消失グラデーション 樋口真由“消失”シリーズ |
---|
作家 | 長沢樹 |
---|---|
出版日 | 2011年09月 |
平均点 | 5.64点 |
書評数 | 11人 |
No.11 | 6点 | パメル | |
(2021/02/05 18:14登録) 第31回横溝正史ミステリ大賞の大賞受賞作。 私立藤野学院高校の2年生で、バスケット部員の椎名康は、奇妙な事件に遭遇する。誰もが認める才能がありながら、女子バスケット部で浮いていた綱川緑が、校舎の屋上から転落。地面に横たわる緑を助けようとした康だが、何者かに襲われ気絶。緑は消えてしまった。 しかし学校は、昨年に起きた連続窃盗事件の対策により、防犯カメラで監視されている。なぜ緑は転落したのか、どうやって消失したのか。康は、独特の言動と雰囲気を持つクラスメイトの樋口真由と共に、事件の調査を始める。 康が女子学生とイチャついている場所に真由が現れ、思いもかけない事実を告げる冒頭から、ストーリーは意表を突きながら進む。謎が少しずつ解き明かされるにつれて、康の心が大きく揺れ動いていく心情が丁寧に描かれ、青春ミステリとしても大きな魅力となっている。 主人公を筆頭にした少年少女のキャラクターの立て方も巧みで、人間消失の謎も魅力的。ある人物の設定が、ややご都合主義に感じられたが、その人物視点の描写でフォローが入れられているので許容範囲でしょう。 |
No.10 | 5点 | E-BANKER | |
(2017/06/03 22:00登録) 第三十一回横溝正史ミステリ大賞の受賞作。 もちろん作者のデビュー作品。2011年発表。 ~私立藤野学院高校のバスケ部員・椎名康は、ある日、校舎の屋上から転落し、痛々しく横たわる“少女”に遭遇する。康は血を流すその少女を助けようとするが、何者かに襲われ、一瞬意識を失ってしまう。ほどなくして目を覚ますと、少女は現場から跡形もなく消えていた! 開かれた空間で起こった目撃者不在の被害者消失事件。複雑に絡み合う青春の傷と謎に多感な若き探偵たちが挑む~ これは・・・中年のオッサンが読むものじゃないな。 高校のバスケ部員たちが巻き込まれる消失事件と、複雑な恋愛模様!(←表現が古い) しかも、出てくる奴がいちいち美少女か美少年ってどういうこと? そんなのありえる? などと邪念たっぷりに読み進めていった・・・ 紹介文のとおり、謎の焦点は「(ほぼ)密室状態からの被害者消失」。 ただ、これについては他の方々もご指摘のとおり、決して褒められた解法ではない。 (ほぼ)密室状態を成立させるピースがあまりにも偶然すぎるということは明らかだし、トリックがラフすぎる。正直、途中までは「これで横溝正史賞?」っていうレベルと思っていた。 で、終章近くになって炸裂するのが「例のミスリード」だ! こりゃ確かに大技なんだけど・・・強引すぎないか? これを成立させるため、作者が冒頭から相当気を使っているのは分かる。伏線もそこかしこに撒かれているのも後で気付いた。 でも、アンフェアな表現が結構多いように思うし、それ以上に、これをプロットの軸に据えること自体、作者のセンスっていうか方向性に相容れないものを感じた。 まぁこういう切り口もないではないんだろうけど、それよりは消失事件のトリックを煮詰めて欲しかったなというのが偽らざる感想。 そうは言いながらも、普通に騙されていた自分がいたりして・・・ (こんなドロドロした複雑な学園&部活なんて嫌だ!) |
No.9 | 4点 | 青い車 | |
(2017/02/09 19:13登録) 今まででいちばん期待と読み終わった満足度との落差が大きかった作品かも……。登場人物はどれも共感し辛いし、テンポの悪い文章で先が読みたいと思えないし、何より無理やり都合のいい偶然ばかりで成立させた事件があまりに興ざめでした。少なくとも新人賞受賞に相応しい作品とは思えないのが正直なところです。続篇は滅多なことがない限り読まないだろうなぁ。 |
No.8 | 7点 | パンやん | |
(2016/04/08 08:24登録) 謎のヒカル君の扱いや消失トリックには疑問も浮かぶが、それをカバーして余りある、バスケ部や学園生活のキャラ立ちの面白さ。この事件が起きるまでが、別学の小生は大いに萌え、コロッと引っ掛かるのであった。 |
No.7 | 6点 | 名探偵ジャパン | |
(2015/06/21 22:17登録) 店頭で平積みされた本書の、表紙よりタイトルより、帯に書かれた文に先に目が行った。 「横溝正史ミステリ大賞受賞作」 表紙とタイトルを見直してみたら…。これはどう見てもケータイ小説か何かではないのか?「横溝正史」という大作家のイメージとあまりにかけ離れている…。これは読んでみるしか。と、レジへ。 表紙の印象通り、主人公である高校生の日常が始まる。一人称の語りから、早くも、「これはもしや、『あれ』では?」と怪しいスメルが漂ってくる。(最終的に的中してしまうが…) バスケ部のエースを巡る問題、対立、主人公のいびつな恋愛模様。ちょっと複雑な青春の一ページ…。 私はここでブックカバーを外し、改めて帯の煽りをもう一度読む。 「横溝正史ミステリ大賞受賞作」? 出版社、帯を掛け間違えてないですか? 中盤に差し掛かる辺りでようやく事件が起きてミステリになるのだが、正直そこに至るまでが非常に辛かった。もう私はミステリしか読めない体になってしまったのかもしれない。 で、肝心のオチだが、皆さんおっしゃる通り、偶然と数々のラッキーが味方してくれた、場当たり的犯行で、ちょっと都合良すぎるな、と思ってしまった。 的中してしまった『あれ』については、私も腑に落ちない表記があるな、と感じた。 犯行(消失)動機についても、「そこまでするか? きちんと話し合えよ」と思わなくもない。そういう思慮の短絡さも踏まえての高校生、という設定なのか。 作者の「本格を書いてやろう」(読者を騙してやろう)という気概は大いに感じた。 |
