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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1588 7点 弔鐘の荒野
山田正紀
(2023/11/24 14:16登録)
 手堅い下請け企業謀略もの、かと思ったら後半で大いなる飛躍、しかし無体なツギハギではなくシームレスにつながって、一つの物語として自然に成立しているあたりは流石。死者はどうあるべきか、AIが問題になる現在、改めて読むと発表時よりリアルに考えさせられた。“橋を渡る/渡れない” の例えが切ない。あの政治家の “想像力の無さ” も凄いな。


No.1587 6点 水族館の殺人
青崎有吾
(2023/11/24 14:14登録)
 出た、忍切蝶子さまっ! 爽やかで傲慢そうで実は生真面目そうな実力者。台詞がいちいち様になって決まってる。対する佐川部長だって負けてないぞ。“そういうところは嫌い” と言ってのけるのは愛だね。うーむ、どっちのキャラも美味しい。強敵と書いて友と読む。竜虎相打つ決勝戦は事件のせいで見損なってしまったが、非公式の頂上対決なんて贅沢な。

 あ、殺人の方は、手掛かりがやたらチマチマしている。容疑者が属性だけ貼り付けたロボットみたいで、11人は流石に多過ぎ。EQ的ロジックを重視した結果そうなってしまう(こともある)のは判るが、もっと上手く書いている作家だっているわけで。試行錯誤の途中経過、って感じ。


No.1586 6点 相馬野馬追い殺人事件
皆川博子
(2023/11/24 14:14登録)
 フーダニットはなかなか意外なところを突いている。事件を二つ重ねた煙幕に引っ掛かった。犯人は、一人殺したら歯止めが利かなくなって行動のハードルが下がってしまった感じ。犯人じゃなくても板挟みで素直に供述出来ないとか、皆がバラバラなことを考えて錯綜して行くとか、面白いドラマ。
 しかし、描き方がごちゃごちゃし過ぎ。しばしばページを遡らないと状況が判らなくなってストレスの多い読書になってしまった。


No.1585 4点 第三の女
アガサ・クリスティー
(2023/11/24 14:13登録)
 どうしてもネタバレしちゃうなぁ。
 犯行計画全体の構図としては良いんだけど、その真ん中に余計なトリックがドンと鎮座している、と思う。
 金髪の鬘を使ってあんなことをする必要があるのだろうか? ポアロはアリバイ云々と言うが良く判らない。読後に振り返ると “犯人は多忙で疲労困憊したんじゃないかな” と言う印象ばかりが残っている。


No.1584 5点 夜獣使い 黒き鏡
綾里けいし
(2023/11/24 14:11登録)
 何がしかの美意識をアピールしているのは判るが、個々のエピソードが表層をなぞっているだけに思える。かと言って “すべてはどういうことであったのか” だけが重要、と割り切るのは本末転倒っぽい。第壱、肆、陸話あたりに絞ってもっと掘り下げれば良かったのでは。


No.1583 9点 終りなき夜に生れつく
アガサ・クリスティー
(2023/11/18 12:31登録)
 半ば過ぎまで普通の、と言うかミステリにならないロマンスを、自分が中だるみせずに読めたことがまず驚き。
 全身全霊こめて作った女神像を自ら落として粉々に砕く、みたいで、そこまでやるか。でも先が見えててもやるしかないんだろうなぁ。そこに嘘は無いんだよね。もうほぼ悲しみと安堵が綯い交ぜになった自殺者の心情なんじゃないかと思った。


No.1582 6点 ちぎれた鎖と光の切れ端
荒木あかね
(2023/11/18 12:30登録)
 第一部は見事で、これだけで充分だったんじゃないかなぁ。
 粗探しをするなら、受話器のコードを切っただけなら素人でも応急処置は出来るんじゃないか、と言うことくらい。受話器、捨てときなよ。

