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ミステリの祭典

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鷲は舞い降りた
リーアム・デヴリン

作家 ジャック・ヒギンズ
出版日1976年01月
平均点7.75点
書評数12人

No.12 5点 レッドキング
(2024/08/06 22:03登録)
「ジャッカルの日」が対ドゴールならば、こちらは対チャーチル誘拐フィクションで、「抜け穴」とか「失踪変容」とか、不思議なほどにミステリ臭の強い戦闘サスペンス。独の敗色強まる第二次大戦後半、ヒトラーの気まぐれから火が点いた、英首相誘拐というトンデモ作戦の息詰まる様な進行。歴史の悪役ナチス側からの描写という、読者心境上の難関は、二人の主役「鷲A」「鷲B」を、独米ハーフとアイルランド人に設定する事により、更に「鷲A」のユダヤ人少女救済エピソードにより絶妙にクリアして、読み手の心は、鷲たちの冒険行動に操られる。主役のはずの「鷲A」描写より、「鷲B」の、英国村娘との胸キュン浪漫に絡めた物語の方が、小説の主軸として魅力的。ただなあ、あの「遺書の如き恋文」で、ストイックな永訣エンドだったら、冒険小説美学的には良かったんじゃないのかなぁ。
※アイルランドって、英独間において、決して親英ではなく、むしろ、敵の敵は・・て感じで親独に近かったのね。

No.11 8点 蟷螂の斧
(2021/04/09 18:26登録)
(東西ミステリーベスト第19位)冒険小説としては当然ですが、恋愛小説としても楽しめました。村娘モリイは彼から裏切られ、絶対許さないと思いつつも、彼を助けようとする健気な姿が印象的。完全版で二人の後日談も挿入されており、涙を誘う?。工作員デヴリンが、この作戦は必ず失敗するという場面があるのですが、その理由が不明のままで気になっています(苦笑)。

No.10 10点 オムレツ
(2020/09/09 09:46登録)
史上最高の大ドンデン返し

人生最高の三冊のうちの一冊
無意味で、残酷な。
それだからこその、スゴイ驚き感!

プラハの駅の操車場から、イギリス沿岸のランズエンドまで
主人公のドイツ落下傘部隊員たちは、
ユダヤ人の少女をナチスから助け、潜入先の敵国の子供を、犠牲を払って助け、村人たちを解放する。
その果てに、敵味方を越えて、敬意を抱いた対決があった。

素晴らしい軍人像を描ききり、それに惚れ惚れしたものだけが味わえる、喪失感と、衝撃の一撃。

No.9 8点 ◇・・
(2020/04/18 17:07登録)
大英帝国からの祖国解放のために協力するアイルランド共和軍のデヴリンと、勇敢で名誉を重んじるシュタイナ中佐はそれぞれ魅力的で、戦争というものの複雑さをしみじみ感じさせる。
著者が調査したルポのスタイルを取っているのもリアル感を与え、歴史、サスペンス、アクションと楽しみどころが多い。軍事スリラーとして最高傑作のひとつと言えよう。

No.8 8点 斎藤警部
(2019/08/05 19:28登録)
真夏の生ビール一杯の一体何が素晴らしいのかを数百頁に渉り隠喩だけで詳述した、世界の愛読書。(その大部分は”如何にその瞬間まで我慢すべきか”についての抒情詩であるので、熱中症対策としては極めて不適格)

だが本作の主役酒はブッシュミルズ。ボトルのフォルムとラベルの意匠に威厳への格別なる意志が見てとれるアイリッシュウィスキー。これからもデヴリンはガッツリ呑み続ける事でしょう。本当に困った奴です。

