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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1388 7点 アルファベット荘事件
北山猛邦
(2023/02/09 12:36登録)
 この文体は冷静ながら微妙にリリカルで、美久月のキャラクターを描くのには最適かも。
 強引なトリック、好きだけど突っ込み:図解を見ると、ルートはジグザグ。でも箱のことを考慮すれば、当然まっすぐの方が確実。それだと見抜かれ易いってことだろうが、そこまで用心する必要あるかな?


No.1387 7点 i(アイ)―鏡に消えた殺人者
今邑彩
(2023/02/09 12:35登録)
 これ書くとネタバレしちゃうなぁ。
 Ⅱ章に挿入された現場見取り図で、作者はちょっとミスをしている。
 死体と足跡を180度回転させると、本棚のある壁にぶつかるでしょ。ならば本棚の位置を替えて、そこから数歩先のベランダに続く窓を開けておく、と言う手がある。
 また、回転を90度にすると、隣の洋間なら窓の位置に合わせられる。但しサイズが合わないから少し切る必要がある。
 どっちにせよ不自然さは残るが、鏡よりはマシだ。
 つまり、作者はこういう揚げ足取りの余地の無い現場を設計すべきだった。

 ついでに。事件の現場と短編小説の内容がリンクしたのは、小説を読んだからではなく、あくまで偶然? うーむ。 


No.1386 5点 人間の証明
森村誠一
(2023/02/09 12:34登録)
 全体的に大味な作品。大仰なタイトルでハッタリをかましたのが勝因?
 不倫相手との限られた枠内での純愛、いつの間にかその夫と共闘して奔走する間男、には説得力がある。ナウなヤング達のキャラクターも上手く書き分けている。
 しかし捜査の流れが、重要な手掛かりを都合良くピックアップしているだけ、みたいに見えた。刑事が “人間の心に賭ける” とか言うのも、恵まれた者のヒューマニズムって感じだ。あれはあれで母性の押し付けであろう。
 それに比べると、最後の最後で無意味に死んじゃう冷酷なリアリズムはラスト・シーンとして悪くない。

 複数の事件が平行して描かれるから、時系列入れ替えの叙述トリックかと思ったんだけど……。


No.1385 8点 謀殺の弾丸特急
山田正紀
(2023/02/03 11:57登録)
 超冒険(スーパーアドベンチャー)シリーズ第三弾、だそうな。第二弾『火神を盗め』は、キャラクターの身上や動機付けがアレコレうざったかった。対して本作は、否応無しに巻き込まれて “生き延びたい” だけの設定が、玄人相手の無茶な逃走劇に却って説得力を持たせている、と私は思う。相手を死なせても精神的な呵責がいつの間にか有耶無耶になっているあたりも、判る。
 “機関車 VS 攻撃ヘリ” では素人ならではのアイデアが炸裂して痛快無比。一方、ジャングルの中で一晩停車しても無事(なのに翌朝にはあっさり追い付かれる)、と言う流れには首を傾げた。

 尚、計画的殺人は起きていないわけで、タイトルは “無謀な自殺行為” の略、かな。


No.1384 7点 光の塔
今日泊亜蘭
(2023/02/03 11:57登録)
 人類の危機が進行しているのに語り手の家庭問題を同一線上で延々綴る語り口。最初は突っ込みどころに思えたが、読み進むにつれて血肉を具えた人間としてのキャラクター造形に引き込まれるように。一人一人の顔が見えるようなやりとりが、侵略戦争を単なる概要の説明ではなく、一段身近な物語へと引き寄せてくれた。第三部のSF的展開(転回?)も楽しい。
 解説の通り右翼っぽい雰囲気は確かにあり、その部分は作者の意図はどうあれ大仰な冗談のように思えてしまった。

 1962年に刊行されたSFだが、探偵小説的趣向も盛り込まれ、初刊が東都ミステリーなのはあながち牽強付会ではない。


No.1383 6点 擬傷の鳥はつかまらない
荻堂顕
(2023/02/03 11:55登録)
 特殊設定サスペンス? 読者に対して伏せる部分の匙加減が巧みで上手く引っ張り、冷静な文章でエモーショナルな切迫感を的確に描き出している。第3章まではとても面白かった。
 ところが、設定が明確になって来て、さてこれをどう着地させるのかの第4章~終章。観念的な台詞や心象が連なり始め、しかしそれで納得とは行かない。ここは久保寺や語り手の気持に読者を巻き込んで説得してしまうだけの力が欲しいところ。

 これだけしっかり “物語” を書けるのだから、ラストをこうするくらいなら特殊設定無しのノワールもので貫徹した方が良かったのではないか。いや、それがあってこその個性だ、と言うなら説明的でない着地点が必要だ。どっちにせよ惜しいと強く思う。


