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ミステリの祭典

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斎藤警部さんの登録情報
平均点:6.69点 書評数:1304件

プロフィール| 書評

No.884 7点 ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女
スティーグ・ラーソン
(2019/05/23 11:41登録)
実績に裏切り無し、流石の娯楽大作。 荘厳なる物語を予感させひとしきり疾走し、絶妙に遅めのタイミングで急速に通俗の領海に舵を切る。カットバックの不規則な間合いが良い。サディストを惨酷無比なサド返しで仕上げるくだりは極上。小説のほぽ真ん中で二人の主人公が初めて相対するシーンはなかなか新鮮だが、そこで急にラノベ風に変身されても困る。すぐ普通の通俗味に戻ったけど。(そのへんだけ小説手触りがちょっとデコボコ)

いかにも本格ミステリ風な大小地図に巨大家系図、数十年前の密閉孤島で起きた大事故と失踪事件、大富豪一族の愛憎劇。。 だが巻末解説にある「第I部(本作)はオーソドックスな密室もののミステリー」というのは大嘘もいいとこで、本格偏愛度の高い人ほど「はァ~あ?」と眉を吊り上げずにいられないでしょう。 ただ、一点だけ際立って本格を感じたのが、、 これちょっとネタバレですけど、、、 或る重要な共犯像、もしやおアガサがインスパイア元の、超おぞましパロディック応用篇沙汰か。。。 ?!!?

物語の幕開けは、飛ぶ鳥を落とす勢いの新興実業家への名誉棄損罪で三か月の禁固刑を言い渡された、経済誌『ミレニアム』の記者兼共同経営者である主人公1のミカエル(♂)が、往年の大実業家老人(今でもかなりの勢力はある)から、その憎っくき新興実業家を撃墜できる致命的大ネタ及びかなりの大金を報酬に、そのむかし若くして行方不明になった(死んだとされている)大姪の死の真相(老人は彼女が死んだものと決めつけている、ようだ)をミカエルの見上げたジャーナリスト魂と技とで暴き出して欲しい、と申し出を受ける所から。

カットバックで並走するもう一つのストーリーは、とある探偵事務所にフリーの調査員として勤務する、心の病を抱えた超豪快天才ハッカーの主人公2,、リスベット(♀)が、大実業家老人がミカエルを前述の用件で雇うに先立っての身辺調査を引き受ける所から始まり、、、、

ミカエルがやたら現代ミステリをチェインリードしてるのがいい。セックスよりミステリのほうが頻度高げなのがいい。ニッポンの東野や連城も読んでいてくれたらなと思う。

寂しさと哀しみのラストシーン。 重要な脇役群(どころか主役級も)についての情報があまりに多く蓋をされたままの終結は、続篇の連発を予想させるに充分。 後続篇では前述の”仕上げられたサディスト”が鬼の復讐に乗り出すらしい。最高だ。   

作者は全体で10部だかなんだかを構想しておったらしいが第3部まで仕上げ、出版前に夭折してしまいました(現在第4部以降は他の作家達によって引き継がれている)。 「カラマーゾフの兄弟」の書かれなかった第二部への逆ノスタルジアに思いを巡らさせるったらありゃしねえです。

ところでエルヴィスの看板、誰かサルベージしてあげて。。


No.883 3点 スイート・ホーム殺人事件
クレイグ・ライス
(2019/05/20 13:40登録)
ママ(ミステリ作家)の子供の一人が口から出まかせでデッチ上げた架空の人物が実際に現れるという、まるでファンタジー小説もどきの不可能興味(合理解決される)はそれなりに惹かれるものがありますが、何しろ物語のムゥードがほんわか緩過ぎなもんだからスリルや刺激に繋がらないこと!! 物語3分の2をとうに過ぎて初めて、この様な内なる忖度まみれに見える特殊本格推理の中でいったい誰が最も電撃的かつブラックじゃない真犯人像になり得るのかと遅い考察を巡らしてもみたのですが、、話はいつしかドタバタ押し切りで終わっちゃってましたね。 所々いい挿話やいい流れもあるんだけど、個人的にミステリとしてもユーモア譚としても決して’面白い’の領域を脅かしもしません。平たく言や好みに合わないってだけですね。で犯人誰なんだっけw



【 一応ネタバレでしょう 】

これでもしママが真犯人だったら。。。ママが獄中で書いた懺悔手記という設定だったら。。 或いは、死に別れたはずの父親が実は××とか。。。 どの暗黒妄想も当然の様に、ガーター越えて隣レーンに飛んじゃうくらいの大外れでした。あぁ良かった。


