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ミステリの祭典

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悪徳警官

作家 ウィリアム・P・マッギヴァーン
出版日1961年01月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 斎藤警部
(2025/06/12 22:10登録)
「きみの不適格審査報告書だ」

主役 "Rogue Cop (悪徳警官)" ことマイクは街や広域のギャング達とずっぽりのお付き合いで金回りの良い、頭の切れるマッチョなハンサム・ガイ。 同じ街で善良警官を勤める実の弟エディは、大物ギャングに致命的不利益をもたらす行為を断固として遂行する意向だ。 兄に言わせりゃ本末転倒も甚だしい弟の決意を翻させ、風前の灯となったその命を救おうと兄は、弟のガールフレンドやギャング達との連携に駆け引きを保ちながら、弟とギャング双方の説得工作に奔走する。

「だからといって、きみにだけその権利を独占させるわけにはいかんよ。 この町にはエディの兄弟が五千人はいるんだからな」

物語も半ばに差し掛かった頃、重大事件が起きる。 その真相と背景を暴こうと捜査を進める中で、悪徳マイクの内面にもどかしい変化が現れ始める。 ずっと憎んでいた亡父。 亡父の家に住み続ける弟。 ちょっとしたビルドゥングスロマンかと見紛うこの変化こそ、本作の太い柱の一方であり、もう一方の柱である事件の謎解き明かしとは鎬を削った闘いを繰り広げる。

「あんたたちがおしゃべりをしているあいだに、やつらは (中略) 次は (中略) その次が (以下略) 」

斬れるロジックに胸ぐら掴まれるシーンがある。 生死やら準ずる何やらを賭けた決死推理の煌びやかなこと。
クリスピィな嘘吐きの応酬が素敵。 警察同僚たちとの会話や良し。 特に、目上感こそ薄いが頼りになる上司。 早朝の仕事を見せつけられるスリルもあった。
神父との再会のシーン、その会話は沁みた。。。。 そして何かが心地よく緩む、ナイスなエンディング。

文体と言い、事件解決の経緯と言い、ハードボイルドミステリより警察小説の気配が強いが、何故かここはひとつハードボイルドと呼んでやりたい心だなあ。

No.1 7点 クリスティ再読
(2018/03/31 23:07登録)
マッギヴァーンお得意の警官モノ。主人公がギャングに買収された悪徳警官だったのが、弟のトラブルをきっかけにギャングたちに反逆する話である。ただし道徳的に悔い改めるとか、弟の復讐で...とか、そういうウェットな話にしないのが一番いい点。
主人公はギャングに買われる悪徳警官を自任しながらも、それでも有能な刑事であり、ヘミングウェイ風な頑固一徹なコードヒーローである。世の中の仕組みが分かってるからこそシニカルになり、利口に立ち回って職務を売るのも、それが独立独歩で他人を信じないタイプの男だからこそだ。そもそも正義と不正・道徳といった観念で動く柄じゃない..だから本作はマッギヴァーンの中でも一番ハードボイルドのテイストが強い作品になっている。
事件の目撃者となったことでギャングに不利な証言をする弟に対し、死なせないためにその証言を翻させようと主人公は躍起になる。マトモな警官である弟はまったく取り合わないので、主人公と組んでいたギャングに殺される。それでも主人公は自分がギャングたちに騙されメンツを潰されたあたりに怒り狂う(弱みなんぞ見せたくもないしプライド高いんだよ)みたいに描かれて、ウエットさなぞ薬にしたくてもないような煮え切った主人公である。
要するに主人公は自分の周囲の、弟を含む善良な警官たちを、多少小馬鹿にしていたのである。しかし周囲の善良な警官たちが「警官殺し」に対して一致団結してギャング壊滅に向けて頑張る姿に、主人公は逆に考えさせられることになる。こういう道徳主義的ではないダイナミズムの設定がなかなか、いい。あくまでもバッドボーイの物語なのだ。
日本だとどうもハードボイルドの名のもとに情緒的な浪花節が横行するのだけども、本当はこういうシニカルでドライなのが、ハードボイルドの真面目なんだよね。作者が自分の作り出したキャラをうまく客観視できている印象がある。こういうあたりが極めてマッギヴァーンという作家の個性を感じるところ、かな。

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