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ミステリの祭典

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魍魎の匣
百鬼夜行シリーズ

作家 京極夏彦
出版日1995年01月
平均点7.92点
書評数148人

No.148 5点 愚か者
(2024/08/19 14:05登録)
確かに弁当箱みたいだ。
一番最初にこの表現をした人は、センスがいいな。
このボリュームに見合った面白さがあればいいのだが、中盤はかなり中だるみして、無駄に長い印象がある。
妖しい雰囲気は好みだし、真相にも驚かされた。

10点満点で採点し直しました。3点→5点

No.147 10点 Tetchy
(2024/03/25 00:25登録)
読了の今、胸に迫りくるのは何ともすごいものを読んだという思いだ。狂おしいほどに切なく、そして悍ましいのに哀しい。
1つ1つのエピソードが荒唐無稽でありつつも、決して踏み入ってはならない人の闇の深淵を感じさせ、見てはならないのに思わず見ずにいられないほど、つまり両手で目を塞いでもどうしようもなく指と指との隙間から見たくて仕方がない衝動に駆られる人外の姿に魅せられてしまう強烈な引力を放っている。

忘れてならないのは箱の存在だ。この小説、実に箱尽くしである。箱、筥、匣の連続だ。
前作が関口巽を主体にした物語であれば今回は木場修太郎の物語であると云えるだろう。
押しが強く、屈強な刑事の木場修太郎は幼い頃は絵を描くのが好きな神経質な子供で算盤の得意な几帳面な性格だった。そんな生立ちから正反対の現在の自身を鑑みて強面の鎧で装飾した中身の空っぽな箱のようだと称する。そしてその中身がどうやったら満たされるのかが解らないでいる。木場は自分の空っぽな箱の中身を見られるのが怖いため、女性との付き合いが苦手なままでいる。しかしそんな彼が思わず自分の箱を開けようとする存在に出遭う。それは木場の憧れの存在、殺人未遂事件に見舞われた柚木加菜子の母でかつて銀幕スターだった元女優美波絹子こと柚木陽子である。彼の箱が柚木陽子で満たされ、彼は事件に本格的に関わるのである。

では箱とは一体何なのだろうか?
ある者は部屋や家屋は箱であるといい、構えがしっかりしていても空では何の役に立たないといい、人もまた同じだと説く。
京極堂は箱には箱としての存在価値があり、中に何が入っているかは重要ではないと説く。
これら様々な意味合いを持った箱は最後に全ての謎が解かれると実に禍々しい存在へと転じる。結末まで読んでしまうと箱を開けたくなくなってくる。

長い下拵えを過ぎてようやく京極堂が登場するとそこからはもう無類の面白さを誇る。どんどん先を読みたくなってくるのである。

しかし何とも不思議な小説である。通常であればこれだけの1,000ページを超える大著ならば長さ、いや冗長さを感じるのだが、それがない。
確かに導入部はまどろっこしさを覚えたが、気付けば300ページ、400ページ、500ぺージが過ぎている。つまり既に通常の小説1冊分を読み終えているほどの分量なのだが、それでも物語はまだまだ暗中模索の状態。
では無駄なエピソードがいくつも書かれているのかと云えば、決してそうではない。全てが結末に向けて必要な要素であり、そしてそこに向かう登場人物たちの行動原理や動機が無駄なく描かれているのが判ってくる。

なんと恐ろしき事件でありながらもなんとも素晴らしい構築美を備えた小説であることか。
それを特に感じさせるのがそれぞれの場面に書かれた心理描写が巧みなダブルミーニングであることに気付かされるからだ。物語の順を追って読んでいく時に感じる登場人物の心理と真相を知った後で同じ場面の心理描写を読むと全く意味が異なってくる。そしてそれが実に的確にその時の本当の登場人物の心情が吐露されていることに気付くのである。

匣尽くしの本書と述べたが、本書の謎という匣が開いた時、我々が知らされるのは究極の愛の形、究極の幸福の姿だった。

我々は常に安心を求めて生きている。誰しもが何の不自由もなく、トラブルもなく、その日その日を一日一日つつがなく過ごすことを求めて日々生きていく。そしてそれを人は幸せと呼ぶ。
しかし不思議なことにその幸せは永くは続かないことを我々は知っている。不安や不幸がいつかは訪れることを知りつつもそれが来ないように願いながら、一日でも永くこの幸福が続くように目の前にある問題を解決して、もしくはそこから目を背けて生きている。
しかし不幸が決して訪れない幸せな生き方があることを本書は示してくれた。それは人であることを辞めることだと。
もういっその事、狂ってしまおうかしらと。

