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ミステリの祭典

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忘られぬ死
レイス大佐

作家 アガサ・クリスティー
出版日1954年01月
平均点6.00点
書評数10人

No.10 6点 虫暮部
(2023/06/30 14:56登録)
 昔むかし短編集を読んだ時、“「×××」を長編化したものが『忘られぬ死』である” とネタバレを食らっていたので、消化試合みたいな読み方しか出来なかった。肌理細かい日本版解説の弊害。それでも楽しめたのだから流石クリスティ。覚えていたのはメインのトリックだけなのでまだフーダニットがあるし、人間関係の綾は読み甲斐があった。

 ところで、最後のページの会話が良い――実は本作はホラーで、ローズマリーの幽霊は本当に居たのかもしれない。あのミスを彼女が誘発した(方法は訊くな)のだとしたら?
 それはつまり、“妹を救う為に夫を犠牲にした” と言う怖い話である。

No.9 7点 レッドキング
(2021/04/06 22:14登録)
場所と「見えない男」の毒殺不可能トリックを機軸に、異性への情念と金銭への渇望を燃料に、様々な・・姉と妹、夫と妻、主人と秘書、母と息子・・様々な人間関係を意匠に、ロマンミステリ幻燈が鮮やかに儚く回転する。

てことで、アガサ・クリスティー40年代の長編ミステリ全13作の採点修了したので
私的「40年代アガサ・クリスティー」ベスト5

  第一位:「ゼロ時間へ」
  第二位:「書斎の死体」
  第三位:「忘られぬ死」
  第四位:「ホロー荘の殺人」
  第五位:「五匹の子豚」

No.8 5点 nukkam
(2020/08/26 20:48登録)
(ネタバレなしです) 1945年発表のシリーズ探偵の登場しない本格派推理小説です。本を手に取るまでずっと日本語タイトルを「忘れられぬ死」だと思い込んでいたのは私だけ(恥)?1930年代に書かれたシリーズ探偵が活躍する短編を長編化したものですが、事件の大枠は同じながら細かいところで変更があって単なる焼き直しではありません。序盤は第一の事件(警察は自殺として処理)が起きた後の関係者たちの内心描写で占められます。もちろんこの段階で誰が犯人なのかはわからないようにしています。第一の事件と同じような状況下で第二の事件が起きるのでさすがに第一の事件も殺人だろうという展開です。エルキュール・ポアロシリーズの「ひらいたトランプ」(1936年)や「ナイルに死す」(1937年)で脇役だったレイス大佐が登場しますが本書でも主役探偵ではなく、他の探偵役とのチームプレーです。といっても例えばヒロイン役と思われるアイリスも案外と地味な扱いで、物語を引っ張る主役が不在に感じます。地味なプロットながら大胆な仕掛けを織り込んでいるのが印象的です。ただこの仕掛けは好き嫌いが分かれるかもしれません。

No.7 6点 ことは
(2019/11/04 00:48登録)
これも評価が難しい。
最後に明かされる真相の構図は、確かに予想外で驚かされた。でもそれが心地よい驚きか、肩透かしかは微妙なところ。否定的な人も出そう。私はやや肯定的。
各登場人物の心理の描きこみもされているが、私には少し冗長。(冗長に感じるところがクリスティー好きではないところですな)
トリックについては「誰か気付くよ」と思うので、かなり否定的。
5点とまよった6点。

No.6 5点 ALFA
(2017/03/22 11:04登録)
「六人の人間が、この世を去ってやがて一年になるローズマリー・バートンのことを考えていた。」
そして彼女が死んだ同じ場所、同じ顔ぶれでパーティが企画されていることが明らかになる。
いかにも傑作ミステリらしい予感。ところが・・・・
(以下ネタバレですよ)





私は「傑作ミステリに名犯人あり」だと思う。名探偵ではない。真相の解明は普通の捜査官でもいいし場合によっては自白や事件調書でもいい。しかし犯人はしっかりとした存在感がほしい。それも作品全体を通して。終盤にいきなり現れた殺人鬼なんてのはゴメンである。
この作品は構成も見事、トリックも鮮やか。しかし遠くにいるはずの、登場シーンも少ない人物が犯人となっていた。しかも初めから札付きと分かっている血縁。それが変装して主犯だったなどというのは私は楽しめない。
一方共犯者は冒頭から存在感があるのはいいが、冷静沈着かつ有能な人物が一目ぼれで共犯者になるというのも無理がある。叙述できわどく補強してあるが。
二人の動機が片や金目当て、片や結婚目当てと異なっている点も弱い。
同時期に書かれた二編の傑作では、いずれも抜き差しならぬ共犯者同志が一つの目標に向かって突き進む。そして二人の関係性にも大きなトリックが仕掛けられている。
というわけでこの作品は優れた構成、鮮やかなトリック+弱い犯人という、私にとっては決定的に残念な結果になってしまった。