No.882 6点 11人いる!
萩尾望都
(2019/05/16 07:02登録)
SFミステリ少女コミックの古典。 物語の設定とディテール(絵も!)は面白いんだが、ミステリとしては 【ここからちょっとネタバレ的】 真犯人が意外性的にまったくキラキラしてないのは致命的! だが第一に味わうべきはそこでなかろう、ミステリだと構えて読まないほうがよかろう、或るスペシャルな人物を中心に物語と絵のきらめきを愉しむのがいいですよ。そしたらこりゃオモロいよ。 

全宇宙の超エリート層を養成するその名も「宇宙大学」入学者選抜試験のラストステージは、外界との接触が一切遮断された宇宙船の中で10名の受験者が(地球風に言うと)2か月程度の期間を共同生活でつつがなく最後まで過ごせるかという課題。 ところが、試験が始まってみると船内にいるのは10名よりちょっとだけ多い11名。 1名ニセモノが紛れ込んでる。誰だ。。。。。。。。 という設定で進むお話。


No.881 8点 二冊の同じ本
アンソロジー(国内編集者)
(2019/04/24 23:40登録)
日本推理作家協会編。同理事長なりし松本清張氏が名実ともにシーンのリーダーらしい気合い溢れる「まえがき」を執筆。シリーズ名に「最新」とありますが、昭和四十年代の事。ミステリとしても小説としても高水準の一冊 by カッパ・ノベルス。

「二冊の同じ本」 松本清張   8点
ぎりぎり日常の謎、の体で何処まで引っ張るのか。。。と思えば! ラストの締め付けられるよな痛みはやはりこの人らしい。

「永臨侍郎橋」 陳舜臣 8点
最後の手紙に”行き違い”の趣向は好きだ。その手紙の中で明かされる更なる深いナニもまた良し。ストーリーの紆余曲折を随分と押し込んだもんだが、まず能く発酵したと言えよう。しかし、アリバイ材料に漢詩の朗読とはな!

「『わたくし』は犯人」 海渡英祐 8点
ん〜〜ん、ぉフレンチ! 現代日本の感覚では反転真相のエグ味にもう一刺し欲しい人も多かろうが、これはこれで雰囲気押し切り勝ちなんじゃあないですか。

「醜聞」 結城昌治 7点
ミステリ視点の意外性はかなぐり捨てたかの様だが、、心に残る冤罪サスペンス。

「青い蝶・赤い猫」 佐野洋 5点
初読時(かなり前)と変わらぬ”洋ちゃん、これちゃんと詰めてないだろ”感が芬々。ハイレベルな本選集の中でボコンと一段落ちる。もっとイイのを入れて欲しかったねえ、洋ちゃん。

「詩集を買う女」 多岐川恭 7点
またもおフレンチ。もう幾何かの残酷さがあったら連城の域。締めの台詞がいい。

「酒場の扉」 戸板康二 6点
手垢の付いたオチ、かと思うとショートショート流儀の駄目押しツイスト、で片付けてしまうにはちょっとばかし深い人間ドラマ。

「眠れる美女」 永井路子 8点
地味に展開し最後は派手に化ける歴史政治経済ミステリ。或る意味 ●●術殺人事件に通ずるトリックかも知れない。

「ロカビリアン殺人事件」 大谷羊太郎 8点
青木ってリトル・リチャード系シンガーだったんだ! いいぞ、パンチのきいたゴーゴーリズム! 社会考察的さり気ない伏線の決まり具合、お見事! (作者自身が属していた)芸能界ならではの動機推察機微、とそこからの推理派生には唸った! 処女非処女って、何をそこまでこだわるの。。と思ったら、そういうことだったのね。。。。青木の生活描写がも少しあれば、もっと好きだ。

「ガラスの棺」 渡辺淳一 10点
やっべーー、そうこなくちゃ! これぞ”イヤ奇妙な味”の完璧形! 医師をいい奴に描いてるのが神髄ではないですかね、この作者独特のフェミニンな味の。

「蝶の牙」 島田一男 8点
先生の曲者スペクトラム具合がよく現れてる。ひょっとして’ツソ〒”しう●●’が本作のインスパイア元か。。” 老いてなお”系のエロシーンはどうも好きになれんが。

「双頭の蛇」 黒岩重吾 8点
よく考えたら何の捻りもない哀しき阿呆共の顛末なんだが、その文筆の熱量にやられた。ミステリの意外性は更に希薄。それで構わん。ストイックに過ぎるラストは、主人公の零落する未来を暗示するものか。。

