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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.21点 書評数:2011件

プロフィール| 書評

No.1751 6点 創星記
川又千秋
(2024/07/18 11:39登録)
 本作の大部分(終章以外)は “宇宙時代の金星を神話の世界に構築し直す為の手続き” であって、実は『創星記前史』とでも呼ぶべきものではないか。芋虫が蝶に変わる際、蛹の中で一度ドロドロになると言う。それがコレ。
 スケールの大きな骨格には惚れ惚れするが、間を埋めて動かす筋肉たるべき文章が意外に通俗的。それ故に読み易くもあるので一概に非難は出来ないが、もう少し味わいが欲しいと私は思った。
 “無計画に増築されて迷宮状になってしまった衛星基地” と言う非常に魅力的なガジェットが、あまり生かされていないので勿体無い。確かにそこは本題じゃないんだけどさ。


No.1750 7点 望月の烏
阿部智里
(2024/07/12 12:11登録)
 人は(人じゃないけど)概ね大局観よりも自らの利で動く。しかしその私利私欲の総体が、個を翻弄する強い流れを作る。疲労困憊するしかない相互作用、ますます今日の外界の鏡像めいて見えて来た。
 個々の登場人物がちゃんと別々に造形されているので、四姫の鞘当てや澄生 vs 博陸侯の丁々発止の読み応えも半端ではない。ただ今作では主要キャラクターの中に気持をいれこめる相手がいなくなっちゃったなぁ。浜木綿の出番は?


No.1749 7点 オーラリメイカー
春暮康一
(2024/07/12 12:09登録)
 ジャンルとしてミステリでなくとも “謎とその解明” を内包する小説は少なくないわけで、本作も複数視点・時制トリック・多重人格ネタまで駆使して謎の種族を壮大なスケールで描き出している。しかも水面下にはぎっしり裏設定が詰まっていそうだ。
 まぁ人間だって “変な生き物” ではある。文庫版は〔完全版〕で改稿&新作短編追加、これが面白いので是非こちらで。
 ところでハードSFは特に、作品に関する解像度が作者の説明力と読者の理解力の鬩ぎ合いで決まるようなところがある。なので、もうちょっと判り易く説明して欲しい部分もあったが、“自分の無知を棚に上げて……” と言われたら反論出来ないかな。


No.1748 7点 氷雨
山田正紀
(2024/07/12 12:08登録)
 サスペンスフルなハード・ボイルドではあるが、パーツの組み合わせ方が結構パズラー的で、そこが良い。石投げ勝負は名場面。
 主人公の妻子に対する思いが、結局は “自分に都合の良い範囲” に落ち着いてしまった感があり残念。そこはちょっと説教臭く感じた。妻がこの結婚で得たのは苦労だけみたいなのに……。


No.1747 6点 枯草熱
スタニスワフ・レム
(2024/07/12 12:08登録)
 題名の読みはコソウネツ。
 真面目なまま気が触れたような冒頭から、中盤の鮮やかな反転でびっくり。下手するとバカミスな真相も、イメージのアップ&ダウンの波と上手く共鳴して面目を保った。思索的な作者だが本作は変に深読みしなくとも成立する立派なミステリだ。
 ただ行換えが少ないので非常に読みづらい。レトリックは楽しめる程々のところでバランスが取れているのに、書き付け方(? どう呼べばいいんだろう)のせいで大損してる。


No.1746 5点 地雷グリコ
青崎有吾
(2024/07/12 12:05登録)
 こういうややこしさは苦手。『カイジ』なんかもゲーム自体には今一つ乗り切れなかったなぁ。
 “ルールに則った読み合い” ならば、理屈としては何処までも裏の裏を読めるのであって、結局ストーリー展開上作者に都合の良い段階の読みを採用して勝敗を決しているに過ぎない、とか思ってしまう。
 良く出来てはいるのだろうが、まぁ好みの問題ってことで。

 〈地雷〉は、かなり確実に踏むけれど、最大でも計30段のダウンに留まるわけで、実はジャンケンの勝敗の方が結果に直結すると思う。真兎の勝利は、あの仕掛けのおかげと言うより、中盤で地道に巻き返したからでは?


