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ミステリの祭典

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追憶の殺意
「自動車教習所殺人事件」改題

作家 中町信
出版日1980年02月
平均点6.29点
書評数7人

No.7 7点 斎藤警部
(2020/07/22 18:25登録)
複数の殺人動機に纏わる複雑な背景と、真相奥座敷までが深いアリバイトリック(交通系+郵便系+α)、この二つの分厚さで最後一気に熱くなりました。較べて密室トリックの方は、ちょっとした生活の知恵めいたもの(よく考えたら非現実的!)がキーだが、アリバイが問題となる方の事件との(時系列含む)関わり合いを思えば全体から見てなかなかの趣き。自動車教習所(とその●●●●―●)ならではの事件発生、という舞台装置の必然性も素晴らしい。トリック含め全体的に鮎川哲也を彷彿とさせる良作長篇。叙述トリックとまで言わないが、ちょっとした叙述欺瞞がアリバイトリック一番の鍵を握ってるってのがまた、ニクいぜ。微妙な旅情もOKだ(笑)! TVの『刑事コロンボ』がちょっとした時刻の証明になるのも良かった(ある人の説によると「攻撃命令」の回だとか)。春日部駅前「エーカドー」には笑いました(クレヨンしんちゃん。。) 改題の「追憶」が決して伊達じゃないのも良し。無理矢理「殺意」シリーズに入れられた感はありますが、個人的には結果オーライ。酒のアテに譬えればヒマワリの種のような、良い地味さがありまする。

No.6 6点
(2016/10/24 22:38登録)
当時は『新人賞殺人事件』のタイトルだった『模倣の殺意』を鮎川哲也が絶賛していたので気になっていた作家の新作が出版されたというので、期待して読んだのでした。
章題にも使われている「密室」については、実は通常の意味での密室ではありません。脱出可能な出口はありましたし、しかもそれは犯人の策略であったにもかかわらず、章題で読者にだけはヒントを与えているところが、マニアックさを示しています。しかも解き明かされてみると、かなり危ういうえバカバカしいような発想なのですが、そこがチェスタトン的とも思えて、トリックに対するセンスのよさを感じたのでした。
後半のアリバイの方はいったん解けたと思わせた後、さらに複雑なのを用意しているという二段構えの凝ったものになっています。動機の意外性もありますし、全体構成もていねいにできていますが、事件解明きっかけ部分の盛り上げは今一つ。

No.5 6点 蟷螂の斧
(2016/03/30 16:55登録)
旧題(徳間文庫)にて。自動車教習生の特性をうまく扱った作品ですね。二重アリバイトリックも良くできていると思います。

No.4 6点 ボナンザ
(2014/10/16 21:13登録)
追憶の殺意で読了。車を運転しない私にもわかりやすい。
いつもの中町氏のような叙述トリックは薄いが、アリバイと密室はなかなかの出来で、佳作といっていいでしょう。

No.3 6点 E-BANKER
(2014/01/05 15:09登録)
2014年明けましておめでとうございます。(ちょっと遅くなりましたが・・・)
というわけで、本年一発目に何を読もうかと、書店をぶらつきながら手に取ったのが本作だったという次第。
今回読了したのは東京創元社より「追憶の殺意」のタイトルで新たに刊行されたものだが、実際は1980年に発表された「自動車教習所殺人事件」を底本とし改題したもの。

~年も押し詰まったある日、埼玉県岩槻市の土手で自動車教習所の配車係が死体で発見された。男には職場の同僚と悪質なギャンブルを行っていた疑いが浮上する。そして年が改まった途端、教習所の技能主任が密室状況下で撲殺される。さらに指導員の男が自宅マンションのマイカーのなかで殺されていた! 自動車教習所へ通う教習生と指導員・・・その絡み合いの中からあぶりだされる複雑な人間関係。やがて捜査線上に浮かんだ容疑者には鉄壁のアリバイがあった!~

まず自動車教習所という舞台設定が珍しい。
教習所に通ったのはかれこれ十年以上も前だが、教官と生徒が免許証取得をめぐって愛憎渦巻く・・・なんて想像できないし、ましてや殺人事件の舞台としてはあまり似つかわしくないような気がした。
(時代性の違いかもしれないが)

で、本筋だが、他の方の書評にもあるとおり、既刊の「○○の殺意」シリーズと違い、本作は叙述系トリックは一切なし。アリバイ&密室トリックをメインとした古いタイプの本格ミステリーで、確かに鮎川哲也の鬼貫警部ものと似た風合いの作品。
特にアリバイトリックはよく練られており、鮎川のように鉄道トリック一本槍ではなく、鉄道に自動車を絡めた結構複雑なトリックに仕上がっている。
ただし、密室トリックもそうだが、伏線が割とあからさまなところが玉に瑕で、フーダニットやハウダニットの醍醐味はあまり感じられなかった。
この辺りはデビューして間もない頃の作品ということなのだろう。

オーソドックスなミステリーをという方なら安心して読める作品ということになるが、作者らしい切れ味鋭い変化球ミステリーを求める読者にとってはちょっと物足りない作品。
本年一発目の読書としてはちょっと不発だったかな・・・
(今年はできれば「量」より「質」を重視した読書をしたいものだけど・・・結局乱読になってしまうのかな?)

No.2 6点 kanamori
(2013/07/26 19:06登録)
本書は昭和54年に作者通算3度目の江戸川乱歩賞最終候補作になった「教習所殺人事件」を改題しトクマノベルズから「自動車教習所殺人事件」と題して出版されたもので、来月創元推理文庫から「追憶の殺意」のタイトルで復刊される予定の作品。久々に再読してみました。

作者の代名詞である読者を誤誘導する叙述トリックは使われておらず、温泉バスツアーというお決まりのプロットも出てこない、密室+アリバイ崩しをメインにしたオーソドックスな、”ジス・イズ・ザ・昭和の本格ミステリ”といった内容です。
フーダニットを主軸とする通常の中町ミステリと違って、密室の謎が解けた後はアリバイ崩しが中心になっている点や、刑事が探偵役というところがこの作者にしては珍しく、作風としては鮎哲の鬼貫警部モノに似た味わいがありました。
二段構えのアリバイトリックのうち2つめが綱渡り的ですがユニークで、教習所を舞台にした意味が最後に浮かび上がってくるところが巧妙です。

No.1 7点 こう
(2009/02/07 23:30登録)
 80年代の叙述トリックの第一人者の初期作です。数年前「〇〇の殺意」というタイトルで初期作が再版されていましたが個人的にはこの作品も再版されるかと思っていました。
 自動車教習所の路上実習コースで評判が悪い職員が倒れているのが発見され病院への搬送中に死亡する。その後人望ある主任が教習所内の密室で殺害される。また行方不明になった職員も殺害されて発見されて、というストーリーです。
 全体として良くできていると思いますが再版されている作品群とはかなり趣きが違い叙述トリックが全面に出てきません。それが絶版のままの理由かもしれません。
 個人的にはストーリー、トリックが気に入っても不必要に殺人が多い作品が多く何となく違和感を感じる作家ではあります。この作品はまだ少ない方ですが警察が介入するストーリーだとこれぐらいが限界かな、と思います。
 犯人は簡単に割れますし、叙述トリックものではなくむしろアリバイトリックものですので初期作の中では異色かと思いますがまあまあ楽しめました。 

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