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ミステリの祭典

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他人の顔

作家 安部公房
出版日1964年01月
平均点7.00点
書評数3人

No.3 6点 メルカトル
(2021/08/10 23:03登録)
液体空気の爆発で受けた顔一面の蛭のようなケロイド瘢痕によって自分の顔を喪失してしまった男…失われた妻の愛をとりもどすために“他人の顔”をプラスチック製の仮面に仕立てて、妻を誘惑する男の自己回復のあがき…。特異な着想の中に執拗なまでに精緻な科学的記載をも交えて、“顔”というものに関わって生きている人間という存在の不安定さ、あいまいさを描く長編。  
『BOOK』データベースより。

事故で顔を失った男の欝々とした一人語り。文章が回りくどい、そして文学を気取ったラノベの様に比喩表現が如何にも多いです。登場人物が少なく、ストーリー性も殆ど無し、読めば読むほど気分が落ち込みます。最初、「おまえ」とは読者に向けて書かれたものかと思っていましたが、途中でその相手が誰かが分かります。
これだけ自分の顔に固執するのならば、もう少しケロイド状の顔の描写があっても良いのではと思います。矢鱈と蛭の巣という表現が出てきますが、想像力が足りないのかイマイチその顔貌が頭に浮かんできませんでした。仮面がいくら精巧に仕上がっていたとしても、何もかもがそう上手く思い通りになるはずがないと突っ込みたくなる部分が大いにあります。

一般受けするとは思えませんが、Amazonの評価は結構高いです。それでも人に薦めるには勇気がいりますね、これは。最後の映画のシーンでプラス1点。主人公の心情は手に取るように分かりますが、あまりに暗くて底が見えず感情移入しようにもとてもではないけれど無理でした。

No.2 7点 虫暮部
(2021/06/05 10:01登録)
 病気で、怪我で、または生まれ付き、顔を失って仮面で生きる男女――御馴染のこのキャラクターの在り方に、ここまで深く潜ったのは初めて。某作も某作も、犯人にはそんな苦悩があったんだねぇ。入れ替わりも楽じゃない。一読、ゴシック系ミステリの見え方を変えてしまう、なかなかの劇薬。仮面製造会社の妄想が昨今のフェイクニュースやマスク社会を射抜いており可笑しい。

No.1 8点 斎藤警部
(2020/02/09 21:09登録)
ガチガチの純文学たる本作にも「読者への挑戦」は挟み込まれています。 「手記ノート」の中に追記や訳注やらが頻繁に挿入される魅惑の物語構造。そう、本作は。。。。一般に『化学研究所の液体酸素爆発事故によって顔面に蛭の群れのような醜い火傷を負い「顔」を失った男が、精巧な「仮面」を作ってかぶり、自己回復のため妻を誘惑する物語』などと紹介されますが、実際は、そのような一連の行動をまとめた「手記ノート」で一切を「妻」に暴露しようと、逢引き場所のアパートにやって来る「妻」を隠れて待つ「夫」の話であり、ただそれだけではなく。。。。

“それがぼくの生涯の履歴として、正式に登録されるのだと思うと、やはり慎重にならざるを得なかったわけである”

確かに構造的にミステリと呼べない事もなく、サスペンスの雰囲気も割と漂っておりますが、多岐に渉る論説に満ちた噛み応えある文学作品として味ヮうのがむしろ面白い事でしょう。ボワロー&ナルスジャックみたい、なんて思う人もいるかも知れませんが。。(本当か?) 時代小説不滅論など興味深い考察もちらほら色々。

んでこの話がさ、古くなってないんだよ。怖いねぇ。。。

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