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ミステリの祭典

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斎藤警部さんの登録情報
平均点:6.68点 書評数:1249件

プロフィール| 書評

No.1229 7点 アリバイの唄
笹沢左保
(2024/02/29 23:30登録)
元刑事の口癖は「ベイビー」(笑)。 彼の苗字は「夜明」。 まさか、その珍姓に引っ掛けた前代未聞の叙述アリバイトリックでも登場するのではアルマイナ、と半笑いで余計な緊張!
退官し今はタクシー運転手の「夜明」が東京で乗せた、激しい喧嘩真っ最中のわけあり男女。その女の方が愛知で屍体となり発見される。 一方、数日後に上野から逗子まで運んだ女性の訪問先には、まさかの「夜明の初恋の人」が住んでいた! こりゃ夜明元刑事、自身の事件ってとこか。 さてこの偶然、ミステリ的にサホリンはどう落とし前を付けるつもりか。。


“崩しようもない完璧なアリバイがある。それが、いまの夜明には唯一最大にして、何ともやりきれない希望といえそうであった。”


あまりにモノあり気な早朝の電話連絡。 鉄壁のようなチラリズムのような、心惹かれるアリバイ夜話。 大トリック物理的側面の核心を掠る、実に際どい地の文もあった。 ”○○○の○” なる、まるで初恋の帰り道のように儚いようで儚くないミスディレクション兼ちいさな手掛かり(?)もクイッと引っ掛かって来ましたよ。

島田一男ばりの粋な言葉の投げ合い、島田荘司ばりの大規模バカトリックに、ちょいと小粋で(?)おバカな手掛かりまで。。 まるで長い電報文の様な、口頭ダイイングメッセージらしきもの、こいつもなかなかのおバカさん。 第一この表題はある意味バカタイトルと言っても良いのかな? ふむ、本作はまるで「バカ」のタペストリーだ。 しかし、そのタイトルの意味するものが炸裂するラストシーンはどうしたって泣ける。 つか泣き笑い。 結構重い人間ドラマは後付けの装飾だと思う。 それで良い。 この本は面白い。

「正解だぜ、ベイビー」


No.1228 8点 寒い国から帰ってきたスパイ
ジョン・ル・カレ
(2024/02/24 12:48登録)
「一分あれば、壁まで行きつける。では、しっかりやれよ」
「きみはおれたちをなんだと考えている。 スパイだぜ」

本作が忍ばせた連城三紀彦スピリット(?)は後からじわじわ来る。 将棋のように、ゴールに向かい一手一手詰めて行った挙句のどんでん返しではなく、オセロの如く、状況の瞬時転覆が連鎖する形で大反転の真相暴露。 この小説の外貌の醍醐味はそこにある。 主人公の直接相対する相手がステージクリア風に次々切り替わって行くのも小気味良い。 そして、最後には・・・・ 敵味方驚きの構造が明かされてお終いではない。 それは飽くまで組織の枠組。 中で実際に動く者たちの関係は複雑に推移する。 そこにまた意外性を醸すミステリ興味の重要エレメントがある。 統制された心理の暴力が荒れ狂うクライマックスの査問会(裁判)シーンは圧倒的。 だが、それすらも、、、、これ以上は言えません。

“どんなに愛情に富む夫であり、父親であったにしても、つねに愛し、信じている相手から、遠のいたところに身をおかねばならぬ。”
“第二、第三の人物として生きることを、おのれ自身に強いたのだった。 バルザックは死の床にあって、かれが創造した人物の健康状態を心配したと聞くが、同様のことがリーマスにもいえた。創造の力を棄てることなく(以下略)”

ラストシークエンス、事務的側面含んだ緊張と、それすら裏切る予感。 物語の、そして最終章のタイトルが意味するところ、確かに受け取りました。
怖るべきは、物語内の比重高く大胆不敵な□□トリックさえ実は●●●だった、という物語構造でしょうか。 それは本作主題の痛切なメタファーですらありましょう。

「神とカール・マルクスをおなじように軽蔑する男たちーー」
「しかし、リーマス。 きみも利口な男じゃないな。」

さて、最後の一文ですが・・


No.1227 6点 雪に残した3
新田次郎
(2024/02/20 21:41登録)

   土樽よいとこ
   またおいで
   皆さんなじみの
   ヒゲがいる

『ダイイングメッセージ作成をリアルタイムで目撃』 という尊きレアケースから始まる雪山物語。 死に際に遺す「3」なんて言ったら、クイーン某短篇で語り尽くされた(?)様に、文字通り(文字通り)、多方向からの憶測を呼ぶものですが。。

「なるほど、それでどうしたんだ。おれはこの年で推理小説のファンなんだ。昔は女に興味を持ったが、このごろは女よりも読書に興味を持っている。」

山の仲間が山中にて不審な死を遂げ、同じ山の仲間たちを巡って次々に顕れた疑惑につぐ疑惑。 探偵役「星野」は在京山岳会の会長にして零細出版社の社員。 山岳会の仲間たちや取引先社長の力を借りて真相糾明へ向かいジリジリとアプローチ。 やがて迎える容疑者3名揃えての「山の裁判」を前に、晴れやかな出発の勢いと、微かな翳り。 まさか、稀代の “バカ真相” ではアルマイナと少しばかりの危惧も持たせつつ。。 含みを持たせたやらしい結末 ・・・

