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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.21点 書評数:2011件

プロフィール| 書評

No.1551 6点 或るエジプト十字架の謎
柄刀一
(2023/10/12 12:52登録)
 2話目の、八田と言う名前、現場の床の粉、静物画の腐った梨――『Yの悲劇』からの引用だよね。と気付いたせいで、物語よりオマージュ探しに気を取られてしまった(それ以上は見付けられなかったが……)。
 アイデアは面白いが書き方が今一つ。鑑識による現場検証の結果が即座にピシッと提示されて、パズル小説として割り切ってるな~との印象。それとも現実でもあんなリアルタイムでデータが揃う程に技術が進歩しているのだろうか?


No.1550 7点 宇宙犬ビーグル号の冒険
山田正紀
(2023/10/06 13:08登録)
 一捻りした設定のおかげで、古式ゆかしい侵略もの冒険SFを素直に楽しめる。しかし、動物に仮託することで殺し合いの残虐さが中和されると言うのは、考えようによっては危険な手法かもね。


No.1549 7点 鵼の碑
京極夏彦
(2023/10/06 13:07登録)
 基本的には、このシリーズにしては薄味だけど、ミステリ的小説として良く出来ており楽しめた。
 しかし、長いブランクのせいか、作品世界の連続性が保てなくなったようにも感じる。登場人物が微妙に現代人っぽくなっていたり。関口が妙にまともに久住の相談に乗っていたり。中禅寺はちょっと角が取れた感じがする。事件の諸要素に託けて令和の世相を斬る、みたいなメタっぽい台詞は後出しジャンケンのようで鼻に付く(あんな言い方、以前からしてたっけ?)。
 何より、闇が薄くなって、ヌエがあまり怖くない。
 旧作は読んでいる間あの時代にトリップ出来たんだけど、本作は窓から覗き見るに留まってしまった。
 相変わらずの榎木津、救いは貴君だ。


No.1548 6点 トッカン vs 勤労商工会
高殿円
(2023/10/06 13:06登録)
 経済ミステリとしては、あまり難解な専門用語の世界には行かないので助かった。読み終えてみるとこの題名は意味深長だな。
 ぐー子に齎される気付きのアレコレは今一つ深みに欠ける。些細なことに大仰に反応し過ぎ。チワワのキャラクターが面白い。


No.1547 6点 カリブ海の秘密
アガサ・クリスティー
(2023/10/06 13:05登録)
 ことミステリの場合、ネタの使い回しに対しては視線が厳しくなりがちだが、私はACの手癖と言うか “良くやるパターン” に関して目くじらを立て過ぎていたかと少々反省している。
 作中に於ける犯人や手掛かりの配置が旧作に幾らか似ていると、そのマイナス評価ばかりに囚われて他の楽しめる部分を逃していたかもしれない。そういう部分は作者の得意技だから多用されるってことでいいのかもしれない。本作も、読む順番が違ったらもっと高評価だった気がする。

 西インド諸島のどこかの国と言う舞台設定にはあまり効果を感じず。ミス・マープルが翁にあしらわれる場面は新鮮。人違い殺人は余計なエピソード、もしくは発生が遅過ぎるのでは。
 かつてエスターの夫が事故死しているとの話に、“あ、実はこれが殺人で伏線か。見え見えだぜ” と思ったんだけどなぁ。


No.1546 6点 バートラム・ホテルにて
アガサ・クリスティー
(2023/10/06 13:05登録)
 組織犯罪と殺人事件を強引に混ぜるのはともかく、そこにミス・マープルを絡ませるのは食い合わせが悪い。
 作者は敢えてその変なミックスを試したかったのだろうか。“ミス・マープルなんだから聡明な筈” との思い込みも相俟って、作者が動かし方に苦労しているような、ぎくしゃくした印象を受けた。
 “壮大な与太話” であるこのプロット、ノン・シリーズにして、事態を判っているんだかいないんだか判然としないお婆ちゃんがウロウロしているうちに巨悪と対決、みたいにすれば面白いのでは?

