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ミステリの祭典

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あなたは誰?
ベイジル・ウィリングシリーズ

作家 ヘレン・マクロイ
出版日2015年09月
平均点6.11点
書評数9人

No.9 6点 レッドキング
(2023/10/06 22:09登録)
ヘレン・マクロイ第四作。二重人格に色覚異常・・今ではベタ過ぎるネタが中央に居座わり、当時(真珠湾攻撃の頃なんだよな)は斬新なネタだったのかな。イケメン上院議員と裏で操る妻(クリントン&ヒラリーみたい(..))、ニューヨークのクラブ歌手女(「今晩会える?」「んな先の事分からない」に出てきそ)、女流通俗ロマンス作家とその息子の青年医師、議員の姪にして医師の幼馴染娘、甘党食い意地男、空想上の女と会話する少年・・登場人物タイトに絞って、相当高いぞ、りいだびりてぃ。ミステリで「別人格」出しちゃうと、双子ネタなみにズッコケる事多いが、そこはシンプルかつ巧みに物語が編まれてて点数オマケ。色盲ネタの伏線&ロジックが鮮やかにプレゼンされてたら、7点付けても良かった。

No.8 5点 ボナンザ
(2020/03/29 14:24登録)
フーダニットにマクロイお得意の異常心理を絡めた一品。真相はやや拍子抜けだが、そこまでは良作。

No.7 6点 斎藤警部
(2020/02/18 18:10登録)
“こんな面白い人が殺されるはずがない”

騙し絵だよねえ。謎の脅迫電話に始まる心理学応用サスペンス。某ネタの嚆矢と言われる作だそうですな。その上でフーダニットともう一つフーズ■■■■の趣向が見事に共存共栄。或る主要人物についてのアレがアンフェアでないの? とも思ったけど、流石のプロット構築力に丸め込まれちゃいましたねえ。。 甘いばかりじゃないようでやっぱり甘~いエンドも良し(めちゃ印象に残るわけじゃないが)。 あと、原題より邦題の方が格段に味わい深いですよね、その理由はここでは詳しく言えないわけですが。。原題いっそ”Who’s Calling ?”より”Who Are You ?”が良かったんでないかと。 安易な考えかも知らんが。


