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ミステリの祭典

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HORNETさんの登録情報
平均点:6.32点 書評数:1153件

プロフィール| 書評

No.1013 7点 ハヤブサ消防団
池井戸潤
(2023/08/14 21:00登録)
 ミステリ作家の三馬太郎は、東京での暮らしに倦み、亡き父の故郷であるハヤブサ地区に移住した。移住早々、消防団に勧誘され、入団した太郎。だがやがてのどかな集落でひそかに進行していた連続放火事件、村人の不審死事件に直面する。この村にはいったい何があるのか───?

 田舎に移住した都会人の当初のとまどいや、次第に溶け込んでいく過程がリアルに描かれていて、一物語として十分読み応えがある。一方で、村で進行する不審な出来事に高まる緊張感もうまく融合されていて、さすがの筆力と感じる。
 「消防団」という、田舎文化の象徴であるようなことを題材として、令和の世になっても地方では根強く残る昭和的な風土を描きつつ、不穏な雰囲気と人間模様を非常に上手く描きあげていた一作だと思う。
 面白かった!


No.1012 5点 ローズマリーのあまき香り
島田荘司
(2023/08/14 20:45登録)
 1977年10月、世界中で人気を博す、生きる伝説のバレリーナ・クレスパンが密室で殺された。しかも殺されたのはニューヨークで行われていた講演の2幕と3幕の間、それなのに殺されたはずのクレスパンは最終幕まで舞台で踊っていたと、観客みんなが証言した。「クレスパンだからこそ、死後も最後まで踊り続けたのだ」―まことしやかな伝説と化しながら事件の真相が分からないまま時は過ぎ、20年後。世紀の謎は、名探偵・御手洗潔の手に委ねられた―

 7年ぶりの御手洗シリーズ、そりゃとりあえず読む。謎の不可能度は高く、謎解きへの期待はかなり高まるが、一方で不要な挿話が多く、御手洗登場までも長い。つまり不必要に長い。
 作風は同氏「摩天楼の怪人」を彷彿とさせる。ただ「この不可能にしか見えない状況がどんな『驚愕の』仕掛けによって解き明かされるのか?」という膨らむ期待に応えるものとしては、真相はイマイチだったかもしれない。
 とはいえ、氏の代名詞ともいえる「御手洗シリーズ」の長編を書き続けていることにはうれしさを感じる。可能な限り続けてほしい。どのみち絶対読む。


No.1011 7点 あなたへの挑戦状
阿津川辰海 × 斜線堂有紀
(2023/07/15 11:50登録)
 巨大な水槽のある円柱型の建物「水槽城」で怪死事件が発生。犯行当時、水槽で現場は密室状態だった(阿津川辰海「水槽城の殺人」)。ホテルで起きた大学教授殺人事件。犯人は犯行後、死体の横で一晩眠っていた―(斜線堂有紀「ありふれた眠り」)

 「紅蓮館の殺人」「透明人間は密室に潜む」の阿津川辰海と、「楽園とは探偵の不在なり」「廃遊園地の殺人」の斜線堂有紀が、互いに「あなたへの挑戦状」とお題を出して小説を書いて競い合う企画。
 お互い舞台設定が先に与えられ、それをもとに物語を編み上げていくという過程になるのだが、特に阿津川の「水槽城の殺人」のほうはよく考えたなぁと思った。「ありふれた眠り」は、どちらかというと犯人が先に見えてしまっていて、兄妹関係のドラマ的要素の方が印象に残った。
 何にせよ、今を時めく人気ミステリ作家による本格の競作。十分に堪能した。


No.1010 7点 そこにいるのに
似鳥鶏
(2023/07/15 10:56登録)
 写真を見るたび次第に近付いてくる、いるはずのない人の姿。帰り道にある2階の部屋で、毎日自分を見ている人影。いったん迷い込んだら二度と抜けられないY字路の迷路。まったく身に覚えのない、自分の不道徳な行為の動画アップロード…オールラウンダーなミステリ作家・似鳥鶏の、13のホラー短編集。
 ちょっとした中編レベルからショートショートの部類まで、雑多なサイズで並べられた短編集だが、「クママリ」というキャラクターが要所要所で出てくることで同一座標の物語っぽくなっている。
 一編目の「瑠璃色の交換日記」からなかなかよく、ホラーとしては「空間認識」「終わりの日記」が個人的に良かった。
 物語としては「労働後の子供」が一番好き。


