説が付されているが、死ぬという意味でも使われるgo westとも呼応する主人公の名前からは、作者の意図が感じ取れる。破滅と紙一重の窮地を潜った彼が到達する場所は、果たして楽園なのか。そんな興味で読むと、主人公は罪を負いエデンの園を追放されたカインの物語とも重なり合い、聖書やスタインベックとの関連も気になってくる。 作者は、CWAの長編賞と新人賞を同時に射止めた本作を、大学で文学の教鞭をを取りながら執筆したという。読み終えるや否や、この物語には続きがある筈との思いに駆られたが、果たして作者は本作の人物が再登場する新作に取り組んでいるようだ。エデンの東でイーストを待ち受けるその後の運命が、気がかりでしょうがない。 |
No.2 | 7点 | 人並由真 | |
(2018/03/19 15:53登録) 私的にはかなりシンクロしました。 ややこしい旅路の果てに、汚れた渡世から抜き出せそうな平凡な幸福を一瞬だけ夢見かける主人公、しかしそれを血とドロにまみれた過去の自分が容赦しない…って、1960年代の日活青春アクションか、1930年代のワーナー映画か。 しかしこの作品は、そんな王道を衒いも無く語ったところに価値があると思います。自分みたいなおっさんの方が惹かれる一冊ではあろう。 |
No.1 | 3点 | HORNET | |
(2018/01/21 12:45登録) 2016年英国推理作家協会賞受賞作。 ヤクを売る組織で、売り場となる「家」の見張りを任されていたイーストだったが、ある日突然警察の手が及び、這う這うの体で逃げてきた。組織のボス・フィンは、そんなイーストに「一人の男を殺しに行ってきてほしい」と命ずる。フィンのもとで生きるほか選択肢のないイーストは命じられるままに、引き合わせられた3人のメンバーと共に2千マイル離れた地へ旅立つ。 正直、合わなかった。なぜこの作品が世に高評価を受けているのか、私には理解できない。主人公のイースト視点での、行く先行く先での出来事や風景、心象の描写が延々と続き、退屈で仕方がない。遠すぎる世界観での勿体をつけた展開に、ほとんど共感も感動もできないまま終わった。第三部の「オハイオ」の章が一番面白かった。 ハマる人には、何というか、「スタンド・バイ・ミー」のような説明のしにくい感動があるのだろうか。うーん。 |