わざわざ<愛憎編>と銘打っただけあり、結末で明かされる意外にエグい心理要素にグッと来る作品多し。その手の昭和作品(四十年代モノ)がしっくり来る方にお薦めします。


No.880 7点 人喰い
笹沢左保
(2019/04/19 00:42登録)
つァ面白い、スカッと爽快! 物語を逆算するてと相当なイヤミス真相だってのがまた、たまらん。 殺傷事件が物語を襲うたび生存説が更新される第一容疑者は、姉妹二人で暮らしていた主人公の姉。 労働組合の幹部をやらされている彼女は社長(傲岸極まりなし)の息子(好青年)と恋仲。妹への遺書を残して消えた彼女は彼氏との心中現場(社長の息子は屍体で発見)から一人消えたと目された。姉の無実を証明するために彼女の死亡を確認する必要に迫られた主人公は、姉と同じ会社に勤める、以前からの恋人と共に真相を追及する。。。。 これ以降のストーリー展開は言わずにおきましょう。 いや、新社長は進歩的センスで社員からの信望厚いハンサム・ガイという事は言っておこう。

快速プロットに大中小トリックと穏当ロジックと、絶妙なミスディレクション、適度な社会派ドラマにやや複雑な恋愛劇に。。。盛り込みも凄いがバランスが最高に良くて読みやすいことこの上なし。サスペンスいっぱいの昭和三十五年本格力作。大型心理トリックには圧倒されたが、小型の心理的物理トリック(図解付き)も妙に心に残る。 しかし連れ込みの偽名に「徳川忠勝」 w

真犯動機と結末にあと一歩半のキツい深みがあったら8点行きましたね。惜しいとこ。



さてここから後はネタバレになりましょうが、読了してみると表題に取って付けたよな違和感が。ミスディレクション(旧社長、実は新社長も?の悪意を匂わせる)もあるのかな。それと、作者が意図してかせずしてか、昔の大映ドラマみたいな思わす噴き出すベタな痴話喧嘩シーン、時代ってコトかとうっかり気を抜いてたら、それがまさかの大伏線だったとはねえ。んで、ここまで言ったらたぶん完全ネタバレだけど、クリスティとアイリッシュの某代表作どうしをクロスさせたよな(タイムリミットが咬ませてあるのも含めて)作品構造ですかね。最後、敵同士でしかないと思われた女どうしの間に意外な友情萌芽が連発したのは、いい意味で参りました。


No.879 6点 奇想博物館
アンソロジー(国内編集者)
(2019/04/16 23:22登録)
有り体なら即バレの性別誤認を際どい工夫で正面突破した某作。 深みは穿ったが広がらない恨みの某作。 出だしからやさしく攻めまくり、いかにも怪しい作中作… 作者らしい、幸せで明る過ぎる反転と締めの具合は、、やっぱり納得させられてしまった某作。 ゆるいなぁ つまらんなぁ ん、ちょっといい話かも、それから? と思った途端に終わって、結果ちょっと面白かったな。、なんてホラーもどき(?)の某夏のお話。 しかし、某作の「前×作をぶっ飛ばして堂々登場」感は半端でなく頼もしかったなあ。。全体通してユルユルで手に汗握りようも無い作品が目立ちましたが、どれもそれなりに楽しめたのは間違いありません。

編纂は西上心太。他薦と自薦を組み合わせたちょっと複雑な手法で選ばれた近年作15篇とのこと。

伊坂幸太郎「小さな兵隊」 石持浅海「玩具店の英雄」 乾ルカ「漆黒」 大沢在昌「区立花園公園」 北村薫「黒い手帳」 今野敏「常習犯」 坂木司「国会図書館のボルト」 朱川湊人「遠い夏の記憶」 長岡弘樹「親子ごっこ」 深水黎一郎「シンリガクの実験」 誉田哲也「初仕事はゴムの味」 道尾秀介「暗がりの子供」 湊かなえ「長井優介へ」 宮部みゆき「野槌の墓」 森村誠一「ただ一人の幻影」

拙者の場合名前だけ馴染みある未読の作家がチョコチョコ含まれており、そういう人たちの作品に一気に触れてみたいなと思って手にしたわけです。編者あとがきにもありましたが、そういう需要に応えてくれる一冊です。


No.878 7点 インシテミル
米澤穂信
(2019/04/12 00:34登録)
平成を偲ぶ一冊。 普段は好きでないロジックのためのロジックめいたものも、こんだけ適所でカチャリカチャリとキメてくれると気分爽快この上ない。それだけじゃない物語全体を揺るがしそうな大きな深い謎もしっかり存在感キープし適時増殖。なかなかのユーモアがサスペンスと両立してくれたら、と前半は思いもしたが、むしろサスペンス味は消しといた方が本格に振り切った味わいに専念出来て良いのかも。めちゃ小粒な叙述トリックとか、中途半端な真相追及ロジックだとか、意外性やインパクトに縁の無い殺人トリックやらがチャカチャカ登場したけど、お話自体の大きさに包まれて満足でした。終結はちょっと、乱歩さんがわけわかんなくなってテキトーにチャーハン炒めてチャンチャンみたいだったけどさ、それすら味わったよ。

わたしは須和名さん好きです。最終コーナーの”計算”解決には萌えたなあ、麻雀みたいだった。滞っていたのは”お生◯”じゃなかったのか。。ベタベタのようで結構味わい深い黒幕側の構造を垣間見せて終わるのがいいね。結局いちばん共感した某登場人物の馴染みの古本屋って、もしや西荻窪の..


