home

ミステリの祭典

login
虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1328 5点 うさぎの町の殺人
周木律
(2022/11/17 12:10登録)
 酷な言い方をすると、葵がしつこく探り続けたから人死にが増えたのである。最初から彼女を殺すか、尋ねることを尋ねた後すぐ解放していれば良かった。
 何故監禁したのか → エピローグで示唆された事柄が事実で、コンタクトする手段が監禁しかなかったなら、それは哀しく且つ気持悪い。

 以前に比べれば小説として良い意味で柔らかくなった気はするが、心情の機微みたいな部分はやはり苦手なのか。だとしたら、真相がああいう方向に向かうのも、得意分野で勝負しようと言う必然かもしれない。“二重三重の安全策” が裏目に出て同士討ち、の皮肉さをもっと強調したほうがいいのでは?

 ラスト前では、偽情報を流して無関係な人を囮にしてるよね。しかもその人は事情を知らないので、命を救われたと感謝している。酷いマッチポンプである。


No.1327 8点 爆弾犯と殺人犯の物語
久保りこ
(2022/11/16 09:59登録)
 まず巻頭には、彼女の硝子玉にまつわる、殺伐としつつフラジャイルで、総体的にはだいぶ純粋なアイの物語。言葉の、そしてエピソードの、積み重ね方に確かな感性が窺え、更にそれがプロローグに過ぎないと知って私は驚く。
 新興宗教の扱いも上手いし、漢字大好き少年と言う設定は、読書家に大いに受けるのではなかろうか。
 一読、センス重視の作家に思えるが、例えば各話の長さと配置のバランス等を見ると、結構計算の出来る器用な人かも。どちらにせよ上出来である。


No.1326 8点 ドクター・ブラッドマネー 博士の血の贖い
フィリップ・K・ディック
(2022/11/10 12:25登録)
 私の引き出しが乏しい故に安易な連想に走っているのは承知の上で、人口密度の低い田舎のコミュニティ、割と典型的な “市井の人” のキャラクター設定、ころころ交代する視点人物――まるでアガサ・クリスティが核戦争後の世界を描いたような小説。
 そしてそれがまた面白い。フリークス系のエピソードも雰囲気のせいで当たり前の話のように読めてしまった。複数のネタが平行して、適度に干渉し合いつつ、きっちりした結末には落とし込まずにタイムゴーズバイ~とばかりに何となく〆る。ディックのやり口にはだんだん慣れて来たぞ。


No.1325 7点 すばらしい新世界
オルダス・ハクスリー
(2022/11/10 12:23登録)
 ぶっ飛んだ世界設定が素晴らしい。バーナードは異分子としては些か小物で先行き不安だったが、半ばあたりで新キャラクターが投入され一気に盛り返す。彼も古典文学に毒された変な奴。世界統制官とのディベートは圧巻。読んで面白いディストピアはやはりこれだね。

 ところで、本作は早川書房の世界SF全集に、ジョージ・オーウェル『一九八四年』とカップリングで収録されたりしているが、この2作って混ぜるな危険と言うか、共にディストピア小説の古典とはいえ発想が逆方向。オーウェルは先生に反抗したくてあんなふうに書いたのでは。いや、本来そんな比較する必要など無いんだけど、ついしてしまう、ありがた迷惑な企画なのである。


No.1324 6点 事件は終わった
降田天
(2022/11/10 12:23登録)
 ミステリ? ホラー? 少し不思議? ジャンルはともかく、良く出来ている。最終話が一番面白い。
 のだが、この人達に期待するものとは違う、との思いをずっと引きずったまま読んでしまった。のだが、それをあまり言うと “想定内のものだけ書いて欲しい” ってことになるわけで、それも何か違う。うーむ。

 気になった点:オカルト的要素の位置付け(要はアリかナシか)が統一されていない。特に3話目を読んだ時に首を捻った。そうなると4話目の鏡の中のアレも幻覚なのか心霊なのか。連作でこれは戴けない。


No.1323 5点 紙の罠
都筑道夫
(2022/11/10 12:18登録)
 なんだかごちゃごちゃした話。みんながみんな軽くウィットを効かせた話し方なので、効き目が薄いし人物の書き分けに貢献出来ていない。更に問題なのは、二転三転する物語を転がす要所々々のアイデアがそれほど面白いとは思えないこと。
 そして、末尾近くの大乱戦で “終幕” な気分になってしまったが、――“畜生、あの紙、もったいねえなあ。なんとかならねえか”――考えてみるとあの状況で諦める理由ってあるか?