No.1009 8点 彼女はひとり闇の中
天祢涼
(2023/06/25 19:59登録)
 10月のある朝、女子大生の守矢千弦は昨夜近くの小道で女性が刺殺されたことを知る。被害者はなんと、昨夜「相談したいことがある」とのみLINEを送ってきた幼なじみの朝倉玲奈だった。小学校時代、永遠の友情を誓いながら、同じ大学で再会してからは微妙な距離感があった玲奈。千弦は自身で真相をさぐろうと決意する。調査を始めると、親友の玲奈の知らなかった一面が次々と見えてきて―

 犯行者の独白が序盤に入ってきて、読者は「倒叙ミステリ」だと理解して読み進めることになる。ところが…
 これはなかなかやられるなぁ。ミステリとしての真相(仕掛け)だけでなく、物語中の「善人」「悪者」の見方もひっくり返されて、気持ちよい騙され具合だった。
 なんにせよ、この作者のストーリーテーリングは絶妙。どれを読んでも引き込まれる。チェック必須の作家です。 


No.1008 7点 陽だまりに至る病
天祢涼
(2023/06/25 19:46登録)
小学5年生・上坂咲陽の住む町で、殺人事件が起きた。コロナ禍でただでさえ外出制限を言いつけられている中、輪をかけてその風潮は堅牢に。そんな中、咲陽の向かいに住む同級生・野原小夜子が家を出ていこうとする。学校では陰で「ノラヨコ」と言われ、皆に敬遠されている彼女がなぜか気にかかり、咲陽は小夜子を家に招く。ところが、小夜子の状況を聞くうちに、小夜子の父・虎生が件の殺人事件の犯人ではないかと咲陽は疑い始める―

 殺人事件の真犯人を追うというメインストーリーに絡めて、小学生女子のささややかな友情、学校での人間関係などを描いている構成が巧み。よく考えられた設定だと思う。
 事件の真相的には、容疑者・虎生は善人的なのだが、小夜子にとっては害悪でしかない父親だったという真相も妙。ずっと咲陽を頼っていた小夜子の「毒」が開陳される後段は、読んでいるときは衝撃でありつつ、「この作者だから最後は…」と期待を込めて予想しつつ読んだが、まぁその期待通りだった(良い意味で)。


No.1007 5点 首切り島の一夜
歌野晶午
(2023/06/18 22:59登録)
 永宮東高校の卒業生と元教師が、四十年ぶりに修学旅行を再現した同窓会を企画。行き先は濤海灘に浮かぶ離島、宴席で同窓生たちは旧交を温める。が、高校当時自分たちの高校をモデルにミステリを書いていたと告白した久我陽一郎が、風呂場で死体となって発見される。折悪しく荒天のため、船が運航できず、宿に足止めとなった七人は、一夜それぞれの思いにふける……。彼ら一人ひとりには、それぞれ人に言えない過去があった──。

 ……のだが、これが事件の真相にはまったく関係がない。参加者(卒業生)たちの卒業後の「それぞれの今」は、それぞれ単体でなかなか面白い物語だったが、長編「ミステリ」の評価としては上がりきらないのは致し方ないかな。
 私は読み物としてそれなりに楽しめたけど、タイトルや舞台設定、そして作者が作者だけに「本格ミステリ」としての期待値を上げてしまうと、裏切られたと感じる人もいるだろうと思われる作品。

 
 