最初はほんの些細な女子中学生の魔が差した行為だった。それがやがて狂気の連鎖を生み、そして最終的には愛する者と死ぬまで添い遂げる1人の幸せな狂人へと至った。

それは妖怪の連鎖でもあった。
怪奇と論理の親和性という本来相容れない2つを見事に結び付け、そして我々を途方もない人の道の最北へと連れて行った本書。
妖怪と医学という人外の物と人智の極致が正反対であるがゆえに実は背中合わせほどの近しい狂気の産物であることを見事に証明した神がかった作品である。

No.146 7点 みりん
(2023/05/28 11:56登録)
姑獲鳥の夏が合わなかったのと分厚いのでなかなか食指が動かなかった。が、読み始めると1000ページもあるのに、作者の筆致に酔いながら2日で読み終わった。

【ネタバレあります】



すごい作品であることは間違いない。ラストの匣の中でのやりとりは心を揺さぶられた。魍魎の意味、そして"向こう側"はおそらく京極夏彦以外が書くと陳腐になっただろう。
読後感は悪いけれど、雨宮の救済的エンドは嬉しい。

No.145 8点 密室とアリバイ
(2023/05/02 19:46登録)
今読んだら楽しめた

No.144 7点 ミステリ初心者
(2022/04/23 00:38登録)
ネタバレをしております。

 純粋な本格推理小説というよりかは、広義でのミステリーです。ホラーとして読んだ方が楽しめると思います。
 戦後の雰囲気、妖怪や宗教や占い霊能力の話、カナコ殺人未遂事件にバラバラ殺人事件、カナコ消失、木場の恋(?)、久保の狂気…長さに見合った、濃厚な作品でした。京極堂のいう通り、推理小説的には一本の事件でもなく一人の犯人でもありません。しかし、それぞれの要素がうまく物語に絡んでおり、よくまとまった印象なのは素晴らしいです。
 また、個人的には、姑獲鳥の夏にくらべて読み易さが向上した印象があります。これは原因がよくわかりませんが、姑獲鳥の夏は鬱ぎみの関口による主観文章が大半であり、すこし暗かったように思えましたが、それに対し今作は鳥口や榎木津など明るくて面白いキャラクターの出番も多かったせいかもしれません。

 推理小説的要素について。
 大きなトリックや論理的犯人当てはありません。カナコの消失トリックも、さんざん伏線があったので、発想自体は気づきました。ただ、あそこまで大幅に取り除かれていたとはまったく予想できませんでしたが…(涙)。
 消失トリック自体よりも、美馬坂のしていたこと自体がおぞましく感じられ(そう感じること自体が間違っているかもしれませんが)、ホラーの感じが強いです。久保の狂気や、手術をして箱に入ったときの主観文章は、どこか乱歩の有名作品と同じような気持ち悪さを感じてしまいました。カナコのこともあり、後味が悪い作品ではありますね(涙)。

 そういえば、雨宮はどうなったのでしょうね…?

 総じて、推理小説的要素に関しては薄いですが、ホラーとしてみた場合は厚みがある作品でした。トリック自体よりも、それを利用した物語の組み立てが素晴らしく、姑獲鳥の夏よりもさらにオリジナリティも感じました。
 ホラー作品は推理小説的技術の評価がしづらいので、話の面白さや個性で点を上下させようと思いますが、なかなか良かったので7点としました。

No.143 10点 じきる
(2020/08/23 18:02登録)
ミステリの枠を超えた極大エンタメ。
初めて読んだ時の衝撃と、彼岸を垣間見たような感覚は忘れられません。

No.142 6点 ミステリーオタク
(2020/07/04 06:49登録)
休肝日の睡眠導入薬として利用させてもらった。
変な夢をたくさん見ることができた。

No.141 8点 雪の日
(2020/04/15 15:08登録)
面白いけど、トリックはダメかな。

No.140 2点 mays
(2019/05/19 21:39登録)
つまらなかった、いやあつまらなかった.ムダに長い

No.139 9点 モンケ
(2019/03/15 12:22登録)
「押絵と旅する男」オマージュ、転倒された「妖魔の森の家」、耽美幻想文学とSFとホラーとミステリーの見事なる融合。
これぞ日本文学史上の傑作の一つと言うべし。

No.138 9点 monica
(2019/02/22 21:49登録)
まずは人物の描写がスゴい。
この作家の特徴でもあると思う。

その上、展開力がスゴい。
謎解き、トリック、という言葉を軽々しく
使えないほど、真相は悲劇であり、
「匣」は色々な人を狂わせた。

前作に比べドラマ性が高いと感じた。
そしてシリーズにハマったことが幸せだった。

No.137 10点 mediocrity
(2019/02/21 21:24登録)
こんなに話を広げまくって纏まるのかとハラハラしましたが、序奏や間奏曲のような部分までもが回想されつつ最後には見事に収束したのには驚きました。