【伏字ネタバレ】

●ー●ーが実はすんげ悪い奴だったら面白かったのに。またはいい奴だけど犯人とか。

No.6 6点 弾十六
(2020/01/13 06:37登録)
1942年出版。ウィリング第4作。例によってDellのMapbackがあります。翻訳は情景描写の癖がちょっと気になる感じですが、まあ好みの問題?私は駒月ファンです。
冒頭から不気味な電話… 素晴らしい!でも解決篇はコレジャナイ… マクロイさんのラストには、いつもこんな感じが付きまとうのですが、ようやく正体がわかりました。マクロイさんは、登場人物それぞれの内省たっぷりな記述スタイルで、それが臨場感を生み出してるのですが、真相とそれまでの内省が一致しないのです。一種の叙述トリック。読み返してみると、ギリギリ違反ではなく、上手くすり抜けてて感心しますが、でも当然の内省がワザとはぶかれてる感じ。なので、真相でいきなり裏設定を明かされても、ナンカ違うんじゃない?という落差を感じてしまうのでしょう。
ところで心ならずも三流小説で稼ぐ女流作家が登場するんだけど、マクロイさん自身のこと?…ではないと思いたいなあ。
以下トリビア。
献辞は「R・C・Mに」調べつかず。
作中時間は、冒頭から「十月三日金曜日」で1941年が該当。登場するヒトラーねたが他人事のようなのは米国参戦前だからなんですね。
現在価値は、米国消費者物価指数基準1941/2020で17.50倍、1ドル=1909円で換算。
p11 ニューオリンズのパテの高騰(the high price of putty in New Orleans): 具体的な何かがあったのかな?と思ったけど調べつかず。
p13 長距離電話(long-distance call): 交換手を通さない長距離電話が可能となったのは1951年以降、とのこと。(wiki: Long-distance calling)
p19 二十五ドル: 第一次大戦直後の25ドルなので、米国消費者物価指数基準1918/2020(17.03倍)で計算すると46450円。1000語の風刺短篇の原稿料(1語2.5セント) 。もしかしてマクロイさんの初原稿料なのか?
p19 年数千ドル(several thousands a year): 2000なら382万、3000なら573万円。
p24 ター・ベビー(Tar Baby): Joel Chandler Harris(1848-1908)のUncle Remusシリーズ(1881-1907)に出てくる、ウサギどん捕獲目的で作られた、もの言わぬタール人形。真っ黒な犬なんでしょうね。まとわりつく感じからの連想か?
p25 クロード・ロランの風景画: Claude Lorrain(c.1600-1682)、フランスの画家。
p27 フルバック: ランニングバック(RB)の道を開けるブロッカー。頑強で足の速い男。昔は(大学では今でも)ボールを持つプレーが多かったらしいので、そちらのイメージか。
p57 足の速いブガッティ: 当時ならBugatti Type 57(1934-1940)か。
p57 白ネクタイ… 黒ネクタイ: ドレスコードはよく知らないのですが、Wiki “Formal wear”を参照するとwhite tie (dress coat) after 6 p.m.かevening black tie (dinner suit/tuxedo)のどちらか、ということ? 後段(p103)で、燕尾服を持ってない若者たちも来るから黒タイにした、とか「ワシントンなら、たしなみのある男が女性も参加する夕食会に黒ネクタイで来るなんて考えられない」という発言あり。
p68 月光ソナタ: Moonlight Sonata(1801)、Beethoven作曲、Piano Sonata No. 14 in C♯ minor "Quasi una fantasia", Op. 27, No. 2
p73 メレディス: George Meredith(1828-1909) 英国作家。コナン・ドイルの時代にやたら尊敬されてた作家、との印象あり。
p82 家に鍵をかける者はいない: 田舎はそーゆー感じですよね。なので「密室殺人」は都市化でお互いが信用できない時代の産物だと思うのです。
p84 人前でラブシーンを演じるような婚約カップル: 米国でも当時は珍しかったのか。
p91 チョコレート: 飲用のチョコレートのレシピあり。ポアロが飲んでたのも、こーゆーのか。
p122 ベルグソンの生命論: élan vitalですね。p243にも『笑い』(1900)が出てきます。Henri-Louis Bergson(1859-1941)はフランスの哲学者。
p131 “花形”の古い定義: 落語に出てくる長唄のお師匠さんを思い出しました。
p151 A&Pのスーパーマーケットもありません。郵便局と教会が一つずつあるだけ: 田舎の風景。The Great Atlantic & Pacific Tea Companyは1940年代がピーク。全米10%のgroceryシェアがあった。
p153 年額2万5000ドル: 4773万円。
p161 短銃身のリボルバー… ルガー: ボディーガードがヨーロッパ(イタリア?)から持ち込んだもの。Lugerピストル(正式名称Pistole Parabellum P08)はリボルバーではなくオートマチックだが…。通常は3.9インチ銃身だが短銃身版も作成されている。
p192 アーティマス・ウォード: 米国のユーモア作家Charles Farrar Browne(1834-1867)の変名。米国初のスタンダップ・コメディアンと目されているらしい。作中の引用はArtemus Ward His Book (1862)の中のOne of Mr. Ward’s Business Lettersより。
p194 金枝篇: James George Frazer(1854-1941)著、The Golden Bough(初版1890) ベルグソン同様1941年死去。死亡記事で思い出してる?
p211 しゃべる男と聞く女は馬が合う(カタカナから復元すればVille qui parle et femme qui ecoute se rendreか?): 検索するとVille qui parlemente est à demi renduë. Façon de parler proverbiale, pour dire qu' une fille ou une femme qui écoute des propositions n'est pas éloignée de les accepter & de se rendre.が見つかりました。(「砦が交渉を始めたら降伏も同然」女性が話を聴いてるってことは断る姿勢ではない、という諺。)
p220 幹線道路では時速30マイル: 48km。速度制限。
p220 フランスの75ミリ砲より大きな野砲: 75ミリ砲(Canon de 75 modèle 1897)はフランス軍が開発した大砲の革命。世界で初めて液気圧式駐退復座機を搭載し、飛躍的に連射速度が向上した。当時の米国でそれより大きな野砲なら90–mm Gun M1(1940)か。
p235 スティルマンの訴訟事件: James A. Stillman(1873-1944)、president(1919-1921) of National City Bank of New York。
p235 ホール=ミルズ殺人事件: Hall–Mills murder case。1922年9月14日にSomerset, New JerseyでEleanor Reinhardt Mills(34)とRev. Edward Wheeler Hall(41)が32口径のピストルで射殺された事件。
p239 ひげそりも歯ブラシも電動式: ちゃんと動くelectric razorはドイツ人Johann Brueckerの発明(1915)、米人Jacob Schickは最初のelectric razorパテントを1930に取得、Remington Randはelectric razorを1937に製造した。Philips(Alexandre Horowitz)の回転式刃の米国上陸はWWII後らしい。電動歯ブラシの方は1954年の発明らしいが…(Broxodent, Switzerland)
p250 六千ドル: 1145万円。
p263 道化者は真の世界市民: 有名な文句?
p314 一着20ドルもした下着: 38180円。女性の高級下着。