No.1006 7点 友が消えた夏
門前典之
(2023/06/18 22:40登録)
 名門大学演劇部の劇団員たちが、夏合宿中、一夜にして首なし白骨死体と化した衝撃的な事件。犯人と目された人物の死体も発見され、事件は一応の決着を見ていたのだが、9年後、その詳細な記録が連続窃盗犯の所持品から見つかった。一級建築士で探偵の蜘蛛手啓司が、その記録から真相を喝破する――。

 下界から遮断されてしまった孤島、大学のサークルメンバーが一人一人殺されていく状況、など、まぁこれでもかというぐらいの王道設定を令和の時代に提示してくるのが嬉しい。
 「鶴扇閣事件」と「タクシー拉致事件」がともに過去の記録として交互に提示される構成だが、日付から同時進行と思わせておいて…という企みは、ミステリ読みなら早い段階で気づくかも。とはいえ、その仕組みがどこに向かっているかという謎は持続されるので、興趣が落ちることはなかった。
 ラストのもう一仕掛け(宮村絡み)は…オチにしたかった意図は分かるが、うーん…なくてもよかったかも。それより、真犯人の行く末を描き切ってくれる方が私は好き。


No.1005 7点 ポピーのためにできること
ジャニス・ハレット
(2023/06/18 22:25登録)
 タナ―弁護士は、教え子の司法実習生2人にイギリスの田舎町で起きた、看護師の殺害事件に関する資料を送り、真相を推理させる。資料では、劇団を主宰する地元の名士・マーティン・ヘイワードが、難病を患う2歳の孫娘ポピーのために募金活動を行い、多くの人を巻き込んでいくさまがメール、供述調書、新聞記事などで示されている。そしてその募金活動は思わぬ悲劇を引き起こすことに──。資料の山から浮かび上がる驚愕の真相とは!?

 経緯が推察されるメールのやりとりが物語の主軸で、第三者視点の地の文がないというのは新鮮であり面白くもあった。要は「会話文」だけがずーっと続いていくようなものだが、それぞれのやりとりの「間」に起きている出来事は、メールの内容で推察して読んでいくしかなく、それがよい含みを持たせていると私は感じた。
 募金活動の背後に隠れているヘイワードの真意や、医師ティッシュの過去、犠牲者サムの過去と人間関係、イッシーの本性など、さまざまな伏線が張り巡らされることで、誰を、何を信じ、何を疑うべきか翻弄される一作だが、そのこと自体が楽しかった。


No.1004 5点 能面検事の死闘
中山七里
(2023/06/04 20:33登録)
 南海電鉄岸和田駅にて、無差別殺人事件が発生。7名を殺害した笹清政市(32)は、自らを失うもののなにもない“無敵の人”と称する。ネット上で笹清をロスジェネ世代の被害者だと擁護する声があがるなか、大阪地検で郵送物が爆発、6名が重軽傷を負った。被疑者“ロスト・ルサンチマン”は笹清の釈放を求める犯行声明を出す。事件を担当する大阪地検の不破俊太郎一級検事は、調査中に次の爆発に巻き込まれー連続爆破事件は止められるのか?“ロスト・ルサンチマン”の真の目的は何なのか?(「BOOK」データベースより)

 昨今どこかで耳にしたような事件に端を発する、作者らしい作品。冒頭の無差別殺人は始めから逮捕されているので、それに便乗して爆破事件を仕掛ける“ロスト・ルサンチマン”の正体が中核となるフーダニット。不破の目的不明な被害者への延々とした聞き取りが伏線となって真相につながる仕組みだが、その仕掛けが「森の中の木を隠す」ためにちょっと無駄に長い気が。確定的な事実をもとに真相を追求する一点でブレない不破と、いちいちいちいち義憤に駆られたり世間的な感情論に同調したりする惣領美晴とのやりとりも読み応えはありながらもちょっとくどい。そのやりとりを介して、作者の価値観を披歴されているようにも感じる。
 エンタメとしてはいつもながらの水準だとは思う。