 あと、殺人犯に目を瞑ったのはまずいんじゃない? だって自分の金銭的利益の為の、結構短絡的な犯行だ。条件が揃えばまた繰り返す危険があると思う。


No.1545 8点 蒼ざめた馬
アガサ・クリスティー
(2023/09/30 12:52登録)
 件の “商売” のシステムを良く見ると、契約担当・調査担当・実行担当、がいれば基本は成立してしまう。死者はさまざまな病気だと診断されているのだから、オカルティズムによる対外的な隠蔽は実は不要だ。
 降霊儀式の主な役割は、依頼人の心理的抵抗の軽減である。事実を隠蔽して “殺しではなく呪いだ” と思い込ませたい相手は、世間の人々ではなく、あくまで依頼人なのである。解決編でそのへんの位置付けが若干曖昧だと思う。読者を勘違いさせる書き方になってない?
 出しゃばり首謀者の行動原理は判るような判らないような。但し、病死である筈の一連の死者が一つのリストにまとめられて関連付けられることは非常にまずいから、慌てて神父を撲殺と言う雑な行動に出たのは理解出来る。

 おまえ誰が本命だと突っ込みつつ、中弛みも感じず、面白く読み通せた。もっともそれは、私が新しい書き方のオカルトものをあまり読んでいないからかもしれないけれど。


No.1544 7点 20億の針
ハル・クレメント
(2023/09/30 12:51登録)
 基本設定で風呂敷を広げた割に、ちんまりした牧歌的な舞台に留まった気はする。
 でもそのおかげで、良い意味でジュヴナイル的ムードな島のボーイズ・ライフが展開されて楽しい。ボブ少年とハンターが普通にいい奴。消去法でちゃんと推理してていいね。
 視界に文字を投影するコミュニケーション法(VRみたい)にちょっとびっくりしたんだけど、この頃(1950年)から既に(SF界では)一般的なアイデアだったんだろうか。

 シンプルな原題『 Needle 』を意訳してるけど、20億は針じゃなくて藁だよね。いや、馬鹿にしてるわけじゃなくて、理屈に合っていなくても『20億の針』で確かにニュアンスは伝わるなぁと。


No.1543 6点 ゐのした時空大サーカス
山田正紀
(2023/09/30 12:51登録)
 人間と時間の本来の関係とは。素描のような短いエピソードを並べて物語の輪郭を浮かび上がらせる手法で、動的な展開は乏しい。雰囲気ものに留まったとの感もあるが、詩情を生かすにはこのくらいが良いのかもしれない。これは時空を一編の詩に変えてしまおうと言う企みであって、アクション映画を目指しているわけじゃないからね。


No.1542 4点 危険な童話
土屋隆夫
(2023/09/30 12:50登録)
 色々ネタバレします。
 決定的な矛盾ではないが、私は “犯人と警察が共謀して、読者に対してトリックを実演して見せている” ような、奇妙な印象を受けた。
 例えば、凶器の隠匿。“犯人には隠しに出歩く時間が無い” と判断されるには即日拘留される必要があり、警察は微妙な現場の状況を読んで、犯人の期待通りに対応している。
 葉書の指紋トリックは、計画に必須ではないにもかかわらず、警察の捜査が新たな脅迫を生み、更なる殺人につながった。
 双方とも、互いの限界を踏まえて、都合の悪い推測はせず、その範囲内でゲームをしている。基本がリアルな書き方であればある程、登場人物がチラリと読者の方に目配せするようなおかしな瞬間を感じるんだよね。

 もう一点。拡大解釈すると、犯人は自らの手を汚したことが嬉しいのだと思う。自殺した人への、今更ながらの共感として。だってあれこれトリックを組み合わせて、楽しそうだ。敢えて子を計画に加担させたのもその延長で、被害者を全くの “よそのおじさん” にしてしまう為である。
 子が親殺しに加担するわけが無い → 子が加担したのだから被害者は “よそのおじさん” だ → “よそのおじさん” だから自分との間にも何も無い、と言う理屈で過去を書き換えて貞淑さを再確認したいのだ。
 そして、自分本位だったからこその、子を残してのあの幕引きなのである。


No.1541 3点 殺しの双曲線
西村京太郎
(2023/09/30 12:48登録)
 何か変だ。
 なかなか面白くはあったのだが、ネタバレしつつ指摘せねばならない。

 “瓜二つ” と言う要素は、雪山ホテルの事件ではあまり意味が無いのではないか。冒頭のトリック宣言や、強盗事件と平行させる書き方のせいで、ついそれが必須であるかのように錯覚してしまうけれど。
 ホテル内は全員死亡で “犯人はこの人です!” と証言出来る者はいない(強いて言えば駅前食堂の主人?)。
 従って、別にそっくりではない(仮名)鈴木ヒロシと鈴木タカシが出頭して、“手記に登場する鈴木とは自分ではなくアイツの方ですよ” と主張しても、概ね同じ状況になる。
 だって言葉による情報しか無いんだから。作者は、記念撮影をするとかの工夫をしておくべきだった。
 (被害者の一人が手記を残し、警察はそれによって事件の成り行きを知った。この流れは犯人の意図したものではなく犯行計画には組み込めない。本来どうする心算だったのかは、作者が伏線を用意していないので、この際置いといて。)