「推理小説はいい。最後まではらはらさせながら読ませるあのもたせかたは、なんともいえない味があるぞ。」

山岳推理小説ではおなじみの「山男ならではの純粋さ云々」と「山男だからと言って純粋とは限らない云々」、相反する二つのキーフレーズは五月蠅くならない程度にやはり登場。 俗物としか映らなかった「◯◯」の豪快な問題解決者ぶりに胸のすく熱いシーンもあった。 

「金次第だ。金さえあればなんだってできる。その金は俺が出す。」
“星野は何か明るいものを目の前に感じた。問題はやはり金である。”

自然の怖さなどは然程伝わって来ず、山の空気の爽やかさなど割と小ぢんまり描写されるばかりだが、其れも又佳し。 地味ながら不思議なワクワク感、ばらけた様で何処か締まりのある、小味で愉しい小品(長篇)です。

“裁くのはおれだ。しかし、裁かれる者はそれを知っているであろうか”

或る登場人物の◯◯◯○ー○というか○○が後出しに過ぎるのだけは、あきれて物も言えなかったが(でも仕方無いのかな。。)。。。 本当は本格推理とは言い難いのだが。。だが敢えて本格と呼びたくなるのだな。。 繰り返しになりますが、本作の結末、含みのある独特のやらしさは一度味わってみて損は無いでしょう。

ラーメンと、マッチの図案、最高だね!



No.1226 7点 蒲生邸事件
宮部みゆき
(2024/02/17 19:07登録)
「坊っちゃまにお伝えくださいまし。◯◯は約束を果たしましたと。よろしいですね、必ずお伝えくださいましよ。」

歴史的事件に絡まるタイムトラベル要素は、SFというよりやさしさファンタジー。 このやさしさが、終局で効いて来るんだなあ。 ただ、時間移動に伴う肉体への負担にリアリティ持たせているあたり、甘々のファンタジーというわけでもない風。

「人殺しをする、そんな勇気が僕にあったなら、最初からこんな羽目にはならなかった。」

本作、ストーリーの盛り上がって行く曲線が緩やかでなかなかにじれったい。 何しろ、ミステリ性の中核であろう事案が、あんな所まで進んで、やっと見え隠れし始めるという構造。 そこまでの筆運びが佳いからこそ許されるわざですね。 “自殺死体の周辺に拳銃が無い” という謎が起点の話の膨らみが微妙にミステリ的興味から外れたと思ったら、SF要素とギリ点でタッチするあたり、こりゃほんとに微妙ですわなあぁ。 動線が 奇妙な作りの 蒲生邸 ・・・ こんな魅力あるフックさえ・・・

「君は学がない。その割に頭がいい。そのくせ、妙に勘が鈍い。」

目立つのは、やや浮き足立った色恋要素。 恋愛対象が意外と微妙に絞り切れてない(ただ決め打ちはしてある)感じもリアル。
さり気なさに予感を秘めた或る別れのシーン、良かったです。
タイムトラベルに纏わるちょっとした日常の??トリックには良いユーモアが籠っていたな。
楔を撃つ ’チョイ役’ 再登場の証言を経て、ラストモノローグはさり気なく爽やかに、未来を祝福。

ジャンル的には。。 私も、alcheraさん、ごんべさん仰る様にこれはミステリ/SFどちらのスロットにも嵌らず、まして歴史小説ではなく、、 toukoさん同様、青春小説だと感じましたね。


No.1225 1点 恐怖王
江戸川乱歩
(2024/02/10 11:36登録)
あな、スリルもサスペンスもトリックもロジックもありゃしない。 中途半端な猟奇犯罪を半端に繰り返す変な人の話。 冒険も意外性もリアリティも痕跡すら見つからず(ちょっと言い過ぎ?)。 東京市中が恐慌に陥っている空気感はまるで無く、悲劇に見舞われた探偵役「大江蘭堂」の心の動きも直接間接まるでうわのそら。 第一こいつさっぱり頼りにならねえや。 妖婦の何とかさんもまるで魅力匂わず。 作者の物語闖入もヒつこくて鼻につく。 被害者の肉体損壊のされ方にちょっと目を引く所はあったかな。 リーダビリティは異様に高く、読んでいて不快な気分にはならない。 そこで2点ばかり加点して、なお1.5に届かず。

と、思いきや、最後のこの 。。。。思索的オープン反転?! 。。 いやいや、エンディングはちょっとだけ取って付けの趣きがあったけど、とてもとてもこんくらいじゃあ逆転は叶いませんよ。 乱歩さん、心に砂漠を作らないで! 次はいいやつ頼みますよ(象)。


No.1224 7点 八点鐘
モーリス・ルブラン
(2024/02/07 23:34登録)
塔のてっぺんで
単純な計算式に還元の上で隠匿されていた絶望悲劇が暴かれる。 主演二人の始まりの物語。