No.1003 6点 優等生は探偵に向かない
ホリー・ジャクソン
(2023/06/04 20:16登録)
 友人の兄ジェイミーが失踪し、高校生のピップは調査を依頼される。警察は事件性がないとして取り合ってくれず、ピップは仕方なく関係者にインタビューをはじめる。SNSのメッセージや写真などを追っていくことで明らかになっていく、失踪当日のジェイミーの行動。ピップの類い稀な推理で、単純に思えた事件の恐るべき真相が明らかに……。(「BOOK」データベースより)

 物語の後半に、急に過去の児童誘拐殺人の話が出てきて急展開に。ジェイミーの失踪に新たな様相が加わってきて謎は面白みを増すが、いささか唐突か。前作で関係に決定的な亀裂が入ってしまったナタリーとの関係修復の下りはよかったし、ジェイミー誘拐(?)の犯人に対する主人公の態度も好感が持てた。
 ただ、伏線としてちりばめられた手がかりを追って真相にたどり着くというたぐいの作品ではないかと。物語として面白く読めるが、ミステリとしての評価はこのあたりか。


No.1002 7点 灰色の評決
犬塚理人
(2023/05/21 20:08登録)
 ごく普通の一般人である二宮智樹はある殺人事件の裁判員として裁判に参加することになる。その裁判では、美容師の男が若い姉妹を殺害した事件が裁かれることになっていた。智樹ら裁判員の多くが美容師の有罪へと意見が傾くなか、八木麻衣子と名乗る若い女性だけは美容師の無実の可能性を訴える。だが評決になって、麻衣子は一転して有罪へと意見を変え、美容師には死刑判決が下る。裁判から数か月後、智樹は麻衣子とつきあうようになり結婚を申しこむが、なぜか麻衣子はそれを拒む。折しも美容師の事件の控訴審が開かれ、麻衣子は再び美容師の冤罪の可能性に言及していた。その矢先、麻衣子は忽然と姿を消す。彼女はなぜ姿をくらましたのかー。(「BOOK」データベースより)

 こういう、「主要人物の行方が分からないまま(しかも、位置づけ的には生きていそう)}というパターンって、その真相が気になって読む手が止まらなくなるよね(笑)
 裁判員裁判の、民間裁判員の葛藤(ある意味闇)を題材としてうまく掬い上げ、リーダビリティの高い作品にまとめ上げられていると感じる。展開から言って美容師は冤罪で、真犯人が明らかにされる筋であろうことは予想がつくし、そうあってほしいと思って読んでいるからそれなりに満足できる着地点。ミステリの仕掛けとしての精緻さはそれほどではないかもしれないが、物語として楽しめたのでこの評価。


No.1001 6点 花束は毒
織守きょうや
(2023/05/21 19:58登録)
 木瀬芳樹は、中学時代に家庭教師をしてくれていた真壁研一に偶然再会する。兄のように慕っていた真壁が、婚約して近々結婚するという。喜ばしい報告もつかの間、「結婚をやめろ」と脅迫する手紙が、真壁のもとに届いていることを知ってしまう。芳樹は悩んだ末、探偵に調査を依頼することを決める。その探偵・北見理花は、中学時代に「探偵見習い」と称して、同級生たちから依頼を受けて悩みやもめごとを解決していた、芳樹の先輩だった。

 先輩・真壁の過去の「レイプ事件」の無実を信じ、奔走する芳樹。本当に真壁は無実なのか、一抹の疑念を読者は抱きながら読み進める。するとラストにそのすべてを覆す真相。仕掛けとしてはなかなかのもの。
 とはいえ、このテのミステリがオーソドックスに結末を迎えるはずはなく、そいういう意味では心構えの範疇ではあった。ただ「誰が信頼できる登場人物なのか?」という思いを抱かせ続けさせられる後半の展開は見事で、どんでん返しに次ぐどんでん返しともいえる畳みかけ方はなかなかのものだった。


No.1000 6点 拝啓 交換殺人の候
天祢涼
(2023/05/21 19:43登録)
 上司・牧村司のパワハラによって職を辞した秋元秀文は、退職から半年が過ぎても社会復帰できずにいることに絶望を感じ、自殺を決意した。ところが首を吊るために登った木の洞に、白い封筒を発見する、手紙には〈どうせ死ぬなら殺してみませんか?〉と、交換殺人をもちかける内容が。その日から、白い封筒の送り主との「文通」が始まる―

