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ミステリの祭典

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蟷螂の斧さんの登録情報
平均点:6.09点 書評数:1660件

プロフィール| 書評

No.880 7点 北斎殺人事件
高橋克彦
(2016/03/10 23:13登録)
(再読)「BOOK」データベースより~『ボストン美術館で殺された老日本人画家とは何者か?一方日本では、謎の生涯を送った浮世絵師葛飾北斎の正体に迫ろうと研究家たちが資料を追う。北斎は隠密だった?日本とアメリカを結ぶキイはどの辺にあるのか、またキイを握る人物とは?浮世絵推理の第一人者の「写楽殺人事件」に続く傑作。日本推理作家協会賞作。』~

本書のメインである北斎隠密説が納得できるものかどうかは別として、その推理の根拠・過程は十分楽しめます。サブである殺人事件は当然北斎がらみではあるのですが、ここで本格ものを期待するのは酷な話ですね(笑)。探偵役は登場しますが、残念ながら真相は告白によるものとなっています。しかし、真相の背景は良く考えられていると思いました。

以下余談です。本書でも触られていますが、北斎は印象派の画家であるモネ、ゴッホ、ゴーギャンに多大な影響を与えていますね。小布施(長野)には北斎館があります。映画「北斎漫画」(1981)では、○○○バンクCMのお母さん役でおなじみの樋口可南子さんが、「蛸と海女」を描くシーンで大蛸と絡み非常に妖艶な姿を見せてくれていました。


No.879 5点 悪魔の羽根
ミネット・ウォルターズ
(2016/03/09 17:44登録)
主人公は何者かに拉致監禁され、3日後に解放されます。なんと無傷であり、警察には曖昧な証言ばかりを繰り返します。何かを隠しているという謎でひきつけられますが・・・・・・。しかし、急に逃避先である農村での出来事に物語が移ってしまいます。この部分が、かなり冗長でありサスペンス感の乏しいものになってしまいました。後半の主人公と警察とのやり取りについては迫力があり、その点、著者らしさを感じることができました。


No.878 7点 007/カジノ・ロワイヤル
イアン・フレミング
(2016/03/08 11:54登録)
(再読)裏表紙より~『秘密情報部員00七号、ジェームズ・ボンド、彼の新しい任務はソ連の工作員でフランス共産党の大立物、ル・シッフルの資金源を断つことであった。党の資金を使い込み、カジノの賭博場で一挙に挽回をはかろうとするル・シッフル、そうはさせじと英米仏三国共同作戦のもとにバカラ賭博場に挑戦するボンド。賭金は50万フランから始まって、100万」、200万と幾何級数的に上昇し、ついに3200万フランの巨額に達した。興奮と緊張の極に達した人いきれ。そのとき、ボンドの背後にそっと死の影が歩みよった・・・・・・。 』~

「007ドクター・ノオ」(1962年)の映画化以来、半世紀を超えシリーズ(映画)が継続中であることは、驚異的なことです。その記念すべきシリーズ第1作目が「カジノ・ロワイヤル」です。本作は、権利の関係で現シリーズの番外編として映画化(1967)されていますが、コメディ(パロディ)タッチで内容もかけ離れており、拍子抜けした記憶があります。2006年版は原点に戻るということで、かなり原作に忠実だったようですね(未観)。さて、内容は前半はカジノでのバカラ対決を中心に、後半は恋愛小説風となります。「悪漢が最後には殲滅されて、英雄が勲章をもらって美女と結婚するようなロマンチックな冒険小説とは違うんだ。」と適役に言わしめています。思わずニヤッとしてしまいました。著者としては、ハード・ボイルドタッチを取り入れたことや、ラストへの伏線らしきものに言及したのかもしれません。ボンドも苦悩するんだ・・・。


No.877 6点 007/ムーンレイカー
イアン・フレミング
(2016/03/08 11:52登録)
(再読)裏表紙より~『ドーヴァーの白亜の岸にあるムーンレイカー基地では、億万長者ヒューゴ卿が国家に寄付する超大型原爆ロケットの製作が進行していた。そこへ007号ジェームズ・ボンドが、保安係として特派されることになった。前任者が謎の死をとげたからである。国際的英雄ヒューゴ卿とボンドは、トランプのいかさまをめぐって白熱的な大博打を演じたという因縁があった。基地のなかにはいったボンドが発見したムーンレイカーの秘密、それは大英帝国を震駭する大陰謀だった!』~

