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ミステリの祭典

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悪霊島
金田一耕助シリーズ

作家 横溝正史
出版日1980年07月
平均点5.64点
書評数14人

No.14 5点 虫暮部
(2024/06/22 12:37登録)
 おぉう、このプロローグ。この短さなのに、心を鷲摑みにされた。
 ところが後が続かず。話の本筋もなかなか進まず。まことに自烈体。
 ラスト4分の1でようやく面白くなる。コレやれるなら最初からやってよ。
 しかし思えば、このおどろおどろは犯人サイドのごく一部で共有されていたに過ぎないわけで、物語全体が黒々と染まらないのも仕方が無い。
 いや、仕方が無いのは作者がとても素直な書き方をしているからで、このプロット、今時の若手なら視点の転換や叙述トリックを駆使して全編スリリングに仕上げられるんじゃないだろうか。

 ところで、プロローグを録音した “テープレコーダー” って何だろう。
 本作は雑誌連載が1979年(78年末?)開始だが、作中の時代設定は1967年。その時期に普及していたのは、オープンリールテープ。一箇所、“カセット” と言う文言が使われているのは作者のミスだと思うがどうだろうか?

No.13 3点 クリスティ再読
(2024/05/27 18:48登録)
御大最後の作品。リアルタイムだったし...金田一が刑部大膳に誘われて吉太郎が漕ぐ船で海上から島を一回りするシーンだけが妙に印象に残っていた。
うんまあ、本作あたりは最晩年で気力が落ちているのを、横溝ブームからの「ご要望」にお応えするわけだから、「自己模倣でいいや」で割り切った「横溝ミステリ」になる。「本格ミステリ」を期待するのはもう本当に筋違い。そこらへんは当時だって、皆よく分かって読んでいた作品だから、この低評価はそういう「本格」視点での採点ではない。

本作って本当に「八つ墓村」のリライトみたいなものだよ(島は「獄門島」、神楽一座は「女王蜂」を連想するが)。いろいろとモチーフを登場させているけども、どのモチーフもお約束みたいなオチになる。本来、刑部一族vs越智一族の対立で話が展開するはずなんだろうけども、それがまったく展開されていないから、「島の対立」が全然モチーフになってこない。越智竜平の帰島が「イベント」でしかないんだ。事件も異常な人物に島が引っかき回されただけのことだ。
でまあ、片帆とか浅井はるが殺される理由もはっきりしないし、浅井はるが五郎を島に差し向けた理由だって不明(はるが島に異常なほど悪意があったとしか...)とか、デテールにアラがあり過ぎるのと、

いまや磯川警部は完全にズッコケていた

とかさあ、文章が心配するくらいに雑になっている。集中できなくて本当に困った。
あまり悪口を書くのも何だから、映画に倣って、Let it be...とでもつぶやいて終わりにするよ。すまぬ。合掌。(そういや映画の巴は志麻姐御だったな)

No.12 7点 青い車
(2020/03/15 07:36登録)
 このサイトだと評価はいま一つ…。面白いと思いますけどね。そりゃ『獄門島』『犬神家』『手毬唄』みたいな迫力や華々しいトリックなんかは望めないです。でも(少なくとも私からしたら)飽きさせることない展開で上下巻をワクワクしながら読めましたし、サブキャラの磯川警部が思いのほか重要な役割を担っている所なんかはシリーズ読者には嬉しいものがありました。書かれた年代も考慮すれば十分な佳作と評価したいです。

No.11 4点 HORNET
(2018/09/17 12:40登録)
 島、「本家」が幅を利かせるムラ社会、過去の謎の事件、カギを握る妖しい魅力の美女、男女の愛憎劇、双生児、洞窟……といった、「横溝テイスト」をふんだんに、悪い意味で「バランスよく」盛り込んだ無難な一作という印象。そういう意味では、集大成と言えなくもない。
 トリックやアリバイというミステリ的な謎解きは皆無に等しく、謎の中心は「隠された人間関係」。推測はできるが推理とはいえず、しかも勘のいい読者なら上巻でほぼ全貌が見えてしまうだろう。それが裏切られるのならまだしも、結局予想通りの真相をなぞる後半になってしまい、謎解きの面白さはほとんどない。
 先にも書いたように、横溝テイストがたっぷり盛り込まれていることは間違いないので、その作品世界や雰囲気自体が好きという読者にはそれなりに好まれる作品かもしれない。

No.10 5点 好兵衛
(2018/04/24 18:23登録)
4.5点くらい。
ミステリというより、怪奇ホラー小説に
少々の謎を入れ込んだ作品、といった印象。

同シリーズの作品でも、「獄門島」や「犬神家」「本陣」
などと、比べるとトリックや謎自体が小粒。
本格色 薄め。

解決までに、提示される謎の出し方があまり上手くなく。
読み進めると、ヒントやアリバイが後半にずらずら出てきて。
そろったころには、解決編に入っているという感じ。

線引きがうまく、なされておらず。
ドラマを見ている感じに近いと感じました。
気づいたら、謎解きに入っている感じ。

アガサクリスティーや、横溝氏みたいに
大量に作品を生み出す売れっ子作家は、後期はミステリとしては
薄味になってしまうのは、しょうがない事だとは思う。

この作品は、おどろおどろしい雰囲気。
横溝シリーズの醍醐味と言った。
戦後の雰囲気や、独特の怪奇、妖艶さなどを楽しむには
もってこいだと思うので。
そういう雰囲気が好きな方は、読んで損は無いと思います。