No.5 5点 メルカトル
(2018/02/15 22:26登録)
マクロイ初期の傑作だそうです。しかし、面白さを最優先にしている私にとってはいささか物足りないものでした。無論、私の審美眼に問題があるのは十分承知の上です。
全般的に地味ですし、本格といってもどちらかと言えばサスペンスに近いと思います。警察による捜査は全く描かれていませんし、探偵役のウィリングは何かに付けポルターガイストを連呼していますが、これってそういうものでしたっけ?

作者が本格からサスペンスへ移行していったのが分かる気がします。本来この人に本格ミステリは向いていないのではないかと思います。不可思議な事件が起こり、何らかの手掛かりや伏線があり、それを捜査なり推理して犯人を指摘する過程を楽しむのがミステリの本来の姿ではないでしょうか。特に本格と言われる作品は。ところが本作はそうしたプロセスを踏むことなく、単にタイトル通りフーダニットのみに固執しており、それも探偵による推理とは無関係に唐突に姿を現しますので、これもどうなのかなと疑問に思います。そしてオチが○○○○ではねえ。

失礼ですが、このレベルの作品であれば現在の日本で探せば、どこにでも(どのジャンルにも)転がっているのではないでしょうかね。お前が言うな、というのは重々承知していますが。
まあ正直面白みには欠けると思います。一体誰が電話してくるのか、については多少興味を惹かれましたが、それだけで物語を引っ張るのは無理があった気がしますよ。

No.4 8点 あびびび
(2018/01/08 00:02登録)
ヘレン・マクロイを読み始めたのはつい最近だが、本当に外れの少ない作家だと思う。こんな凄いミステリ作家がいたんだと、毎回感謝しています。

この作品も大好きで、E-BANKERさんが書いておられるように、有名作品よりも上のランクだと思う。読み終えると、原題よりも数段いい作品名だと気づく。

No.3 7点 E-BANKER
(2016/12/11 21:04登録)
精神科医ベイジル・ウィリングを探偵役とするシリーズとしては四作目に当たる長編。
原題は“Who's Calling”ということで、直訳すれば「(電話で)どちらさまですか?」っていう意味。
1942年発表。

