アイス・コーヒーさんの登録情報 | |
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平均点:6.50点 | 書評数:162件 |
No.22 | 8点 | 九マイルは遠すぎる ハリイ・ケメルマン |
(2013/09/15 10:57登録) ニコラス・ウェルト(ニッキイ)教授は「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、ましてや雨の中となるとなおさらだ」という短い文章から未知の殺人事件の犯人を導き出す安楽椅子探偵。 個人的には、表題作以上に中盤の作品が気にいった。いささかご都合主義なところもあるが、明快な推理と楽しめる文章は気に入り、本作は安楽椅子探偵ものの代表作にふさわしいといえる。 他にも音だけで推理する「おしゃべり湯沸し」やすべてが伏線で感心させられた「二つの時計を持つ男」「梯子の上の男」などの異色作もあり興味深い。「二つの時計~」などは、読み終わった直後に自分自身が「あの」行動をとってしまったので笑うしかない。 |
No.21 | 9点 | 虚無への供物 中井英夫 |
(2013/09/12 18:54登録) 氷沼家は代々一族のものが変死するという、呪われた家系。主人公の亜利夫や久生はそこで起こるであろう、未来の殺人の調査を始めるがその甲斐もなく次々と人が死んでいく。アンチ・ミステリの代表作と言われる国内推理小説の金字塔。 「ドグラ・マグラ」「黒死館殺人事件」に並ぶ「三大奇書」の一つだが、文章は圧倒的にわかりやすく、アンチ・ミステリと言ってもそこまで推理小説を否定した小説、とは感じない。この本には論理的な推察や、冒険あふれる探究は存在せず、作中の奇妙な符号や因縁から生まれる数々の推理に焦点が置かれる。そして、謎多きままに迎えるラストは、文学的な動機と納得のいく真相だった。ただし、密室がやたら出てくる割にその解説が雑だったりわかりづらかったりする点は否めない。 この本の凄い点は、まずブラックホール的な破壊力を持つ原案だ。色彩や植物、目黒・目白不動などに密接にかかわる氷沼家の謎。さらには数々の密室トリックは、そのアイデアだけで何冊の本が書けるだろうか。そして、新本格にもつながっていく内容。虚無にささげられた薔薇である本書は、当時の推理小説界の最高傑作であったことは間違いない。 |
No.20 | 6点 | 謎解きはディナーのあとで 東川篤哉 |
(2013/09/03 17:58登録) あらすじは省略。本屋大賞一位獲得で、ドラマ化・映画化もされた人気作。ただ内容は東川氏の今までの作品と似て、素人の語り役が適当な推理をして読者を混乱させた後で、探偵がさらりと解決する構図。ただ、彼が重点を置いているであろうユーモアのある掛け合いのシーンは典型的であまり面白いとも思わなかった(読みやすいが)。 トリックについていうと、部分的に読者にも予想できる部分を作ることで、何も考えずに読む読者を駆除する工夫がある。つまり、積極的に読者を参加させる訳だが、安楽椅子探偵・影山の推理が飛躍しがちで論理的ではない、という欠点がある。言われてみれば納得するのだが、これは本シリーズの課題ではないか?一方読者をひきつける奇妙な殺人事件の数々については、作者のアイデア力に感服するばかりである。 |
No.19 | 4点 | ブレイクスルー・トライアル 伊園旬 |
(2013/08/28 14:45登録) IT企業が企画した、会社のセキュリティを一般人に突破させ、成功したものには一億円を贈呈する「ブレイクスルー・トライアル」。元IT企業社員の主人公はある目的を持つ相棒とともに企画に参加することとなる。 それぞれの人物がそれぞれの悩みや背景をもってトライアルに挑む様子は興味を持った。また、第二章で描かれる他の選手たちのサブストーリーもそれなりに楽しめた。ただ、内容が複雑で第一章の「調査研究」に多くのページがさかれてしまい、長ったらしい話になっている。さらに、主人公たちの計画が周到過ぎてアクションも微妙。もう少し軽快でスピード感のあるものにしてほしかった。 第五回このミステリーがすごい大賞受賞作 |