No.877 8点 予告された殺人の記録
ガブリエル・ガルシア=マルケス
(2019/04/04 06:23登録)
まさかそこで終わる! 凄まじく勇敢で凄烈な、いろんな意味で武士道を感じる、ラスト数ページ!

実際に起きた”●●のための”予告殺人の背景と顛末が ”わたし”の調査により 色彩豊かに解き解される様を描いた中篇。事実に基づいたセミ・ドキュメンタリーだが、(出版に反対する関係者の多くが鬼籍に入るのを待ったため)長い長い時を経ての大胆な事実再構築となった結果、むしろディープなミステリ興味の薫るフィクションとして完成されている、そんな感じです。

即興で唄った、結婚のあやまちの唄。。。

他の書評サイトを見ると、とある ”さりげない台詞” にゾッとした、なる意見多し。さもありなん。 しかし 終わってみると “あの男女” の数十年後のエピソードこそ、眩しく残る海底の宝石だな。

こんな呆気ない長さの小説ながらその昔中途リタイアした (読書じたいほとんどしない時期だった)のを、リトライ再読しました。


No.876 7点 とむらい機関車
大阪圭吉
(2019/03/27 06:38登録)
創元推理文庫の選集x2も今や古本プレミア付き。

とむらい機関車 8.3点
例の『動機』、明言せず暗示で締めるのが素晴らしい。しかもその暗示の手紙の立ち位置! 初読時((こっからネタバレになると思います))、その動機が”患部”切断のための実験かと妄想で思い込んだものです。実際そういうミスディレクションも少しばかりあったのか、無かったのか。 連城の某有名短篇とどちらを先に読んだのでしたか。

デパートの絞刑吏 6.6.点
鮮やかな物理トリックに薬味の心理トリック。導入の謎が地味だが解明ロジックの充実と結末の大胆な意外性は目を引く。しかしこの死に方はなかなか怖い。

カンカン虫殺人事件 7.3点
昔の港の殺人噺はいいなあ。推理小説より犯罪実話の体だが満足。勝新の「かんかん虫は唄う」とは雰囲気違う。私にとってこのストーリーは絶景。どうにも忘れ難き一篇。

白鯨号の殺人事件 7.0点
ひどく散文的な物理解決に導き出されたのは、冒険への郷愁を誘う大型真相と、残酷な詩情溢れるドラマチックなエンディング。ホームズを地道に仕立て直した様な構造の物語だが、この意外な大ラストシーンの訴求は忘れ難い。巻末解説を読んだ限りでは改稿「死の快走船」のほうが充実してそうだけど(ラストシーンの伏線となる絶妙な台詞追加とか)、本作の素っ気ない魅力もまあ悪かねえ。

気狂い機関車 5.3点
物理物理し過ぎる小型物理トリックで引き摺るショッぱさも、ビジュアルが映えるドラマ性強いカタストロフのお陰で和らいだか? 鐵道に纏わる風物は悪くないやね。あとまァ、なんツか唐突ながら意外な犯人てやツスか。

石塀幽霊 5.1点
小味ながら鮮やか、不思議興味を唆る光学系物理トリック(ピタゴラスイッチで紹介されそう)。 これはこれでドラマなど不要。しかしこのトリック核心、派手に応用出来たら相当に。。。。

あやつり裁判 6.4点
面白いかもな、その遊び。だがその犯罪行為まで手を伸ばすのは最悪よ、純粋に楽しみゃいいものを。結末は見え透いとるが展開の奇妙なサスペンスが良い。んで題名と店の名前はちょっとね。。

雪解 8.3点
こりゃあいいぜ。どうにも光り過ぎの某人物のナニが最後にこう活きるわけか。。考えオチってやつですよね。 本格だけでなく戦時系でもなく人間派サスペンスのこういうブツも大坂なおみ選手はキメられるんだなあ〜! 間違えた、圭吉っつぁんか、大阪か。

坑鬼 8.7点
ホヮイダニットの鬼(色んな意味で)。社会派で本格。導入の瞬間から文言濃いこと(途中すぐ普通になったが)、展開敏捷なこと! しかし犯人、よくもその限られた時間で。。。!! 初出がかの『改造』誌ってのが凄味を放ちますよね。 ラストシーンの恐怖は胸に沁み入る。。。。後から”より”じわじわ来る一篇です。