水瓶
証拠隠滅の物理トリックは陳腐化していようと、真犯人追い詰め心理戦の摩擦熱を発するスリルは不滅。 レニーヌ最後の台詞も共感に溢れる。

テレーズとジェルメーヌ
これは熱い。 有名な⚫️⚫️トリックが暴露されてこそ顕在化する、愛人と夫と妻と幼い娘達のドラマに心は釘付け。 最後のオルタンスとレニーヌの会話でノックアウト。

映画の啓示
これまた随分と大胆な犯罪露見の手掛かりだなと思っていたら。。ミステリよりも◯◯よりも姉妹の愛情物語が勝ってしまったかな。 締めのホットな部分が長くなって来ているね。

ジャン=ルイの場合
或る青年の出生に纏わるドタバタ悲喜劇から始まり、滑稽味を残したまま貫徹した心理トリック問題解決は、若干肩透かしだったか。。 締めの台詞もちょっとなあ。 よく言えば落語風。

斧を持つ貴婦人
やにわに風雲の「転」へと導く、黒い光沢の冒険譚。 オルタンス気絶の際の台詞にゃあ最高にじゅんわり溶かされた。。 ミステリ性が薄いようでいて、最後にやっと気付かされる、淡く優しくも胸に迫るツイスト。 先行作とは異質の静謐なエンディングに打たれたし。

雪の上の足跡
人によってはタイトルで噴き出すかも知れないが、一見大時代ドラマの添え物めいた心理的物理トリックが、実は奥深い余韻を残す。 おまけにダメ押しのコミカルな落ちにまで手を伸ばす。 いやはや趣深し、足跡トリック。 レニーヌとオルタンスの関係も愈々もって趣深い。

マーキュリー骨董店
大胆なミスディレクション(?)を経ての激しい頭脳戦から、麗しくも悦ばしい、King & Prince ”シンデレラガール” が流れて来るような白光のエンディングへと雪崩れ込み。 諸々の落とし前もジャスト・イン・タイムに付けられ、連作短篇集としてまず文句なしの終結。 ごさっしたーー。


No.1223 7点 ある男
平野啓一郎
(2024/02/04 09:07登録)
二人目の夫が山中の仕事場で事故死。 夫の兄は実家から駆け付け、一目見るなり「これは弟じゃない!」。 数年前に一人目の夫と離婚の際世話になった弁護士(主人公)が再び呼ばれ、「夫」の正体探しと「弟」の所在捜しに奔走する、サスペンス沸々と蠢く人間史発掘ドラマ。 溢れる言葉で思弁と春情いっぱい。 フレーズの密集が匂わしい割に、リーダビリティは頗る高い。

「それにやっぱり、他人を通して自分と向き合うってことが大事なんじゃないですかね。他者の傷の物語に、これこそ自分だ!って感動することでしか慰められない孤独がありますよ。……」

亡くなった/消えた人物の捜索(キーワードは「●●」。。。。)への興味に留まらず、夫婦や親子、兄弟や男女の愛憎関係へも、濃淡織り交ぜイメージ豊かな主題性が付与されています。
ある組合せの二人の関係に、ある意味エンドマークが下された直後から、二人にとってはアンコールピース、物語にとってはクライマックスが始まる予感でいっぱいの構図、ニクいね。。 と思い込んでいると。。 いやはや、この進行からの流れも最高にじんわり来ました。

「なんか、二百歳まで生きた人間を知ってるとか、メチャクチャ言ってましたよ。」
○○は、思わず吹き出して、手に持ったコーヒーを零しそうになった。
「僕には三百歳って言ってましたよ。」

回鍋肉カレーとマイケルシェンカー、シメイホワイト。。
終盤の方で、どうしても一呼吸、いや暫くの時間を置いてから読みを再開したくなる章間がありましたね。筆力だねえ。

様々な人間どうしの関係叙述が整理を終える度パタパタと蓋を閉じ、最後にあの一文。 大空のようなスッキリと少しのモヤモヤ、双方含んだまま、素晴らしい終わりを本作は迎えてくれました。


“そして、自分によく似たような男が、もう一人いたんだなと思った。”

“その後は、しばらく二人とも黙っていた。”


最後に。 この本は、思わせぶりな「序章」が何とも掴んで来るのですよね。


追記
・亡くなった「夫」が仮に「X」と呼ばれ、そこに「ツイッター」や「フェイスブック」も登場するため何だか紛らわしいこと!
・チャラついてキャラの濃い「兄」が登場シーンから脳内大泉洋だったお蔭で、嫌な奴というよりコミックリリーフになってくれちゃいました。(ひょっとして映画版でも.. と思ったが、別な俳優さんでしたな)


No.1222 6点 カッコウの卵は誰のもの
東野圭吾
(2024/01/31 18:43登録)
ウィンタースポーツ(板系)周辺に巻き起こる、ビジネスへの野望と親子の苦悩、そして脅迫および傷害事件。 慌ただしい一連の流れの中で、元冬季オリンピアンである主人公の抱える葛藤と謎は大いに膨れ上がる。 期待の若手アルペンスキーヤーであるわが娘が、自分と血が繋がっていないとは ・・ ← この裏事情が全く一筋縄で行かないのが、本作の大きな魅力、というか太い幹。

