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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.21点 書評数:2006件

プロフィール| 書評

No.1946 8点 ナポレオンの剃刀の冒険
エラリイ・クイーン
(2025/04/11 11:54登録)
 350編から厳選したと言う本書の成立過程を考慮しても尚、非常に粒揃いで驚いた。EQの下手な小説より面白い。早川書房や東京創元社ではないからって外典扱いは勿体無い。中でも「殺された蛾の冒険」の手掛かりが見事。

 私はどうにか2問正解。間違った推理を開陳すると、
 「悪を呼ぶ少年の冒険」……カナリヤが毒を落とした。そのように訓練した? 事故?
 「ショート氏とロング氏の冒険」……ショート氏は家に戻った後に死亡。生きた人間には隠れられないどこかに遺体が隠してある。
 「呪われた洞窟の冒険」……何らかの手法(または自然現象?)により泥が硬くなった。凍った?


No.1945 7点 わすれて、わすれて
清水杜氏彦
(2025/04/11 11:54登録)
 『DEATH NOTE』ばりのガジェットが出て来るから、もっと大きな騙しがあるかと思ったが、本当にあくまで小道具に留めていて意外(肩透かし、とまでは言うまい)。
 世の中舐めた美少女達が自業自得で足を掬われ、良い意味だけではない成長譚。でも、殺る時は殺らないと犠牲が増える、その意味でリリイが復讐現場でウダウダ言うのは覚悟が足りてない、と正直思った。勿論それは、前提として作品世界に引き込まれたからこそ反発もしたのであって、キャラクター設定が悪いと言うことではないよ。


No.1944 7点 貴方のために綴る18の物語
岡崎琢磨
(2025/04/11 11:51登録)
 こ、これはズルいよ岡崎琢磨……それこそ作中人物の言う通り “おもしろいと言えばおもしろいし、たわいもないといえばたわいもない” と思いつつ読み進んだ先にあんな仕掛けがあったら泣いちゃうじゃないか。ツボを突かれた私の負けです。

 ただまぁ、一連の作中作に “ノウハウを駆使してノルマをこなしている” ような印象を抱いたのは否めない。作者の設定上、大傑作を含めるわけにはいかなかったのである(?)。
 充分及第点は付けられるが、“これが良い” と言う突出した作品は正直、見当たらなかった。“これがイヤ” なのは「いじめロボット」。理由は、メインの部分が登場人物の舌先三寸だから。


No.1943 6点 バスカヴィル館の殺人
高野結史
(2025/04/11 11:51登録)
 まさか続編があるなんて。
 でも考えてみれば、“探偵遊戯” の設定のおかげで一般のミステリには無い方向軸の謎解きが成立するし、だからと言って他の作家があからさまにパクれるものではない。早い者勝ちの権利?
 基本設定がシンプルなので、その裏をかく展開も判り易い。これも利点。
 ただ本作、シリーズ確立の為の意義はともかく、単独作品として見ると決め手に欠ける。

 ところで、ネーミングの元ネタとは。事件の真相より気になる。数々家=ホームズ?


No.1942 5点 赤の女王の殺人
麻根重次
(2025/04/11 11:50登録)
 ネタバレあり。
 地味な話だな~。とは言え、ダミー推理にはつい “成程!” と納得、その反論にまたもや “成程!!”。この流れは上手かった。
 アレッと思ったのが動機に関わる部分。Aと別れてBに行く心算が、想定外にAが死亡、だったらBも殺してしまおう、とはどういうことか。別離でも死亡でも “犯人が身軽になる” と言う結果は同じだろうに、何故その先のルートが分かれるのか。作中説明された “Bと結婚せずに金だけ得る” 方法は、Aの存在/不在とは無関係で実質的には別件の筈だが、“Aの死によってBの死も決まった” みたいな話になってない? 人死にが出たことで箍が外れちゃったのかな。
 いや、人の気持だから色々考えられるし不合理でもまぁ駄目とは言わないが、そこは犯人の口から説明して欲しかった。
 もう一点。Bは共犯者でもないのに犯人に言われるがままに身を隠した。不自然と言うか御都合主義的な動きだと思う。