No.1745 8点 螺旋
山田正紀
(2024/07/05 12:35登録)
 序章を読んで “え、これSF?” と訝ったのだけれど、実際には現代社会の生活者視点と神学的象徴論の二重写し。ともすれば頭でっかちな観念論に陥りそうなところ、見事な反転と共にきちんと着地している。
 単なる物理的トリビアではなく、そのときにそれが起きることで “奇跡” たり得ている “史上最長の密室” トリック。それに対抗するかのような “××に対するペテン”。この物語はまるで “神シリーズ” のアナザー・サイドだ。


No.1744 7点 火星の大統領カーター
栗本薫
(2024/07/05 12:34登録)
 愛の溢れるパロディ集。
 ところが、あとがきが不釣合いにヘヴィで、楽しく笑って読み終えられないのだ。読者を追い詰めて選択を迫っているよう。これは『ぼくらの世界』で信が薫くんに語ったことと通じるかも。そこだけ勢いで書き殴っている感じ。この人の多作っぷりは或る意味でライヴ・パフォーマンスだったんだなぁ。

 そして、言わずにはいられない。「君の瞳は百万ボルト」→正しくは「10000ボルト」だっ!


No.1743 6点 エーリアン殺人事件
栗本薫
(2024/07/05 12:34登録)
 うーむ。確かにフェアプレイだ。全ての謎はとけ、私の頭も溶けた。

 エーリアン餡を抜いたら良く切れる。
 エーリアン営利抜いたら赤毛の子。
 日の本じゃ絵には描けないその姿。
 あの豹とどっちが強いエーリアン。
 異世界でグインが胸を撫で下ろし。
 今も尚ねずみ算式ペリー・ローダン。
 えいり庵 隣に建つは伊集院。
 著者近影 中島梓に良く似てる。
 SFやモブの命の安さかな。
 年ふれば宇宙に吠え~るエーリアン。しまったネタバレ。


No.1742 6点 陰陽師 飛天ノ巻
夢枕獏
(2024/07/05 12:33登録)
 “あちこちの雑誌にちらほらと書いてきた” ものを纏めた成り立ちの為か。時代設定上あまり入り組んだエンタメ展開はしづらいのか。このシリーズはとても雰囲気があって面白いんだけど、二巻目にして早くもパターン化しつつあると言うのが正直な感想。
 後半ちょろっとリミッター解除した気配はあるものの、何処を守って何処で攻めるか様子見な感じ。一編ずつバラしてのんびり読むが吉。


No.1741 5点 十一月に死んだ悪魔
愛川晶
(2024/07/05 12:33登録)
 愛川晶がこの便利な題材を使い回すのは何度目か。まぁ過去の類似作よりは良く出来ている気がする。しかし細かな味付けの差異よりも “またか” と言う印象が先に立ってしまう。だから戦略的にも損だと思うんだよね。もしかして “記憶喪失もの” と言うサブジャンルが成立していて一定数のファンが居るのだろうか?


No.1740 7点 ファラオの密室
白川尚史
(2024/06/27 12:30登録)
 AC『死が最後にやってくる』に期待していた世界はこんな感じかも。導入部の冥界探訪エピソードがとても良い。
 神官は神官、奴隷は奴隷、と立場に応じて思考にリミッターがかかっているあたりも世界設定を巧みに補強している。その観点で言えば “お前の人生はお前のものなのだ” と語るセティの父イセシが最も現代的でリベラル?


