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ミステリの祭典

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いいちこさんの登録情報
平均点:5.68点 書評数:570件

プロフィール| 書評

No.130 6点 ゼロの焦点
松本清張
(2015/02/17 18:48登録)
著者の簡潔な筆致と冬の金沢の抒情性あふれる舞台設定が相まって、ストーリーテリングは申し分ない。
一方、敢えて書かない作品だとは承知しているものの、犯行理由・経緯が不明な2件の殺人、主人公の推理の飛躍が散見される点は減点材料。
「点と線」と比較した場合、空さんの評価と同様に「読物としての完成度は上、ミステリとしての論理性は下、合計点でやや下」と評価


No.129 5点 名探偵の掟
東野圭吾
(2015/02/16 16:26登録)
ミステリのコードを揶揄する作品群を通じて、安易なトリックの濫用と、それが無批判に受け入れられる風潮への問題認識を提示。
本格に対する愛情・愛着と自作に対するプライドが強く感じられた。
ただ同じパターンが12回続くため、後半は正直食傷気味。
同様の趣向の「超・殺人事件」と比較すると、一段も二段も落ちると言わざるを得ない。


No.128 5点 美濃牛
殊能将之
(2015/02/13 17:41登録)
プロローグで犯人の名前を明記する大胆な趣向が、却って読者をミスリードする仕掛けになっている点が際立った特徴。
視点を次々と変更することにより、各登場人物の認識・思惑のずれを少しずつ明らかにする手際も巧妙。
ただ、謎の解明が小出しに過ぎて、最終盤には容疑者が限定されすぎたこと、真相隠蔽の手段は巧みであるものの、真相の作為性や真犯人の動機の非合理性が否めないこと等により、真相判明時のカタルシスは小さい。
プロット全体では一定の合理性を志向しながら、解明されない謎・非合理的現象も多く、完成度にも疑問。


No.127 6点 キングを探せ
法月綸太郎
(2015/02/09 16:39登録)
効果的な倒叙形式の活用、探偵の介入による軌道修正等、プロット全体の完成度は高い。
一見して叙述トリックとはわからないトリック等、随所で読者の誤認を突く巧妙な仕掛けが、非常にテクニカル。
ただ強烈な緊張感やインパクトには欠け、軽量コンパクトにまとまっている印象


No.126 9点 死の命題
門前典之
(2015/02/02 20:16登録)
ネタバレせずに論評するのが非常に厳しいのだが、本作のメインプロットは典型的なクローズド・サークルの中で、通常ミステリで常識とされる事実関係を一貫して完全に倒置させる趣向である。
これ自体が相当な奇想である訳だが、冒頭の「読者への挑戦状」に見られるようにフェアプレイを意識しつつ、犯行手段をはじめ非常に徹底したカタチで実現している。
そのため、極めて実現性の低い事象・トリックを複数使っているのだが、プロット全体における必然性に加えて、特にプロローグを活用した巧みな構成力でカバーし、読者の違和感を最大限抑制。
豪快なトリックの陰で、随所に見られる伏線・見立ての活用や人物造形の巧みさも光る。
登場人物の行動が合理性を欠く箇所も散見されるものの、壮大なる奇想に比べれば許容範囲か。
版元がややマイナーであり、入手困難である点で非常に損をしているが、バカミスを愛する人には必読の傑作。


No.125 4点 七つの海を照らす星
七河迦南
(2015/02/02 20:15登録)
児童養護施設の日常の謎を巡る連作短編集。
冒頭の何編かはまずまずの完成度であるものの、後半は徐々にトーンダウン。
トリックの実現性が高いものの、通り一遍で奇抜さに欠けるのが難点であり、後半はかなり退屈な印象。
最終話に連作短編集ならではの趣向があり、「学園七不思議」としての必然性をまとめあげるのだが、それほど驚くべき真相とも言えず、仕掛け自体にも難があり、正直小粒感は否めない。
本作の題材からすると好き嫌いはともかく、もっと社会派寄りのアプローチもあり得たと思うのだが、その面でも斬り込み切れず、問題意識の醸成や感動には至っていない。


No.124 8点 法月綸太郎の功績
法月綸太郎
(2015/01/26 11:16登録)
「都市伝説パズル」は世評が圧倒的に高く、短編のオールタイムベストで最上位の評価を受ける作品。
アイデアは素晴らしいが、残された手掛かりが強烈すぎるだけに却って犯人特定を容易にしてしまっているのが決定的に難点。
個人的ベストは「縊心伝心」。
些細な手がかりから、動機・犯行経緯まで明らかにするロジックは「スイス時計の謎」を彷彿とさせる美しさ。
「イコールYの悲劇」はテーマが指定されたアンソロジー収録の短編であるため、やや強引さが目立つが、水準を大きく超えるレベル。
大きく外した作品がない点も含め、短編集としては最高級の部類