"もし天罰が下るとしても――。 ( 中 略 ) その時には、自分が命を賭けて阻止するのだ。"

物語の分水嶺らしきものが早い段階から次々に上書き更新され、揺さぶりを掛け続ける、こりゃぁ東野らしい強い展開だ。 終盤もいい所に差し掛かって急展開の圧縮率が尋常でないミステリ期待値を噴出して来る。 そしてこの、黒幕の創意と悲しさたるや・・・・・

読前の予断を裏切り社会派/科学派要素は薄め。 ちょっと気恥ずかしいが人間派は言えるかも知れない。 だが何より、複数のトリッキーな親子関係の謎で押し通した、プチ数学的とさえ言える論理(?)サスペンス・ミステリでありましょう。 そのくせしっかり感動もさせてくれちゃってよ。 参ったな。 

「あるもの/こと」を託された人物の葛藤が、もっと直接的に描写されても良かったという思いは残ります。
ノルディックの未来を託された青年の、スキーそっちのけでエレキギターに傾倒する描写が光っていました。


No.1221 7点 その可能性はすでに考えた
井上真偽
(2024/01/28 19:09登録)
“端から「偶然にしてはでき過ぎ」という反論は封じられているのだ。何と傍若無人なルールであることか。”

事象の合理的解決が不可能である事を証明せんと命を削る、なんとも革命的な逆行型の探偵役。これを主軸とし、キャラ立ちの良過ぎる脇役たちが荒唐無稽に暴れ回る。 ラノベから派生した深夜アニメから派生したRPGのようなフレイヴァを放つ設定と展開。 ラストシーンは熱かったな。。。

「だから◯◯、◯◯も約束して、これからの毎日を楽しく生きるんだ。一人になったからって寂しがってちゃだめだ。」

偉大なる逆説の泡立ちが眩しい魅惑の推理ファンタジーに宿るは、命と資産と知力の脈打つ遣り取り。 箱庭めいた埓内の前提があれよあれよと拡大されて行く面白さ。 プロージビリティがスッ飛んでいるからこそ却って佳きとなってしまう画期的なゲーム構造。 ご都合に蹂躙された机上の幻も、ここまで執拗に積み上げられたら最早マテリアライズド・・・

「――そして実際、その行為で◯◯は救われた。もしこれが真相なら、その事実自体はとても尊いものだ」

しかしですな、可能性潰しの着眼がもっともっと徹底して広角だったら、天下の奇書になっていたかもですな。 本作では、相当に深そうなポテンシャルの8分の1も発揮出来ていないでしょう、この作家さん。

「探偵さん」
つうっと、頬を涙が伝った。
「この私を止めて頂き、どうもありがとうございました」

伏線の、隠し方と見付けさせ方のバランスがちょっと取れてないかと感じる案件は幾つか見受けた。が、まあ目くじらは立てぬ。
多重解決の詰将棋ドリルブックみたいな一冊でもあった。 所々、論理の遊戯が高踏過ぎて眩暈を誘う熱砂特別区もあった、それもまた尊し。

「無自覚に叙述トリックを使ってしまったか・・・・・・」  なんと。


No.1220 6点 影の地帯
松本清張
(2024/01/20 20:40登録)
“その目撃者が宿に訪ねてきました。その興奮で、この手紙をあなたに書きました。”

本作の中心にある『屍体隠蔽』については、猟奇的トリック自体もさる事ながら、その二重底構造になっている点を推したい。

「お願いです。これ以上深入りしないでください。」
「あなたは、なんのために、ぼくにそういう注意をするのです。」

写真家である主人公馴染みの ”銀座ママ” が失踪。 前後して与党保守党の領袖が失踪。 事件の周囲に見え隠れする魅力的な若い女性と小太りの中年男は、主人公が以前に航空機内で偶然出遭った二人連れだった・・・ 幾手にも分かれつつ親密なる協調の探偵群は、その構成にちょっとした捻りあり。 決してありきたりでない主要登場人物群の有り様に変容めいた彩りもあったりして、盤石の推進力あるストーリー展開。 後半風情からあまりに痛く怪しい魍魎どもの蠢きと、そこへ被せてまた更なるうねり。 飽くまでも爽やかに。 いやァ愉しいっす。 昭和30年代中盤。

「おれは、もうやめたよ。妻子のあるからだだから、いま死ぬのはいやだからな。」

ごく淡い水彩画からのテイクオフが心地よい恋愛要素、そして、まさかの(?)◯◯物語という熱い側面。 清張らしい冷徹な規律は認められるが、やはり甘々の通俗長篇。 もはや量産期京太郎ぽい旅情サスペンス。 匂わせとご都合の激しさが逆に愛おしい。 だが社会派要素なるものは、果たしてどうかな。。 最後のそれらしき考察も、却って安心しちゃってるみたいで、”もどき” 感が強い。

さて主人公の名前は田代利介(たしろ・りすけ)。 今だったら「ロリスケ」って呼ばれるかも?


