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ミステリの祭典

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陽だまりに至る病
<仲田・真壁>シリーズ

作家 天祢涼
出版日2022年02月
平均点6.33点
書評数3人

No.3 6点 ぷちレコード
(2024/10/05 22:18登録)
「困っている人がいたら何かしてあげなさい」と常日頃、母親からそう言われていた小学五年生の上坂咲陽は、同級生の野原小夜子を家に連れ帰った。小夜子は近所のアパートで父親の虎生と二人暮らしだったが、失業中の虎生がいなくなってしまったからだ。だが帰宅した母親に言いだしかねた咲陽は、小夜子と二階の自室に住まわせる。おりしも町田のラブホテルで若い女性の殺人事件が起きていた。そのニュースを見る小夜子の様子や、彼女を捜しているという刑事の訪問などから、咲陽は虎生が事件に関わっているのではないかと疑問を抱く。
人間として大事な要素を欠落させたまま、無定見な「正義」を肥大させてしまった虎生。貧困によって身を売る女性と、彼女らを買う男たち。コロナ禍によってより鮮明にされた現実が、事件の背後から浮かび上がる。さらに咲陽と小夜子に培われたはずの「友情」の揺らぎと反転が、驚愕と感動を呼ぶ。

No.2 7点 HORNET
(2023/06/25 19:46登録)
小学5年生・上坂咲陽の住む町で、殺人事件が起きた。コロナ禍でただでさえ外出制限を言いつけられている中、輪をかけてその風潮は堅牢に。そんな中、咲陽の向かいに住む同級生・野原小夜子が家を出ていこうとする。学校では陰で「ノラヨコ」と言われ、皆に敬遠されている彼女がなぜか気にかかり、咲陽は小夜子を家に招く。ところが、小夜子の状況を聞くうちに、小夜子の父・虎生が件の殺人事件の犯人ではないかと咲陽は疑い始める―

 殺人事件の真犯人を追うというメインストーリーに絡めて、小学生女子のささややかな友情、学校での人間関係などを描いている構成が巧み。よく考えられた設定だと思う。
 事件の真相的には、容疑者・虎生は善人的なのだが、小夜子にとっては害悪でしかない父親だったという真相も妙。ずっと咲陽を頼っていた小夜子の「毒」が開陳される後段は、読んでいるときは衝撃でありつつ、「この作者だから最後は…」と期待を込めて予想しつつ読んだが、まぁその期待通りだった(良い意味で)。

No.1 6点 人並由真
(2022/04/25 15:22登録)
(ネタバレなし)
 コロナ禍で各方面に影響が出る現代。登戸北小学校の五年生の女子・上坂咲陽(さよ)は、レストラン経営の父、小児科の看護師の母の双方の仕事がコロナのために鈍化しているのを察し、家計に不安を抱く。そんななか、咲陽は、同じクラス内ではみ出し者の女子で、隣のアパートの住人でもある「ノラヨコ」こと野原小夜子を、とある事情から秘密裏に自室に匿うようになった。コロナの罹病を警戒する両親の目を盗んで、小夜子が潜む自室に食事を運び続ける咲陽。だがやがて小夜子の父、虎生が若い女性殺人の嫌疑で、警察に追われているらしいことが分かってくる。

 神奈川県警の真壁巧警部補と、多摩署生活安全課の婦警・仲田蛍という所属の異なる警官同士が、所轄の域を超えて(その時その時の流れから)連携しあう「仲田・真壁シリーズ」の第三弾。

 評者はシリーズ前作の『あの子の殺人計画』は未読なので、シリーズ第一弾『希望が死んだ夜に』以来の、仲田&真壁コンビとの再会になる。
 とはいえ、本作の実質的な主人公はまず第一に小五の児童・咲陽で、それと対峙されるポジションのもうひとりのメインキャラが小夜子。
 『希望が~』もメインゲストの少女の描写に比重を置いた作品だったと記憶しているが、今回はさらに、21世紀のコロナ禍の状況下にアレンジされた、仁木悦子の児童主人公ものみたいな雰囲気だ。
(そういえば、これは特に作者が意識したわけでもないだろうけど、本作の伏線の張り方には、ちょっと仁木作品っぽいところもある。詳しくはもちろん書かないが。)

 活字も大きく、スラスラと読める。一方で社会派ミステリを謳うように、コロナ禍で生活にひずみが出る人々の苦渋にさまざまな形で焦点が当てられており、内容はその意味で重い。

 物語の奥にあるメインテーマは、第一作と同様、貧困。ただし逆境に陥っていくメインキャラの中には、普遍的にコロナ禍の被害にあったと同時に、当人自身のいびつさが原因となった部分もあり、ここはちょっと微妙だ。
 まあ読者に息苦しさを感じさせ過ぎないエンターテインメントとしては、問題の根源は(普遍的に読者にも相通ずる部分ばかりでなく)作中人物の特異な個性にあったのだ(ヒトゴトだ)、とする方が良いという計算もあるのだろうか? それは嫌らしい見方か。
 そんな一方、コロナ禍で経済的に苦しくなっていく作中の人々に、小説的な(安易な?)救済の道が与えられないのは、ある種の作者の誠実さを感じたりもした。

 なおミステリとしては、結構なサプライズを体験させてくれた『希望が』に比して、まあ(中略)。正直、素で物足りなさを覚える人も多いと思う。
 ただし小説としては終盤に結構なツイストがあり、読みごたえがあった。とはいえこれも、ある意味でシリーズものの枠組みという制約に関わってきてしまっている面もある。詳しくはここでは言えないが。
 小説として佳作、ミステリとしては水準作、というところ。

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