小説群のあとは短い随筆がいっぱい。東野「名探偵の掟」にも直結する推理小説愛・本格ミステリ愛が真摯に軽快にスプラッシュしまくりです。 「我もし自殺者なりせば」はエッセーなのにまるでブラッドベリの掌編。読んですぐ、これに影響されたであろう不気味に美しい空中風景の夢見ちゃいました。 「探偵小説突撃隊」の自由平等両立宣言も愛おしい。 言及される方の多い「お玉杓子の話」はアツいですねぇ~~ (9.0点)。 「幻影城の門番」も、今の自分よりずっと若輩の、しかしずっと大人であったであろう作者の筆と思うとなんともくすぐったい味がある。 随筆部分のみ、まとめて8.3点あげちゃいます。


No.875 8点 名探偵の掟
東野圭吾
(2019/03/23 08:34登録)
『電気グルーヴのメロン牧場』並みに、電車で読むと危険な本(ブッと噴き出しちゃうから)。メタパロディの領域掠める大パロディ大会の体だが、一作ごとそれなりにちゃんとした推理小説的ヒネリの落とし前を付けているのが素晴らしい!チェンジオヴペースの置き所も絶妙。王道を踏む事にこだわる著者ならではの新変化球アイデア素描(本作に登場するトリックそのものではない)の様相もあり興味津々(このへん文庫解説の方が詳説)。一作、一部で知られる某ディープ論理パズルを彷彿とさせる大笑い結末のブツがあり、その結末を剛腕センタリングでアシストするパロディ大車輪の噴出部分も含めて流石は俺の東野、魂は理系ミステリの鬼だぜと、膝を叩いたものでした。一番気を持たせるタイトルの某作、アンフェアの中にも、読み返せば、しっかりフェアであることの伏線(言い訳?)が張ってあるのにはシビレます。著者代表作の一つに数えられてしかるべきでしょう。氏の最高傑作と称する人がいても不思議ではありません(私は違うけど)。本当に、よくぞ書いてくれました、こういうの。珍妙な登場人物名でいちばんヤバかったのはアリバイ工作に勤しむ「蟻場耕作(ありば・こうさく)」かな。こりゃ噴き出しましたよ。


No.874 7点 髑髏城
ジョン・ディクスン・カー
(2019/03/20 01:59登録)
名犯人、名探偵、名真相、名解決。。の全てが●●●!! トリックがどうとかの話じゃないとは思うけど、空さんもご指摘の、あの指紋の手掛かりの機微にはしびれましたわ。バンコランにさっぱス魅力を感ズないオイラだが、あのなんとか男爵は好きだ。HM卿の代わりと見做してしまいそうだった。爽やかなエンディングも良し。老眼でイソベル・ドオネイがイッペイ・シノヅカに見えちまった。

ところでクリスティ再読さんと同じく私も本作、世界大ロマン全集の旧訳(抄訳らしですな)で読みました、とは言え往時リアルタイムではなく近所の古本屋で見つけたカバー無し百円本ですが。巻末目録キャッチコピー最後の太字『家中で一生楽しめる大ロマン全集』にはクスッと笑いながらも時代の電気を感じてシビれます。

大ロマン全集に併録の「目に見えぬ短剣」「もう一人の絞刑吏」も折角なので久しぶりに再読してみました。やはり「絞刑吏」の締め方(絞首刑だけに)は味わい深い。(初読時知らなかった)浜尾四郎の短篇を彷彿とさせる。真相の尻すぼみ感が痛い「短剣」さえ怪奇ロマンの雰囲気で充実。流石です。


No.873 8点 プラチナデータ
東野圭吾
(2019/03/19 00:43登録)
「……、 煙草とか数学とか」

この物語には二人のヒロインがいる。 いや、片方はヒロインになり損ねた。国民(最終的には地球人?)全てのDNAを一元管理して犯罪捜査と犯罪抑制に役立て、薔薇色の未来を築き上げる一助にせんとする巨大計画がある。だがそこでは”プラチナデータ”なる極秘のナニモノかに関する最後の仕上げが肝腎らしい。。。。そこへ来て、巨大計画の技術側キーパースンが、長期入院中の精神科病棟内で殺害されるという重大事件が勃発。 一方でずっと下世話な背景が覗える殺人事件も連発しており。。 主人公は二人(?)。それぞれの周辺人物を含めてぶつかり合うこと組み合うこと、実に玩味に堪える。

