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ミステリの祭典

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いいちこさんの登録情報
平均点:5.67点 書評数:541件

プロフィール| 書評

No.241 5点 なぎなた
倉知淳
(2016/03/01 16:41登録)
メタミス的なアプローチを活かした「こめぐら」より本格テイストを増し、嗜好にはフィットしているが、その分だけ小粒感が増し、インパクトでは見劣りするとも言える。
ユーモアあふれる筆致の楽しさとリーダビリティの高さは「こめぐら」と同様。
両作とも最低限の水準にはあるものの、作者の本来の力量から期待する水準には遠く及んでおらず、五十歩百歩の印象


No.240 5点 こめぐら
倉知淳
(2016/02/25 16:04登録)
メタミス的なアプローチを活かした軽妙なバカミスが並ぶ。
ユーモアとリーダビリティの高さには見どころがあるものの、ミステリとしての骨格は至って小粒


No.239 5点 黒白の囮
高木彬光
(2016/02/25 16:03登録)
真犯人を隠蔽するための大胆な仕掛けが光るが、それ以外には傑出した点は見受けられない。
犯行に至る動機や犯行の全体像の解明プロセスが曖昧であり、その点にも弱さを感じる


No.238 5点 パラレルワールド・ラブストーリー
東野圭吾
(2016/02/19 20:44登録)
好き嫌いの範疇に属する話で恐縮だが、作者の描く女性は総じて従順で没個性な古典的女性像が多いように感じられるところ、本作のヒロインはとりわけ人間的魅力に欠けており、主人公2人がこの女性を巡って熾烈な争いを演じる点には、強い違和感を感じる。
また、彼女の不可解なまでの優柔不断と交際相手の交替が事態を混迷に陥れており、言動に一貫性と合理性が感じられない。
タイトルのネーミングはもはや脱力レベル。
冒頭の山手線と京浜東北線が並走するシーンは、プロットとの親和性と相まって、強く印象に残ったが、正直それだけの作品。
相変わらず洗練されたストーリーテリングを評価してかろうじて5点としたが、同じヴァーチャル・リアリティを扱った「クラインの壷」には遠く及ばない印象


No.237 5点 チョコレートゲーム
岡嶋二人
(2016/02/15 13:51登録)
親子の断絶による家族の崩壊と、それが招いた中学生の暴走を描き出す社会派的プロット。
本格ミステリとしての仕掛け・トリックは平凡で、食い足りなさが残る印象


No.236 6点 ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!
深水黎一郎
(2016/02/12 19:19登録)
改稿・改題版の「最後のトリック」を読了。
作品の性格上、ネタバレにつながる詳細な論評は避けたい。
まず、「犯人=読者」という比類なき奇想を一定程度実現していることは確かであり、その実現にあたって施したさまざまな工夫は、イロモノの印象に反して、堅実で緻密な構成力を感じさせる。
しかし、結果としてプロバビリティの犯罪に止まっており、「読者」の解釈によっては破綻する等、一定の限界を抱えている点は大きく減点。
ただ、本格ミステリ読みを自認する人には一読を薦めたい意欲作であることは間違いない


No.235 6点 ホワイトアウト
真保裕一
(2016/02/12 19:17登録)
アイデアの面白さと構想力、文庫本で600ページを超えるボリュームにもかかわらず、一気読みさせるリーダビリティとサスペンスは評価。
一方、完全装備のテロリスト集団に対して、一介のダムの運転員たる主人公がただ1人で立ち向かうとするならば、ダムの構造や周辺の地理関係に精通している点を活かして、クレバーに対処するのが現実的。
その点、本作では主人公が燃えあがるような気迫をもって、何の装備もなしに2,000m級の雪山や極寒の河川を踏破し、テロリストから強奪した銃でテロリストを打ち負かす等、往年の週刊少年ジャンプを思わせる空想的な超人ぶりを発揮。
その他、犯人集団に潜伏した笠原という異分子が活かされないままに終わるなど、プロットの完成度には明確に難がある。
克明な場面描写とは裏腹に各登場人物の心理描写も浅く、ミステリとしての仕掛けも想定の範囲内


No.234 5点 建築屍材
門前典之
(2016/02/08 20:22登録)
(あらかじめ承知しているものの)拙劣な叙述、淡泊な人物造形は減点材料。
そのうえで、プロットの大宗を占める物理トリックの乱打については、全般にトリックの内容が非常にわかりづらく、犯行のフィージビリティにも問題が散見される点が残念。
ただし、死体消失にかかるメイントリックは、特殊な舞台設定を活かし切り、かつ死体切断の理由に納得感がある点で鮮やかであり、主人公のパンツの傷の手がかりも見事