 “増殖する焼骨” って三回続けて言えない。


No.1941 8点 禁忌の子
山口未桜
(2025/04/04 11:59登録)
 良く出来ているけど割とありがちなタイプの医療ミステリ、この後は作者の専門知識を生かした真相で “勉強になりました~” って〆るんでしょう?
 と見切った心算でいたら、唐突にダークサイドに反転して驚いていたら、更なる攻勢で完全にノックダウン。構成の上手さが光った。その上に乗せるべきエモーションが借り物でない点も推進力になっている。このラスト、私は良いと思う。

 大きな偶然が二つあるんだよね。主人公がそっくりさんの死体と遭遇したこと。そして、あの二人が同じ職場で出会ったこと。私は “キャラクターの配置に関する偶然” には厳しいから気になるなぁ。どちらも工夫次第でもっと自然に処理出来そうだし。


No.1940 7点 邪教の子
澤村伊智
(2025/04/04 11:59登録)
 前半の伏線はまぁ色々読めたけど、これは作者にとっても捨て駒と言うか撒き餌と言うか、読者が見抜く前提だと思う。引き換えに最後の砦として守った力の謎。こちらにはすっかり引っ掛かった。
 それとは別に、物語としても読ませる展開力が強く引き込まれた。ただ最後、“大地の民はそうじゃなきゃ駄目なの” と彼女が言う気持が良く判らない。あそこでもっともっともらしい思い込みが語られていれば完璧だったのに。


No.1939 6点 暗号の子
宮内悠介
(2025/04/04 11:59登録)
 作者曰く “テクノロジーにまつわる話を集めたもの”。先端のテクノロジーには皆注目して、いずれ誰かが書くだろうから早い者勝ちである。解釈の誤謬が後に見付かるかも知れないし、それも含めやがて過去のものになる。結構リスキーな挑戦だと私は思っている。
 一番心が動いたのは「ペイル・ブルー・ドット」で、やはり判り易さとチャレンジャーな子供には勝てないのか。もっとしっかり長編にすれば良いのに。と思ったが、その手のSF長編は既に色々あるんだよね。小川一水とか山本弘とか野尻抱介とか。明確な “SF” になるまで引っ張らずにサラッとぶった切る方が、ジャンル越境作家・宮内悠介の個性が出るのかも。
 AIで執筆した掌編もあり。うーむ。一世紀前の文豪が書いた独り善がり強めの不人気作、って感じ。あとがきでプランを説明しているが、その狙いは戦略ミスではないだろうか。何故なら、AIでヘタウマは(あざと過ぎて)成立しないからである。


No.1938 7点 マガイの子
名梁和泉
(2025/04/04 11:58登録)
 この設定、特に新しくはないよね(スワンプマン?)。マガイってどっちの意味だろう? と思ったらダブル・ミーニングだった。
 その上に斬新な解釈を付け加えるわけでもなく、ホラー的な曖昧さを適度に残しつつ、上手く伏線回収して何となく予想されるところに着地(悪い意味ではない)。
 と言うか、反転もあるんだけど、それ以前にドカーンと行くところまで行っちゃってるので、もう驚く余力が残っていない。“終章” と名付けて消化試合感を出したのはミスではなかろうか。

 意地悪く言えば、ワン・オヴ・ゼムになりがちな枠組みの中で、しかし最大限に健闘してはいる、と思う。


No.1937 6点 マルチの子
西尾潤
(2025/04/04 11:58登録)
 私は今までに二回、勧誘された経験あり。そういうことがあるとやはり相手と縁は切れてしまう。警戒と言うより “私のことをそんな話に乗る奴だと思ってたのか……” とがっかりしたっけ。
 本作中の勧誘場面に出て来る自己啓発みたいな話とか “夢はありますか?” とか、その人達も言ってた言ってた。言葉が上滑りする感じがリアル。
 と同時に、意外と普通な喜怒哀楽が描かれてもいて、彼等がすぐ隣にいてもおかしくないとも感じた。決して別世界の話ではない。注意喚起を迫るビジネス・クライム・サスペンス。おっと、マルチは合法だからそんな風に呼んだらクレームが来ちゃうね。


No.1936 8点 雷龍楼の殺人
新名智
(2025/03/28 11:25登録)
 私は高く評価する。多重死事件の細かな伏線が非常に上手い。その上で、二つの謎のこういう配置と連携はグッド・アイデア。
 メタでない “読者への挑戦” と言うのも珍しいが、これは挑戦と言うより “フェアネス宣言” みたいなものだろう。そしてその公約をあろうことか剥がしてしまう。ところがそのアンフェアネスがもう一つの謎を解く決め手になっているのである。
 “読者への挑戦” すら聖域にせず、或る意味土足で汚しちゃっている暴挙だけど、結構痛快に感じた。まぁあんな大仕掛けを行う動機が確かに強引ではある。
 ところでこうして考えると、これは “読者=犯人” の変形と言えるかも。


