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ミステリの祭典

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ハヤブサ消防団

作家 池井戸潤
出版日2022年09月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点 E-BANKER
(2023/09/16 13:52登録)
地上波のTVドラマも好調な池井戸潤の最新作。
これまでの「勧善懲悪もの」とは一線を画した作品になっている模様だが・・・
単行本は2022年の発表。

~信州・ハヤブサ地区に移住してきたミステリー作家を待ち受けていたのは連続放火事件だった。果たしてその真相とは? 東京での暮らしに見切りをつけ亡き父の故郷であるハヤブサ地区に移り住んだミステリー作家の三馬太郎。地元の人の誘いで居酒屋を訪れた太郎は消防団に勧誘される。迷った末に入団を決意した太郎だったが、やがてのどかな集落でひそかに進行していた事件の存在を知る・・・~

前回の書評(「ノーサイドゲーム」)で、「もうそろそろ、この作風(勧善懲悪+企業ドラマ)を続けるのは厳しいかも・・・」なんていうコメントに対する作者の答えが本作・・・なわけはない!
ないんだけど、確かにプロットは一変している。ただし、読んでいくうちに何となく過去作の「ようこそ我が家へ」と似たようなプロットであるように思えた。
舞台が都会と田舎という違いはあるけど、日常の普通の暮らしをしているなかに、密やかに事件や悪意が生まれ、それが徐々に自分に近づいてくる恐怖。
これがふたつの作品に共通している。要は、サスペンスでよく出てくるプロットということ。

作者久々のミステリーということで、いったいどんな仕掛けが用意されているのかと期待はしてみたものの、正直ミステリーとしての興趣は“超薄”である。
謎多き美女として登場する「彩」の立ち位置がくるくる変わり、そこのフーダニット的な興趣は感じるし、「家系図」を軸にしたドロドロの血の宿命なんていう「昭和の時代かよ!」って言いたくなるような仕掛けもあったりはする。
するんだけど、そこに「深み」は感じない。
道具立てはいろいろと並べて、ミステリーというスパイスはふりかけてみました。どうぞ!って出された料理だったけど、うーん。これは何料理ですか?って作者に聞きたくなってくる。そんな感想(よく分からん感想で申し訳ない)

もう無理にミステリーに寄せる必要はないんでしょう。作者の「強み」はやはり「人間ドラマ」なのだと再認識した。
本作でも、主人公の太郎はもちろん、ハヤブサ消防団に所属する団員のひとりひとり、その他の村民に至るまで、実に生き生きと描かれている。(むしろ真犯人キャラの書き分けが一番つまらない)
それと日ごろから何となく目にしたり、耳にしたりするけど、一般的にあまり知られてない事柄についてのフォーカスの当て方(本作では当然「消防団」。これが実に生き生きと描かれてる。過去作でもラグビー?や農機、などなど)

ということでスミマセンでした。作者はこれからも「勧善懲悪+企業または人間ドラマ」を書き続けるべきです。
そして、日本を代表する役者たちが精一杯の演技をする。これが「正解」(なのでしょう)。

No.1 7点 HORNET
(2023/08/14 21:00登録)
 ミステリ作家の三馬太郎は、東京での暮らしに倦み、亡き父の故郷であるハヤブサ地区に移住した。移住早々、消防団に勧誘され、入団した太郎。だがやがてのどかな集落でひそかに進行していた連続放火事件、村人の不審死事件に直面する。この村にはいったい何があるのか───?

 田舎に移住した都会人の当初のとまどいや、次第に溶け込んでいく過程がリアルに描かれていて、一物語として十分読み応えがある。一方で、村で進行する不審な出来事に高まる緊張感もうまく融合されていて、さすがの筆力と感じる。
 「消防団」という、田舎文化の象徴であるようなことを題材として、令和の世になっても地方では根強く残る昭和的な風土を描きつつ、不穏な雰囲気と人間模様を非常に上手く描きあげていた一作だと思う。
 面白かった!

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