No.1219 8点 雪は汚れていた
ジョルジュ・シムノン
(2024/01/14 19:27登録)
純白の感動を呼ぶ、痛切極まりない "◯◯式" のシーン。 私はそこに、この物語の中心点を置きました。

「世界じゅうでいちばん大きな罪を犯しましたが、これはあなた方には関係のないことです。」

占領下の街。 小さな娼家に母親と暮らす不良青年は、くぐもった未来像を突き抜け何者かになるべく、もがいては行動を起こし、またもがいては無闇に行動し、やがて引き返せない一本道に迷い込み、なにものかに、、、捕らえられる。 一人称ハードボイルドが似合いそうなムードと筋運びを、神になりきらぬ、時にもどかしい作者視点で包み込むように叙述しきった、重量感溢れる惨酷犯罪心理劇。

"フランクは言葉なんかこわくない。彼は無理にその言葉を大声で口にしてみた。" 「きちがい!」

サスペンスフルなクライムノヴェル風前半から可読性と玩読性が激しく拮抗しつつ、 後半、ある場面転換からやにわに直面する混濁と悟りのキャッチボール。 推理、思索とまどろみの取っ組み合い。 以心伝心と疑心暗鬼。 幻想と混乱のコールドロン。 そこに見い出した或る「◯」。。 読み応えは充分。 心に残る最強の脇役陣に突き上げられ、愚かな主人公の行く末を見守らざるは無い、胸中に深く長く染み渡る逸品です。


No.1218 7点 古墳殺人事件
島田一男
(2024/01/06 12:51登録)
“ここでは逆に、地上にいて海上で味わう地上感を味あわそうという、きわめて不自然な努力と苦心が重ねられているのだった。”
いいですねえ、この逆説舞台装置、商船を模した丘中の邸宅。 一方の舞台『古墳』(多摩の塚原古墳群内)との連携も佳き。 探偵役の旧友である考古学者の撲殺屍体が発見されたのは、この古墳の方。

「いけません。円満にして敏速なる調査のためには、婦人の狂騒は、あらかじめ排除しておかねばなりませんーー」

会話、地の文、古代文学ペダントリ披露どれも濃いわぁ濃すぎ。武蔵小杉と新小岩が総武快速・横須賀線で繋がったのはこの作品の為だったのか。。だが意外とスッキリ最短距離で見通せる短篇的真相かと匂わせる展開もあり、どこまで作為的かはともかく、リーダビリティが停滞する作品と言うのでは総じてございません。

「(前略)とうとう最後までひっぱった。…… 案の定(後略)」

呼び出し暗号、擦れ違いの機敏。 機械的物理トリックと、人情心理トリックの重なり合い。 ブロバビリディの細やかな潰しから一気に攻め入るヒロイック推理披瀝の眩しくもある味わい深さ。 ほんの微かな数学趣向。 そしてやはり、ラストシーンの爽やかな明るさは忘れ難い。

さて本作、別の島田さん有名なアレのインスパイア元のような気はやはりしますね。本作の少し前に刊行された「○○殺人事件」や、十数年前に出ている「○の悲劇」に通ずる要素も検知されました。

ところで kanamoriさんご指摘の「犯人は何もしない方が目的達成」って、、ほんまや!!  でもまあ、悲しむ人を無闇に増やさないという意味はあったかな? (飽くまで小説として、犯人本位ではなく、ですが)


No.1217 7点 残像に口紅を
筒井康隆
(2023/12/23 23:04登録)
“この調子ではどんな突然の非常識、奇想天外、荒唐無稽が起るかもしれない。それらをすべて、それぞれに対応する考え方で、終結に向けて的確に処理していかねばならないのだ。”

ラストシーン、気持ちは動くのか。 タイトルの意味するところは、何気に早いタイミングで抒情を刻んでくれたが。

“そう考えて●●●●は異様なほどの快感を伴ったおそろしさとスリルに見舞われて思わず(後略)”

このストーリー、もしも企画を冒頭で公開せずに最後まで完遂していたとしたら、人はどの辺りで仕掛けに気付くものだろうか。
しかしこれ、図らずも(?)『アレ』のメタファーになってるよねえ。。。。

オールドパーはバーボンじゃないよな、なんていぶかしく思う。 その人、ゴクミ?  おっと、戸田奈津子語尾みたいなの出てきた? こっちはゼンジー北京語か(但し「ノンアル」で)? … だんだん語呂合わせというか日本語ラップ初級編みたいな様相を呈し始めるのが何やらおかしくて。。「孤独のグルメ」脳内独り言のような物言いも顔を出し始めた。 歌舞伎だの何だの、巧く纏めるもんだよなあ。 特殊な情交シーン(そっちの意味じゃなく)、最初の方は只々大笑い(!)だったが、やがて独特の味わいの濃密描写に推移。 官能小説から歌詞をインスパイアされるというあいみょん嬢の感想を聞きたいね。

「もしもし。ここは現実ですか」
「そうだよ。何もかも現実なんだよ」
「もしもし。もしもし。そちらは、現実ですか」

最後に残る一文字(乃至二文字)を予想しちゃいますよね。まあ手堅い本命なら「■」だろうけど、さりげなく「◇、◇◇◇」なんてのも有り得るし、ルール抵触かも知らんが「○○○○○」なんてのも、人情でじんわり来ますよ。