登場人物名に何気な鮎川哲也オマージュ?(地名繋げ)を感じるのが嬉しい。個人特定と多重人格、幻影に叙述欺瞞の疑い、、と機敏に平然と畳み掛けて来るのが熱い。物語要素としてシンプルな提示やら対比やら、さり気ない取捨選択やら端の見えないレベル違いか何んかやらがタイミング良く重なり合いテンポよく立体的変貌を続けてくれる。じっくり攻めるなあ、余裕あるなあ。我が妄想よ、突き抜けておしまいな。。

3分の2ほど行ったとこで、 オー、仮にアガサならこいつで決め打ちアーハー? ってなシビれるプレシャス容疑者(その地点までは露ほども疑わなかった)と面会させれたんだけどね、いつしかウォッチリストから消えてそれが誰だったかもわからんくなりましたよ。 某シーン、誰それ?!?! 。。。 と思わせるタイミング無双、と思えば既にもう、そこに加速のしたり顔。浅草橋。。単に幻覚と言うには見え見えの線で引っ張り過ぎだなと思ったら、、そういう事か。。。。 ってまだそこでも終わるわけないんだよな、、やられた ーーー

そこで “ちらりと見た” だと!! しかもだな、その直後の地の文に息づく、妙に幸せめいた余韻。。。 え、何その、唐突な人称の、、迷い?! 惑わせ?!? 読者妄想を前提とする卓袱台ブーメラン丸返しをサリッと刻む一瞬の閃光を、無風地帯の俺は見せてもらった、そんな数行もあった。 

ラストシークエンス、いくらなんでもホンヮヵし過ぎでね? と思いましたが最後の一文できっちり落とし前、泣かせてくれました。”米国側”意図の重さが全く無視されて終わったのはおかしいけれど、まあエエ、社会派ミステリじゃないんだし。何故某人物が犯人に?! という一つのメインテーマが有耶無耶の濁流に押しやられたのもヘンだが、まあエエ、社会派サスペンスじゃないし。ただね、あの奇蹟のミスタッチ解決シーンだけはちょっと都合良過ぎでリアリティを部分撃墜。にしても妙にブライト過ぎる終わり方がまさかの東野流ブラックジョークだったりしてな。文系に優しい理系ミステリ、最高だな。

”モーグル”の命名由来が堂々明言されないのはちょっと残念。 先読みし易く興醒めとの評が多いのは納得。でもわたしは本作が放つ独特のワクワクヒューヒューにどっぷり浸りたいのです。


No.872 7点 不安な童話
恩田陸
(2019/03/08 18:12登録)
特殊設定と思われた要素の大半が最後にはドタつきながらもギリ合理解明される過去掘削サスペンス。。と思っていたら!! 悲劇の物陰から現れる大きなピースがごとりと嵌まって、無理筋押しの固さが解きほぐされる、ほんの数頁。 筆致が明る過ぎると読中感じていたけれど、それも巧妙なバランス取りの一翼だった。 “あの人”がこんなチョイ役で終わるわけないよな。。とさり気なく光らせておいての二重落としにやられる。


No.871 7点 そして医師も死す
D・M・ディヴァイン
(2019/03/05 06:40登録)
文学的というより(エンタメ忖度を排除した)純文学風ラストシーンにシビレます。その凍るようでそのじつ氷を溶かさんとする意外性は充分ミステリ感覚だと思いますが、作品本来の本格ミステリ要素はこのラストの衝撃に小差で負けているかな。 踏み込んだ人物描写、心理描写がミステリ軸ではやや皮相なミスディレクション以外にあまり活きていないのも残念。しかし連続殺人&未遂事件の全体構造を見誤らせる手法はなかなか。特に、これネタバレになるかも知れませんが「殺人未遂事件」の存在が最高にヒネリ有る目くらましであり、同時に実は一つの●●●●ッ●●(読者は気づきにくい)でもあるんですよね。。大胆伏線というより大ヒントがそこかしこに実は散らかしてあったのも、顧みればなかなか凄い。貶してんだか褒めてんだかよく分からなくなって来ました。

完全ネタバレを書くと、主人公に対して最初に「アレ、事故じゃなくて殺しだったんじゃね?」と持ち掛けて来た人がず~っと嫌疑の対象外だったのが終盤突如。。。。実はまさかコイツこそ、と一定量の疑いを心のどこかにキープさせるからこその真相目くらまし、が本作のミソなんですかね。企画性は感じるけど、ちょっとこじんまり。でもじゅうぶん+αの合格点。 貶してんだか褒めてんだかよく分からなくなって来ました。

読んでる最中は面白いのに、読了直後は(純ミステリ要素は)地味な印象、でも後からじわじわ来ますね。大昔エルヴィス・コステロのファンになりかけの頃もそんな感じだった、かも。


