home

ミステリの祭典

login
バードさんの登録情報
平均点:6.14点 書評数:324件

プロフィール| 書評

No.304 7点 水鏡推理Ⅲ パレイドリア・フェイス
松岡圭祐
(2023/02/05 22:15登録)
水鏡推理シリーズ3冊目。ここまでの3冊の中では本作の出来が抜きん出て良いと感じた。本作も前2冊と同様に読後感は気持ち良い。特に今回の相方廣瀬は非常に好感の持てる人物造形だった。

複数の人物の隠蔽思考が絡み合った結果、主人公ペアが真相にたどり着くのが遅れたように見える。その一方、描写には伏線が多く仕込まれているので、真相を受け入れやすく、読者はストレスを感じにくい構成となっている。

8点を付けても良いと思ったが、最も重要なHowの部分が予想内で終わってしまったので、今回は少し厳しめに7点。とはいえフェイクのネタばらしで一旦読者の意識を最重要アイテムからそらさせる辺り、作者のミステリ技量も光る一作。


No.303 7点 さむけ
ロス・マクドナルド
(2023/02/05 22:02登録)
自分の趣味嗜好外の本にもかかわらず、すらすらと読ませられた。そして内容にチープさは無く、複雑な人間関係をきちんと描写しきっており、読み物としてハイレベルなことを実感させられた。
間違いなく名作と言われるだけの実力は備えている作品だろう。

ただ人間関係が複雑すぎて、最後まで読んでも一部誤解してるような気がする。
また、意外な真犯人は通常なら加点ポイントだが、本格とは趣の異なる本作の良さとは嚙み合わせが悪いとも感じた。
ちなみに探偵の捜査方針も好みでないです。(結果的に正解にたどり着いているものの、行き当たりばったりで決めつけも多かったから。)

総括すると、ギミックやロジックではなく、純粋な読み物としての面白さを気に入った作品。


No.302 8点 模倣の殺意
中町信
(2023/01/18 21:43登録)
(軽いネタバレあり)
基本をおさえた叙述物で勘の悪い人でもどこかで違和感に気付けそうな塩梅。比較的ミステリ歴の浅い内に読むと頭に突き刺さるだろう。

万人が賞賛するレベルではないが、私個人としては上手く書いたと褒めたい一作。点数はデビュー長編作とのことなので1点おまけ。


No.301 3点 叙述トリック短編集
似鳥鶏
(2023/01/05 06:28登録)
挑発的なタイトルに惹かれてトライ。その結果は採点の通り。
既読作品の感想も合わせると、似鳥さん作品は自分と相性悪そう。


<以下ネタバレあり>
「貧乏荘の怪事件」より前の話まではまあまあ楽しんでいたが、この話がターニングポイントで、以降は読むのがめんどくさくなってしまった。登場人物の名前を長くして読者を混乱させるなんて技は、決して作者が喜々と語る技法ではない。
「ニッポンを背負うこけし」での別紙ネタは綾辻さんの『奇面館』の改悪だな。助手の正体についても名前が不自然に伏せられていたので読めた。
「あとがき」までいくともう何が面白いのか分からなかった。ヒントを出していた、としたり顔で言われても、あの書かれ方で単にヒントを順番通り並べているだけだと思う人いないだろう。

総括すると作者が読者を小馬鹿にしている感が強く出ておりイマイチ。(叙述トリックがそういうものだと言われたら反論はしないが。)
ただし全ての話がイマイチというわけではなく、「背中合わせの恋人」、「閉じられた三人と二人」は上手いと感じた。この2話は他の人にも推薦したい。

///余談/////
とある漫画のキャラが叙述トリックものとの出会い方について
「こっちから出会いを求めるんじゃなくてあくまで向こうから自然にやってくる形で運命的に出会うのが理想なんです」
と言っていたが、本作を読んでみてこのセリフの真価を理解できた気がする。


No.300 7点 貴婦人として死す
カーター・ディクスン
(2023/01/05 06:27登録)
(ネタバレあり)
手記形式なので裏があるだろうと思いつつ、ルーク先生本人に怪しい雰囲気がほぼ無かったため疑いきれなかった。そこが落とし穴だったのね。騙す気満々の悪意ある手記とは趣が異なり、手記形式の先駆者『アクロイド』よりもある意味狡猾(褒めてます)と感じた。
メインの誤認ネタ以外も面白く、特に意外な二人の消失ルートは良かった。