 そもそも、ホテルに殺す相手を集めること(これが一番難しそう)が出来るなら、どんな計画が適切か。
 シンプルに全員殺して、自分は安全に下山すればいいのでは? その上で二人で警察に通報なり出頭なりすれば、もうそれで実際にホテルにいたのがどちらだか判らなくなっている。
 そう考えると、計画後半の “自分が殺されたフリ” 等は読者の目を意識したメタ的な演出としか思えない。
 また、雪上車を本当に壊されたのは想定外であり、本来なら安全に下山出来た筈。それなら “警察やマスコミを集めての入れ替わり” は必要無い。想定外の要素を予め計画に組み込んであんな無謀な下山をするのは大きな矛盾である。トリックの行使に犯人が淫していた、と片付けるには当人の命にも関わる事柄だしねぇ。あっ、そうやって口封じして相方に責任を押し付けようって腹か?

 因みに、2009年、マレーシアで、一卵性双生児の見分けが付かず無罪判決との事例あり。違法薬物関連の罪で、有罪なら死刑だったそうです。


No.1540 7点 聖女の島
皆川博子
(2023/09/22 12:57登録)
 倉橋由美子『スミヤキストQの冒険』みたい。後年の作品を引き合いに出すなら麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』?
 凡庸な大人達が残酷なまでに書き込まれている一方、少女側のキャラクターに際立った書き分けが無くて物足りない気はする。しかしこれが “聖女” 側の物語だとすると、暴動しようが心中しようが少女達は所詮一山幾らのモブなのだろうか。漂白したかのような雑味の少なさが、この作者の場合はプラスに働くね。


No.1539 7点 赤い竪琴
津原泰水
(2023/09/22 12:57登録)
 無名詩人、欧州の古楽器、鯨のソング等の、中心軸になりそうでならない道具立てと、登場人物達の、大人になるとそうそう他人と仲良くもなれないのよと言いたげな佇まいが、絶妙に不定形な物語を編み上げた。ヴェランダのエピソードと領家くんのキャラクターが好き。
 謎めいた書き方ではあるが基本的には恋愛小説、なんだけど創元推理文庫からの復刊、なので御容赦を。


No.1538 7点 アミュレット・ホテル
方丈貴恵
(2023/09/22 12:55登録)
 ヴァリエーションを出そうと色々工夫しているのに感心した。

 「一見さんお断り」の遺産相続は設定が雑。記述を素直に解釈するなら、アリアから相続権が失われても、その分が “親戚連中” に回るわけではない。寧ろアリアに相続させた上で取り入る(結婚するとか)方が良い手だと思う。また、お人よしのアリアが、それに反して強欲にも見えてしまい違和感あり。
 「タイタンの殺人」。捨て駒の立場に殉じ黙して死ぬキャラクターが怖い。


No.1537 6点 トッカン ―特別国税徴収官―
高殿円
(2023/09/22 12:54登録)
 この日本で、一番多くの被害者を出す犯罪は?――脱税。被害者数は一億五千万人。
 
 ってことで楽しく厳しい取立て稼業。御仕事小説にありがちな説教臭からは逃れられていないが、税務署の権力の強さと、どっちもどっちなそこまでやるかの攻防戦は、驚き且つ勉強になる。
 ぐー子ハメられ編はキツい。あんなペーペーに対してああまで尊厳を削るような罠が仕掛けられるとは。しかし高額納税者になる日の為に読んでおくのも無駄ではなかろう。
 ライトな警察小説の延長って感じ。キャラクター小説としてはもう一歩何か欲しいな~。


No.1536 5点 消える「水晶特急」
島田荘司
(2023/09/22 12:52登録)
 この真相、“何かズルい” と感じてしまった。
 ハウダニットに見えて、実はホワイが問題で、そこを隠す為に視点を転換。と冷静にまとめればそこまで珍しくもないし、類例に対していちいちそう感じるわけでもない。
 結局、“島田荘司には物理的な大技をかまして欲しい” と言う私の願望に上手くフィットしていないせいだろうか。いや、本作も大技と言えば大技である。但し、“方法としては判るけど、普通そんなことするか!?” ってとこがポイントでしょ。この作者には、“トリック自体の驚きのメカニズム” を期待してしまうので……。

 弓芙子と夜片子。
 こういう頑張ってる感じのネーミングは好き。でも島田荘司の中では唐突。何か思うところがあったのか?