No.1382 6点 シミュラクラ
フィリップ・K・ディック
(2023/02/03 11:53登録)
 “ディックの長編中、もっともプロットが複雑と評される” とのこと。
 複雑と言うか、“プロット” は考えてなかったんじゃないか、頭の中に幾つかの陣営のキャラクターを設定して好き勝手に動き回らせただけじゃないか、と思えて仕方がない。エピソード同士の絡み方がいかにも無計画で、きちんとしたオチは無いままカット・アウト。政界サスペンスと呼んでは誇大広告だろうし、シミュラクラが主要なテーマと言うわけでもない。
 しかしその、いわば必然的な支離滅裂さが妙な面白さを生み出してしまった。個人的には、先祖返りのチュッパーについてもっと突っ込んで欲しかったな。

 作中に出て来る “ジャグ” とは、酒瓶に息を吹き込んでぶぉ~と鳴らす奴。それでバッハとかを演奏する、と言うのはジョークとして書いてるんだよね、ディック先生?


No.1381 5点 首切り島の一夜
歌野晶午
(2023/02/03 11:51登録)
 話がどっちへ進むか見当が付かない点は良かったが、それをアクロバティックな論理でつなげるでなく、読み終えてみると期待外れ。それは “歌野晶午にこういう方向性を期待しているわけではない” と言うことでもある。この人は過去にも幾つかそういう長編を書いて読者を困らせているな……。


No.1380 7点 オメガ城の惨劇 SAIKAWA Sohei’s Last Case
森博嗣
(2023/01/26 13:08登録)
 Last Case とか言って大上段に構える程のものではない。期待半分諦念半分の心持で臨んだのは良かったと思う。事件の雰囲気がいいし上手にまとめた感はあるが、“彼女の友人を容疑者から外した根拠” や “サイカワ先生が招待された理由” は強引で苦しい。
 エピローグが書籍化の際の加筆だってのは大胆。「メフィスト」誌上で読んで満足している読者はアレを知らないんだ。実はあの部分、勘で気付いてました。ヒントは、外国人が記述者である効果?
 “ドクタ・マガタ” と表記されるとぱっと見 “ドグラ・マグラ” のようで、何回間違えたことか。


No.1379 7点 ぼくらの時代
栗本薫
(2023/01/26 13:07登録)
 これはミステリの形をした別の何かだと思うのである。だから、真相は物足りないけれど、それはたいした問題ではない。寧ろ時代を切り取るための必然。
 理屈と膏薬は何処にでも付く、と言うとちょっと違うか。誰にでも何がしかの言い分があって、それが正しくはなくとも、これしかない! と成り立つ瞬間がある。栗本薫はそれをほじくり出すのが抜群に上手いので、ついついラストでグッと来てしまう。
 本人の言う “美しさということを知っている人が書くのと、そうでないのとで決定的にちがってくる” とはそういうことかな、と思った。


No.1378 5点 ウインター殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2023/01/26 13:06登録)
 月下のスケーターとか背骨を傷めた少女とか、絵になるキャラクターなのに、その設定が事件には殆ど絡んで来ないなぁ。
 鍵を盗んだ時、犯人は鍵束から目当ての一本を見分けられたのか。何故鍵束ごと持ち去らなかったのか。伏線だと思ったんだけどなぁ。
 ヴァン・ダインの末期作品は期待値が低いので相対的に意外と楽しめた。
 ところで、ジョン・F・X・マーカムの X ってなんだろう。Xavier ?


No.1377 6点 グレイシー・アレン殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2023/01/26 13:04登録)
 被害者の身許……ヴァン・ダインがこんな形で読者を引っ掛けに来るとは想定外だ。グレイシーの喋り方は赤毛のアンみたい。ヴァンスもマーカムも少し遠巻きに、背伸びする姪っ子をあしらうように対応しているでしょ。実は彼女が14歳であった、と言う叙述トリックかも? “瀕死の狂人” のキャラクターもかなり美味しいけれど、あまり生かされていないなぁ。


No.1376 7点 カシノ殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2023/01/26 13:03登録)
 毒物が見付からないと言う謎は魅力的。しかし半分を過ぎてからようやくそこへ辿り着くなんて遅い。
 毒物や水云々の薀蓄はもっとやって良かったんじゃない? 真相は期待した程ではない。
 どこがどうと言うことではないが雰囲気的な面白さは感じた。特に賭博の場面がこんなに楽しく読めたのは自分でも意外。


No.1375 8点 殺人者
望月諒子
(2023/01/19 15:09登録)
 事件の大枠をプロローグで明かしちゃって、残りの300ページ超は大丈夫なの? 大丈夫なのである。大トリックや大どんでん返しは無いが、それでも大丈夫なのである。とにかく読者の気持を呑み込む度合いが凄い。

 “○○は人の姿に見えるが、実際はもう、人ではないのかもしれない”
 人を殺した人非人、と言うニュアンスではない。孤独に濾過されて昇華してしまった魂について、この記述がストンと腑に落ちた。しかもそれ故に包容力に富み魅力的な人物であると言う逆説。
 そして犯人は逃げ切り、いや、逃げさえせず、その結末に私はまず何よりも “良くやった” と思ってしまった。作者の力業に浸蝕された気分である。