 そのまま交換殺人の決行に話が進めば、まぁそういう本格ミステリになるのだが、当然そうはいかない。交換殺人の絶対条件である「お互いのことを詳しく知らない」という禁忌をあっさりやぶり、物語は予想外の展開へ。主人公・秀文と、文通(?)相手の詩音のやりとりはなかなか興味深く、ミステリたる仕掛けも施されていて、ある意味ほっこり楽しめた。
 けど、そういう方向ならそれで、きっちりラストを描き切ってほしかったなぁ。


No.999 4点 異常【アノマリー】
エルベ・ル=テリエ
(2023/05/14 19:01登録)
 うーん…
 非常に特異な作品であり、特に前半は読者をひきつける展開なのはわかる。ただ、それを受けての後半、そして物語の落とし方が正直退屈であり、消化不良だった。
 前半は、起きた出来事の概要を知るにつけがぜん面白さが増してくる。こちらとしては、それを後半どのような「返し」で着地してくれるのかを期待していた。だが、結果としてこの出来事に遭遇したそれぞれ人々のパターン(いわゆる「マーチ」の方の自分が死んでしまった人、恋人との間が進展していた人、逆に恋人と別れていた人、など)ごとに、「その後」を淡々と描いて終わってしまっていた。
 読解力が高い方や見識の深い方は、そこに「深遠さ」をいたく感じて面白いのかもしれないが、単純に「ミステリ」を期待している小生にとっては消化不良の感が強かった。
 ここまでお三方の評価平均が非常に高く、低評価をすることに抵抗感もあったが、本サイトの趣旨(様々な見方や嗜好のミステリ読みが集う)を踏まえ、忖度なしで率直な思いで評価した。


No.998 5点 殺戮の狂詩曲
中山七里
(2023/05/14 18:50登録)
 入居一時金が1千万円以上という高級老人ホームの職員・忍野(おしの)忠泰は、ある晩、入居者が寝静まった頃合いに施設に侵入し、入居している高齢者9人を次々に惨殺した。「令和最初で最悪の凶悪殺人事件」と世を騒がせる大事件。弁護を名乗り出たのはかの悪徳弁護士・御子柴礼司。元<死体配達人>と令和最悪の凶悪犯のタッグに、裁判の行く末を全国民が注視する―

 目を覆いたくなるような惨殺シーンから始まる冒頭のつかみはよかったのだが、その後の展開があまりに冗長。2016年に起こった「相模原障害者施設殺傷事件」を材にとっているのは明らかなのだが、ミステリとしての仕掛けは一点、それもちょっと小手先的な仕掛けで、物語の多くは「心証が最悪の容疑者を弁護する、心証が最悪の弁護士」に対する事件関係者の対応が描かれている冗長なもので、短・中編でまとめられるようなネタを、シリーズものの強みで長編に引き延ばしたような印象だった。
 そのやりとり自体はまぁ面白く、「もと少年犯罪者が弁護士」という点が本シリーズの核でもあるので悪くはないのだが、逆に言えばシリーズ初読の読者は完全に置き去りにされる作品ではないかと思う。


No.997 8点 だからダスティンは死んだ
ピーター・スワンソン
(2023/04/30 21:57登録)
 ボストン郊外に越してきたヘンと夫のロイドは、隣の夫婦マシューとマイラの家に招待された。マシューの書斎に入ったとき、ヘンは二年半前に起きた殺人事件で、犯人が被害者宅から持ち去ったとされる置き物を目にする。マシューは殺人犯にちがいない。そう思ったヘンは彼について調べ、跡をつけるが。複数視点で進む物語は読者を幻惑し、衝撃の結末へなだれ込む。超絶サスペンス!(「BOOK」データベースより)