 どうでもいいことだが、島田荘司の登場人物はしょっちゅう狐につままれるなぁ。


No.1535 6点 鏡は横にひび割れて
アガサ・クリスティー
(2023/09/14 13:28登録)
 これはACの良くあるパターンじゃない? しかもタイトルが大胆に “ハイここ注目!” と告げていて、サーヴィスし過ぎ。
 私は推理などしていない。単に、AC作品を或る程度読んだ経験上、諸々の要素の配置が判っただけ。
 “あ、これが動機か” と気付いた時点で未だ半分以上ページが残っており、第二の殺人が起きるような話じゃないし、作者がそれをどのように埋めたのかと言う興味で読み進む。
 うーむ、成程そうやってカムフラージュするか。愛だなぁ。暴走だなぁ。どこまで結託していたのかは藪の中だけど、そんなグレーな結末もいいんじゃない。どっちにせよ一蓮托生なんだから。


No.1534 8点 名探偵も楽じゃない
西村京太郎
(2023/09/14 13:27登録)
 本格ミステリとか名探偵とかいった概念を対象化して、それ自体を枠組みごと仕掛けに使うような、新本格みたいなミステリ論ミステリが、1973年に既に書かれていた。
 しかもなかなか出来が良いじゃないか。徒にロジックを錯綜させることもなく、ポイントを巧みに突いてストンと落としている。“狙いが透けちゃう感” は確かに否定出来ないが……。

 瑕疵はT氏が部屋で怪我をさせられた事件。チェーンロックによって密室になっていた。
 この事件は、犯人がT氏を狙ったものの殺し切れずに逃げた、と思わせる為のT氏のマッチポンプである、と思わせる為に犯人はわざと殺さなかった、のである。
 さて、チェーンロックの為に “犯人はどうやって部屋から出たんだ、お前のマッチポンプだろう” とT氏は疑われた。仮にマッチポンプなら、わざわざ自分が疑われる状況をT氏が作るのはおかしい。と言うことは、T氏が作るのはおかしい状況を犯人が作るのもおかしい、よね。

 マニア達が “身の程を弁えた常識人” 過ぎで、トンデモ行動に(あまり)出なかったのは残念。

 メグレがO型、と言うのは原典に記述されている公式情報?


No.1533 6点 崩れる脳を抱きしめて
知念実希人
(2023/09/14 13:26登録)
 細かなエピソードにせよ、台詞回しにせよ、おいこりゃベタだな~と悶えつつ、いくら何でもこれで終わりじゃないだろう、わざとベタにしてまとめてひっくり返す大技か、と北叟笑みつつ、最後の真相は予想外だった。まぁ他に黒幕たる人物が残ってないか……。

 “遠縁の親戚が相続人”――現代日本の法定相続人の範囲は、配偶者・子・親・兄弟姉妹およびその代襲相続人まで。
 本書に登場する親戚がその範囲内なら、他に身寄りが無いとのことだから、遺言書が無くても遺産は回ってくる。なまじ遺言書があると、相続人以外に遺贈されて却って取り分の減る可能性がある。
 なのにわざわざ彼女を脅して遺言書を作らせたのだから、範囲外の親戚なのだろう。ならばそれは、通りすがりの人に “金をよこせ、さもなくば襲うぞ” と言うのと大して変わらない(“親戚” と言う要素はアドバンテージにならない)のである。雰囲気的にちょっと正当性がありそうな気がするだけで、実際には何の権利も無い。つまり雑な設定である。
 寧ろ結婚してしまえばいい。近々死ぬ相手なら、無断で届けを出しても異議申し立てする時間が無いだろうから。

 また、遺言書には検認手続きが必要で、封がしてあれば家庭裁判所で相続人かその代理人の立会いの下に開封せねばならない。皆さんも遺言書を拾ったら、この主人公のように勝手に封を切らないよう気を付けましょう。


No.1532 5点 太鼓叩きはなぜ笑う
鮎川哲也
(2023/09/14 13:25登録)
 切れ味やや鈍い地味な本格、だと感じた。本格のとある方向性に邁進すると、外連味が薄れてそうなりがちなのはまぁ判る。
 語り手のキャラクターがあまり好きになれなかった。ユーモアも効きが悪い。これは “ユーモアのセンスが無い語り手” と言う設定を巧みに描いているのだろうか。
 この世界線にはゆすりが多いな。ゆすりとアリバイは食い合わせが悪いんだけどな。

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