No.123 7点 秘密
東野圭吾
(2015/01/19 14:47登録)
作品の前半部分では進行している事態の重大性にもかかわらず、夫の動きが鈍くヌルい対応にかなりイライラさせられるのだが、その弱さ・至らなさ故に不条理な現実に翻弄され、却ってその誠実さを印象付けられる。
夫にのみ共感が集まっているようだが、自分の人生を途中で断ち切られ別人として生きていくことを余儀なくさせられた無念さ、娘への愛情から学業とスポーツに打ち込みながら家事と両立させていく妻の真摯な想いも胸を打つ。
どんでん返しは仕掛けとしてはそれほど傑出したものではないが、ささやかな伏線からタイトルの持つ重大な意味に収斂させた手際は流石


No.122 3点 謎解きはディナーのあとで 3
東川篤哉
(2015/01/14 14:55登録)
第2作と同様に近隣の図書館に蔵書があったので読了。
みなさんの評価と同様。
第1作からはもちろん、第2作からもさらに劣化しており、著者の力量からして最低限の水準にも達しておらず残念。
せっかくの大ヒット作品であるだけに、本作をもってシリーズ完結なのであれば妥当な判断。


No.121 6点 丸太町ルヴォワール
円居挽
(2015/01/14 14:54登録)
まず前提としてミステリとして意味のあることをしようとしているのは理解。
後半のどんでん返しの連続は、それほど納得感がある訳ではないのだが、伏線の配置が巧妙。
読者が「ここが伏線ではないか」と気づき得るように敢えて記載に違和感を持たせつつ、それでいて読了時まで真相には辿り着けないバランスが絶妙。
メイントリックが2つ仕掛けられているが、一方が他方のトリックの隠蔽に効果を上げている点も評価。
評価が分かれるのはたぶん作風。
登場人物全員が「ティーンエイジャーかそれに類する年代」かつ「美男美女」かつ「頭脳明晰」で、ほとんど嫌味とも言える高度な知的応酬がハナにつくかどうか。
著者としてはこのあたりを察したうえで、敢えて特異な舞台設定を選び、ライトノベルタッチにすることでオブラートに包んだのだろうが、ややどっち付かずの印象。
デビュー作にありがちだが、筆致が上滑り気味である点も否めない。
以上を総合してこの評価としたが、技術的には相当レベルの高い作品


No.120 7点 魍魎の匣
京極夏彦
(2015/01/06 20:11登録)
「そう。動機とは世間を納得させるためにあるだけのものに過ぎない。犯罪など―こと殺人などは遍く痙攣的なもんなんだ。
真実しやかにありがちな動機を並べ立てて、したり顔で犯罪に解説を加えるような行為は愚かなことだ。
それがありがちであればある程犯罪は信憑性を増し、深刻であればある程世間は納得する。そんなものは幻想に過ぎない。」
真実はそうなのかもしれないが、動機の合理性を構成要素の一角として認めてきたミステリの歴史と読者に対する強烈なインパクトではないだろうか。
これが著者の持論なのか、主人公の想いなのか、
プロットの一環として淡々と描いたものか、麻耶雄嵩を彷彿とさせるようなミステリのあり様に対する痛烈な皮肉なのか。
この点は他の作品も追いながら確かめたい。
ただこの一節が本作の真相を示唆する秀逸な伏線となっているのは間違いない。
「姑獲鳥の夏」も同様で、「本筋に関係ない蘊蓄が長い」と批判されるが、著者の作品は一見して本筋に無関係と思える部分が、真相を導く伏線やプロットの前提条件となっており、量は多いが無駄ではないというのが公平な評価だと思う。
場面を転々とさせながら事件を断片的に語っていく前半部分も、確かに読み辛い構成ではあるものの、事件解明の効果を最大化するための構成の妙と解し評価。
ただ真相の衝撃度は高いものの、プロットの合理性・納得感、謎解きの論理性、トリックの実現可能性等の点で減点せざるを得ない。
著者がそこで勝負していない点は百も承知のうえで。
作品自体が難解であること、世評があまりにも高いこと等も含め、評価が非常に難しいが、一個の読み物としては評価したうえで本格ミステリとしてはこの評価に落ち着いた。
読み手の志向によって評価が分かれる作品