 一方、第二部は、眼の付け所は良いが、内容がやや不自然。
 “第一発見者が狙われる” とのルールに対して、警察の対処があまりにも速い。第二被害者は第一被害者の親類なわけで、それに由来する共通の動機だと考えるのが自然。第三被害者が出て即座にルールに気付くなんて、犯人が警察関係者で誘導したのかと思った。
 第一の事件の三日後に第二、その三日後に第三。真相を踏まえると、このペースも速過ぎ。ほとぼりが冷めるまで待つのがアレのセオリーでしょ。それに、犯人は彼女の仕事のスケジュールをこの短期間で把握したのか?
 あと、その “動機” なら、彼女に対する殺害予告の方が確実。どのみち一度の失敗で奴が諦める保証は無いから、その場凌ぎにしかなっていない。殺人を辞さないなら、対象は無関係な人じゃなくて元を断たないと。


No.1581 6点 美しい蠍たち
山田正紀
(2023/11/18 12:30登録)
  “思い切り人工的なミステリーをめざした” とは作者の弁。でも骨組みを剥き出し過ぎだと思う。色々な説明が台詞だけで済まされているけど、信頼出来る発言者などいないじゃないか。もうちょっと肉付けして欲しかった。それを排した点こそ “人工的” たる所以か?
 最初と最後でのヒロインの変化と、出番は少ないながらメイドの存在が効いている。戸籍上の続柄や相続に関する説明には疑問点アリ。


No.1580 5点 那智伝説殺人事件
醍醐麻沙夫
(2023/11/18 12:30登録)
 鐘撞きを支えるくだりは、のっけから名場面。旅情は彩り程度だが、私にはこのくらいでちょうどいい。
 UFO信者や降霊がシレッと混ざったりして、微妙にスピリチュアル的要素強めの世界。伝奇ミステリと言う程ではない。あくまで微妙に。“なぜ霊に犯人の名を言わせなかったのだ?” と刑事が発言したりする。
 もう少し上手く書ければ、和歌の暗誦なども絶妙な言霊となって独自のロジックを作れたかも知れない。
 殺人のトリックも、窒息のイメージを逆手に取って、良く考えると意外な方法だと思うが、平坦な書き方で損をしている。


No.1579 5点 鏡館の殺人
月原渉
(2023/11/18 12:29登録)
 館は館でもあっちの館か……冷静に考えると、登場人物を一人浮かせる有効な手法ではある。こっちを先に読んでいればもっと高評価出来ただろう。
 総体的に “館の中の小さな世界だから成立した事件” と言う感が強い。しかし崖崩れは偶然であり、本来なら即座に警察沙汰だからね。そのへんの箱庭っぽさの為の設定をもう少ししっかりすべきでは。犯人が無知だから却って大胆になれた?


No.1578 7点 あの魔女を殺せ
市川哲也
(2023/11/10 15:57登録)
 特殊設定の本格かと思いきや、そこからも逸脱した怪作。その要素を前提にしても、真相がフェアプレイだとは認めがたい。実行犯が伏線無しで想定外過ぎ。
 でも好き。ラストで結ばれるこの二人、肉体的にはアレだね。ひぇ~。


No.1577 7点 十戒
夕木春央
(2023/11/10 15:56登録)
 キャラクターが一人一人きちんと別の人になっていて、この立場でこれを知っている人ならそういう風に動くよな~、と言った部分がしっかり押さえてある。読み返すとまた面白かった。
 『方舟』と似てるな~と、つい余計なことを考えてしまう。しかも、タイトルに共通性を持たせたせいで、実際以上に類似性が強調されてない?
 最後の最後に出て来るサプライズ、実は他の方の書評を読むまで全然気付かなかった。でも “あー成程ね~” と言った、オマケ程度の印象しかない。
 現時点では、せっかくの良作につまらない悪戯を加えている、と言う気もする。いずれ壮大なサーガになるんだろうか?

 あと細かいことだが、“犯人が、足跡から特定されるのを防ぐ為に、大股で歩く”。
 厳密に言えば、小股なら誰でも出来るが大股は人によって限界が異なる。“自分はこんなに大股では歩けない” と言う者がいたら(言っちゃまずいけど)容疑者から除外されてしまう。


No.1576 7点 茶色の服の男
アガサ・クリスティー
(2023/11/10 15:55登録)
 作者がノって書いている雰囲気に好感が持てる。でも気分のままに引き伸ばし過ぎ。気が付いたら一ヶ月経過していた、とは随分長い。何かのトリックかと思った。