 「隣人が殺人犯ではないか?」というサスペンスや、たどり着く真相はこれまでに何度もされてきた手あかのついたネタのはずなのだが、筆者の巧みな物語設定とストーリーテーリングでそう感じさせない(訳者もうまいのだろう)。いろんなミステリを読んできているゆえに、「まさかそのまま単純にいくものではないだろう」という見方が、一周回って面白くさせているような感じもある。
 何にせよ、期待を裏切らない出来。今後も読み続けたい、お気に入りの作家。


No.996 6点 森の中に埋めた
ネレ・ノイハウス
(2023/04/30 21:42登録)
 キャンプ場でキャンピングトレーラーが炎上し、大爆発が起きた。放火の痕跡があり、男の焼死体が見つかる。刑事オリヴァーとピアは捜査を始め、車の持ち主がオリヴァーの知人の母親だと判明するが、余命わずかな彼女が何者かに窒息死させられてしまう。さらに新たな殺人が続くが、関係者はオリヴァーの知り合いばかりで…。(「BOOK」データベースより)

 オリヴァーの故郷であるルッペルツハインで起きる謎の連続殺人事件は、オリヴァー自身の少年時代の出来事、そして友達たちに深く関係していた。40年前に行方不明となったままだったオリヴァーの親友が、白骨死体となって発見されたことから事件は深部に入っていく。4ページにも渡る多くの登場人物、さらには覚えにくいドイツの名前ということもあって何度もその登場人物表を確かめながら読む羽目にはなったが(笑)、700ページにも及ぶ厚みでありながら持続する動的で飽きさせない展開は健在。
 複雑な人間関係に混乱してきているので、良くも悪くも、真相にたどり着く過程が精緻なものだったかどうかはもう気にならなくなっている。よくよく考えれば「そんなこと、もっと早く気づけたのでは?」ということでもあるような気はするが。
 まぁ高いリーダビリティで楽しさを最後まで持続できたので〇。


No.995 7点 此の世の果ての殺人
荒木あかね
(2023/03/31 21:38登録)
 日本に小惑星が衝突することが発表され、その衝突を2か月後に控えた世界。社会は、何とか生き延びようと必死になる人、滅亡を受け入れて残りを過ごす人、絶望して自死する人らでパニックになっていた。そんななか小春は、淡々と自動車の教習を受け続けていたが、ある日教習者のトランクに入った女性の死体を発見。自動車学校の教官で元刑事のイサガワとともに、地球最後の謎解きを始める2人だった――。
 上記のような特殊世界設定でなかなか惹かれる冒頭だったが、結果的にこの設定が生きたのは「大量殺人の煙幕」という点だけに感じる。ちゃんとしたフーダニットのミステリで面白かったが、特殊な世界を舞台としたことがそのミステリに寄与している感じはあまりなかった。
 むしろ主人公と教官のイサガワ、それぞれのキャラ立てが物語の面白さを支えている。なかなかに意外な犯人だったが、謎解き以外の部分を飾り立てて面白く仕上げている作品という印象ではあった。


No.994 7点 希望の糸
東野圭吾
(2023/03/31 21:23登録)
 2人の我が子を災害で亡くしたのち、新たに授かった娘を育てるシングルファーザー・汐見行伸。夫と離婚後、一人で喫茶店を営んでいた女性・花塚弥生の殺人事件。離れた場所で起きている、全く関係のなさそうな事案が、加賀恭一郎らの捜査によって結び付けられていく―

 著者の作品群では、特に加賀恭一郎シリーズが好きで好んで読んでいるのだが、本作では加賀の従弟であり部下である松宮脩平が前面に出ている作品。その松宮自身の問題も複線的な物語となっており、厚みのある作品ではあったが「加賀の鋭い推理による事件解明譚」を期待して手を付けた身としてはちょっと肩透かしだった。
 ただ、喫茶店経営の女性殺害事件と、その裏にある父子家庭の家庭事情が結びついていく過程は予想できる類のものではなく、相変わらずの著者の多彩なアイデアには感嘆した。

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