最初に読んだ「007」で思い出深い作品です。”ふたつの三八口径が同時にうなった。”で始まるシリーズの第三作目(1955年)。酒、料理の話、ゲーム対決(ブリッジ)、カーチェイス、敵陣からの脱出と、この作品からいわゆる007らしくなってきたような気がします。ただし、色恋は少々です。映画でのヒローとは違い人間味が感じられます(ブリッジ対決では、映画のイメージにあるスマートさやクールさはなく人間くさい)。ボンドは、やはり初期のショーン・コネリー氏をイメージしながらの読書となってしまいました。


No.876 7点 玉嶺よふたたび
陳舜臣
(2016/03/07 10:07登録)
(再読)「BOOK」データベースより~『訪中視察団の一員として中国を訪れた東洋美術史専攻の入江は、25年ぶりに玉嶺へと向かう。抗日ゲリラの疑いのあった中国人の娘・映翔を愛し、不可解な別れを味わった思い出の地である。戦火の渦のなかに隠されたその悲恋の真相たる彼女の心境を今ようやく入江は知るのだった。』~

解説・権田萬治氏によれば、「見事なミステリー・ロマンである。」ということです。異論はありません。ミステリーよりロマンスに重点が置かれていますので、ラストは感動しました。ロマンスものに弱いので・・・(苦笑)。「本作」および「孔雀の道」とで1970年日本推理作家協会賞受賞しています。ちなみに、江戸川乱歩賞、日本推理作家協会賞、直木賞の三冠王(?)は、現時点で陳舜臣氏、高橋克彦氏、桐野夏生氏、東野圭吾氏の4名だけのようです。


No.875 7点 東西ミステリーベスト100
事典・ガイド
(2016/03/05 10:27登録)
「007」の内容を確認しようと書棚をひっくり返したら本書が出てきました。まったく記憶にありませんでした(笑)。本書と同様の趣旨で発表された「大アンケートによる洋画ベスト150」(1988年版)の方は記憶にありました。よって当時はミステリー本より映画だった・・・。それでも既読のマークは60冊位あったので、当時としては結構読んでいたんだなあと驚きの気持ちが強いですね。ミステリーは謎があり、それを解くものというイメージだったので、ハードボイルドやスパイ・冒険ものなどは、当時ミステリーとは思っていませんでした。よって、このサイトを利用し始めたころ、恥ずかしながら「大誘拐」「白昼の死角」などはミステリーの範疇外などと書評していました。しかし、本書で12位、28位としっかりランクインしており、かつ、しっかりと既読のマークがついていました。その時点でミステリーと認識しなければならなかった・・・(苦笑)。本書は、海外編のみ101位~200位まで作品名が載っています。その中から2012年版ベスト100へランクアップしたものなど、時代の変遷を見るのも興味深いですね。また2012年版とは違う「うんちく」を読むのも面白かったです。大がかりなアンケート方式では、1975年の週刊読売のミステリーベスト20があります。1975(読売)1988(文春)2012(文春)のベスト10内すべてにランクイン作品は、国内では「獄門島」「虚無への供物」「ドグラ・マグラ」「点と線」「本陣殺人事件」、海外では「そして誰もいなくなった」「Yの悲劇」「幻の女」「アクロイド殺し」「長いお別れ」でした。よって、東西の横綱は横溝正史氏、アガサ・クリスティー氏ということになるでしょうか。余談ですが、「洋画ベスト150」で山田風太郎氏が「禁じられた遊び」を1位にしていたのが意外でした。ミステリー既読分では「サイコ」「めまい」「007ロシアより愛をこめて」「太陽がいっぱい」とランクイン作品が少ない(涙)。なお、姉妹編「ミステリー・サスペンス洋画ベスト150」があるようなので、そちらでは増えると思いますが・・・。


