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ミステリの祭典

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その灯を消すな
南郷弁護士シリーズ

作家 島田一男
出版日1957年01月
平均点6.50点
書評数4人

No.4 5点 人並由真
(2021/09/28 14:59登録)
(ネタバレなし)
「わたし」こと37歳の刑事弁護士の南郷次郎は、鬼怒川の「蚊太(かぶと)の里」から、旧友の那須正彦の訃報を受け取る。蚊太の里はもともと平家の落ち武者の隠れ里であり、10年前に南郷と那須は現地に赴き、土地の旧家・小松家の美人三姉妹、濯子(すぎこ)、浪子、都と親しくなった経緯があった。その長女の濯子が那須とそのまま結ばれて、那須夫婦は現地で事業を営んでいた。南郷は早速、当地に向かうが、そんな彼を待っていたのは、予想もしない連続殺人事件であった。

 先行作の『上を見るな』に比べて連続殺人ミステリ、フーダニットとしての練度は格段に上がったが、一方でその分破天荒さが薄れて、全体に地味になってしまった感じ。
 南郷と旧知の三姉妹を軸にして広がっていく人間関係の綾や、細密なアリバイの検証、土地の食わせ物の捜査官、石橋刑事(南郷はイヤミというか半ばからかって、名前を忘れたふりをして「土橋」と呼び続ける)などの要素で、小説、ミステリとしての楽しみどころはそれなりにあるのだが、どうも今ひとつ、マジメすぎて心に響かない印象だ。
 ちなみに題名の「その灯」とは、序盤の事件の被害者の周辺で不自然に? 照明やライトが消えていたことに由来。さらに南郷がたまたまラジオで聞いた古典落語「死神」の、生命の炎を灯した蝋燭のイメージにも連なっていく。

 最後に明かされる真犯人の動機はこの作品のキモで、もしかしたら当時としてはかなりのサプライズであったかも知れない。ただし21世紀の現在の視点では、ある意味で新本格的な発想に寄ってきたような感覚もあり、逆にそっちの尺度で受け取るとインパクトが弱いように思えた。むずかしいところだ。

 残念ながら個人的には、あまりシンクロできなかった感じ。もしかしたら違うT・P・Oで読んでいたら、もうちょっと面白く読めたかもしれない。

 あ、斎藤警部さんが引用している箇所は、評者もインパクト絶大でした(笑)。
 金丸京子女史、いいねえ。

No.3 6点 斎藤警部
(2020/01/30 12:00登録)
「南郷さん、魚が仲よくするときは、どんな風に挨拶するんでしょう?」 
「よし、わかった。おしっこをして寝たまえ。」

流石に、口のきき方の分かった島田一男だ。佳き旅情もたっぷりだ。 シネラマ見物、「爽快ですわよ!」 金丸京子役にゃア芳根京子がぴったりだ。 光文社文庫巻末解説の大内茂男、いいねえ。

“ホヤのくすぶった石油ランプが、そんな状況を、薄暗く照らしていた。”

南郷弁護士昔なじみの平家村で展開する連続殺人事件。題名に込められた意味をくどくど説きゃしないアッケ無さもシマイチらしいコイネスぶりだが。。。さてこっからネタバレ風な言いぐさになりますが、意外性とは共存出来ない類の大動機で締めるのかと、思いきや!! しかしその大落ち、質量併せてもうチョィたっぷり味わせてくれたらなア。。反転後が短過ぎるやなア。。と恨みにも思います。

ところで、光文社文庫表紙の女性はLiLiCoさんでしょうか?

No.2 10点 フランコ
(2018/01/10 16:05登録)
島田一男で出来が特に良いのが、『上を見るな』『去来氏曰く』そしてこの『その灯を消すな』の南郷弁護士物の中の本格物。簡潔にして読みやすく、魅力的な謎の提示、展開の面白さ、解決の鮮やかさ等、バランスが良い。いずれも書き下ろし物で、良く書けている。

No.1 5点 nukkam
(2015/12/04 12:00登録)
(ネタバレなしです) 1957年発表の南郷弁護士シリーズ第2作の本格派推理小説です。シリーズ前作の「上を見るな」(1955年)でも地方の旧家を中心した事件を扱っていましたが、本書でも山奥の平家村を舞台にして古風な雰囲気を出しています。同時代の横溝正史と比べると人物描写がドライですがそれでも現代社会とはまるで異質のどろどろした世界です。被害者が死んだ時には灯が消えた状態だったという設定は面白そうですが、よく考えると灯が消えていれば必ず事件が起きるわけではありません(寝る時に普通に灯を消しているはず)。意外と人物関係が複雑でアリバイを細かく検証したりしているのでじっくり読むことを勧めます。謎解きはご都合主義的な部分が多くてあまり感心しませんでしたが、物語の結末は重苦しい余韻を残します。

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