No.136 5点 バード
(2019/02/11 15:14登録)
読んでて疲れた。
なんつーか作者と相性悪いのかなという感じ。まぁ、このことについてはデビュー作も読んでから判断しよう。

大した事件でないものを組み合わせて複雑に見せてる。加奈子殺人未遂もしかけなし、ばらばら殺人の犯人も意外性なし、須崎とか雨宮とかの犯行も行き当たりばったりと、雰囲気でごまかしてるけど面白くない。結局しょぼいものを組み合わせてむりやり読めるものに仕上げたって感じなんだよなあ。奇しくもばらばらを併せて一つの人体だよと見せられた感じといえばいいのかな。


京極堂の薀蓄もへぇーとは思うけど、それほど魅力的に感じず、わずらわしい。他のキャラも共感しにくい奴が多すぎる。

長い話だが、最後まで一気に読ませる力はあったので、その分+1点して5点で。
愚痴ばかりになりそうなのでこの辺でやめます。

No.135 8点 斎藤警部
(2018/10/31 22:58登録)
「お弁当」という当たり前の単語が・・・こんなにも・・・・(本の形状じゃありません)

処女長篇『姑獲鳥の夏』に違わずというか、ぶれないスタイルですが、内容の深さは結構な差で二作目のこちらと感じました。読みやすさは変わりません。まるで大衆文学の理想郷です。

読中ふりかえるたび、驚きと背中合わせの納得と、引き換えに却って深まる謎。。。そこに時系列操作への確固たる意志。この長い長い物語の中でそいつをやられるとクラクラ来る度合いも殊更に罪深い。やはり、小説分量もトリックのうち、と来やがるんですね。 探偵役候補が四人もいるかの如き麻雀蜃気楼も心地よし。気になる気になる”前半部略”連打も効きました。 そこへ来て今度は”以下略”の、奥が見えぬ追撃。。

「あんたの言葉はーーー 少しは届いていたぜ」
「今朝ーー 五つになったんだ」

消失トリック。 その片側は驚くほどショボイもの。

中盤のオカルト談義では近年のLGBT論に通じる痛恨の”誤解解きたい”ディザイアーの蠢きが刺さりました。 しかし、警察手帳に入れてたんかい、「それ」(笑)。

消失トリック。 ところがもう片側の。。。。。。。。。。。。。。。。

No.134 6点 レッドキング
(2018/05/31 21:39登録)
つまるところはSF密室トリックね

No.133 10点 邪魅
(2017/02/26 15:43登録)
徹夜明け、そろそろあたりも明るくなってきたかなあって頃に読み終わり、真相の衝撃ったらなかったですねえ

確かに人体消失の謎を解くにはそれなら有りうる、さもありなんというところですか
しかし普通そんなこと考えないですよ
だからこそ凄い

魍魎の匣というタイトルも凄い
妖怪が好きな分なおさら思いました

No.132 10点 羊太郎次郎吉
(2016/10/20 07:18登録)
国内ミステリ界におけるグロ系ミステリーの最高峰。事件もグロいが人間関係や登場人物の考え方もグロい。姑獲鳥の夏の衝撃も吹っ飛ぶ京極夏彦の最高作品。

陽子には死刑になって欲しいのだけど、何年かしたら出所してくるのかな。死にかけの母親をいびり倒し父に迫り加奈子の夜遊びを放置し仕方なかったとはいえ周りを騙し続けた罪は、考えようによっては久保や父親より重いと思うんだが。

No.131 7点 風桜青紫
(2016/07/16 01:39登録)
ながったらしい話だが、文章や会話がいちいち面白いのでスラスラ読める。トリックについては驚いたという意見も多いようだが、(かなり異様ながら)既出のトリックの派生という印象が強かったので、『姑獲鳥』ほどの衝撃はなかった。しかし作品全体のバランスはこちらのほうが上か。島田荘司と並ぶ天才バカミス作家である。

No.130 7点 龍樹
(2016/02/13 18:02登録)
基本点:5点
エスエフ的な密室トリックに:+1点
怪奇譚とミステリの融合に:+1点
合計:7点

話としては「姑獲鳥の夏」より豊かだが、肝の部分では一歩譲っている。

No.129 10点 ロマン
(2015/10/21 14:51登録)
事件は別々に起こる。人身事故から物語は始まる。一方ではバラバラの腕や脚が見つかり、他方で死にかけの人間の誘拐が起こり、また違うどこかでは霊能者が魍魎を操り金銭を預かる。それらの別々の事件は、匣という共通点を持ちながら、どこかで繋がり、しかしどこかに齟齬がある。それはまるでオカルトの様に。事件の断片は、ブラックボックスに詰め込まれて、全てが同じものとしてレッテルを貼られる。そのひとつひとつを、その境界面を解き明かして解きほぐして、言語化する。そのミステリをミステリたらしめた境界面たる「魍魎」に乾杯。

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