No.5 7点 クリスティ再読
(2015/07/22 22:57登録)
埋もれた佳作だと思うよ。
話の枠組みを短編「黄色いアイリス」から借りているけど、ミステリとしての力点は全然別だよね。だから、短編の長編化...というのとはちょっと違う気がする。不可能状況を新たに持ち込んで、その解明も鮮やかで、犯人の小細工から来ているものではないあたりに好印象。「三幕の悲劇」と同路線の「毒殺についてのヴァリエーション」という感じである。こういうのにクリスティは佳作が多いけど、今ひとつ地味に倒れるんだよね...あと話の流れ自体が叙述トリックすれすれのミスディレクションじゃないかなぁ。そういう面をみんな指摘しないのなんでだろ。

で若干の?だが、これってベタに書くと、死者の霊が帰ってくると信じられる万霊節の夜に、亡き妻の死の真相を探るための再現の会食があって、しまいには幽霊も...という話だから、本当はホラーっぽいネタなんだよね。この手のオカルト趣味はクリスティは苦手なんだろう(カーじゃないし)。

第1篇でのある人間関係が晩年の某作の関係と同じだから「あれ?」と思って見てたらやっぱりそれが本線だったね....うん、これはっきりと評者好み。

No.4 6点 あびびび
(2014/03/09 12:51登録)
どこかで聞いたようなストリーだと思ったが、「黄色いアイリス」の中の作品を焼き直ししたものだったのか?

(ネタバレ)あくまでも財産が狙いで、叔母が犯人だろうと狙いをつけていたが、それ以上の展開があったとは…。それも確かに文中で匂わせていて、鮮やかな結末ではあるが、微妙な感じはぬぐえないかも。

No.3 6点 りゅう
(2011/03/20 17:15登録)
 主人公とも言うべきローズマリーと他の登場人物との間の心理的葛藤が丁寧に描かれていて、物語としての出来が良く、引き込みの強さは私が読んだクリスティー作品の中でも上位だと思います。しかし、ミステリとしての評価は微妙です。読者が犯人を特定するだけの十分な手掛かりが与えられていないと思います。使われているトリックや犯人の設定など、クリスティーらしい作品ではありますが。


(ネタバレをしています。要注意!)
 この作品の中心となる謎は、ジョージがなぜ殺され、青酸カリがいつの時点で盛られたのかという事でしょう。犯人にとっても予想外の偶然の出来事によって、殺人動機に錯乱が生じている事がこの作品の面白い点です。しかし、この偶然によってもたらされた結果(席の入れ替わり)に、パーティーの参加者が誰も気付かなかったという設定は、ちょっと苦しい気がします。また、青酸カリが盛られた時点については、この真相だと、隣のテーブルにいたシャノンが目撃しているはずだと思うのですが(この部分の説明がわかりにくく、私が読み間違えているのかもしれませんが)。

No.2 5点 江守森江
(2011/02/12 07:27登録)
AXNミステリーで再放送が開始されたクリスティー傑作シリーズ(ノン・シリーズの映像化作品を4作)最初の作品はコレ。
どこか既視感があったがポアロ物短編「黄色いアイリス」(←各所で作品名がさらされているので伏せない)の長編化作品だった。
魅力的な2件の同一設定な殺人の謎にメロドラマ的に入り組んだ人間関係を絡めて楽しませてくれる。
ポアロ物から変更した狙い?が解決編で分かる最後のお楽しみまでありサービス精神は旺盛。
それでも水準作な印象なのは短編を先に読んでいたからだろうか?!

No.1 7点
(2010/06/12 11:30登録)
ノン・シリーズ作品ですが、ポアロが登場する某短編を長編に仕立て直したものです。
元の短編では第2の事件から話を始めていましたが、本作の前半では、過去の事件から第2の事件発生までが、関係者たちそれぞれの回想を主軸に語られていきます。登場人物それぞれの内面に立ち入りながらスムーズに過去の事件の顛末を示してくれる手際は、鮮やかなものです。この部分を読み返してみれば、真相すれすれの書き方がされていることがわかります。このような展開なら、確かにポアロは出てこない方がいいかもしれません。
犯行方法のアイディアは元の短編どおりですが、犯人設定の変更や巧みな偶然の導入は、長編化のお手本と言える出来です。ただ、犯行計画の必然性がちょっと弱くなってしまったのが欠点でしょうか。
なお、『ひらいたトランプ』『ナイルに死す』ではポアロと一緒に活躍したレイス大佐も半ばになって登場します。

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