いいちこさんの登録情報 | |
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平均点:5.68点 | 書評数:565件 |
No.345 | 5点 | 64(ロクヨン) 横山秀夫 |
(2017/08/23 10:45登録) 著者の各作品は、組織の論理に対する個人の葛藤を延々と抉り出す内面描写が特色であり、それが作品の奥行きに繋がってきたし、私自身も愛読してきた。 しかし、本作では叙述があまりにも演出過剰であり、かつボリュームもやたら多く、いくら何でもクドすぎる。 過剰な情感を込め、著者はお涙頂戴に盛りあがっているのだが、私には大袈裟な表現・演出に映り、シラけて置いてけぼりになってしまった。 読んでいて疲労感を感じるし、作品の余白にも乏しく、何よりリアリティ・臨場感が感じられない。 ミステリとしては、犯人特定のプロセスがあからさまに無理筋であり、主人公の娘の失踪が結果として当該プロセスを成立させるためだけのご都合主義的な設定に終わってしまった点でも減点。 散々批判したものの、作品全体としては一定の水準に達していることも事実だが、期待外れの印象も強く、本サイト上における毀誉褒貶の激しさも、さもありなんという印象 |
No.344 | 7点 | マドンナ 奥田英朗 |
(2017/08/19 16:24登録) 企業の中間管理職を主人公に配し、会社や家庭におけるドタバタをコメディタッチに描いた短編集であり、いずれの作品も純粋に読物として面白いのだが、それだけに止まらない。 「ダンス」では「個の尊重」と「協調性」の両立、「総務は女房」では主人公の硬直した価値観・倫理観に起因する葛藤、「ボス」では女性の上司を持った男性管理職の悲哀・憤慨等、各短編の主題に著者の高い先見性と今日的な問題意識が活かされていて、実に見事。 人間観察眼の確かさと人物造形の巧みさもあいまって、誰もが共感できる、実に読ませる作品に仕上がっている。 会社人間・仕事人間と、その家族にとって必読の作品と言えよう |
No.343 | 7点 | 十五少年漂流記 ジュール・ヴェルヌ |
(2017/08/19 16:17登録) 明快で完成度の高い舞台設定・プロット、登場人物の配置の妙などもさることながら、勤勉・勇気・思慮・熱心があれば、いかなる困難にも打ち勝つことができるとのメッセージが強く印象に残る佳作 |
No.342 | 5点 | 邪魅の雫 京極夏彦 |
(2017/08/08 16:49登録) 本シリーズは、これまで「やたら長いが無駄はない」計算された構築美に見どころがあったが、近作はいずれも完成度が低下し、「やたら長くて無駄が多く感じる」。 とりわけミステリとしては、真相解明が論理的とは言えない点に加え、その核が小さい割りには事件・登場人物のいずれもが、余りにも多すぎる。 読物としての主題のまとめ方には唸らされる面もあるが、真犯人(?)の人物造形が魅力に乏しい点も大きな減点材料 |
No.341 | 7点 | 夢幻花 東野圭吾 |
(2017/07/26 16:19登録) 例によってミステリとしては水準程度の作品であり、読者がロジカルに到達できない真相から、本格としては水準にも達していない。 しかし、一見無関係と思われる細かな伏線を余すところなく回収し、「負の遺産」というテーマに収斂させていくプロットの完成度、明快な叙述によるストーリーテリングの高さは抜群。 主要登場人物がことごとく過去に挫折した経験を持ちながら、懸命に生きていく姿は、逆境に立ち向かう読者へのエールとなっており、読後の印象も極めて爽やか。 著者の実力が遺憾なく発揮された佳作であり、作品のデキには文句はないのだが、著者には「良質な量産品」の域を超える「畢生の本格ミステリ」を書いてもらいたいところ |
No.340 | 5点 | スイート・ホーム殺人事件 クレイグ・ライス |
(2017/07/25 11:41登録) ミステリとしては水準程度。 ホームコメディタッチのミステリとして良さが感じられる作品だが、例によって直訳一辺倒の翻訳(特に指示代名詞)がリーダビリティを大きく減じており、損をしている印象 |
No.339 | 5点 | 裏口は開いていますか? 赤川次郎 |
(2017/07/20 15:08登録) ブラックコメディタッチのホーム・サスペンス小説で、ミステリとしてはご都合主義というよりも、予定調和的すぎて見どころに乏しい。 ただ、倦怠期を迎えた中年夫婦のW不倫、金銭の詐取を狙った誘拐と詐欺、若い娘の四角関係への苦悩等、新鮮味に乏しい題材やアイデアを、明解なプロットと軽妙なタッチで見事に料理。 リーダビリティは抜群で、著者の筆力の高さが発揮された作品 |
No.338 | 5点 | 百万ドルをとり返せ! ジェフリー・アーチャー |
(2017/07/17 17:56登録) サプライズに乏しいプロットもさることながら、優秀な詐欺師とされるメトカーフを次々と陥れる4人の計画が、非合理的なうえに極めて稚拙かつ乱暴という、ミステリとしての作り込みの甘さが致命的であろう。 単純明快でキャッチーな主題と、登場人物の造形・描写に見どころはあるものの、コン・ゲーム小説の傑作との世評には賛同しかねる作品 |
No.337 | 4点 | 神津恭介、密室に挑む: 神津恭介傑作セレクション1 高木彬光 |
(2017/07/09 16:09登録) 特に「妖婦の宿」「影なき女」の2作が世上高く評価されている短編集。 無理と無駄の少ない筋肉質なパズラーという作風には好感が持てるのだが、やはり古い。 新本格以降のミステリを渉猟してきた立場としては、退屈に近い古さと言わざるを得ない |