No.119 8点
麻耶雄嵩
(2014/12/29 10:52登録)
ネタバレを避けるためには多くは語れないのだが。
1つ目のトリックを敢えて見え見えにさせることで、2つ目のトリックの存在を巧妙に隠蔽。
それでいて、随所でかなりの綱渡りを演じ切っており、誤認強化と伏線配置のバランスが実に巧妙。
2つ目のトリックは、ありふれた手口を単なるサプライズではなく、事件の真相を解明するために不可欠な手がかりとして使用している点、1つ目のトリックとの補完構造になっている点が画期的。
事件の謎自体に意外性が乏しい点が難点だが、焦点はそこではない。
一見すると中盤までは凡作に見えるが、それさえも作者の意図するところ。
敢えて凡庸なローキックを連発し、狙い澄ましたハイキックで一発KO。
作者らしからぬ地味な印象を与えるが、計算され尽くしたゲーム運びはさすがの一言で、再読して良さがわかる作品


No.118 5点 謎解きはディナーのあとで 2
東川篤哉
(2014/12/22 11:38登録)
近隣の図書館に蔵書があったので読了。
基本的な骨格は第1作と同様。
作品によってバラツキはあるもののロジックもトリックも第1作よりは確実に落ちる印象。
「楽しめる」と言える最低レベルを死守


No.117 6点 消失グラデーション
長沢樹
(2014/10/30 15:18登録)
椎名康・樋口真由・網川緑等の主役級キャラクターの造形が軒並み個性的で、序盤から猛烈に違和感が漂うが、豪快なメイントリックで回収するのが読みどころ。
事件の核となる転落と消失のハウダニットは正直言って小粒。
偶然介在した登場人物が事件の成立に不可欠であるというご都合主義、犯行現場における登場人物の衝動的な行動が欠点。
ただ真相を隠蔽する細かなミスディレクションが巧妙に組み立てられているのは間違いない。
メイントリックは巧妙・徹底を通り越してやり過ぎの感。
決定的に不自然な一言はやはりアンフェアの印象であり、序盤に漂う違和感は解消されるが別の違和感を残す真相。
力作である点は万人が認めるところだろうが、「離れ」が「母屋」より大きくなってしまった印象で、完成度の面で課題を残す


No.116 7点 殺意は必ず三度ある
東川篤哉
(2014/10/03 20:53登録)
まずベース盗難事件という冒頭の掴みが強烈。
第一の犯行は局面が限定され過ぎていてほぼハウダニットと化している中、秀逸なトリックで切り抜けた。
加えて見立てを活かしたベースの処理が抜群。
完成度にはやや難があるものの、鮮やかなインパクトを残す佳作。


No.115 8点 どんどん橋、落ちた
綾辻行人
(2014/09/30 20:57登録)
物語としての魅力を敢えて削ぎ落とし、本格の要素だけを剥き出しにした個性的なパズラーが並ぶ。
フェアプレイを意識しつつ、サプライズを両立させることに成功しており、騙しの技術は絶品と言える。
また綾辻行人自身を主役としたメタフィクショナルな構成とすることで、推理作家としての苦悩を描き出す私小説的な雰囲気も漂う。
最近のホラー寄りの作品にはない、本格の稚気が堪能できる作品


No.114 7点 超・殺人事件―推理作家の苦悩
東野圭吾
(2014/09/19 19:56登録)
下世話な楽屋ネタといってしまえばそれまでだが、示唆に富んだ作品だろう。
ミステリの本質から外れた記載が延々と続く長編群、ミステリ・ランキングの一位だけが売れて後は死屍累々というミステリ界の現状に一石を投じる作品。
パロディとしてはほぼ最高級の評価で、ミステリを愛する方ほど読む価値のある作品


No.113 7点 メルカトルと美袋のための殺人
麻耶雄嵩
(2014/09/19 19:55登録)
例によってミステリや名探偵のコードをことごとく打ち破る銘探偵のあり様が見事で、一筋縄ではいかない作品群。
白眉は「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」。
●●オチという決して褒められない「信頼できない語り手」ネタを斬新な形で使用しつつ、説得力を持たせ、アクロバティックな解決に導く剛腕に脱帽。


No.112 6点 ジークフリートの剣
深水黎一郎
(2014/09/19 19:54登録)
ワーグナーや「ニーベルングの指輪」に対する解説と考察は素晴らしいが、本格ミステリとしては食い足りなさを感じる。
完全犯罪であるが故に、ラスト直前に真相が浮かび上がるとする構造は、コンセプトとしては理解するもののやはり弱い。
地味な伏線を丹念に拾いあげた作業には加点評価。
ミステリに何を求めるかによって評価がわかれる作品


No.111 6点 点と線
松本清張
(2014/09/19 19:53登録)
本格ミステリ凋落の原因とされている作品。
舞台設定や犯行動機は社会派風であるもののプロットの骨格は本格だと思う。
とりわけ最大の謎である「空白の四分間」は映像映えするもので極めてキャッチー。
メイントリックは時代性を反映しており、経年劣化はやむを得ないとしても、補強する状況証拠の真相はチープ。

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