No.870 8点 この闇と光
服部まゆみ
(2019/03/01 12:36登録)



「初めて笑ったわ!」

最高の結末! これほどまでに裏切らない、覚悟の決まったエンディングに巡り逢えたセレンディピティを呪わないでください神よ。

構成と内容に気を配ったであろう、皆川博子氏による、解説ならぬようでなっている文庫巻末。 “主人公”なる際どいワードを光らせて紡ぎ出すのは若死にした作者が如何に”真の贅沢”を、その愛した美しきものたちと共に味わい得ていたかの披歴と追想。

“ほんとうに愚かなのはどちらだろう?” なんて、ありきたりの惰性とは逆のベクトルで、そのタイミングで言われると、しみるねえ。

以上の私の文章で何も察さずにいてくれたら幸いです。
とても読みやすい小説でした。





No.869 5点 ママは何でも知っている
ジェームズ・ヤッフェ
(2019/02/26 21:52登録)
伏線(というかヒント)露骨、さあ拾ってみよう! これが噂の、ブロンクスDD(ディナーテーブル・ディテクティヴ)。ママが三、四の質問に入る所、読者への挑戦ですね。近く遠くの親戚エピソードを引き合いに隠れた心理要素を表に引きずり出すくだりは、物語として引き込まれるルーティーンだ。

ママは何でも知っている 
ママは賭ける
この二つはイマイチ。探偵サイドだけ妙に心温まる安直推理クイズ×2。

ママの春
勘づき易いとは言え奥行きある真相、なかなかの人情ファクター、そしてもう一つのストーリー。。これはいい。

ママが泣いた
俺も泣けるかと思ったら。。。情より智でグッと来た。でもそれだけじゃ詰まらんわな。「ときどき思うんだけど、この世で美しいのは子どもだけじゃないかって」こんな、配置の機微によっては20分以上も泣けそうな台詞を配しといてからに。。だがその涙目は判る。問題はそれがミステリの痛みと聯関してくれない歯痒さ。仮にミステリじゃないとしても、これじゃ切なさってやつが摩耗され過ぎじゃんか。連城だったらどう締めたろう。

ママは祈る
隠された人間ドラマがまあまあそれなりだけに、思慮と工夫に欠け過ぎの殺人背景と、風がどうしたの、唐突なだけに見え見え過ぎる手掛かりが ~αンだかなあ。

ママ、アリアを唱う
いくらなんでも真相バレバレ過ぎだし殺人背景が浅過ぎ。だが雰囲気はとても良い。

ママと呪いのミンク・コート
ビハインド人情ストーリーはなかなか良いが、犯罪真相がなんとも皮相。。てか罪犯すサイドのビハインドストーリーが浅過ぎてバランス悪い。逆社会派? なんかこういうパターン多いなあ。同じような感想ばかり書いてますよ私。

ママは憶えている
最後のこれだけちょっと長めだが、バランス崩さず薄まらず上手く纏めてる。過去のママのプライベート領域でも重大な殺人事件と、現在の無関係な殺人事件を人情豊かに並べてみせ解決。聞き違いネタはあまりにミエミエ。。。と思わせてちょっとした反転(ワザとやったな)。

どの作も似たコメントばかり出て来るので全体一括りにしようかとも思いましたが、この本の持つ、緩いんだけど許せちゃう温かさに免じそのままにしました。 読後しばらくして良さがじわじわ分かって来ます。


No.868 5点 聖アウスラ修道院の惨劇
二階堂黎人
(2019/02/23 10:38登録)
中盤、微妙な時間差モザイク進行が快い。終盤近くから急遽プチ社会派っぽくなるんだがそれは形だけ、雰囲気と中身は剛毅なる新本格で貫徹。この方向性が好きな人には相当ガツンと来る作品でありましょう。

ロックの年1969(昭和44)が舞台というだけでそれなりにセクシーな気分になりよるかと思ったらそんな事はなかった。本作の事件推移と世界ロックシーンの対照年表を誰か作っていないかな。新刊「鍵孔のない扉」が語り手の列車の旅のお伴に登場したのは萌えた。

「それでは、平面的に見て独立した浮島のような場所の通路は通れない」 嗚呼、この台詞の放って止まない隠喩! その直後の相槌が「そうなのか」と来る!