No.1322 5点 録音された誘拐
阿津川辰海
(2022/11/10 12:17登録)
 事件の様態は面白いが、真相はスッキリしない。
 複数の思惑が絡み合っているにしても、過剰な演出。それがどういう形で犯人の復讐心を満たしたのか今一つ納得出来ず。二つまとめて決行した方が無防備で確実だろうに。未確認情報を当てにしてそこまでやるかと言うのも疑問。

 糺が犯人に対して美々香の有能さをアピールすると、彼女が狙われるリスクは高まるわけで、無神経では。と見せ掛けて、糺はそのように犯人を操って美々香を殺させようとしているのでは、と本気で疑った。

 録音内容の文字起こしに【……】【!】などが使われていて、えらく文学的だな~(笑)と思った。それとも実際にあんな風に書くのだろうか。


No.1321 6点 最後から二番目の真実
フィリップ・K・ディック
(2022/11/03 12:55登録)
 ディックおなじみの “作り物の現実”。本作は結構即物的でロジカルで、さほどぶっ飛んではいない。特権階級が支配する世界像は、私なんかが読むと陰謀論者に対する揶揄に思えるが、作者は真剣な社会批評のつもりだったのかも。そのへんは “ホンモノ” を傍観する面白さ(?)。
 一応密室殺人が発生。このトリック、好きだ。今ならミステリとしてもアリかも(??)。
 ただ、近未来(もうすぐ追い付く)のテクノロジーの進歩、はいいんだけど、“時間” にまで手を広げたのは無節操に過ぎる。こればかりは次元の違う技術だと思うんだよね。いや、それでこそディック(???)。


No.1320 5点 蠟人形館の殺人
ジョン・ディクスン・カー
(2022/11/03 12:53登録)
 悪い意味でヴァン・ダインを思わせる臨場感の無さ。死体が蠟人形に抱かれていても全然怖くない。そういえばバンコランの態度のでかさがまるでファイロ・ヴァンス。
 ジェフのクラブ潜入捜査記は面白い。真相も説得力を感じた。動機が横溝正史みたい(逆か?)。

 13章。“気送速達便”――そんなシステムの存在を初めて知った。パリの全郵便局が気送管で結ばれ、数十分で手紙が目的地に到着していたそうな。


No.1319 5点 黒の貴婦人
西澤保彦
(2022/11/03 12:52登録)
 今更の話だが、人間関係やそれに伴う感情の描き方が説明的で硬い。この作者のいつものパターンと言う感じで、特筆すべき1編は見出せなかった。


No.1318 8点 天獄と地国
小林泰三
(2022/10/26 11:46登録)
 傑作短編の長編化完全版、である。
 欠点、は言い過ぎか、計算違いだった点は、“天獄と地国” と言う設定に行間を充分埋める程の存在感は無い、と言うことではないだろうか。ヴィジュアル作品なら異様な世界が常時背景として目に入る。文章なので、進んだテクノロジーと乏しい資源による歪な文化には浸れるが、最重要の世界設定は忘れがちだった。
 もっとも、変態的な基本設定で照れを吹っ切れたのか、物語はそれこそジュヴナイルのように素直な冒険行。仲間達と挫折を乗り越えて楽園を目指せ! って奴にまんまと乗せられてしまった私であった。


No.1317 6点 罪と祈り
貫井徳郎
(2022/10/26 11:45登録)
 筆力は有る人なので、行く先の見当が付いた物語でも、緊張感を失わず読み進めることは出来た。

 しかしそれだけに、ネタバレ気味になるが、“今になって何故こんなことが起きたのか” は最重要ポイントである筈。ところが。
 女は、子供の父親の特徴について嘘を吐いた。男は、問い詰められて自分が相手だと嘘を吐いた。共に、心理的にあり得ないと言う程ではないが、必然性が希薄。ここにそんなからっぽな事柄を持ってきたのにはがっかり。彼女が男性二人と関係を持った、と言う暗示じゃないよね? それとも “些細なきっかけが重大な結果につながった” と言う皮肉こそ作者の狙いなのだろうか。

 ところで、アレは傷害致死? 自殺(の可能性を否定出来ないケース)じゃないの?


