お前の彼女は二階で茹で死に |
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作家 | 白井智之 |
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出版日 | 2018年12月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 10人 |
No.10 | 6点 | ミステリーオタク | |
(2024/04/17 21:22登録) 鬼畜系とかエログロ炸裂とか形容される作風でマニアックなファンも多いという作者の短編集。怖いもの見たさで手に取ってみる。 《ミミズ人間はタンクで共食い》 始めの5ページぐらい読んだところでやめようかとも思った(以前は合わないと感じたら早々に放り出すことも度々あった)が、数年前から一度読み始めた本は意地でも完読するという方針を自分に課しているので、自信喪失に陥らないために、また帯の乾くるみ氏の言葉も「全くのウソではないだろう」と信じて何とかしがみつき続ける。しかし尋常ではないキモさ(エログロなどという芸術的用語は相応しくない)の上のややこしくてムチャクチャな展開にはホトホト悪酔いさせられる。 《アブラ人間は樹海で生け捕り》 前作よりは、ムリヤリ鏤められたピースを強引に嵌めていくというパズラーとして、まだ読める代物にはなっているが桁外れのキモさは相変わらず。これが最後まで続くかと思うと・・・苦行以外の何物でもない。 《トカゲ人間は旅館で首無し》 幸い前2作に比べるとキモ度はやや控え目にはなっているが、やはり爛れた皮膚を剥がしたり、膿でくっつけたりなどの想像しにくい(したくもない)作業描写が多い上に、やはり推理展開もややこしい。 しかし終盤の残虐極まる壊滅は結構笑えてしまった。なるほど消化・排泄系や膿汁・粘液系はダメでもコッチ系は割りと好きだったな、と忘れていた自分のキュートな一面を久々に思い出させられた。 また前2作とは異なり、好みではない多重解決ではないのもよかった。皮膚科医の名前がゲンタというのも受けた。 《水腫れ猿は皆殺し》 更にキモ度は抑えられてホッとするが、ムチャクチャ度は相変わらず。ただ前3話のファクターを取り入れたり、またストーリー的にも一応本短編集のマトメのつもりのようだ。 《後始末》 あってもいいけどなくてもよかったかな。 人の嗜好は様々だからこういう風味の小説を好む人がいることも理解できるし、本書の各作品がキモ塗れながら特殊設定においてそれなりに緻密なロジックを張っていることも評価できる。が、生理的に合うか合わないかはどうしようもない。恐らく自分がこの作者の他の作品を手にすることは当分ないだろう。 |
No.9 | 7点 | みりん | |
(2023/10/22 01:48登録) 正直いうと短編集ってあんまり心踊らないんだよねぇ。でもこの作品の密度は異常です。短編でも多重解決を徹底するのってふつうに頭おかしいと思うんだけど、どうなってんのこの著者。今最も脳内を覗き見したい作家ランキング堂々の第1位。 いつもの謎比喩と全編にわたる"ゲロキモロジック"に加えて、やたら記憶に残るネーミングセンス(大耳蝸牛、ヒコボシ、まほまほ…etc)が楽しめる。 【ネタバレがあります】 『ミミズ人間はタンクで共食い』『アブラ人間は樹海で生捕り』の2つはノエルが○したのがどちらかという前提条件で推理がガラリと変わるのすごいね。よう思いつくわこんなん。 『トカゲ人間は旅館で首無し』では純密室+雪密室。そして何の思い入れもなさそうに惜しみなくコロされてしまうあのキャラ。もっと見たかったよミミズ女探偵。 『水腫れの猿は皆殺し』はおもしろトリックと連作短編だからこそできる少々強引なサプライズ。ですが今まで相棒も探偵も容赦なくコロしてきたお話だからこそ生きる仕掛けだと思います。 『後始末』では『ミミズ人間はタンクで共食い』という原点に戻る綺麗な幕引き。お見事。 ヒコボシが最後にナンカイイヤツ感を出すのとお咎めなしなのがちょっと不満だったかな。 |