作者さん仰る ロジック<トリック<プロット ってのは私も同じだが、比率的に 7<8<9 くらいがいいな。やっぱロジックの逞しい裏打ちとトリックの強い幻惑が欲しい。 本作は 3<4<9 くらいかな? ロジックさんは最早ともかく、トリックさんがなかなか魅了してくれませんでした、残念。 でもプロット君の発信力と展開力でずいずい読ませるお話です。結果、堂々の合格点(5.4相当)。

「友情は再生するもの」 やて。 よう知っとったな、その通りや。

冒険らしきシーンでさっぱりハラハラドキドキ出来ないのはまあ仕方無いとして、これだけこってりした探偵小説&本格推理ギミックに同時彩色された物語でありながら、最後あれだけの大舞台に載せられた謎解きと大真相が、何故もっと用意周到な盤石の演出で花吹雪の中堂々披露されなかったのかと恨みが残ります。これも突き詰めれば前述のトリックの弱さ、これに依るものでしょうか。
  
換字式の方の暗号、最初から破りに行く気はサラサラ無かったけど、後知恵で「もし本気で当たれば、あ、そこの部分、ピンと来てたじゃん!」と思わせる、読者の気持ちに入り込んで来る良い暗号だった。 グロ描写に静かなるリアリティがあってちょっと気持ち悪くなるのもなかなかだ。 しかし吸血鬼のヨタ話にコロッと騙される警部さんって。。いったいどんな催眠術使ったんだい?


No.867 6点 ひらいたトランプ
アガサ・クリスティー
(2019/02/20 23:12登録)
おお序文! 笑  乱歩さんの「心理試験」と非なるが似てるとこもある心理の探偵。動機の二重天蓋って構造か。。。。 筆に何の工夫も無ければ、第二の殺人の犯人、「君、そこで××したでしょ?」って秒速で勘付かれるところ、流石のアガサらしい有機的目くらましでなし崩しのクライマックスへ。 でも、単純幾何学模様の如く(ブリッジという舞台装置の力も借り)かっちりはまった物語構造がややかっちりし過ぎてパズル性プチ過多か。それでいて特に終盤あらわにされる人情/非人情模様とのくすぐったいアンバランスが惜しまれる。アガサの得意な企画勝負が小さくまとまり過ぎて圧倒まで至らなかったかな。いちばん意外だったのは、いつしかヒロインが換わってしまったこと、かも? ローダ役は水原希子で決まり!


No.866 7点 寝台急行「銀河」殺人事件
西村京太郎
(2019/02/19 00:20登録)
常習の交通費チョロマカシで使った寝台急行にて、乗っている筈のない不倫相手の絞殺事件に遭遇した井崎は十津川の旧友。多方面に気まずい第一容疑者となった井崎が釈放されたのは「自分こそ犯人だ」と名乗る警察宛ての郵便が根拠。そこには真犯人しか知りえない情報と、持ちえない物的証拠があった。会社から冷や飯を喰わされ妻には見捨てられ欝々とする井崎の無実を信じ捜査と推理を続ける十津川の奮闘、を後目に目撃者や関係者が次々と殺害され、最後には。。

悪癖アンチクライマクスは今回ありません(その代わり結末に仄かな唐突感が、ま許せる範囲)。 何より本作の真犯隠匿技は、何気にちょっとクリスティ、ああ見えてモンキー。まさか犯人が××以外の人物とは。。そして最後のコロシの犯人も。。てっきり今度こそそいつだと思ったら。。まさか真犯ではあり得ないであろう容疑者(井崎)が何処までも更に怪しい 状況証拠やら上級解釈やらに苛まれ続けるこの、まるで臍の緒で繋がれたかの様な無間緊迫よ! なかなかに込み入った本格推理でありますな!! アリバイ工作は、詰めの一手(本作の場合そこはちっとも重要じゃない)のほんのオマケとして付いてます。 私立探偵の名前が藤沼。アナーキーの人を思い浮かべてしまいました。 それと、あるシーンで眠ってしまったあのお二人に、萌えました。 幕引きの手練れ感、半端ありません。

なお本作、測量ボーイさんが書評しておられる津村秀介「寝台急行銀河の殺意」とは別物です(作者が違うんだから当たり前ですが)。お間違えなきよう。


No.865 7点 郵便配達は二度ベルを鳴らす
ジェームス・ケイン
(2019/02/17 13:20登録)
この話は手が速いぜ兄弟。訳の古さもぶっ飛ぶ原文力にやられたよ。とにかくこりゃいいぜ間違いねえ! 性欲と食欲は飼いならせ、排便と睡眠のやつにはうまいこと従え、ってな。 訳が古いお蔭でズベ公だの旅がらすだの与太っぱちだの、イカした不良死語のオン・パレードにゃあサスガのオイラもタッチの差でシャッポを脱いだぜ?

そうそう、あのこだまのシーンはグッと来たね。即物描写でスリルを加速させるにゃ最高の自然舞台装置じゃねえか。 巧まざる死の際もどきでの名推理もなかなかだった。

そういや、リンダ&ボール・マッカートニーのバックスィートオヴマイカーを唄いたくなる、いいシーンがあったな。

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