No.1575 6点 ヴァンプドッグは叫ばない
市川憂人
(2023/11/10 15:54登録)
 最初からパラレル・ワールド設定とはいえ、大胆な世界改変だ。
 面白いんだけど楽しみ切れなかった。ウイルスの謎云々は、題材について考え抜いた作者には下地があったのだろう。が、殺人事件を追ってきた私にしてみれば、ベクトルが明後日の方へ振られたようで頭が切り換わらないよ。“アウトサイド” の連続殺人は動機が弱いし、“本格” の看板を掲げるよりもノン・シリーズの医療系SFスリラーとして書いた方が良かったのでは。
 シリーズの世界が今後どのように変貌するか、期待が半分、整合性を失くしてグダグダになってしまわないか心配が半分。

 初版にミスあり(知らない筈の名前を呼んでいる)。版元に報告したが、首尾良く修正されるかな?


No.1574 5点 諏訪龍神伝説
紀和鏡
(2023/11/10 15:54登録)
 宇宙線と隕石、古代国家から連なる系譜、と言った月刊ムー的素材にロマンスをトッピング。きちんと混ざり合わずに凸凹が残る不恰好なプロットで、そっちに気を取られたせいで殺人事件のことをすっかり忘れていて意外な犯人は意外だった。
 但し一番問題なのは、この話を自然に読ませるには文章力が足りないことではないか。胡散臭さがメタ的ギャグになっちゃうのは本意ではないよね。


No.1573 7点 幸せの国殺人事件
矢樹純
(2023/11/04 13:55登録)
 手堅くピースを積み上げて、軋轢や暴走や和解を描いていると思う。登場人物がみんなコミュニケーション不足で自分勝手だな~。
 青臭い純粋さと欲が交錯する真相、遠い所へ行ったあの人の気持は、ちょっと回りくどい気がして充分納得出来たとは言えない。謎解きの勢いに押されて、詳細の説明が曖昧な部分もある気がする。
 太市の “じゃね?” は鼻に付く。そういえば無断拝借したゲームソフトは返したのか?


No.1572 5点 知床岬殺人事件
皆川博子
(2023/11/04 13:53登録)
 前半と後半が別のプロットみたい。二重人格と事件の絡みが希薄。当人が何も言わないのに、人格の状態や程度を他者が推察出来ると言うのは納得しづらい。
 とは言え、筆力があるので読まされてしまう。犯人のキャラクターをもっと深く掘り下げると魅力的だったのではないか。
 映画監督の鬱屈する様は、作者も “書きたいものと売れるものとの乖離” で苦闘したようだから、それが反映された憂さ晴らしなのだろうか。


No.1571 5点 弓弦城殺人事件
カーター・ディクスン
(2023/11/04 13:52登録)
 心理戦は面白かった。ピストルを外套のポケットに隠すくだりなど、“偽の手掛かり” だと考えれば後期クイーン問題みたいである。1933年と言えばEQは国名シリーズの頃。
 “どうせ使えない無記名式債券” についても、単純ながら盲点を突かれた思い。ところがこっちは、使えるのは一人だけ → その人に疑いをかける為に、使えない債権をわざと盗んだ = 偽の手掛かり、かと思いきや本物だ。二重基準(笑)?

 もしやこの作者については “不可能犯罪の巨匠” 的なイメージを捨てた方が楽しめるのだろうか。


No.1570 7点 陰陽師
夢枕獏
(2023/11/04 13:51登録)
 これやこの名にし負う夢枕、寝屋処まで文を繰る手止むに能はず、ぬばたまの小夜更けにけり。殊に、主の命かしこみ身を鬼に啖わせる女、女陰より出でる蛇鬼など、いと怪し。我、あなやとぞ言いけるも、寝てか醒めてか思ほえず。


No.1569 7点 血と夜の饗宴
山田正紀
(2023/11/04 13:50登録)
 “電脳ゴシックホラー” だそうです。
 主人公ポジションの人がバタバタ逝く流れは “犠牲の上に成り立つ戦争” っぽくて、妙に強い一般人が登場するより説得力がある。個々のエピソード(と言うか “死に方”)は短くも鋭くまとまっていて飽きさせない。パターンの繰り返しがジワジワ来る。でも前哨戦で終わっちゃうのね。此処からが本当の戦いだ……!

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