No.1739 6点 永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした
南海遊
(2024/06/27 12:29登録)
 本格ミステリ流のフェア・プレイ精神(従)を備えた時間テーマのファンタジー(主)、と言う感じ。ちょっと苦手な奴だ、と読み始めてから気付いた。物理トリックとかキャラクター造形とかは高く評価するけど、死に戻りを繰り返すタイムループの説明は案の定こんがらがったコンガ。


No.1738 6点 サロメの断頭台
夕木春央
(2024/06/27 12:29登録)
 明かされた真相は、意外な道筋でありつつ圧巻。但し、盗作の理由には首を捻った。
 そして、途中の展開はやや退屈だったと言わざるを得ない。判ってみればそれなりの事情があり、希釈したような中盤を経てラストでギュッと濃縮する読み味は、事件の構造上の必然のようだけど、間延びした時間を楽しく読ませるのは難しいね。


No.1737 6点 天使の囀り
貴志祐介
(2024/06/27 12:28登録)
 この題材は私の守備範囲内(と言うと大袈裟だが、アレコレ調べたことがある)なので、作者が多分意図しただろう驚きみたいなものはあまり感じなかった。
 でも上手に料理しているなぁと嬉しくなった。骨格まで変わるさまをイメージすると恐ろしや(どうせ手の打ちようが無いのだから、生死の確認なんて不要だろうに)。ラスト、アレを今後も保持しておいてホスピスで使おう、と言うオチを予想したんだけど……。
 食されているあの虫の味は蟹だとかピーナッツだとか諸説あるけど美味らしい。


No.1736 4点 鍾乳洞美女殺人事件
南里征典
(2024/06/27 12:26登録)
 キャラクターはそれなりに立っている気がする。しかしこんなに芝居がかった脅迫劇を計画するか? 多分に読者の視線を意識した演出であって、例えば犯人がもっと愉快犯なら許容出来たかも知れない。


No.1735 8点 盤上の敵
北村薫
(2024/06/22 12:39登録)
 結局自己保身じゃないかと言う印象を避けるには相応のやむにやまれぬ事情が求められ、すると “傷付けられた人” が必要になる。状況のヘヴィさは単なる飾りではなく、騙しの構造上必然的なものである。しかも、この物語の奥にこんな痛快なトリックが潜んでいるとはなかなか思わないから、目晦ましとしても機能している。
 そう考えて納得はしているものの、あの人物の “弱さ” には苛立ちを覚えた。と正直に書いておこう。


No.1734 7点 兎は薄氷に駆ける
貴志祐介
(2024/06/22 12:38登録)
 被告人の狙いがそうなら、読者にとって最も意外な展開はこうかな? と考えた真相が的中した。でもそうやって先の読めているプロットを面白くスラスラ読ませる筆力はたいしたものである。
 自分が被告席に座っていたら、とも考えた。きっと余計な揚げ足を取って心証を悪化させるに違いない。一番笑ったのはここ。

 “被告人には偽証罪が適用されないことをご存じですか?”

 はい、たった今あなたが教えてくれたので知っています、と答えちゃいそう。


No.1733 5点 ミステリーズ
山口雅也
(2024/06/22 12:37登録)
 これは、ミステリではないから『ミステリーズ』と名付けたのか。言ったもん勝ち的な、アンディ・ウォーホルのスープ缶とかマルセル・デュシャンの泉みたいなものか。変に大上段に構えず普通の短編集として読めば、幾つか非常に面白いものも含まれているのだけれど、トータルなコンセプトが成功しているとは思えない。


No.1732 5点 悪霊島
横溝正史
(2024/06/22 12:37登録)
 おぉう、このプロローグ。この短さなのに、心を鷲摑みにされた。
 ところが後が続かず。話の本筋もなかなか進まず。まことに自烈体。
 ラスト4分の1でようやく面白くなる。コレやれるなら最初からやってよ。
 しかし思えば、このおどろおどろは犯人サイドのごく一部で共有されていたに過ぎないわけで、物語全体が黒々と染まらないのも仕方が無い。
 いや、仕方が無いのは作者がとても素直な書き方をしているからで、このプロット、今時の若手なら視点の転換や叙述トリックを駆使して全編スリリングに仕上げられるんじゃないだろうか。

 ところで、プロローグを録音した “テープレコーダー” って何だろう。
 本作は雑誌連載が1979年(78年末?)開始だが、作中の時代設定は1967年。その時期に普及していたのは、オープンリールテープ。一箇所、“カセット” と言う文言が使われているのは作者のミスだと思うがどうだろうか?

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