しかし、ここまで褒めてきたが、点数に関しては7か8かで迷った末、7点とした。というのも、本作はあくまで「手記形式で想定しうる範囲で上手い」という感想にとどまったためである。
オンリーワンの魅力を有する傑作には一歩及ばない良作という印象だな。


No.299 6点 掟上今日子の遺言書
西尾維新
(2023/01/05 06:26登録)
下記例のように掛け合いは楽しめたが、今作はやや間延びした印象。『挑戦状』の書評にも書いたが、今日子さんには短編集の方が合っているね。
『備忘録』での相棒隠館君があまりにも不憫な役回りで再登場したのにはほっこり。

忘却探偵シリーズの登場人物の感性は西尾さん作品にしては現実の人のそれに近いので、登場人物同士のやりとりも密かに楽しみにしている。
今回だと阜本先生に「あんたの漫画はつまらないので、影響されて自殺する人なんているわけないにゃん☆」というような事を断言するシーンが一番ツボだった。忖度0な今日子さんもいい性格してるし、阜本先生がキレるのもめんどくさいクリエイターの性が出ていて笑える。


No.298 7点 掟上今日子の挑戦状
西尾維新
(2023/01/05 06:25登録)
次の『遺言書』も含め、忘却探偵シリーズを計4冊読んだが、短編集の方が今日子さんには合っているね。本作は3つの短編からなり、「アリバイ」、「密室」、「暗号」に対する忘却探偵のアプローチを堪能できる良作。

<個別書評>
・アリバイ証言(8点)
多くのアリバイものは、犯人がアリバイに全てをかけて他の要素では限りなくクロってパターンな気がするが、本話はアリバイを崩しても犯人特定できない上で、落としどころにも捻りがある。さらっと書かれているが結構凝っている話だと思う。本短編集のマイベスト。

多くの人がいる中でアリバイ証言者に今日子さんを当てるって、鯨井さんババ抜き弱すぎ(笑)。

・密室講義(6点)
革新的な密室ものではないが、良密室短編。
巻末おまけにある、本事件の経費内訳が酷く、遠浅警部はお気の毒といったところか。

・暗号表(6点)
今日子さんのお金へのスタンスが格好良い。相変わらずキャラものとしては面白い。ただし本話はミステリとしてはそこそこ程度。キャラの良さで持ってるが上手くない。結納坂の追い詰め方も少々無理がある。今日子さんパワーを持ってしても、暗号もの良作の壁を突破できなかったわね。


No.297 6点 ジョーカー・ゲーム
柳広司
(2023/01/02 13:29登録)
D機関と結城中佐が物語の中心にいるスパイ物オムニバス。
スパイというとなんとなくハードボイルド的な読みものになりそうなイメージだが、各話に意外性を持たせる試みがあり、ハードボイルド的良さだけにはとどまらない一冊である。その中でも特に「幽霊」と「XX」がミステリらしくて好み。

脳死で日本まんせーしないと非国民扱いされる時代で、上手ーく国民の皮を被るメンバーはまさにスパイっぽいっすね。


No.296 6点 黄色い部屋の謎
ガストン・ルルー
(2022/11/07 21:32登録)
犯人の意外性や密室の作り方といったミステリ的な面白さは書かれた時期を考慮すれば一級品と思う。だが個人的にトリックどうこうでなく、ストーリー展開が退屈だった。被害者とフィアンセが犯人を隠す理由も古臭いし(時代をふまえれば理解はできるけども)、ルールタビーユのキャラも鼻につく小僧という感じでイマイチ。

ミステリ的には7点。物語は4.5点。間をとって6点という評価である。


No.295 6点 掟上今日子の推薦文
西尾維新
(2022/10/17 07:10登録)
(ややネタバレあり)
一冊目の『備忘録』から連続で挑戦。一冊目よりも大味と感じたため、点数は低め。
本書の構成上メタ的に事件の犯人を推測できてしまうのが弱い。また彼を犯人と予想するための傷の位置や角度の情報は謎解きパートより前の記述では不十分で、やや不親切と感じた。

実は一番驚いたのは一冊目の相棒キャラの隠館厄介が外され、別キャラが相棒だった点。てっきり一巻のコンビの継投と思いこんでいたので意表をつかれた。ただ、全ての出会いが一期一会な今日子さんの性質をよくよく考えれば、相棒が変わる方が自然だわな。