No.8 | 7点 | HORNET | |
(2023/09/03 18:09登録) 昨年、「名探偵のいけにえ」でミステリファンに本格派としての実力を知らしめた作者だが、本作品のようなエログロ、汚物まみれの作風がもともとの路線。普通、シリーズ短編であれば、序盤から一緒に捜査している主人公の相棒などはずっとコンビのようにやっていくのに、何編目かであっさり殺され、その他の登場人物も惜しげもなく(?)次々殺されていく。さすが、突き抜けている。 ただ、グロい登場人物と特殊設定ではあるが、いつも「謎解き・推理」のロジックはしっかり立てられている。本作も例にもれず、ミミズ人間とかべとべと病とか、とにかくグロいが、各事件で犯人を絞り込む推理はいたって論理的。それが面白い。 最終編で、それまでの話を伏線としてまとめあげる様は作者らしかったが、ちょっと大味な仕掛けだったかもしれないなぁ。まぁそれを差し引いても、他に類を見ない「本格」(?)作品、この作家でこその作品というところがよい。 |
No.7 | 7点 | ぷちレコード | |
(2023/08/25 23:20登録) 「ミミズ人間はタンクで共食い」高級住宅街で乳児が水槽に落とされ殺される事件が発生、刑事のヒコボシが捜査に乗り出す。因縁深い被害者家族を相手に鋭い推理を進めるヒコボシ。 誰一人としてまともな人が出てこないが、中でも倫理の欠片もないヒコボシのキャラクターは強烈。グロテスクな設定てんこ盛りな反面、推理は理詰めで、特に冒頭ノエルが複数の相手の誰を襲ったのかで解決が変わってくる多重推理が素晴らしい。第二話は、樹海に接して対立する二つの村で、第三話は、山間の温泉宿で殺人事件が起きるといった具合に、作りは本格ミステリの王道を行く。変態設定とのギャップは天才的。 |
No.6 | 8点 | ʖˋ ၊၂ ਡ | |
(2023/08/25 15:52登録) 強烈なインパクトあるタイトルだが、元ネタはJ・ケルアック&W・バロウズの「そしてカバたちはタンクで茹で死に」だろう。作中の世界には、成長するにつれて人間とミミズのハーフみたいな外見になる遺伝子疾患を持つ血筋が存在し、ミミズと呼ばれて被害別階級扱いされている。第一話「ミミズ人間はタンクで共食い」では、高級住宅地に住む、整形外科医の家で乳児が殺害され、容疑者としてミミズの青年ノエルが浮上するが。 事件の捜査を担当するヒコボシは、現場で不謹慎なジョークを飛ばすような不良刑事だが、その性格に似つかわしからぬ緻密な推理を披露する。非論理性と生理的嫌悪感を強調した世界観の中で、真相と偽りの解決が複雑に入り乱れる多重推理の趣向が繰り広げられる。この作者でしか書けない本格ミステリといえる。 |
No.5 | 7点 | レッドキング | |
(2023/08/17 00:55登録) 拉致した異形少女を探偵役に使役する暴虐警官。へど・グロ・残酷コミックにして、「超」本格ミステリな連作短編集。 第一篇・二編の、緻密かつ変態的ロジックに、各6点。 第三篇の、閉ざされた山間旅館での、密室二件付き連続殺人のトリック・ロジックに8点。 このまま行くか? と思わせといて、三篇終盤でトンデモどんでん返しが来て、 第四編の、密室・人物入換えトリック及びロジック等てんこ盛りに、7点。 で、とりあえず、HappyなEndだが・・・こいつら、こんなに幸せにしといてイイの?と、腑に落ちない所で、 「後始末」エピローグで、めでたくBad End・・・腑に落ちた(かな) ※あの異形少女を探偵役に残して、警官とのコンビシリーズ物にしても、良かったか・・・ちと、日和り過ぎか。 |
No.4 | 7点 | 名探偵ジャパン | |
(2019/03/04 22:17登録) 白井智之作品は初めて読んだのですが……何だか凄いですね(笑)。 読み始めたすぐは、「ああー、これ系かー」と、ちょっとげんなりしかけたのですが、さにあらず。「見た目はゲテモノ、中身は本格」な意外な傑作でした。 ~以下、ストーリーのネタバレ的なものがあります~ 最後、何だかいい話に落ち着きかけて雲行きが怪しくなり、「おいおい。それはないだろ」と危惧したのですが、きっちり「後始末」をしてくれました。ですが、もう一人の主人公も殺すべきだったのではないでしょうか。最後にいいことをしたとはいえ、それ以前に彼も悪逆なことをしていて、復讐対象者以外の人間を殺したりもしていますからね。こちらを殺してあちらを許すという、さすがこんなぶっ飛んだ作品を書く作者は、倫理観も常人の理解の及ばない領域に突入しているのでしょうか。 |