本作の企画、ハングルでやってみた人はいるのかな。パーツ(ㄱとかㅏとか)だとすぐ終わっちゃうから、文字(가とか혼とか삶とか)の単位で。 漢字だとちょっと果てしなくて無理ですかね。 敢えて英語に翻訳したら、終盤につれてどんな不可思議な感じになって行くのか、興味あります。


No.1216 8点 カササギ殺人事件
アンソニー・ホロヴィッツ
(2023/12/21 20:39登録)
「しかし、感情はきわめて安定していますよ。実のところ、先生には正直にうちあけますが、わたしはいま、とても明るい気分なのです」

某「透きとおった物語」で際どく言及されていた一冊、否、上下巻で二冊。 本作を上巻終りまで読了し、ゆっくり一晩置いて、翌朝から下巻を読み始める読者がいたとしたら何と幸いなる魂か! あまりに衝撃の強い、上巻最後の一行! いやいや、事の企みはそれどころじゃなかったわけで。 目測がズタズタに引き裂かれる快感と、そのタイミングに幻惑される陶酔。 登場人物表がここまで罪深く危険な存在になり得るなんて! 

「どうやって?」
「アランがまともな人間に戻るんですよ」

アガサ風イングランド田園地帯の大邸宅にて、家政婦が階段から転落死。謎めいた盗難事件を挟み、準男爵の家主が首を刎ねられ死亡。容疑者多数にして、登場人物の順次深堀りが熱い。 違和感にしたくない違和感が、時を置いて次々登場。 手の内見せたり隠したり。 派生ホヮイダニットのぎらつきも良い。 おお、これぞ「探偵側の動機」というやつか! 動機どころか、探偵役のこの、あまりに切実な実情。それでいて、警察側の探偵役と捜査結果を持ち寄って補完し合ったり。。 あまりに強い文章力がゆえに、先読みよりも目の前の玩読こそ喜ばしく強いられる。ここにこそ何気のメタ叙述トリックが忍ばされてはいなかろうか。。 そこでその、椅子から飛び上がる衝撃の人名登場よ!!

“ひょっとしたら、あのオレンジ色のブーツのおかげかもしれない。”

空回りとは無縁の良き「メタ」は良過ぎて笑ってしまう。良きやり過ぎは何につけても良き! 古い時代設定の割には妙に今日的な意識高っぽさが見え隠れするのもまた良き「メタ」の有様か。 特殊免罪符を得た勢いでメタに走る某登場人物(笑)。 メタ構造を良いことに有るコト無いコト「架空のネタバレ」を気持ち良く連射するキラメキっぷりと来たらまるで昔の「水曜どうでしょう」若い頃の大泉洋、即興ホラ話の如し!

敢えて分割すれば・・「作中作」の方がミステリとして分厚い。工夫ある真犯人隠匿も見事! 探偵による真相解きほぐしシーンも最高にスリリング。 そこへ行くと外側の「作」の方、真相と言い動機と言い、若干、ほんの若干ですが、張子の虎だったかな・・・ せめてもう少し間を持たせて、タイミングの意外性も伴って真相暴露してくれたら良かったな。ところどころ軽く取って付けた感あるポイントもあった。惜しい。 とは言え全体で見たら、重厚にして機敏、滑り出しから最後の一文まで掴んで離さない抜群の牽引力。ふんだんな伏線回収も見事。 ビター過ぎず甘過ぎないセミビターエンドも良い。 突っ掛かる箇所ほぼゼロの翻訳も素晴らしい。

ところで本作の一方の肝である「■■」のトリック、「○○」の中ヒントのみならず、実は「□の□□」の大ヒントまで晒してあったなんて! 迂闊だった。。迂闊でよかった。


No.1215 6点 推理小説作法 あなたもきっと書きたくなる
評論・エッセイ
(2023/12/17 18:10登録)
“一貫性がないところに、かえって特徴があり、それぞれの筆者の性格からくる多様性が、ふしぎな効果をあげている。”