No.874 5点 大統領の密使
小林信彦
(2016/03/04 13:21登録)
シリーズの4弾(大人向けとしての第1弾)とのこと。1971年の作品でナンセンス・ギャグをメイン?にしたスパイ・冒険もののパロディといった感じです。解説では「1993年の今、本作品はミステリではない」と断言しています。しかし、後発のミステリー作品で、本作のアイデアをどんでん返しに使用している例もあります。当時、著者はこのアイデアを本作品のトリックとは考えていなかったような気はします。あくまでもギャグがメイン?。しかし、そのギャグが伝わってこないのです(涙)。パロディの人物や世相は80%近くわかるのですが・・・。主人公・今似見手郎(いまにみてろう)のモデルは、ラジオ「いまに哲夫の歌謡パレードニッポン」(お相手は、あなたの「ちえ」よ)の今似氏だと思います。車での営業時中(昼間)、よく聞いていました(笑)。一番面白かったのは、「007は二度死ぬ」のボンドガールが生んだ子供(鈴木ボンド)の登場でした。(映画では確か偽装結婚であったような、小説では結婚し身ごもったような・・・。)


No.873 6点 純喫茶「一服堂」の四季
東川篤哉
(2016/03/02 21:36登録)
各編のトリックは、バカミス気味?であまり現実味があるとは思えないのですが、ある仕組みが隠されているところは気に入りました。この仕組みは翌年(2015)発表された某作品で応用されていますね。応用した方が巧かったかも(苦笑)。なお、某シリーズの二番煎じ、三番煎じのそしりを避けるためなのか?結末は著者の心意気を感じることができました。


No.872 5点 クリスティー記念祭の殺人
キャロリン・G・ハート
(2016/02/29 18:04登録)
裏表紙より~『アニーは胸の高鳴りを抑えられなかった。自分の企画した〈クリスティー記念祭〉が、ついに開幕するのだ。人気のミステリ作家も参加してくれるし、催し物も盛りだくさん。誰もが楽しんでくれるにちがいない。が、その記念祭に本格ミステリ嫌いの冷酷な評論家が闖入してきて、おまけに連続殺人が…。ミステリの女王に捧げられた、とびっきりの本格ミステリ。』~

記念祭参加者へのクイズなどあります。問題は作品名当て。出題作品のうち15点ほどは読んでいましたが、当たったのは、2,3点でした(苦笑)。では問題「白のダックのスーツを着て、パナマ帽をかぶった年配の男がデッキチェアにゆったりとかけ、日光浴をしている人々をおもしろそうに眺めている。」答えは「白昼の悪魔」etc. 内容は、まあまあで、あくまでもファン向けの作品のような気がします。


No.871 6点 二千万ドルと鰯一匹
カトリーヌ・アルレー
(2016/02/28 18:12登録)
悪女と悪女の対決。男が腑抜けに思えてきます(笑)。題名は、男は2000万ドルの夢は与えてくれるかもしれないが、現実的には鰯一匹しか与えてくれないというような意味です。著者の特徴である登場人物の少なさという点でも読み易いです。本作登場の悪女は完全犯罪を成功させることができるか?が読みどころの一つですね。


No.870 6点 ○○○○○○○○殺人事件
早坂吝
(2016/02/27 13:21登録)
題名「○x8」は、なるほどと思いました(笑)。○○トリックのネタは、まだまだあるんだなあと感心しました。犯人特定など、下ネタではありますが、アイデア勝ちといったところでしょう。


No.869 7点 片桐大三郎とXYZの悲劇
倉知淳
(2016/02/24 21:06登録)
帯より~『聴覚を失ったことをきっかけに引退した時代劇の大スター、片桐大三郎。古希を過ぎても聴力以外は元気極まりない大三郎は、その知名度を利用して、探偵趣味に邁進する。あとに続くのは彼の「耳」を務める野々瀬乃枝。今日も文句を言いつつ、スターじいさんのあとを追う!』~

冬の章・ぎゅうぎゅう詰めの殺意(Xの悲劇に対応)・・・大三郎の推理は、かなり説得力に欠けますね(苦笑)。評価5点。
春の章・極めて陽気で呑気な凶器(Yの悲劇に対応)・・・思い込みや前提を崩してゆく推理方法は気に入りました。評価7点。
夏の章・途切れ途切れの誘拐(Zの悲劇との直接的な関連性は見つかりません。~よって、かなりこじつけの推理をしてみました~本作では副題のとおり3回電話が途切れてしまいます。その要因は名前に関するものでした。Zの悲劇では箱が3つ存在し、それぞれに「HE」「JA」「Z」とあり、これはある名前が途切れたものです。著者がいつかどこかでネタバレをしてくれることを期待して。)・・・内容は強烈な反転とパンチがありました。かなりブラックな味わいです。評価8点。
秋の章・片桐大三郎最後の季節(レーン最後の事件)・・・著者はこれがやりたっかたのですね(笑)。すっかり騙されました。評価9点。
パロディとして、クイーン氏の論理的推理の逆?(特に冬の章など)をあえて描いたのかもしれません。