「おれはとつぜん六フィート離れた所に立って、自分が言っていることを聞いていた」

夥しい主役/準主級の放つ台詞の拉致力が半端なさ過ぎて泣きます。 最高の多重逆説を表出したのが、まさかのギラギラキチ●イNo.1だったとは!あのシーンは萌えたなあ! 物語の真ん中あたり、ハードボイルド文体の最高にユーモー溢れる応用篇みたいなくだりが、ひどく良かった。 終結間際の或る台詞、2×2で珍重すべきクアドゥループルミーニングになっちまってるわけですな。。。。あわやリドルストーリーの河口へ沈降かと見紛う幻惑のどんでん返し。そしてやっぱこの、ちょぴっとアメリカン・グラフィティを思わせる、大型エピローグの差し向けて来る眼力。。。。 アーサー・シーマー絡みの或るシーン、原文をチェギラしたぃと思ぅたが、翻訳が充分イカしてることを思い出し、その必要はまるで無いのを悟った。だからこそ、いい爺ィになって原典再読する幸運にヒットされた暁には是非ともそこんとこ、キッチリ落とし前つけたい。 オルガン(バッハ)のシーンは沁みました。。。。

「素晴らしい演技でしたね、中佐」

ああ、本当に素晴らしいプレイでした、登場人物の皆さん。男臭い物語ですが、数少ない女性の皆さんも最高でした。いつか皆で、人生に乾杯でもしませんか。

No.7 8点 tider-tiger
(2018/04/01 07:41登録)
第二次大戦で敗色が濃厚となっていたドイツ軍はとある情報を入手する。イギリス東部の寒村ノーフォークに英国首相ウィンストン・チャーチルが立ち寄るというのだ。
チャーチルを誘拐することはできないだろうか。できそうな奴らがいる。
かつては精鋭中の精鋭といわれた男たち、歴戦の勇士クルト・シュタイナ中佐率いるドイツ落下傘部隊の連中だった。彼らは現在、囚人部隊として自殺的な任務に従事させられている。彼らにヒトラーの密命が下った。

ドイツの軍人を英雄として扱っているが、「ナチスが悪かった。ドイツ人は悪くない」というオーソドックスな(ずるい)歴史観から外れた作品ではない。「ナチ党員にも立派な人がいた」となると話は変わってくるが。
しばしば冒険小説の金字塔などと称される作品であり、読みやすくて非常に面白い。作戦の成否そのものは歴史が明示しているが、そこはあまり問題ではない。
この作戦が成功したところで、それが一体なんになるのか?
(チャーチル1人をいまさら攫ったところで戦況が変わるとは思えない)
無意味だとわかっていながら、彼らはなにゆえ作戦を遂行しようとするのか。
作中、シュタイナ中佐についてこのような言及がなされる。
「非常に頭が良くて、勇気があって、冷静で、卓越した軍人……そして、ロマンティックな愚か者」
これはシュタイナに限ったことではなく、本作の登場人物はロマンティックな愚か者ばかりだ。
善玉と悪玉があまりにも両極端に描かれている点が気になる。ものすごくかっこいい奴か悪い奴かといった風なのでキャラは立っているが、いささか単調。ただ、本作の場合はそこがまさに面白さの源泉なのである。
前半はわりと静かに進む。シュタイナ中佐らが囚人部隊に格下げされた経緯や作戦の準備、訓練、そして、先発の工作員リーアム・デブリンの英国潜入などが描かれる。彼らが舞い降りてからはピンチの連続で息をつかせない。たるい部分のほとんどない作品だが、個人的には特に前半が好き。

旧版も完全版(削除されていたエピソードが追加されている)も読んだが、完成度は旧版の方が上だと思う。完全版は旧版を読んで惚れこみ、さらに余計なお金を払うことも厭わないような――私のような――人だけが読めばいいのではないかと。
特にリーアム・デブリンに惚れこんでしまった人向きか。
(私はリタ・ノイマンと鳥好きの隊員が贔屓だが)
「飛び立った」もとっくの昔に購入してあるが、読む勇気がない。
最後に一つ。作者は登場しなくていい。

No.6 6点 いいちこ
(2017/06/09 10:41登録)
壮大かつシンプルな、よい意味での、いわばハリウッド映画的なプロットと、魅力的な登場人物を描く筆力は評価。
一方、翻訳は指示代名詞連発の直訳調で非常にわかりにくく、損をしている印象が強い

No.5 9点 あびびび
(2016/01/09 06:34登録)
ここが、「冒険小説の祭典」なら文句なしの10点満点だろう。「深夜プラス1」よりも味わいがあり、映像的想像力を逞しくさせる。