まえがき【江戸川乱歩】 
期待を大いに持たせる紹介文。 冒頭の引用はここから。
推理小説の歴史【中島河太郎】 
流石の読み応え。特に日本のミステリ古代史は良い。何度も読み返します。
トリックの話【江戸川乱歩】 
今となってはマァおぼこいこと。だが往時の実作を読んでもそのトリックを唯々「古いナァ」とは思う事は少ない。やはり小説は小説、只のトリック紹介とは違う、という事実を再確認。 トリックの未来を悲観していない所は流石の乱歩さん。
動機の心理【大内茂男】 
推理小説に於ける動機の意義、重要性、分類、面白味等をシリアスタッチに敷衍。「犯人側」のみならず「探偵側」の動機にも注目、という点に注目したい。
素人探偵誕生記【加田伶太郎】 
流石は手練れの素ッ呆けエッセイ。
推理小説のエチケット【荒正人】 
ちょいと狷介な味のある本格推理小論。 題名から受けるイメージと内容とに齟齬あり。
現場鑑識【平島侃一】 
図表やイラストいっぱい。レトロな味の科学捜査手帖。『推理小説作法』に直結する一章。科学捜査は常に進展するものだが、基礎知識のおさらい(一部は覆されているかも知れないが)として、何よりミステリ興味を引き立てる調味料/スパイスとして、今でも目を通す価値大。
推理小説とスリラー映画【植草甚一】 
余裕ある書き出しの掴みからして違う、流石の鋭い視点に唸るA級エッセイ。 やはり映画が観たくなる。
推理小説の発想【松本清張】 
氏の小説とは異なる柔らかいタッチ。素ッ呆けること無く、自らの発想法/小説作法を適度に生々しく、適度に突っ込んだ所まで、適度なユーモア交えて明かしてくれる。これもまた『推理小説作法』に直結した愉しい一篇。 最後に公開する「創作ノート」(自らの解説付き)がまた実に良い。
あとがき【松本清張】 
本書の実像とは微妙にズレた内容の事を書いている(笑)。 おそらく、寄稿が揃う前に書いたのではなかろうか。

「江戸川乱歩・松本清張 共編」という編者名こそが訴求力ある最強キャッチコピーとなっている一冊。 内容のバラけ具合や、前述の清張「あとがき」の様子から、また乱歩「まえがき」の前述引用部分から見ても、共編て実際はどんなもんだったろうなあという感じだが、結果的に(名著とは言い難いが)面白い一冊になっているのは間違いない。


No.1214 8点 世界でいちばん透きとおった物語
杉井光
(2023/12/09 23:50登録)
”ベンチに隣り合い、冬と春、死と生のそれぞれに遠く隔てられて。”

著名ミステリ作家(男)の隠し子である主人公(若い男)は、二人暮らしの母を早くに亡くし、やがて一度も会った事の無い父が病死した事を知る。そこへやはり初対面の異母兄が面会を求めて来た。 父に「幻の遺作」らしきものが在る可能性を知った主人公は、父に対する複雑な感情を抱えたまま、フリー校正者であった母を介して知り合っていた大手出版編集者(若い女)の協力を得、「遺作」を含む父の残した謎への答えを探り出すべく、生前付き合いのあった人物を次々に訪れる・・・・ その途上、事件がいくつか起こり。。


【【以下、致命的ネタバラシは避けますが、ネタバレ度ほぼほぼ低から高へと推移します(伏字あり)。未読の方はここでやめておくか、途中で適宜引き返して戴けますよう、お願い致します】】


何気な「心理の密室」トリックは妙に唐突でドタバタ感アリだけど、しっかり意外性もありました。しかしそのトリック構成の「最重要人物」についてはもう少し深く掘り下げて良かったかも。 もう一人の重要人物はちゃっかりシラッとしたままか! 物語上の落とし前も付けないで有耶無耶か(笑)。 それにしても泣ける伏線回収、熱い伏線回収の数々、見事でした。

京極夏彦が登場したのはちょっと笑いました。(だがそれさえも、ってやつなんですけどね) 親譲りの「甘いマスク」の筈の主人公が、周りの反応的にイケメン感がまるで無いのは違和感ありましたね。「父親そっくり」とは必ず言われるのに。もしやそこに何か叙述の欺瞞が。。なんて疑いもしましたよ。 折角の美貌を、内面の非モテ感が圧倒してたって事なんでしょうか。

思えば実に数学的であり、病理学的であり、出版業界的であり、何よりまさかの「○の○」の話だったというのがね。。この本の外枠のアレと不即不離なんだよね。。 最終ページの答え合わせに感動し、「あとがき」の核心ネタバレに微笑み、異様な「参考文献」に笑い、最後の献辞にグッと来る。 都合四段構えのエピローグには心を掴まれました。

ここまで「アレ」やっといて、この美しい文章と物語と強靭なミステリ牽引力。人間もよく描けている。こりゃ凄いや。 だからこそ、最後に「アレ」を「故意に」崩すところ、その心に泣けましたねえ。。。。  作者が「アレ」を自慢げに語っているようにしか取れない所もあったけど、その空気はすぐ消えてくれた。

タイトルや「電子書籍化絶対不可能⁉︎」なる帯の煽り、そしてやたら挟まれる○○に関する話題がヒントとなり、きっとあの方向性なんだろうなあ、とはすぐに思い当たったのですが(むかし『頭の体操』で見たんだよな..)、まさか、ある意味「真逆」の方だったとはなあ! 確かに現在の電書では無理なアレだろうが、そのくせ主人公はほぼ電書一本派って設定、ただのフックじゃなくて深~~い意味があったんですね。いや参ったな。 途中でそこまで気付いたお方はおるん??