No.233 7点 絡新婦の理
京極夏彦
(2016/02/04 12:05登録)
作者に本格ミステリを執筆する意図がないのは前提として理解しているが、真犯人があまりにもわかりやすく、犯行のフィージビリティがほぼ皆無である点で、本格読みとしては高い評価は付けられない。
本作の要諦は犯行の構造にあり、それを活かすために複雑極まるプロットが組み立てられているのだが、その構造が作品中盤に明らかになってしまうなど、プロットの完成度の点でも疑問。
作品の持つ力作感や1個の読物としての面白さを最大限評価してこの評価


No.232 6点 我らが隣人の犯罪
宮部みゆき
(2016/01/25 15:09登録)
作者の作品としては本格度が高く、無駄を削ぎ落とした筋肉質な構成。
テクニックの高さを感じさせる反面、総じて軽量コンパクトでパンチ力に欠ける印象。
ただ、好感の持てる作風で、人によっては高い評価となるのも頷ける


No.231 5点 11枚のとらんぷ
泡坂妻夫
(2016/01/25 15:08登録)
1個の作品として独立可能な11編のショート・ショートを作中作として組み込んだ長編本格ミステリ。
作中作には、やや強引な箇所もあるものの、容疑者を限定する材料がさりげなく散りばめられている点が巧妙。
一方、犯人が「11枚のとらんぷ」を利用した動機は、それによって容疑者が限定されるという致命的なデメリットを考えれば、やや不可解と言わざるを得ない。
また、ミステリ・パズルのような乾燥したストーリーテリングは、キーとなる登場人物が多く、かつ視覚的なイメージが重要である本作のプロットとの親和性は至って低い。
以上、プロットの組み立てに巧妙さ・斬新さが感じられるものの、作品の完成度としては今一つの印象


No.230 7点 龍神の雨
道尾秀介
(2016/01/21 20:39登録)
二組の兄弟の偶発的すぎる接触、「雨」や「龍」のこじつけめいたメタファー、読者に対するミスリード(特に脅迫状等)のあざとさ等には難を感じるし、真相は美談にまとめすぎてやや安易な印象を受ける。
ただ、登場人物ごとの虚実を微妙にずらした巧妙なプロットと、それを活かしたミスリードの手際はさすが。
例によって少年を描き出す手腕には卓越したものがあり、圭介の母と兄を想う切ない気持ちは心を強く打つものがあった。
ラジオニュースを活用して作品に余白を持たせる手際も洗練されており、作者の余裕すら感じる


No.229 5点 化石少女
麻耶雄嵩
(2016/01/19 18:09登録)
推理の無謬性を保証するのは、推理そのものの合理性・論理性ではなく、探偵存在の絶対性であるとの認識に立ち、その探偵を「神様」→「赤点女子高生」→「あぶない叔父さん」と遷移させてきた昨今の試みの一環。
ミステリの本質的構造・脆弱性に斬り込む企みとしては面白い。
探偵が生徒会メンバーを犯人とする恣意的な前提に立ち、与えられた手掛かりからその前提を満たす解決を構築する手順は、受容性こそ全く相違しているものの、基本的には「さよなら神様」と同工異曲。
したがって、同作と同様に、蓋然性を無視した推理が乱発されるものの、推理の反証は存在しない。
この点は連作短編集としての仕掛けには不可欠であるものの、それ故に真相が予測しやすく、衝撃を大幅に減じている点は否めない。
著者ならではの先鋭的な問題認識が読物としての面白さにダイレクトにつながっておらず、昨今の軽量コンパクト路線は脱していない