イギリスを憎むイギリス人女性スパイから、チャーチル首相がある海岸別荘で静養する…という情報が入る。これを知った悪名高いヒムラーが、襲撃部隊を結集させ、初めてドイツの部隊が英国の海岸に舞い降りる。

そのドイツ兵の面々(アイルランド、英国人も一人ずつ)が実に魅力的であり、正義はこちらにあるのではないかという錯覚に陥ってしまった。これは歴史的名作だと思う。

No.4 10点 Izumi
(2015/07/18 00:10登録)
かつて内藤陳さんは仰った「ジャック・ヒギンズを知らない? 死んで欲しいと思う」同感である。
というわけで冒険小説の大家ジャック・ヒギンズの『鷲は舞い降りた』の紹介。実は『脱出航路』と迷ったのだがいつの間にか絶版になっていた……。早川は馬鹿なの? 死んで欲しいと思う(早川書房に腹が立つことなんて年がら年中ですが)。ハヤカワ文庫NVの白背が書店の棚にずらーっと並んでいた時代とは隔絶の感がありますね……。

1943年ナチス・ドイツの敗色が濃厚となる中、ヒトラーは起死回生の作戦としてイギリス首相チャーチルの誘拐を命令する。歴戦の勇士シュタイナ中佐を指揮官とするドイツ落下傘部隊の精鋭は、チャーチルが週末を過ごすノーフォークの寒村へと降下した――。

冒険小説は架空戦記ではないので、フィクションであっても史実に準拠している。チャーチルが誘拐されたという事実がない以上、シュタイナたちの作戦は失敗することが読む前からわかっているのだが、それでも手に汗握り、ページを捲る手は止まらない。無謀な作戦の計画立案、現地での作戦実行、すべてが息をつかせぬ展開である。
そしてなんといっても登場人物が魅力的だ。「非常に頭が良くて、勇気があって、冷静で、卓越した軍人……そして、ロマンテックな愚か者だ」と評されるシュタイナをはじめ、ドイツ落下傘部隊の面々はいわゆる悪役のドイツ軍人ではなく、血肉をもった共感できる人間である。これはこの物語では敵役として描かれるアメリカ軍のレンジャー部隊もおなじだ。もちろんシュタイナたちに協力するIRAの闘士リーアム・デヴリンも忘れてはならない(デヴリンは数々のヒギンズ作品に登場している)。どんな端役の人物でも何かしらの存在感があり印象に残るのは凄い筆力である。

冒険小説は狭義のミステリには入らないが、本作はジャンルで読まず嫌いをするにはもったいない傑作である。ヒギンズの作品はセンチメンタリズムの傾向が他の冒険小説作家に比べると強いので登場人物に感情移入がしやすい(人によってはそこを軟弱と感じる場合もあるが)。冒険小説最初の一冊としても最適だと思う。

No.3 5点 ボナンザ
(2014/09/30 19:57登録)
完全版で読了。非常にわかりやすいが、そのため本筋とは関係のないところで分量がかさばるのが難点。
冒険小説としては特上のものだろう。

No.2 8点 TON2
(2012/11/04 02:27登録)
戦争冒険小説の傑作です。
ヒトラーの一言からドイツ軍精鋭部隊がイギリス本土に落下傘降下してチャーチルの誘拐を謀る。
イギリス本土へ渡り、作戦が失敗してアメリカコマンド部隊と戦闘を繰り広げる後半よりも、作戦決行のため着々と準備を進める前半が面白かった。
作者は狂ったドイツをも公平な目で見ていると感じました。

No.1 8点 kanamori
(2010/07/17 20:14登録)
「東西ミステリーベスト100」海外部門の第5位は、戦争冒険小説の傑作で、ヒトラー精鋭部隊によるチャーチル誘拐作戦。
敵役で描かれることの多かったドイツ軍人が主人公というのが異色。
冒険小説協会の組織票だけでなく、80年代は冒険小説の時代と言われたから、この順位は納得いきますが、冒険小説人気が下火の現在だと50位以内も難しいのでは。後に出た続編の評判は散々だったですしね。

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