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ミステリの祭典

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ジークフリートの剣
芸術探偵シリーズ

作家 深水黎一郎
出版日2010年09月
平均点6.78点
書評数9人

No.9 6点 メルカトル
(2021/03/23 23:28登録)
天賦の才能に恵まれ、華麗な私生活を送る世界的テノール歌手・藤枝和行。念願のジークフリート役を射止めた矢先、婚約者が列車事故で命を落とす。恐れを知らぬ英雄ジークフリートに主人公・和行の苦悩と成長が重ね合わされ、死んだ婚約者との愛がオペラ本番の舞台で結実する。驚嘆の「芸術ミステリ」、最高の感動作。
『BOOK』データベースより。

いやー惜しいですねえ。私がオペラに詳しければ、せめて『ニューベルングの指環』の筋を知っていればもっと点数は上がったと思います。私の少ない知識はフランシス・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録』の空撃シーンで使用された『ワルキューレの騎行』くらいですからね。
でも、実際導入部で霊感師の老婆が有希子の死を予言する場面を読んだ時には、これはひょっとして傑作じゃないのかとの予感はありました。

ですが、全編オペラに終始し、これは果たしてミステリなのかと疑いを持ちながらの読書となりました。実はそれが作者の目論見に見事に嵌ってしまった結果だというのは、全てを読み終えてからでした。物語の中に埋もれたほんの些細な出来事が、事件の伏線でありミステリを構成する上での重要な手掛かりとなる訳で、それらの数々を読み流してしまった私はまんまと落とし穴に落ちていったのでありました。
しかし、私はどうしても傲岸不遜な主人公に感情移入することが出来ず、その意味ではやや辛いものがありました。又、全体の印象が本格ミステリとしての歪さが拭い切れず、何となくやられた感より、モヤモヤした読後感が残りました。

No.8 7点 名探偵ジャパン
(2019/07/08 14:12登録)
面白かったですねぇ。
最後の最後に披露される大ネタ「ジークフリートの剣」は、これ、感動していいんですよね?(笑)ここに至るまでの数々の仕込み、「ああ、あれも伏線だったのか!」ということも含めてが一気に氷塊して、非常にすがすがしい気持ちで読書を終えました。
私は今後、本作のタイトルを思い返すたび、いえ、それどころか全然別の場所、媒体で「ジークフリート」という固有名詞を目にするたび、この「大ネタ」が否応なく思い出されてきて、こみ上げる笑い、じゃなかった、感動を止められないと思います。よく「恐怖と笑いは紙一重」なんて言いますけれど、感動と笑いもそうだと私は思いますよ。いい話です。

No.7 5点 mediocrity
(2019/05/14 19:19登録)
ワーグナーとかクラシック音楽に全く興味がないミステリ愛好者に無理やり読ませたら、多くの人が3点以下を付けるんじゃないかと思うほどミステリ要素は薄い。正直、ストーリーよりも、『ラインの黄金』や『神々の黄昏』の疑問点に対する著者の解釈(登場人物に語らせている)の部分が一番面白かったかも。

No.6 5点 パメル
(2017/06/17 01:09登録)
怪しげな占い師は主人公には不気味な宣告をしそして婚約者には非情にも死の宣告をする
この後この言葉がどう繋がっていくのだろうと惹きつけられる
ただ婚約者は呆気なく死亡してしまうし最後の最後まで全くと言っていい程事件は発生しない
舞台の閉幕が近づいていく中オペラの蘊蓄とナンパな主人公が女性を口説き落とすという展開で物足りなさを感じる
ミステリとしての魅力は少なく極論を言えば序章と終章で成立してしまうストーリー
ラストの数ページでの構成は見事で結末も美しく巧さは感じられたが面白いとは思わなかった

No.5 8点 tider-tiger
(2016/03/03 18:41登録)
オペラ歌手藤枝和行は日本人(テノールに関しては)には不可能とされてきた高み、世界の舞台に立つことが決まった。そんなある日、婚約者のたっての願いで占い師の元を訪れたところ、ひどく不吉な予言をされる。藤枝の婚約者はもうすぐ死ぬという。だが、彼女は死んでも藤枝に尽くそうとするだろうと。藤枝はさして気にも留めていなかったのだが、婚約者は本当に非業の死を遂げてしまう……