No.228 5点 切り裂きジャック・百年の孤独
島田荘司
(2016/01/13 17:02登録)
(以下ネタバレあります)
1世紀の時を隔てたロンドンとベルリンを往復しながら、真相を解明するプロットは、傑作「写楽 閉じた国の幻」を想起させるが、真相の衝撃度や合理性、犯行のフィージビリティの点などで遠く及んでいない。
本件原因を猟奇殺人以外に求める立場であれば、5人の連続殺人が立て続けに発生し、それで殺人がストップしたことから、「怨恨」に辿り着くのはそう困難なことではない。
次に、5人もの娼婦が殺害され、性的暴行の痕跡が皆無であるとしたら、犯人が女性であることは当然想定される真相であり、警察がそれを全く顧慮しなかったとは考え難い(「ハサミ男」と同様)。
死体が切開されている理由も、猟奇殺人でないのであれば、現実の犯罪ではともかく、ミステリの世界では真っ先に疑うべき真相である。
こうした意外性に乏しい真相に対し、一方では意外性を演出するため平々凡々とした犯人像を選択したため、その動機の納得性や犯行経緯の合理性に疑問が残り、手際の異様な洗練とのギャップも激しい。
死体によって損壊の度合いが大きく相違する点も、単に犯行が露見しそうだったためという褒められない結論。
一方で、犯行動機や犯人の人物像に対する掘り下げも弱く、サスペンスとしての盛り上がりもいま一つ。
題材の選択や目の付け所が興味深く、5点の評価としたが、ワンアイデアに賭けた作品でありながら、そのアイデアが弱く、これ以上の評価は付けられない


No.227 6点 砂の城
鮎川哲也
(2016/01/13 16:58登録)
時刻表の盲点を突いたアリバイトリックは、非常に古典的なもので、現代の読者にとっては、いささか古さを感じさせる印象。
しかも、犯行に利用された経路以上に合理的な経路が存在することが判明し、後日加筆・修正されているのだが、相当に苦しいエクスキューズとなっている。
サブトリックも含めて、論理性・合理性・フィージビリティには見るべき点もあるのだが、トリックの難易度が低く、衝撃を演出できていない。


No.226 7点 猫丸先輩の推測
倉知淳
(2016/01/08 20:09登録)
まず「推測」というアプローチ自体が強烈な奇想。
一見、作者の開き直りや稚気であるように見えて、後期クイーン問題「作中で探偵が提示した解決が真の解決であるか、作中では証明できないこと」に関する秀逸な回答とも言える。
猫丸先輩の推測には高い納得性があり、推測される真相がもたらす衝撃も十分。
本作のプロットは、真相が飛躍しすぎていると納得性に欠け、真相の飛躍が足りないと面白みに欠けるが、実に絶妙なバランスを保持しており、作者の力量の高さは疑い得ない。
ほのぼのとしたユーモアあふれる作風は、長編では軽量さが目に付くところ、短編では軽妙さと斬れ味が相まって完全にフィット。
登場人物に悪人が皆無で、爽やかな読後感も素晴らしい。
短編、しかも日常の謎系としては満点に近い評価


No.225 4点 高層の死角
森村誠一
(2016/01/05 17:26登録)
密室トリックは添え物程度の扱いで、メインはアリバイトリック。
移動経路のトリックは、ただ複雑なだけで警察が地道に捜査すれば必ず真相が判明するだけに、本質的には単なる眼くらましでありトリックとは言い難い。
チェックインのトリックは、ディテールに巧緻さが感じられるものの、その構造上必ず共犯が必要である点、それが第二の殺人の動機と矛盾しているように感じられる点等が非常に難点。
刑事・被害者女性・犯人の歪んだ三角関係をより深く抉り出せば、違った展開も見えたように思うものの、その方向には展開しなかった。
以上、力作感はあるものの、本格ミステリとしては構造的に極めて脆弱であり、評価としては4点の最上位クラス


No.224 6点 太陽黒点
山田風太郎
(2015/12/29 12:56登録)
犯行計画の成立性をはじめ、本格ミステリとしての色彩は淡泊だが、序盤に大胆な伏線を仕込みつつ、一風変わった恋愛小説のようなプロットで、読者を煙に巻く手際は鮮やか。
古典的ミステリとは一線を画す仕上がりは、その時代性を考えれば、著者の高い先見性を窺わせる


No.223 6点 動機
横山秀夫
(2015/12/25 16:56登録)
4作とも水準を超えるデキであることは間違いない。
無駄のない硬質な文体ながら、各登場人物の心理を抉り出すような描写が冴えている。
ただ各話における反転の構図にやや一本調子さも感じてこの評価


No.222 6点 白昼の死角
高木彬光
(2015/12/25 16:55登録)
天才的犯罪者との触れ込みにもかかわらず、手形詐欺の手口がチープでリスキーであり、説得力に乏しい。
力作であることは認めるものの、時間の経過とともに陳腐化した印象を禁じ得ない

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