No.1935 8点 涼宮ハルヒの直観
谷川流
(2025/03/28 11:24登録)
 ジャンル登録どうしよう。シリーズの基本設定であるSF要素は殆ど関わって来ない。後期クイーン問題から入って、謎の旅レポについてSOS団で侃々諤々する展開に燃える。葡萄踏みの情景には胸が躍った。
 ページが余ってるよと思ったら、叙述トリックのみならずその先にもツイストがあって唸らされた。しかし、ハルヒがまともに謎解きを試みていて、何だかキャラが変わってない?

 旧巻未読で本作だけ読んでもまぁ大丈夫。コレはミステリ読みが評価しないと勿体無い!


No.1934 7点 血腐れ
矢樹純
(2025/03/28 11:24登録)
 どれも面白く怖く良く出来た作品だが、短編集としてこうして一冊にまとまると似通った印象になってしまう。“家族の物語” であると言う共通点のせいか。また、私にとってホラーはあくまで “周辺ジャンル” なので、読み方の解像度が低いのかもしれない。ミステリ色の強い「声失せ」が一番良いと思ったし。


No.1933 6点 さかさ星
貴志祐介
(2025/03/28 11:24登録)
 霊能者イコール特殊技能を持つ探偵、と解釈して “呪物の論理” を解くコンセプトは、薀蓄も含めて楽しめた。

 しかし視点人物がどうも摑みにくい。動画撮影中ってことで一歩引いたカメラ操作者のポジション、但し血縁者なので自身もリスクは負っている。それなりに知恵と知識はあるようで、後半は意外と活動的になる。
 総じて、一族と霊能者の間に入って仲介する “役割” はあっても、個人としてのキャラクターが希薄。ストーカーの件は浮いているなぁ。床下で実況の真似をする場面は良かったが。
 彼の妙に平坦な視点が物語全体を抑止して、血みどろの筈のエピソードにワン・クッション挟む働きを果たしている。それこそ液晶モニター越しに事態を見ているような他人事感がずっと付き纏って共感しづらかった。もっと素直に “読者を怖がらせること” に注力しても良いのでは?


No.1932 3点 赤毛のレドメイン家
イーデン・フィルポッツ
(2025/03/28 11:23登録)
 何か変だ。
 読了して、色々考える程に変な話に思えて来る。ネタバレ無しでは語れないな。

 コレは “真相を読者の視点で見た時に面白くなることを優先した計画” って感じ。しかもスタンスが首尾一貫していない。単独犯じゃないからか。
 目的への最短距離ではなく、経過で自分が楽しんでいる感が強い。犯人は芸術家気取り。ただその割に事件の表層が地味。
 ちょっと結果論だけど、死体は(とりあえず)隠しおおせている。だから全て “失踪” 事件として済ませることも出来そうで、その方が安全な筈。でも財産を動かしたいなら死亡認定された方が良いから死体は出すべき。犯行の痕跡をおおっぴらに残しているのに、死体そのものは厳重に隠しているのはどっちつかず。
 動機はカネか誇りか。ゲーム的興趣と自己の安泰、どちらをどの程度優先しているのか?

 元々の計画では殺害順が違う、とのこと。その場合、誰に容疑を押し付ける予定だったのか? 元軍人のあの人だからスンナリ疑われた、ってとこもあると思うのだ。

 記述が若干曖昧ながら、死体発見前に殺人罪で判決まで出ているように読めるが、それは如何なものか。
 そしてそれは深読みの材料にもなる。実は生きていて、彼が蒸発する為に実行犯を操ったのかも知れない。または、自分が狙われているので先手を取って消えて見せたのかも。

 最も気になるのが、第一の事件の入れ代わりって必要か? と言うこと。
 その為には、死体を隠し切ることが絶対条件。しかし、隠し切れるなら、単なる出奔に見せ掛けられそうだし、入れ代わりの必要は無い。軽いパラドックスになっている。入れ代わり無しで出奔に見せ掛けた場合、何か不都合が生じるだろうか?
 そりゃあ入れ代わりで自分を消して見せれば、疑いをそらす働きはある。でも、別人として再登場する際に同じようなポジションを選び、結果やはり疑われているのでは意味が無い。
 第二以降の殺人は、①家の外におびき出して殺している②共犯者が家の中にいる――のだから、実行犯は部外者ポジションの方が安全なんだよね。全部終わってから結ばれれば良い。