No.6 | 5点 | メルカトル | |
(2015/01/22 22:28登録) 主人公の康は女に見境なく手を出して、全く鼻持ちならない存在である。さらには多数の女子高生たちが登場するのだが、どれもこれも可愛げがなく、感情移入する余地がない。青春小説の一面を持つ本作だが、その意味で面白味がないと感じるのは個人的な印象なのだろうか。 事件はなかなか発生しない。それまで延々といわゆる青春群像劇を読まされるわけだが、少々退屈である。主人公の「僕」はなんとなく覇気がなく、相方の真由はやや生意気で、ダラダラした感じが否めない。 メインとなる転落、消失事件は至って単純で、特段魅力的な謎ではない。さらには、この事件を追う前述の二人の素人探偵ぶりもなんだかもたついていて、パッとしない印象だ。しかも真相は虫暮部さんがおっしゃっているように、いかにもご都合主義が過ぎる気がする。 この作品の肝となる仕掛けは、二重三重に張り巡らされており、その意味では目新しくはあるのだが、驚かされたのは最初だけで、なんだかアンフェアな気分にさせられるため、損をしているのではないだろうか。素直に騙されたという感慨が感じられない。 |
No.5 | 5点 | kanamori | |
(2015/01/14 20:41登録) 男子バスケ部に所属する”僕”椎名は、校舎の屋上から転落し横たわる女子バスケ部員に遭遇するも、何者かに襲われ意識を失っているあいだに、彼女は忽然と消えていた。椎名は同級生の樋口真由とともに消失事件の謎に挑むが----------。 高校の女子バスケ部を中心とした個性的な生徒たちの複雑な青春模様が長々と描かれたのち、防犯カメラの監視による密室状況からの人間消失という謎が提示されるが、はっきりいって消失のトリックは残念レベル。 逆に、本来そのトリックを成立させるためのサブの仕掛けの部分が中核の読ませどころとなっている。 いくつか前例のある仕掛けながら、あざといまでの叙述の技巧を駆使し、しかもそれを複数の人物に仕掛けている点が目新しく作者の工夫といえるが、個人的には騙されても素直に面白いとは思えなかった。 シリアスな学園青春ものとしては読みごたえがある力作でよく出来ていると思えるのですが。 |
No.4 | 6点 | いいちこ | |
(2014/10/30 15:18登録) 椎名康・樋口真由・網川緑等の主役級キャラクターの造形が軒並み個性的で、序盤から猛烈に違和感が漂うが、豪快なメイントリックで回収するのが読みどころ。 事件の核となる転落と消失のハウダニットは正直言って小粒。 偶然介在した登場人物が事件の成立に不可欠であるというご都合主義、犯行現場における登場人物の衝動的な行動が欠点。 ただ真相を隠蔽する細かなミスディレクションが巧妙に組み立てられているのは間違いない。 メイントリックは巧妙・徹底を通り越してやり過ぎの感。 決定的に不自然な一言はやはりアンフェアの印象であり、序盤に漂う違和感は解消されるが別の違和感を残す真相。 力作である点は万人が認めるところだろうが、「離れ」が「母屋」より大きくなってしまった印象で、完成度の面で課題を残す |
No.3 | 7点 | 虫暮部 | |
(2014/05/07 11:01登録) 気になるのは、ヒカルという御都合主義的に特殊なキャラクターの存在が事件の成立に不可欠であること。しかも彼が事件に関わったのは全くの偶然であること。 まあそれはそれとして、びっくりはさせられたし、良く出来た青春ミステリだと思う。 |
No.2 | 6点 | まさむね | |
(2012/05/26 15:58登録) 横溝正史ミステリ大賞受賞作。昨年度の各種ミステリランキングでも,なかなかの高評価でしたね。 この作品の「肝」は何点かあると思うのですが,そのうちの1点は,結構序盤からプンプンとした臭いが。とは言え,完全に見切ることはできず,大胆かつ巧妙な仕掛けには感心いたしました。 ちなみに,読後に検証してみたのですが,どうしても腑に落ちない「表現」がございますねぇ。そこがちょっと不満です。 |
No.1 | 5点 | HORNET | |
(2012/03/25 06:44登録) 女子バスケ部員がクラブ棟の屋上から転落し、その後姿を消してしまう。事故か自殺か殺人か・・・背後には、女子バスケ部員である被害者と部員との確執が。学園に侵入する窃盗犯「ヒカル」の話も伏線としてうまく絡められている。 学校という身近な舞台と,登場人物のキャラクター,軽妙な筆致で苦なく読み進められる。が,作者の仕掛けが,事件の真相とはあまり関係ない気もする。そういう点で,騙された感はあるものの,ミステリとしての評価はそこそこ。 |