No.294 8点 掟上今日子の備忘録
西尾維新
(2022/10/17 07:03登録)
掟上今日子さんというキャラクターを気に入るかどうかにつきる本である。私的にドストライク。ミステリアスでお茶目でかわいく、ビジュアルも気に入りました。
結果として、これまで西尾作品で暫定一位だった物語シリーズを抑え、一番好きなシリーズとなった。続編を新品で購入し、そちらも早急に読んだ。(個人的にそのような買い方は珍しく、相当気に入った証拠である。)

話の面白さは二話>三話>四話+五話 一話、の順番。特に第二話はホワイダニットとして非常に新鮮で、純粋なミステリとしても目を見張るものがある。


No.293 8点 法月綸太郎の冒険
法月綸太郎
(2022/09/25 19:07登録)
初めて法月さんの短編集に挑戦したが、これまで読んだ長編よりも好み。収録作は高水準で、後の短編集もぜひ読みたいと思わせてくれた。

<個別書評(ネタバレあり)>
・死刑囚パズル(7点)
少々くどい論理が良くも悪くもクイーンっぽい。犯罪の性質が個性的で、真相が気になるよう書けている。

・黒衣の家(6点)
こういう犯行を計画できる程度に頭が良いのに、短絡的に犯罪に走るのは計画性が無い気がする。捕まれば真の目的を果たせないのだから。
所詮は子供と考えるしかないのかな?少しその辺りがすっきりしない。

・カニバリズム小論(6点)
読んでる最中は講釈垂れがすぎてイマイチと感じていたが、最後に仕掛けがあり安心した。ラストで4→6点。

・切り裂き魔(7点)
犯人の動機は流石に途中で分かったが、さっと楽しめる良作。
本話で登場した穂波さんは以降の話でも魅力的で気に入りました。

・緑の扉は危険(8点)
シンプルなトリックで好きなタイプの話。自分が死んだら緑の扉が開くという菅田の遺言もセンスがある。

・土曜日の本(9点)
収録作で一番面白かった。作家たちのもじり名もツボだった。
ミステリとして際立ったポイントのある話ではない上、当時の北村薫さんの覆面作家事情ありきでもあるが、非常に上手くまとまっている。

・過ぎにし薔薇は(6点)
最後にのどにつながるのが上手いが、全体的にはこじつけ感がある。悪くはないがアベレージの高い本短編集の中では下の方だった。


No.292 4点 『クロック城』殺人事件
北山猛邦
(2022/09/22 06:47登録)
(ネタバレあり)

メインの物理トリックは中々良いを超えて非常に好み。時間を利用して断絶された空間に道を作る、なんて大仰な表現が可能でかつ鮮やかな切り口。本格ミステリと呼ぶにふさわしいトリックかと思います。
しかし、それだけに他の部分(ファンタジー的世界観、キャラクター、文章力)の力不足が顕著である。正直、妙な設定をかぶせすぎており、読みにくい事この上なかった。
以上の感想なので、全体通しての評価は残念だがイマイチ。ただし、本作者の他作品がどういった書き口かは少し気になった。


No.291 8点 ガニメデの優しい巨人
ジェイムズ・P・ホーガン
(2022/09/22 06:44登録)
『星を継ぐもの』の続編である本作。前作知識は頭に入っている前提なので、この本から読むのは控えるべき。
前作に比べ最大謎のインパクトが弱いので一点引いたが、前作と同水準で面白かった。情報が惜しくもシャピアロン号に届かないというほろ苦さと、先にある希望を両立させた締め方が好み。

本シリーズの良さは嘘(フィクション)の数を絞っているところだと思う。SFでの嘘は当然作品の売りだが、多すぎるとなんでもありになってしまい作者の妄想を聞かされてる感が強くなるのよね。


No.290 7点 悪魔の手毬唄
横溝正史
(2022/09/13 08:53登録)
(ネタバレあり)

見立て殺人物にありがちな、インパクト重視で見立てる意味がないという大味な作品ではない。
犯人が殺人を手毬唄通り見立てた意図は(金田一の推測ではあるが)本文中に明記されており、お庄屋さんのキャラ描写が十分だったため私は納得できた。その動機を許容できるかは個人の感性によると思うので、そこが本作評価の分岐点になる気がする。