No.18 | 4点 | ビッグ4 アガサ・クリスティー |
(2013/08/11 21:20登録) ビッグ4という国際的な犯罪組織とポアロが対決する話だが、短編を組み合わせて一つの長編にしているので、少し難ありな作品だと思った。 内容から考えると、短編集にして一つ一つの話に工夫をすればかなり面白い話になったはずだと思ったが…ただ、これをばねにしてその後、名作が生まれたのだと考えれば、これはクリスティーにとって、通過点に過ぎない作品なのかもしれない。 |
No.17 | 3点 | 殺しも芸の肥やし 殺戮ガール 七尾与史 |
(2013/08/11 20:58登録) 遠足に行った女子高のバス一台が失踪し、その後運転手含め白骨死体で発見された怪事件。姪をなくした刑事は、「スぺクター」と呼ばれる殺人鬼が関わっていると睨み、捜査を開始する。「スペクター」は自身の夢を達成するため、自分の正体を暴こうとする人物たちを、次々と殺害していた。 帯やあらすじでネタを割っていたのは残念。しかし、大がかりなトリックやそれらしい結末は存在せず、ただ殺戮ガールのかつての犯行とそれを追う刑事や探偵の姿が描かれるだけ。ユーモアのあるところもあったが、作者の「ドS刑事」もののように、作品をひっっぱっていけるだけのものになっていない。 「ドS刑事」の雰囲気かと思っていたが予想を裏切られた。 |
No.16 | 5点 | ドS刑事 朱に交われば赤くなる殺人事件 七尾与史 |
(2013/08/11 20:45登録) 人気番組のクイズ王を始め、クイズ関係者が次々と残虐に殺されていく謎を、ドS刑事こと黒井マヤと語り手の代官山が解決するというストーリー。 前回よりマヤのドSぶりがわかりやすくなり、ドMキャラの浜田も登場したことでより面白い話になった。しかし、内容は総合的に見てこの点数。 次回作では内容重視でお願いしたい。 |
No.15 | 9点 | 人狼城の恐怖 二階堂黎人 |
(2013/08/05 20:06登録) ドイツ・フランスの国境線上に屹立する双子の城・人狼城。それぞれの城で同時に発生した殺人事件は、不可能の連続であった。悪夢の殺人事件の、残されたわずかな痕跡をもとに、二階堂蘭子は「ハーメルンの笛吹き男」や「人狼」といった伝説にかかわる真実を発見する。 世界最長のミステリの全四冊のボリュームは想像を絶するものであった。最初の二冊、ドイツ編とフランス編での不可能犯罪はよくできたものだ。一つ一つにこだわりがあり手抜きがない。さらに、酷似した二つの本を、読者に飽きさせずに読ませるところも作家の能力である。 そして物語の根幹ともいうべき大トリックも、素晴らしく完成されていて、感嘆した。そして城全体の謎に関する真相や、動機も意外かつ論理的で、非常に楽しめた。問題点は詳しく説明されていない点が多くあることだ。よく考えれば合理的な説明がつき、解決する謎なのだが、もう少し蘭子に丁寧に解説させるべきである。 しかし、この作品はまさに本格ミステリの集大成的な作品であり、これを読まずして本格は語れないだろう。 |
No.14 | 8点 | Zの悲劇 エラリイ・クイーン |
(2013/07/23 18:14登録) 前作「Yの悲劇」から十年ほどたって、私立探偵となったサム警部とその娘パティが上院議員の殺害と謎のZに挑むというストーリー。 この作品について深く言及する必要はない。雰囲気はレーン四部作らしく、論理的な推理は素晴らしかった。Y程の衝撃はなかったが面白い作品だ。ただ、あまりZである意味がないともいえなくもなくそこは残念。 |
No.13 | 10点 | 占星術殺人事件 島田荘司 |
(2013/07/16 14:54登録) 体の一部分ずつを切断された女性の死体の数々。その体を使って完全な人間像を作る、という手記を書いた芸術家はすでに殺されていた。日本中が四十年間解決できなかった事件に占星術師・御手洗潔が挑むという話。 トリックは素晴らしいものだった。パズル的な点はまさに本格ミステリだ。問題点を挙げるとすれば最初に過去の事件の説明が長々と書かれていること、無駄な展開が一部あることだろうか。しかし、それ自体が仕掛けの一部で演出だとするならば、かなりよくできているといえる。 最後まで見抜けなかった自分に感謝したい結末だった。一つ一つの殺人にも合理的かつ論理的な説明があり満足している。 |