No.1374 7点 invert II 覗き窓の死角
相沢沙呼
(2023/01/19 15:06登録)
 “なにもそこまで” と言いたくなる程エスカレートする翡翠のもえもえきゅんな言動。内面的にはゆるふわ感など皆無なまま、その “型” だけが研ぎ澄まされる萌え要素。物凄い作者の悪意を感じるなぁ。
 『 medium 』と『 invert 』とでは、同じ描写でも読者の受け取り方は対極でしょ? 外面の菩薩(?)によって内面の夜叉をグイグイ突きつけて、その悪意を無理矢理読者にも共有させてしまう強引さよ。どんなにイラッとしても表層がコレだから嫌いになれないだろへっへっへ、と言う感じ。表紙イラストも写実的だし。

 しかし、月刊アフタヌーンのインタヴュー漫画『もう、しませんから。~青雲立志編~』によると、相沢沙呼は “元々、漫画的、アニメ的な表現を目指してキャラ作りや物語作りをしている” とのことで、メディア展開に関してもノリノリなのである。すると単に自分が見たい場面を書いているだけかと言う疑いも浮上する。いや、創作への動機付けとしては充分アリですけど。


No.1373 6点 七人の中にいる
今邑彩
(2023/01/19 15:04登録)
 友行・一美夫妻の第一子が緑、第二子が一行。なんで弟の名前だけ両親の字を引き継いでるのか。さては緑が養子なんだな。養子を取った後で実子が生まれたんだ。同じパターンの家族がもう一つ登場するけど、それがヒントね。事件関係者が既に死んでいて復讐する立場の者がいない? そら来た! 緑の元の家族が存命でそれが復讐者、と言うのが真相さ。この作者は伏線を判り易く優等生的に張るよね。

 結局は全て私の勘繰り過ぎだったわけだが、だったらあのネーミングは何なの。伏線に見えて伏線じゃないダミー伏線?


No.1372 6点 ロボット文明
ロバート・シェクリイ
(2023/01/19 15:04登録)
 “悪を規範にした階級社会” と言うのは、やはり構造的に矛盾を孕んでいるのであって、本書の舞台も “悪党ごっこ” みたいな雰囲気で、但し殺人がシレッと許されているだけ。それを真面目に(見える書き方で)書いている可笑しみが効果的ではある。
 後半、失われた記憶の問題に矛先が向くとちょっとサスペンス風味が加わって、事の真相に私は結構驚いた。後年スパイ・スリラーを書いた萌芽が此処に?
 アイデアを幾つも連発している一方、物語の芯が良く言えば臨機応変、悪く言えばフラフラと頼りない。


No.1371 8点 驚愕の曠野
筒井康隆
(2023/01/12 12:09登録)
 作者の、ではなく読者の自由な想像力を試すかのような本。一応 “人間” と表記されており “頭部と四肢をそなえて” いるそうだが、果たしてどのような姿形なのか。“猫” とは猫なのか。それこそ単語の一つ一つの内実を疑い吟味しながら読みたくなってしまう。私は塩肉を掘り出す場面がとても好き。

 そこまで捻くれた読み方をしなくても、少ない描写で背景の巨きな異界を読者に示す手管は快感。これを省エネ書法などと言ってはいけない。こじつけるなら、叙述トリックで言葉と物体をつなげて世界を折り畳んでしまう作品。


No.1370 5点 そして誰もいなくなる
今邑彩
(2023/01/12 12:07登録)
 虎の威を借る狐、と言っては決め付け過ぎか、私は、こういう形で先行作品を取り込む書き方には批判的な立場である。
 しかし、それなりに上手く使っているし、それ以外の部分でミステリとして面白いので、目を瞑ってもいいかなぁと言う気持にはなった。
 しかしが続くがしかし、演目がオリジナルの脚本でも同様の効果は上げられるんじゃないかとも思う。すると、本歌取りは作者の遊び心の安易で過剰な発露、と言うことになる。うーむ。

 毒の種類は再考すべきだった。身近にあって、イメージ的には吐き出せば済む程度だが、実は死に至る猛毒、みたいなもの。洗剤とか? 作品の雰囲気を考えると、成分を特定せず適当にぼかしてもアンフェアにはならない気がするし。


No.1369 6点 合わせ鏡の迷宮
愛川晶・美唄清斗
(2023/01/12 12:06登録)
 表題作に当たる「合わせ鏡」。緊迫した展開の日記と比べて、渦中の(?)人物がにこやかに謎解きをする場面が非常に絵空事っぽい。その逆転が批評的だとは言える。他の2つはいずれも好短編。

 作品としては及第点ゆえ、合作だからと余計なバイアスをかけないほうが良いと思うのだが、セールス戦略上しかたないのだろうか。
 併録のエッセイは無駄。それより往復書簡の形式にして、相互批判がエスカレートして罵倒合戦になり “解散だ!” みたいなオチはどう? 作風を和歌で例えた巻末の解説はなかなか説得力がある。

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