No.1316 6点 無限がいっぱい
ロバート・シェクリイ
(2022/10/26 11:44登録)
 早川書房の “異色作家短篇集” なるシリーズの一冊だが、これってそんなに “異色” かなぁ? SFの或るフィールドに於ける王道って感じだけど(初期の筒井康隆は “和製シェクリイ” と呼ばれていたらしい)。私の読書の傾向がそういうものだってことだろうか。
 私は「ひる」「監視鳥」「先住民問題」が好き。起承転までは面白いのに結がピンと来ないものが幾つかあった。


No.1315 5点 綺譚集
津原泰水
(2022/10/26 11:44登録)
 “忌憚” には文字通り “いみ、はばかる” の意味がある。タイトルは「忌憚集」と言う洒落? と思った程で、ぶっちゃけ平山夢明みたいなグロテスクなホラー短編集。但し、あの人が奇怪な妄想を煮詰めて爆発させるアイデア先行型である(っぽい)のに対し、こちらは文体の魔術師、外殻である言葉サイドからアプローチしてイメージを囲い込み切り取る作風である(っぽい)。
 そして本書では、その言葉使いとしての才が勝ち過ぎて、内実とのバランスが崩れがちだ(それが全てマイナスだとは言わないが)。オチで上手くまとめない作風が短編だと一際目立つ。白眉は「夜のジャミラ」。


No.1314 5点 此の世の果ての殺人
荒木あかね
(2022/10/26 11:42登録)
 ミステリとしてはシンプル。余計なことをしなかったおかげで “物語としては悪くないのにミステリ要素がごちゃごちゃして邪魔” になることを免れている。怪我の功名? とか言っては失礼か。
 とはいえ、捻らなくてもいいから、あと一歩深み、または驚き、が欲しかった。キャラクター的にも今一つ共感出来ず。行方不明者はてっきり蟹針図夢だと踏んだんだけどな~。


No.1313 7点 人間の手がまだ触れない
ロバート・シェクリイ
(2022/10/18 13:04登録)
 物凄く優れた1編があるわけではないが、どれもきちんとしたアイデアと奇妙(グロではなくドタバタ)なイメージを持つ軽妙な短編集。50年代SFだが古びた感じは無い。全体的に好きな作風だった。
 ミステリ的には「七番目の犠牲」。殺人合法化社会と軽く捻ったそのノウハウ。銃社会アメリカに対する批評でもある。
 Untouched by Human Hands を「人間の手がまだ触れない」とはリリカルに過ぎる日本語訳ではないか。“騙された(笑)” と思った。


No.1312 6点 影男
江戸川乱歩
(2022/10/18 13:01登録)
 “底なし沼” は江戸川乱歩屈指の名場面だと思っていたが、記憶よりもアッサリしたものだった。それでも(それ故に?)具体的にイメージすると怖い。
 一方、幻想小説じゃないのだから “パノラマ世界” はやり過ぎ。何かしらの種がある前提で読むから、浮き彫りになるのは設計者の “意図” であって、それが裸の美女の山脈とか言われると苦笑するしかない。
 そして、ほんの僅かな出番で全てかっさらう明智小五郎。この話に必要かなぁ? 影男を完全に主役に据えたノワール小説にした方が良かったのでは。


No.1311 5点 謎亭論処
西澤保彦
(2022/10/18 13:00登録)
 スッキリした真相ではなく、作者が如何に無理な理屈を通すかを楽しむべき芸風? 都合の悪い部分(動機とか)を恣意的にスルーしているな~と言うのが目に付く。


No.1310 6点 放課後の名探偵
市川哲也
(2022/10/18 13:00登録)
 共感しづらい記述者を立てて読者を嫌な気分にさせるのは、狙いなんだろうな多分。効果が物凄く高いとまでは言えないが、認識論に踏み込むにはそのくらいの仕掛けは必要。内容が乏しくても如何にもっともらしく読ませるか、を頑張っているし、そういう戦略もアリだと思う。


No.1309 4点 屋上の名探偵
市川哲也
(2022/10/18 12:59登録)
 第1話:水着を盗む行為は、気持ち的には下着とほぼ同じなのでは。
 第2話:冤罪で教師を首にする計画。
 第3話:再びの不登校を促す鍵を犯人は握ったまま。
 第4話:幸い傷害事件で済んだけど、“事後工作なんかせずに、さっさと救急車を呼んでいれば死ななかったのに……” と言う悲惨な展開をする可能性もあった。

 とか、エグい要素をシレッと混ぜているのは、狙いじゃないんだろうな多分。うーむ。曲解しても推すべきポイントが見当たらない。

1848中の書評を表示しています 521 - 540