No.12 | 7点 | Another 綾辻行人 |
(2013/07/07 14:25登録) 夜見北中学校三年三組に転校してきた榊原は眼帯の美少女・見崎鳴に興味を持つが、同時にクラス全体の雰囲気に違和感を覚える。そして、ついに学校では事故死が発生し、クラス全体をめぐる「現象」が明らかになる― 学園ホラーであり、綾辻氏らしい本格推理小説でもある。話の速い展開と奇妙な現象、そしてあのトリックは読んでいて楽しい。誰でもスラスラと読んる作品なので続編が楽しみだ。映画化、アニメ化されているようだが私はどちらも見たことがないので見てみたいと思う。 |
No.11 | 9点 | 64(ロクヨン) 横山秀夫 |
(2013/07/07 13:55登録) 2012年の「このミステリーがすごい」一位を取った作品。D県警広報官で元刑事の三上は家庭内では娘の家出、職場ではマスコミと対立するという悩みを抱える。そんな中、昭和64年に発生した誘拐殺人事件、通称「ロクヨン」の操作激励のために警察庁長官が視察に来ることとなる。そして、訪問の許可を頼みに行った被害者宅で事件に対して三上は違和感を感じ、捜査を始める。 主人公・三上が刑事部と警務部の間で双方からの圧力に悩み、情報公開を求めるマスコミに対応できなくなり、娘の生死もわからない状況下で広報官という視点から、父親という視点からロクヨン解決を模索する点は面白いと思った。最後の真相も予想外のもので完成度も高い。長編であったが一つ一つのシーンは作者・登場人物のおもいが伝わってくる演出で満足している。 ちなみに上の初出版が「2001年10月」となっているが2012年の間違いであり、本作は今現在の横山氏の最新作である。 |
No.10 | 4点 | びっくり館の殺人 綾辻行人 |
(2013/07/01 18:59登録) お屋敷町にある「びっくり館」。不思議な噂を持つこの館で、小学生の三知也は館に住む少年・俊生に出会う。館には彼の祖父と亡き姉の名前のつけられた人形が住んでいた。そんな中、密室殺人が発生する。 ミステリーランドから出版された、子供と、かつて子供だった人への作品。これが本作のコンセプトだ。そして本作は館シリーズの正式な一作でもある。しかしこれは・・・。トリックが明らかに従来より劣っている。恐らくあまりミステリを読んでいなかった子供のときであればこの真相に「びっくり」していたであろうが(事実最初にクリスティの●●●●●●●を読んだときはびっくりしたものだ)、「館」シリーズの一作とするにはどうも・・・。さらにこの作品が本格であるかも微妙である。最後に、ラストシーンの後味が悪く子供向きかどうかも・・・。 描写も上手で、それなりに楽しんで読んでいただけに第三部が残念だった。 |
No.9 | 7点 | 暗黒館の殺人 綾辻行人 |
(2013/06/30 14:36登録) 山奥の湖に浮かぶ「暗黒館」。そこに訪れた江南は塔から落ちてしまう。一方暗黒館に来ていた学生「中也」は館で殺人事件と館に住む浦登家の奇怪な営みに遭遇する。 「館」シリーズ最長の文庫本四冊というボリュームに見開き二枚に渡る付録の巨大見取り図に驚く人は多いだろう。本作は浦登家の「死」という物への執着が題材となり、その描写と四巻で描かれる真相のための手がかりにページ数がさかれている。そのため最後まで読むとこの量には納得したが、トリックが大掛かり過ぎて一部はすぐに分かってしまった。大長編の悩みと言ったところか。 (以下ネタバレ気味) この作品(暗黒館)は今まで中村青司(綾辻行人)が創造してきた館の原点である。そして、今まで、今後の館シリーズの中でこの作品はあらゆる館主たちの幻想を闇に葬るために不可欠だったのではないか。シャム双子にダリアの肉、十角塔に吸血鬼。奇妙なファンタジーのようなこの作品にはミステリーを超えたおもいがあるに違いない。 |
No.8 | 7点 | 黒猫館の殺人 綾辻行人 |