個人的にはその他にも物語をかき回す要素がふんだんで、例えば下記のような素晴らしい工夫がある。
・途中で嘘の手毬唄を出す
・三番目のすずめのミスリード
・件の一人二役

淡々と殺しが進み、読み物として起伏が弱いという点は少し残念だが、昔の作品だからと侮るなかれ、非常に精巧な作品である。


No.289 5点 怪盗ニック全仕事(1)
エドワード・D・ホック
(2022/09/13 08:36登録)
ニックの小粋さが心地よいキャラもの。依頼人たちの裏事情が絡み合うことで単なる盗難事件では終わらず、全体的に先の読めない面白さがある。
重厚なストーリーが好みな人には物足りないと思われるが、ウィットが効いた小ネタ・小噺が好きな方にはお勧め。
個人的に気に入った話(6点以上)は下記。

・プールの水を盗め:依頼人の作戦は相手が冷静になれば看破されそうだがはったりが効いてて面白かった。
・真鍮の文字を盗め:詐欺をやるにもやり方が個性的すぎる。
・邪悪な劇場切符を盗め:割と予想通りの顛末だが、そういう話もあって良かったかな。
・弱小野球チームを盗め:これだけ派手にやって捕まらないのは流石です(笑)。
・囚人のカレンダーを盗め:こんなもの盗むとは看守も流石に思いつかんわな。


No.288 5点 そして五人がいなくなる
はやみねかおる
(2022/07/09 09:39登録)
不可思議な消失が中だるみ無しに発生するのでサクサク読める。名探偵がフェイクの謎解き後に事件の真の構造を語るというのも王道で良かった。
事件最中の緊張感が終始薄めという点、事件の裏も比較的容易に想像付くという点に物足りなさを感じるものの、総合的にはまずまず面白かった。そもそも子供向けの作品に対し大の大人が文句を言うのがナンセンスだしね。
ただし子供向けなどは関係なく夢水清志郎のキャラデザはもう少し深みのある感じにした方が良かったと思う。ただの三下にしか見えない・・・。(文庫本のデザインです。)


No.287 4点 元彼の遺言状
新川帆立
(2022/05/02 10:26登録)
第19回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞作品であるが、出来は可も無く不可も無くで、絶賛されている程かなぁとは思ってしまった。
一番の見所であるキャラ描写が個人的にそれほど好みでない。主人公の剣持麗子を含め、残念ながら今一つ突き抜ける魅力を感じなかった。ジャックナイフなキャラ描写は良いが、共感できる部分が少なく魅力が薄いのよね。

まとめるとライトでさっと読めるのは良い点なので、月9作品の原作として話題作りに読む分にはいいかもという感じ。


No.286 5点 長い長い殺人
宮部みゆき
(2022/05/02 10:09登録)
『模倣犯』のプロトタイプという印象だが、あちらの方が犯人側の描写が丁寧で、決着の付け方もはまっており総合的に出来が良い。個人的に『模倣犯』と一番差を感じたのは、犯人組のキャラ付けだ。ピースは好きでないが本作の薄味な犯人組と違い嫌いなキャラとして印象に残るよう書けていたので。

他に本作のオリジナル要素として財布視点で話が進行するという点があるが、何だか子供向けの絵本を読んでいる感じで、そこに良さは見出せなかった。子供向けのような語りとサスペンスのアンバランスさには少しくすっとできるが加点ポイントというにはちと弱い。


No.285 4点 星降り山荘の殺人
倉知淳
(2022/04/23 08:16登録)
(ネタバレ無しだがヒントあり)
本格物の雰囲気やしっかりとロジックを組み立てる姿勢など非常に良いと思える部分が多かった作品。ロジックに関しては少し無理矢理感もあったが私個人の感性では許容範囲内だった。

しかし、本作はメインの仕掛けがあからさますぎていただけない。
星園登場チャプターで「おいおい、まさかこのパターンじゃないよな?」と心配し、麻子が登場した段階でほぼオチを確信。そして予想通り終わってしまった。作者的には読者への真実の語りでミスリードを狙ったのだろうが逆効果だった。言葉は悪いがやり方が子供騙し。余計な小細工が無ければ素直に驚いたかもしれないのに・・・。

上記の点で大幅減点(7点→4点)。『さよならドビュッシー』の書評に同じ事を書いたが、バレバレの手品は高評価に値しない。

324中の書評を表示しています 21 - 40