No.336 | 3点 | 龍臥亭事件 島田荘司 |
(2017/07/03 16:18登録) ミステリとしてはご都合主義を超えて、もはや空想的と呼ぶべきレベル。 津山事件の描写には、作者の高い筆力が反映され、日本論・日本人論として見るべき部分もあるのだが、参考文献を無批判にコピーしているとも考えられ、作者の作品として評価することはできない。 また、本作の性格に照らして、ボリュームが多すぎるのも大きな難点。 以上、作品として読ませる部分もあるのだが、その評価は批判的にならざるを得ない |
No.335 | 6点 | 海底二万里 ジュール・ヴェルヌ |
(2017/07/03 16:17登録) 隙のない博物学的なガジェットが、本作の舞台設定に相当なリアリティを付与しており、1個の作品世界を構築する力は大いに買うところ。 一方で、そのボリュームが多すぎることが、ストーリーテリングのダイナミズムの喪失と、プロットの曖昧化を招いている印象が強く、惜しい作品 |
No.334 | 8点 | 八十日間世界一周 ジュール・ヴェルヌ |
(2017/07/03 16:15登録) まず、80日間で世界を一周できるかというキャッチーなプロットが抜群。 世界各地の興味深い習俗・文化に関する描写、各処で勃発するトラブルがもたらすスリルが本作に華を添えている。 スピーディな展開による高いリーダビリティと、ラストの痛快な逆転劇も実に見事。 狭義のミステリに該当しない作品としては最高級の評価で、万人が一読すべき傑作 |
No.333 | 3点 | ミステリアス学園 鯨統一郎 |
(2017/06/20 15:50登録) 本作の執筆意図からミステリとして評価するつもりはないのだが、ミステリ入門書としては紋切り型で踏み込みが浅すぎるし、メタミステリとしては自己満足でしかないという印象 |
No.332 | 5点 | ふたたび赤い悪夢 法月綸太郎 |
(2017/06/16 21:57登録) ご都合主義と評価するまでの悪質性はないものの、人間関係の設定や、登場人物の行動等にかなり無理があり、リアリティが感じられない。 また、ハッピーエンドの到来が、早々に、かつ濃厚に漂っていて、緊迫感に乏しい点でも減点。 悪い作品ではないものの、水準には達していない |
No.331 | 6点 | 鷲は舞い降りた ジャック・ヒギンズ |
(2017/06/09 10:41登録) 壮大かつシンプルな、よい意味での、いわばハリウッド映画的なプロットと、魅力的な登場人物を描く筆力は評価。 一方、翻訳は指示代名詞連発の直訳調で非常にわかりにくく、損をしている印象が強い |
No.330 | 5点 | 放浪探偵と七つの殺人 歌野晶午 |
(2017/05/28 14:04登録) オーソドックスでフェアなパズラーを志向する作風には好感が持てる。 作品間の毀誉褒貶が激しく、一部の不出来な作品も考慮すると、全体としてはこの評価 |
No.329 | 4点 | ミステリ・オペラ 山田正紀 |
(2017/05/17 17:12登録) 綿密な取材に裏付けられた壮大な舞台設定とディテール、冒頭から示される不可能興味に溢れる謎の数々、高い筆力を窺わせる流麗な文章には一目を置く。 しかし、密室状態での銃殺・轢殺、20分間の空中浮遊、消えた車輛等の数々の謎について、その真相とトリックがことごとく、極めて、凡庸かつ陳腐である点で、本格ミステリとしては評価に値しない。 また、そのプロットも、満州国の歴史の真相、主人公の内的パラレル・ワールド、過去と現代における数々の事件、虚構(探偵小説)と現実との関係など、各方面に発散するだけで収斂させられていない。 ミステリ的趣向・衒学・オマージュを手当たり次第にゴッタ煮にしてみたものの、1個の料理にはならなかったという印象で、華麗なる失敗作と言えよう |
No.328 | 6点 | Zの悲劇 エラリイ・クイーン |
(2017/05/07 09:34登録) 真相解明に至るプロセスにおいては、その根幹を成す利き手・利き足の根拠の薄弱さが大きな弱点。 その他、冤罪事件を生んだ当局による杜撰な捜査、魅力に乏しい容疑者の人物造形、レーンが犯人候補を3人に限定した後の不可解なまでに迂遠な捜査など、プロットの綻び・不味さが散見。 以上、本格ミステリとしての骨格は堅牢であるものの、随所に減点材料が見受けられ、この評価 |
No.327 | 4点 | 生者と死者 酩探偵ヨギ ガンジーの透視術 泡坂妻夫 |
(2017/05/07 09:26登録) 前作「しあわせの書」も、ミステリとしては平凡な作品であったが、その前作にも遠く及んでいない。 まず短編小説は、小説としての成立性の点で大いに疑問。 そのうえで長編小説は、当該短編小説を消しに行く創作意図から、その仕掛けがある程度察せてしまううえ、各所で無理を強いられている印象が強い。 本の特殊な装丁が、サプライズを大きく減じ、読者の心理的なハードルを高めている点もマイナスに作用。 以上、本作の奇想と意欲は買うものの、それが1個の読物に昇華できておらず、華麗なる失敗作と言わざるを得ない |
No.326 | 3点 | 垂里冴子のお見合いと推理 山口雅也 |
(2017/05/07 09:21登録) ライトノベルタッチのキャラクター小説という執筆意図や立ち位置から評価すべき作品であろう。 本格ミステリとしては、探偵の推理があまりにも直観的で論理性を欠く点から、厳しい評価にならざるを得ない |