ところで私がぼんやり予想していた「電子書籍化不可能」な要素、の具体的な現れ方、やっばり違ったのか。。と諦めていた物語の最後になって、ふと登場! 熱かったね。

しかし、これほど「第〇章」のページが罪深い(?)本も無かろうね(微笑)。。


No.1213 5点 人形式モナリザ
森博嗣
(2023/12/06 18:44登録)
ストーリーも人物も思わせぶりも退屈でむにゃむにゃ眠くなったが、ラスト近くでやっと何かが騒めき出した。つまんない奴だったあいつが輝き始めた。保呂草はやはり魅力的だ(林どころの騒ぎじゃない)。 紅子のアシストも効いた。 最後の台詞にゃ、グラッと来たぜ。 だがしかし。。

「もうしばらく、夢を見させてあげましょう」

これは野暮な言い草になりましょうが、第一の(?)殺人の逆説光るメイントリック、スカしてないで手厚くギラリギラリと煮詰めたら連城短篇っぽかったかも(?)。でもそこが本作の肝じゃあないんでしょうなあ。 んで、この動機というか事件背景の壮大なんだか何なんだかどうにも説得力乏しいアレはいずれ後年の作で落とし前が付くのだろうか??  さて「モナリザ」の件、トリック自体はともかく、そのマスコミお披露目の微笑ましさも含めて、明るく締まってくれたのは良かった。


No.1212 7点 プリズン・トリック
遠藤武文
(2023/11/25 00:08登録)
こりゃ強烈だ! 冒頭の交通刑務所内部描写から沸々と攻め上がるインナーグルーヴ。 フーに始まり、すぐさまハウ、やがてホヮイ、何気にホェンの要素も隠し待ち、しかし何と言っても核心たるホヮットダニットの牽引力が出色。 刑務所、出所者、警察、保険会社と事件捜査に掛かる面々(≒探偵役)が多方面から真相に向けせり上がって来る多重型スリルの尊さよ。

中盤では様々な事象が並列にほぼ同じ比重で描写され、どこに焦点を絞って良いのか迷わされる。実にミステリアス。 中心事象が最後には明かされるが、それ以外のサブ事象のプレゼンスかとれもこれも強烈過ぎ、全体像の中に太い軸が屹立していない感はある。それすら混沌のスパイスとして魅力を増す一要素に。まあ登場人物で一番格好良いのは矢島警部だろうが、彼でさえ警視昇進させられた背景にはちょっと、その格好良さに陰を差すモヤモヤが宿った。

細かな多視点切り替えによるストーリーフォローの難しさは、視点人物たちの苗字が総じて平凡である事にその一因も見出せよう。(唯一目立ったのが、警察側の脇役、四方田さん?)一部作家にありがちな際立った珍姓さんとまで行かずとも、野田さん武田さん宮崎さんやらの中にせめて鳩さんとか追分さんとか樽美坂さんとか混ぜて欲しかった。実際、日本人十人も集まれば結構な珍姓さんが入っているものですし。

小粒な密室トリックにささやかな叙述ミスディレクションもミステリとして有効なサポート。社会派スパイスはスリルを焚き付けてくれた。 しかし、最後に。。。。。。。。 単行本オリジナルには最後の「手紙」が無かった(後にWeb上で発表)って。。。。 スキャンダラスだよねえ。


No.1211 6点 ホッグズ・バックの怪事件
F・W・クロフツ
(2023/11/19 16:02登録)
事件の○○点を巧みに隠蔽する技が本作の肝でしょうか。 一方で、ごく限られたエリアで執り行われるきめ細やかなアリバイ工作。徒歩や自転車、せいぜい自家用車での移動に頼るそれはなかなかに地味で、地味な良さがあり、あまりに地味なので「まさか某S30年代日本著名作の様に『実は◯◯◯を使ってました』ってな限界突破トリック使ったんじゃないだろうな?」と半分冗談で妄想してみたりもしました。(本作の場合は『実は〇〇を』の方向で。。)  地味ながら奥行きある真相が解きほぐされる最後のシーン(フレンチが上役二人と酒を酌み交わしながら会話)は実に味わい深く、本作の魅力が凝縮されていると思います。「六十四個の手掛かり」はわざわざページを見返すほどの事もなし。

ご指摘の方もいらっしゃる通り、古い創元推理文庫(’80年代)の表紙絵は、ネ●●レ的に流石にちょっとね。。 登場人物表にある人物が載っていないのも明らかにおかしい。(了然和尚さん、新表紙版でも直っていませんでした!!)


No.1210 6点 ノッキンオン・ロックドドア
青崎有吾
(2023/10/28 13:27登録)
ノッキンオン・ロックドドア/髪の短くなった死体/ダイヤルWを廻せ!/チープ・トリック/いわゆる一つの雪密室/十円玉が少なすぎる/限りなく確実な毒殺

ポップな推理ファンタジー。 極軽タッチで本格要素は結構強い。
探偵設定の面白さ、展開の意外性、くすぐりいっぱい、大小パロディ、魅力的な仲間と敵、姑息な手、アラのアラ、目を引く新奇(ノヴェル)なフック群、長いスパンで残る謎。。

「まったく」 彼は、懐かしむように息を吐いた。 「あいつにゃ頭が下がるよ」

中に一篇、ギリ二篇、連城スピリット漂う熱い逆説のブツがあった。但し詰めの甘いディテール頗る多し。そこが気にならない文章だったらなあ・・それこそ連城のような・・と夢想しなくはないが、不満じゃあない。

「僕ら四人は、いまだにその密室の虜なんです」

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