No.3 | 6点 | 人並由真 | |
(2019/01/31 13:51登録) (ネタバレなし) 連作短編集みたいだから、たぶん各話の事件は毎回刷新されるんだろ、だったら備忘メモ用の人物一覧表は作らなくていいか、と思いながら読み始めた。 そしたらとんでもない、あまりの情報量の多さに、人物表の作成は必須。おかげで1話は、二回繰り返しながら読んだ。 それでその連作短編集(全4本の連作中編集かな)だからこそ、長編を一冊まとめる以上に一本一本にきわどいネタと設定を用意しなければならなかった感じで、腹ごたえはもう十分。読み進めるにつれて推移していく登場人物たちの狂った関係性にもぶっとんだ。ただミステリとしては白井ワールドならこれくらいはやって当たり前だよね…という域に留まった印象もあるので、7点にしようか迷った末にこの評点。ゼータク言って、すみません(汗)。 後半のエピソードでの、日本ミステリ史上四番煎じになる(もっとかもしれない)あのトリックを、殺人方法としてのやることは同じでも、こういう手段で実現できるんです、と実践したあたりはニヤリとしたが。 |
No.2 | 7点 | メルカトル | |
(2019/01/16 22:20登録) 高級住宅地ミズミズ台で発生した乳児殺害事件。被害者の赤ん坊は自宅の巨大水槽内で全身を肉食性のミズミミズに食い荒らされていた。真相を追う警察は、身体がミミズそっくりになる遺伝子疾患を持つ青年・ノエルにたどりつく。この男がかつて起こした連続婦女暴行事件を手がかりに、突き止められた驚くべき「犯人」とは…!?鬼才が放つ怒涛の多重解決×本格ミステリ! 『BOOK』データベースより。 前にも書きましたが、白井智之の新作と聞いて黙っていられない私は、今回も早速購入し、諸事情によりようやく読み終えました。はっすーさんに後れを取ってしまいましたが。 内容はとても充実しており、二冊分読んだような気分です。それにしても、本作はいろんな意味で凄いですね。相変わらずの特異設定を伏線に利用し回収、見事に解決に結びつけ本格ミステリへと昇華しているのが凄い。命に対する尊厳の欠片もなく、人を人とも思わない無機質なもののように扱うところが凄い。ある人物の鬼畜の如き所業の数々が凄い。人名や地名のネーミングセンスが凄い。といった具合です。 個人的には前作のほうが好みでしたが、これはこれで素晴らしいと思います。グロさはやや控えめだというものの、そちらに耐性がない方には決してお勧めできない代物です。しかし、どういう頭の構造をしていればこんな複雑で捻じくれた小説を書けるのか、作者に対する畏敬の念を禁じえません。粗削りな面は否めませんし、表紙のセンスの悪さは何とかならんものかと思いますが、今年の年間ベスト10が今から楽しみです。今これだけ直截的な表現ができる作家は、彼をおいて他にいないのではないでしょうか。 |
No.1 | 8点 | はっすー | |
(2019/01/10 04:27登録) 少しネタバレあり 前作のタイトルが一部の方達から問題視されたらしいのですが白井氏らしい相変わらずのタイトルには思わず笑ってしまいましたw 個人的には今作が現時点での作者の最高傑作ではないかと思います 内容は連作短編となっており各々の短編で作者が得意とする特殊な人たちによる特殊な事件が扱われています この作者にしか書けない唯一無二の異様な事件にあくまで論理的に解決を見せる腕にはいつもながら脱帽です 今作は多重解決が一つのテーマとなっているのですがこれまた一筋縄ではいかない作者らしいものとなっており特に一話目のラストは…必読です 追記…紀伊國屋で購入すると限定のショートショートが読めるのでファンの方は紀伊國屋で買った方が良いかもしれません |