(2013/06/22 17:19登録) 作家鹿谷のもとにやってきた記憶喪失の老人は自身が持っていた「手記」を手がかりに自分の正体を教えてほしいと頼む。「手記」には彼が働いていた館「黒猫館」で起こった殺人事件が書かれていた― 綾辻氏が「変化球」と呼ぶ異色作。「手記」は手がかりが満載で、分かりやすい謎もあったがさすがにこの真相は分からなかった。短い作品で気軽に読めるが、個人的にはリアルタイムで起こる「吹雪の山荘」パターンの方が好きだ。 |
No.7 | 9点 | 時計館の殺人 綾辻行人 |
(2013/06/19 22:15登録) 鎌倉にある中村青司の館「時計館」。江南たち雑誌編集者とW大学ミステリー研究会は亡き館主の娘の幽霊を調査するため時計型の旧館に三日間立てこもる事になる。 一方作家の鹿谷と、調査に行けなかったミステリー研究会の学生福西は大きな時計塔がある新館で館に住んでいた一家の過去を調査をしていく― 日本推理作家協会賞を最年少で受賞した本作は「十角館」を超える、正に館シリーズ最高傑作。いつも通りの離れ業には驚かされる(犯人の目星はついてしまうが・・・)。孤立した状況下での殺人の緊張感もまたいいが物語的な点では微妙。でも読んで損は無い傑作であり、壮大なクライマックスもはらはらさせられとても満足。 |
No.6 | 7点 | 霧越邸殺人事件 綾辻行人 |
(2013/06/14 19:06登録) 信州の山奥で吹雪にあい、山奥の古風な館に閉じ込められた人々。吹雪はなかなかやまず長期間閉じこめられる事が分かったとき、館で殺人が発生する。 霧越邸の怪しげな雰囲気やそこに住む怪しげな住人たちなどは綾辻行人らしいもので楽しめた。ただ衝撃の結末と言われたわりに真相はそこまでおもしろくなかった。これは館シリーズと決定的に違う点だろう。 個人的には本作より館シリーズをお勧めする。 |
No.5 | 6点 | 体育館の殺人 青崎有吾 |
(2013/06/12 17:46登録) 高校の体育館で起こった密室殺人を学年一の天才であり変人オタクが解決するという鮎川哲也賞受賞作。 エラリー・クイーン的な論理推理で一本の傘から犯人を絞り、あらゆる疑問点を検証していくやり方は本格的だ。ただ巻末の審査員の作家人陣のコメントにもあるように検証に穴がありやや無理やりなところもあった。しかし、本作はそれと同時に深く練られた所も多くあり、青崎氏の将来には期待が出来そうだ。 ちなみに本作の題名は綾辻行人の「館」シリーズのパロディだ。おもしろい考えだと思ったが、館シリーズとは、ほとんどつながりが無かったのは残念。 |
No.4 | 5点 | 模倣の殺意 中町信 |
(2013/06/06 18:38登録) 最初にある男が死に、二人の人物が男の死を追う、という話。某書店で売れ残っていた中町氏のデビュー長編の本書を店頭でプッシュしたところ、その意外なトリックが人気を呼び再び幻の名作として話題になっている。 勿論良くできた話で個人的には満足。この本が最初に発表された当時を考えると偉大だし、かなり論理的に作られていると思う。 ただし、これらのトリックは乱発されすぎて現代においては印象が薄れる。人物がかけていないのも致命的だ。着想はよく出来ているのだが、その点が少し残念。 |
No.3 | 8点 | 皇帝のかぎ煙草入れ ジョン・ディクスン・カー |
(2013/06/04 17:47登録) 主人公の女性は窓から向かいの家で婚約者の父親が殺害されるところを目撃、しかし彼女の家には元夫が忍び込んだのでそのことを証言できず、彼女は容疑者にされてしまう・・・。 とてもありそうにない設定(ミステリなので当たり前と言えば当たり前ですが)ながら探偵役の心理学博士の推理は鮮やかで感動。 途中で犯人が分かってしまったが、それも本作の特長の一つかもしれない。もしかしたらこのコメントだけで犯人が分かってしまう方がいないかヒヤヒヤするくらいいくつもの事象に関する手がかりがちりばめられている。(単純で簡単という意味ではありません。)カーが人間の思考を考慮したうえで執筆し、読者に一泡吹かせてしまう、そんな作品だと思いました。 |