 これではまるで “殺人を遂行する → 逮捕される → 手記を執筆・出版する → 世人が驚嘆する” と、そこまで想定して立案したようだ。
 人生を懸けた犯罪芸術である。手記で自慢することが一番の動機なのではないか。昨今ネットで皆がやっている奴。現代的?
 つまり、作者がそのトリックを使いたかった。そこでトリックを使ってもおかしくない犯人像を設定した。但し非常に特殊で強引な設定である。
 一応スジは通っている。でもトリックの不自然な部分を全て “犯人の遊び心” で片付けるのもな~。うーむ。

 ところで、mane =髪、と言うことは、このタイトルは “犬を飼ってる犬飼家” みたいな洒落だろうか。ギャグ漫画じゃないんだから、そういうネーミングはどうかと思うな。


No.1931 7点 そのナイフでは殺せない
森川智喜
(2025/03/21 13:29登録)
 漫画『亜人』(桜井画門)みたいな設定。なのでスッと馴染めたが、既視感もあった。警部の沸点低さと暴走に爆笑。“ファンタステックな奇譚” の心持で読み進めたところ、後半の騙し合いに翻弄されて満足。
 ただ、生き返る時の設定 “傷はすべて消える” “すべての身体の部位が集まる” の線引きが曖昧だと思う。コレはラストの場面の “助かる方法はあるか?” に関わる問題で、私も熟考したがイマイチ判断し切れない。ナイフで再度自死すれば一日後に自分だけ生き返るのでは。あ、それより “食べたものを吐く” では駄目なのだろうか。


No.1930 7点 チェインギャングは忘れない
横関大
(2025/03/21 13:28登録)
 じんわりとした温かさが胸に残る、なかなかの快作。各々のキャラクターが立っているし、次第に距離を縮めて行く過程の繊細さとぶっきらぼうさのハイブリッドが良い。
 ただ、全体の構図が芝居じみて感じられなくもない。脱走とかより素直に警察に情報を伝えた方が犯行を防ぐ可能性は高かっただろうし、回りくどい対処法をわざわざ選んでいるように見える。もっと否応無しに巻き込まれる設定に出来たら良かったのでは。


No.1929 7点 アルキメデスは手を汚さない
小峰元
(2025/03/21 13:28登録)
 ここには “そんな奴いないよ” と思わされるキャラクターであるが故の説得力がある。人は百人いれば百通り。共感出来なさも含めて共感出来た。
 トリックの類は大したことないが、私はいつの間にか謎解き小説と言うよりも一種の寓話のように読んでいたので無問題。偶然頼みの最後の手掛かりなんぞ、寧ろ神の啓示の如く感じられたことであった。


No.1928 6点 きみはサイコロを振らない
新名智
(2025/03/21 13:27登録)
 ネタバレあり。
 水彩画の如き淡い筆致のミステリアスなホラー、を狙っているならそれは実現出来ている。が、それ故に薄味で小粒な印象を残してしまうジレンマ。

 少々引っ掛かる点がある。【小坂さん→シュウさん】と連鎖する呪いの流れがある。その上で更に、【シュウさん→語り手】の流れだと思われたが、実は【雪広→語り手】の流れだった。葉月さんのところで交差しているように見えるのは、莉久が共通の知り合いであるからと言うだけの偶然である。
 と言うことだよね。それが或る種のサプライズの部分だと思うけれど、読者に伝わり易く説明されていないし、ラストの成り行きもその認識を強く踏まえたものにはなっていない。
 “非科学的事象に関する論理的な説明” を求めるのも変だが、本作に関してはそのへんを理詰めでキッチリさせてこそ、最後の最後に残る理不尽が生きるのではないかと思う。


No.1927 5点 人形は眠れない
我孫子武丸
(2025/03/21 13:27登録)
 あとがきで作者自らコンセプトを説明しているが、八七分署シリーズ等は捜査小説だから成立するのである。薄味とは言え本格ミステリで、“意味ありげに並べて書いたアレとコレは実は無関係でした” ではオチとして満足するのは難しい。連作短編にした方がまだましだったのでは。

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