No.868 5点 ビブリア古書堂の事件手帖
三上延
(2016/02/22 12:16登録)
日常的な謎、青春もの、安楽椅子ものとして楽しく読めました。


No.867 7点 サイコ
ロバート・ブロック
(2016/02/21 19:31登録)
裏表紙より~『シャワーカーテンの隙間からのぞく仮面のような顔。ぎらつく二つの目。メアリは悲鳴をあげはじめた。が、その声は切り裂かれた…肉切り包丁の一閃で!雨の夜、片田舎のさびれたモーテルでなにが起きたのか?大金を拐帯し失踪した婚約者を探すサムが見いだした、恐るべき真実とは?ヒッチコックの映画であまりにも有名なサイコスリラーの原点』~

映画がヒットし過ぎたので、本書はあまり読まれなかったのか?・・・。「悲しみのイレーヌ」の中で紹介された「アメリカンサイコ」を読もうと思ったのですが、エログロだけの内容の乏しいもので、途中で放棄。本家本元を読もうと思いついたわけです。映画ではアンソニー・パーキンスの不気味さだけが印象に残っており、筋は全く忘れていましたので好都合でした。まあ、途中で思い出してしまいましたが・・・(苦笑)。映画と違い、本の犯人は太っていますね。「容疑者Xの献身」もそうでした(笑)。「サイコ」という言葉が本作以降、広まっったことに敬意を表して。


No.866 4点 幸運の逆転
エリザベス・チャップリン
(2016/02/19 10:39登録)
ジル・マゴーンの別名義とのことで拝読。名義が違うと、こんなにも作風が違ってしまうのかと変な感心。裏表紙でネタバレがあるので、途中までサスペンス感もないし退屈で仕方なかった。というより、登場する妻の心境が理解できないことが一番の苦痛。ラストのオチはブラック・ユーモア系で大好きなのですが・・・。短編にすべきだったのかも。


No.865 7点 鉄の枷
ミネット・ウォルターズ
(2016/02/17 09:01登録)
裏表紙より~『資産家の老婦人、マチルダ・ギレスピーは、血で濁った浴槽に横たわって死んでいた。睡眠薬を服用した上で手首を切るというのは、よくある自殺の手段である。だが、現場の異様な光景がその解釈に疑問を投げかけていた。野菊や刺草で飾られた禍々しい中世の鉄の拘束具が、死者の頭に被せられていたのだ。これは何を意味するのだろうか?』~

デビュー作「氷の家」でCWA新人賞、第二作「女彫刻家」はMWA最優秀長編賞、第三作「本作」ではCWAゴールドダガ―賞受賞との経歴の持ち主です。さすが、重厚でうまいとの印象です。ミステリーの部分では、自殺?他殺?の謎、鉄の枷の謎、不可思議な相続の内容などで引っ張て行きます。一方の軸で、登場人物の側面、裏面を徐々に明らかにしてゆく手法で描いています。ミステリー部分より、こちらの方(被害者、その娘、孫の人格形成)が本流のように感じました。なお、シェークスピアの作品が登場しますが、内容を知らない私にも判り易いように説明されており好感が持てました。全体的には、クリスティ氏の手法を用い、背景を非常に重くしたような作品とのイメージですね。


No.864 6点 牧師館の死
ジル・マゴーン
(2016/02/14 07:19登録)
裏表紙より~『クリスマス・イヴの夜、ロイド首席警部は事件の知らせを受け、牧師館に急行した。殺されたのは牧師の義理の息子。単純な家庭内の事件に思われたが、互いに庇いあう家族の前に捜査は難航する。次々と覆されていく偽りの奥から現れた真相とは? 現代本格ミステリの新たな担い手、ジル・マゴーンが描く現代版“牧師館の殺人”。』~

ジャンル分けに困る作品です。アリバイ崩しの本格もの?ともいえるし、方や、心理サスペンスの要素が強い作品でもあるし・・・、一応本格ものということで。クリスティ氏の「牧師館の殺人」とは特に関係はありません。ただし、「さっさと家にひきあげて、ミス・マープルにぜんぶまかせたい心境よ」とか、ミス・マープル似の老婦人がチョイ役で登場したりします。アリバイはお互いを庇い合うため、嘘をついているので複雑で判りにくいのが難点です(自分はアリバイ崩しが苦手なので、そう感じるのかも)。登場人物の心理描写はうまいと思いますが、捜査側の二人の恋愛感情の描写は、本作に限って言えば結構邪魔になっていましたね。著者名義で4冊しか翻訳されていない状況は残念です。