~『ウィロウ・スプリングには行くな』。匿名の電話の警告を無視して、フリーダは婚約者の実家へ向かったが、到着早々何者かが彼女の部屋を荒らす事件が起きる。不穏な空気のなか、隣人の上院議員邸で開かれたパーティーでついに殺人事件が・・・。検事局顧問の精神科医ウィリング博士は、一連の事件にはポルターガイストの行動の特徴が見られると指摘する。本格ミステリーの巨匠マクロイの初期傑作~

『ポルターガイスト』とは、いわゆる心霊現象の一種で、そこにいる誰ひとりとして手を触れていないのに、物体の移動、物を叩く音の発生、発光、発火などが繰り返し起こるとされる通常では説明のつかない現象。 (By ウィキペディア)
・・・だそうだ。
いかにもウィリング博士ものらしいテーマだなという感想。
これまでも本シリーズでは、精神医学の専門知識を駆使したプロットがよく出てくるけど、本作も同様。
ポルターガイスト以外にも、中盤で出てくるドゥードゥル実験(テレパシーのようなものか?)も非常に興味深く拝読した。

でも、今回のプロットのまとまりは他作品との比較でも上位だろう。
田舎町の仲良しの二家族。そこに波風を巻き起こす闖入者がふたり・・・闖入者とともに不可思議な事件が頻発し、ついに発生する殺人事件・・・という具合なのだが、ひとつの事象をきっかけに、ガラガラと音を立てるように真実が姿を現す刹那。
「表」から見ている形も、角度を変えてみればまったく違うように見える、ということなのだ。

見えていた姿をずらして真実を明らかにするというプロットはクリスティも旨いが、作者もかなりのもの。
今回は初期作品ということで、サスペンス的脚色は薄く、純粋な本格ミステリーとして楽しめる内容だ。
フーダニットの興味も最後まで引っ張ってくれるし、まずは上質なミステリーと言えるのではないか。
個人的には有名作の「幽霊の2/3」や「殺す者と殺される者」よりは上という評価。

No.2 5点 蟷螂の斧
(2016/04/03 12:44登録)
裏表紙より~『「ウィロウ・スプリングには行くな」匿名の電話の警告を無視して、フリーダは婚約者の実家へ向かったが、到着早々、何者かが彼女の部屋を荒らす事件が起きる。不穏な空気の中、隣人の上院議員邸で開かれたパーティーでついに殺人事件が…。検事局顧問の精神科医ウィリング博士は、一連の事件にはポルターガイストの行動の特徴が見られると指摘する。本格ミステリの巨匠マクロイの初期傑作。』~

脅迫されたヒロイン役(20歳)の言動が可愛くない(笑)。そのようにした作者の意図(理由)は理解できるのですが、読者にとって感情移入できないようなヒロインの設定は失敗だったのかも。また、ヒロインの視点で、脅迫の候補者(容疑者)から、ある人物を除外している点はアンフェアではないでしょうか?。
当時(1942)としては先駆的なテーマで、その点は評価したいと思います。そして後発の著者のサスペンス作品にそのテーマが発展的に繋がっていきます。後発作品はその取扱いが非常に巧いと思いましたが、本作についてはまだ初期段階でフェア感でどうかな?といった感じです。

No.1 7点 nukkam
(2015/09/20 15:50登録)
(ネタバレなしです) 1942年発表のベイジル・ウィリング博士シリーズ第4作の本格派推理小説で、探偵役が精神科医という設定が非常によく活かされています。専門知識が絡む謎解きは往々にして一般的な読者にとって敷居が高くなって楽しみにくくなるのですが本書はその課題をうまくクリアしているだけでなく、独創的なプロットに仕上げることにまで成功しています。クリスチアナ・ブランドの名作「ジェゼベルの死」(1948年)では容疑者が次々に自白するというまさかの展開に驚かされましたが、本書も負けてはいません。本書では何と容疑者全員が「自分が犯人なのかそうでないのかわからなくなって悶々とする」のです。

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