このサイトで採点した時点である意味ネタバレとなるような小説です。すみません。
ものすごく現代的なミステリともいえるのですが、作者がなにをするつもりなのかが見えるまでひどく時間がかかるので苛々する方もいらっしゃると思われます。
まあやりたいことはわかるのですが、自分はその点ではあまり衝撃は受けませんでした。その他の点ではどうだったのか?
相変わらず構成は凝っています。
なんでここにギャグを挿入する? と何度か考えさせられました。
展開はやはり地味ですが、読ませます。いつも通り伏線を津々浦々に張り巡らせます。
きちんと作中作(オペラ)がメインストーリーに絡みつき、やがてメインストーリーに浸食していきます。
人物造型は……「天才だと言うんじゃない、それを感じさせてくれ」天才を描いている作品を読んで何度こう思ったか数知れません。
本作の主人公は自分のことを天才ではなく努力型と考えている節がありますが、気質は天才型に近いと思われます。天才という言葉は作中にほとんど出てきませんが、この主人公は感じさせてくれました。
まあそれはいいとして、こいつは極めて独善的で私が大嫌いな意味でポジティブ。なんでも自分の都合の良いように考えるのでムカムカして仕方がありませんでした。天才だろうがなんだろうが関係ない。むかつくもんはむかつくんじゃ!
はい。私は所詮、作者の思惑通りに誘導される単純な読者の一人でありました。
そして、ラスト。素晴らしい。感動的。深水作品の中でも屈指のラストだと思われます。
この作者の弱点として、物語の締め方がイマイチというものがあります。エコパリ、トスカ、シャガールとすべて今一つ(この点ウルチモは良かった)。が、この作品はその弱点をあっさりと克服していました。

疑問点 
1 三人称で書かれた小説なのですが、なぜか唐突に三人称から一人称へシフトする部分が何ヶ所かあるのです。小説作法的には完全にルール違反。読んでいて違和感ありありでした。ですが、この作者のことですから意図があってやっているのでしょう。
作者が文庫版のあとがきで述べていた本作のテーマ、男女の相剋を鮮明にするためかなと自分は考えておりますが、いまいち自信がありません。どなたか御教示下されば幸いです。

※追記 そもそも最初の占い師はなんだったのか。この事件を起こしたなにかが存在しているのでは。私はこの作品の全容をまだ理解できていないように思えます。

No.4 6点 いいちこ
(2014/09/19 19:54登録)
ワーグナーや「ニーベルングの指輪」に対する解説と考察は素晴らしいが、本格ミステリとしては食い足りなさを感じる。
完全犯罪であるが故に、ラスト直前に真相が浮かび上がるとする構造は、コンセプトとしては理解するもののやはり弱い。
地味な伏線を丹念に拾いあげた作業には加点評価。
ミステリに何を求めるかによって評価がわかれる作品

No.3 7点 まさむね
(2011/09/02 22:14登録)
 まずは,作者の豊富な知識,教養に驚かさました。この点だけでも,読む価値があるかもしれません。
 物語としては,序盤から中盤まで比較的淡々と進みます。そして終盤に犯罪が発覚して急発進。個人的には,急発進以降の「展開」が短すぎるかなぁ・・・という印象もありますが,一方で,それがラストに活きているような気もします。ラストは文句なしに秀逸!

No.2 10点 makomako
(2011/02/09 20:48登録)
 今回はついにワグナー。しかも人類が作りえた最大の大作ラインの黄金がとりあげられた。作者の芸術に関する知識は深いことが分かってはいたがこれほどとは思わなかった。フランスへ留学したとのことだがドイツのバイロイトへ何度もいっているようで、クラシック好きにとって羨ましい限り。
 読んでいるうちに音楽が聞きたくなって所有しているショルティー、ベーム、フルトヴェングラー、クナ、メータなどを聞きなおしてしまった。そしてヘルデンテノールはやっぱり希少なのだと改めて認識しながらも、この小説ってミステリー?でもこれはこれでいいやと思っていた。ところが最後の段階となってしっかりとミステリー。最後は実に感動的。こんなことは実際にはありえないと思ったがはるかに感動が大きかった。
 作者は聞くだけで4日もかかるワグナーの畢生の大作についてきちんと説明はしているが、この楽劇に対する興味とシンパシーがないと理解しがたいところがあるので万人向きではないかもしれません。私にとってはとてもすばらしいお話で、読むに従いジークフリートやノートゥングのライトモチーフが頭に響き、最高でした。

No.1 7点 kanamori
(2010/11/03 20:49登録)
芸術探偵シリーズの4作目ですが、初めに不可解な事件が発生し探偵が推理していくというようなオーソドックスな本格ミステリではなく、今回は終盤まで犯罪が隠されている変化球。
オペラ「ニーベルングの指環」の大役を得た日本人テノール歌手の視点で物語が展開していく中、ドイツオペラの蘊蓄・新解釈と死んだ婚約者の”無償の愛”がリンクしていく構成や、占い師の老婆の「もう一つの予言」を主人公が体現するラストが秀逸です。

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