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ミステリの祭典

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黙視論

作家 一肇
出版日2017年05月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2018/03/19 17:59登録)
 主人公ヒロインの繊細な内面に対しては読み手の興も乗るのだが、フェイクに終わったサブキャラがあとから薄っぺらく感じるのがちょっと辛い。
 あと事件(というか事態)の陰に隠された真実はとてもジーンとくるんだけれど、キーパーソンの登場のさせ方が少し後手すぎるんじゃないだろうか。まあそのさじ加減が難しいのはわかるんだけれど。

No.1 6点 メルカトル
(2018/02/03 22:06登録)
女子高生未尽はある時から、極力誰とも話さないようになった。どうしても必要な時以外はである。それにより黙視という、相手と頭の中でコミュニケーションを取ることを会得する。要するに妄想ではあるのだが、ある程度の確度を持っていると自身は思っている。
そんな彼女はある日花壇の傍で赤いバンパーが装着されたスマホを拾う。そのスマホには拾った人間に向かってメールが打たれていた。そして、スマホの持ち主に一ヶ月後に迫った学園祭に爆弾を仕掛けたと打ち明けられる。果たして未尽は惨劇を回避することができるのか。

未尽はスマホの持ち主【九童環】とある賭けをします。お互い相手を先に見つけた方が勝ち。未尽が勝てば爆発を未然に防ぐことができます。普通に考えれば警察に通報しそうなものですが、それをしないのが彼女らしさのようです。人と話すことを放棄したくらいの人間だからそんなこともあり得るか、というのはやはり説得力不足でしょう。
彼女は幾人かの【九童環】候補と接触しますが、結局決め手に欠け誰が本物なのか決定的な結論には至りません。そうして少しずつ彼女の中の何かが変わっていきます。成長というより、変容とした方がしっくりきます。なかなか掴みどころのない主人公なので、こちらもその辺りは推測するしかありません。ただ、情景が浮かんでくる描写力は確かなものがあると思います。どうもこの作者は親切なのか不親切なのか判然としません。色んな意味で読者に委ねている部分があり、何を意図して描かれた物語なのか全容を掴ませません。

ある意味サスペンスではあるのでしょうが、一方キャラクター小説の一面もあります。登場人物の個性は的確に描かれているわりに、どこか靄にでも包まれたようなもどかしさを感じます。そこが本作の良さでもあり弱点でもあると思われます。突き詰めれば感情移入できないという単純な理由なのかもしれませんが。

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