No.863 7点 パーフェクト・マッチ
ジル・マゴーン
(2016/02/11 17:28登録)
裏表紙より~『嵐の去った早朝、湖畔で女性の全裸死体が発見された。遺体は最近莫大な遺産を相続した未亡人のものと判明。その前夜、彼女を車に乗せ、そのまま姿を消した青年が犯人と目されている。だが、この事件には腑に落ちない点が多すぎた。ロイド警部とジュディ・ヒル部長刑事のコンビが不可解な事件に挑む。期待の俊英のデビュー作。』~

トリックは単純ですが、それを非常にうまく隠しています。よって、サプライズは大でした(笑)。全裸死体であるにもかかわらず、暴行の痕跡はないという謎で引っ張て行きます。登場人物が少ないのも魅力ですね。「騙し絵の檻」のカットバックには苦労しましたが、本作のカットバックは読み易かったです。


No.862 6点 壜詰の恋
阿刀田高
(2016/02/10 12:45登録)
裏表紙より~『砂丘でめぐり会い、めくるめく一夜をともにした気高い美女は、翌朝姿を消してしまった。そして枕元には香水のびんが……。それ以来、わが部屋にこの香水の匂いをまきちらすとき、かならずあの美女がそっとあらわれ、熟れた身体をひらいてくれるのだ。「奇妙な味」の小説の名手のブラック・ユーモア秀作集。』~

(再読)初期(6冊目)の短編集です。ベストは「賢者の贈り物」・・・匿名の女性から手袋、ネクタイ、ポートレート、鍵、地図が順次送られてきた。男はそのマンションを訪れてみると、女の死体が・・・。そこへ不審人物がいるとの通報で警官がやってくる。さて男の運命は?そしてその仕掛けとは?。著者はあとがきで、推理小説としてはあえてアン・フェアな道を選んだと言っていますが、三人称を一人称で描けば、その問題は解決か?。なお、長編で読んでみたいなあと思うような作品でした。表題作の小粋な短篇から、グロテスクな結末を予想させるブラック・ユーモアまでバラエティに富んだ作品集です。気の向いた時に、書棚から著者の作品を引っ張り出して再読するのですが、過日も歌野氏の作品テーマを見つけたりしました。本作の中にも京極氏、島荘氏、黒研氏の作品のモチーフがあるのを発見。これも読書の一つの楽しみですね。


No.861 6点 幸福荘の秘密―新・天井裏の散歩者
折原一
(2016/02/08 13:02登録)
裏表紙より~『幸福荘―推理作家小宮山泰三を慕うあやしい住人たちが、南野はるか争奪戦を繰り広げたアパートは瀟洒な三階建てのマンションに建てかわった。その第二幸福荘の前で花束を捧げ泣いていた謎の女性。そして始まる九転十転の逆転劇…。前作『天井裏の散歩者』を凌ぐ衝撃の結末とは。』~

前作では、ヒロイン南野はるかを巡る男たちの争奪戦が楽しめました。本作では登場しないはずと思っていたら、後半に登場で大活躍!。言い寄る男たちを退治するシーンは大笑いでした。前作同様、叙述の大盤振る舞いです。叙述の解説付きなので入門編になるかも。このシリーズは打ち止めのようですが、もう一方のユーモアシリーズ・黒星警部の新作を待ち望んでいるところです。

変に感心したところ・・・前作「天井裏の散歩者」は1993年角川ミステリーコンペティション(懸賞)に参加した13冊の一冊です。そのことが作中で紹介されています。「ダリの繭」(有栖川有栖)→「誰の眉?」(東久邇國彦)、「暗鬼」(乃南アサ)→「暗記」(昼間ユキ)、「黒猫遁走曲」(服部まゆみ)→「捨て犬ブルース」(波多野舞)、「揺歌」(黒崎緑)→「揺籠の歌」(白峰赤彦)、「邪宗門の惨劇」(吉村達也)→「南大門の難題」(牛尾潮)etc・・・こんなことまで考えなければならないなんて作家って大変なんだな。

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