本格色強めが読みたい方は、上のほうを作品をおすすめます。

No.9 7点 tider-tiger
(2016/02/24 19:39登録)
横溝作品はその時の気分で好きなものが変わりがちです……が、あまり良い評価を得ていない作品なので言い辛いのですが、この悪霊島は常に一位か二位につけている好きな作品です。

前半が冗長と指摘されることの多い作品ですが、私はむしろ後半の雑なところが気になります。
世界観や道具立てはものすごく良いのに物語をまとめ切れていない。全体の長さの割にネタが不足しているのは明らかで、さらにはネタ不足のくせに必要な情報をきちんと出していない。例えば浅井はるの死について、片帆の死について(動機はそれとなく匂わせているが)、殺害の場面が映像として頭に浮かんで来ない。なんか誤魔化されているような気がするんですよ。
物語は後半に入ってテンポがよくなったものの今度は慌てて書いているかのように文章が雑に感じる。まあ、文章はともかくとして、ミステリとしてイマイチだという意見に異論はありません。
この小説のよさの一つは舞台設定や背景描写。この点は全盛期の作品よりも勝っているくらい。作者の都合で設定ばかりを積み上げた整合性のない島ではなく、島が活きています。「刑部島は本当にあったんだね」とそんな気分。
横溝御大は引退したがっていたのに角川に無理矢理書かされたんじゃないかなんて書評を見ましたが、前半を読んだ限りではむしろ先生はこの作品にかなり意欲的に取り組んでいたのではないでしょうか。
だがしかし、後半に息切れ。これはやはり老いなのでせうか。

前半で島社会の現実を描いておきながら、後半に唐突に非現実的な狂気が立ち現れます。そして、遺体の扱いが凄い。『人形はなぜ殺される』の遺体処理法には衝撃を受けましたが、この作品も負けてはいない。
両者の衝撃の種類は正反対のものです。
人形においては犯人が実利を追及した結果の産物であり、それはさまざまな面から極めて合理的な手段でした。
一方の悪霊島においては死体装飾に合理的な意味はありません。人形、そして、獄門島や手毬唄の遺体装飾とも本質的に異なります。ミステリとしてはダメでしょう。しかし、この意味の無さが怖ろしくも、美しいと私は思うのです。意味は耽美を構成しない。
犬神家、手毬唄などは耽美小説風な推理小説だと思います。悪霊島は推理小説風の耽美小説ではないかと。このサイトで高評価を得られないのは当たり前ですが、私は好きな作品です。ダメな子ほど可愛い。でも、点数は7点に抑えます。

No.8 5点 谷山
(2014/08/23 03:58登録)
ただでさえミステリとして小粒なのに、上下巻でかなりの分量があるために余計淡白な印象になってます。ラストの展開もミステリというよりもホラーっぽくてあまり好きにはなれません。
もしかすると、当時大ブームになっていた横溝映画のホラー的な部分のセルフパロティとして描かれたものであって、特に本格ミステリは意識されて無かったのかも知れません。
まあ物語としてはさすが横溝正史って感じで面白いです。

No.7 6点 りゅう
(2011/09/24 21:32登録)
 再読のはずですが、ほとんど記憶にない作品でした。スケールの大きな作品で、舞台設定、人物設定などの物語の作り込みは往年の名作に匹敵する出来映えですが、謎解きとしてははるかに及ばない印象です。テープレコーダーに吹き込まれたダイイングメッセージ、三人の人物の失踪、市子殺しとその手紙、神主殺しの殺人方法など、謎の提示は魅力的なのですが、真相は常識的で意外性や驚きがありません。犯人像が十分に描かれていない点も不満です。シャム双生児、洞窟の探検など、江戸川乱歩の「孤島の鬼」を連想させる作品で、本格ミステリというよりも犯罪冒険小説よりの作品という印象を受けました。

(完全にネタバレをしています。要注意!)
 洞窟探検の末に見つけた事実が、常軌を逸した人間の犯行であったというのは、本格ミステリの観点からみるといただけない真相です。本格的要素が感じられるのは神主殺しに関する推理だけで、三人の人物の失踪に何かあるのかと思っていましたが、特に何もなくて、三人とも殺されていたというのは拍子抜けでした。また、片帆殺しの動機が示されていないと思うのですが、単に常軌を逸した人間の犯行ということなのでしょうか。

No.6 6点 kanamori
(2011/08/29 21:53登録)
正史最晩年(亡くなる前年)に書き上げた金田一耕助が登場する最後の長編。
さすがに、最盛期のようなミステリ趣向のキレはなく、特に上巻は冗長な感じを受けますが、岡山県沖の離島、「鵺」のダイイングメッセージ、隠された血縁の秘密、笠と蓑の謎の人物、地下洞窟での対決など、最後の最後まで”横溝ワールド”の探偵小説にこだわった創作姿勢には脱帽するしかありません。磯川警部の過去を密接に事件に絡ませた点もよかった。
重要人物である神主の妻・巴御寮人については、やや書き込み不足なのが惜しい気がする。

No.5 6点 nukkam
(2010/12/02 09:32登録)
(ネタバレなしです) 横溝正史(1902-1981)最後の作品となった1978年発表の金田一耕助シリーズ第30作の本格派推理小説です。全盛期の作品を髣髴させる舞台設定にどきどきわくわくした読者も多かったと思いますが(私もその1人です)、さすがに晩年の作品なので全体的には淡白な印象を受けました。とはいえ凡百の作家など及ばない面白さは十分に持っています。

No.4 3点 文生
(2010/01/20 18:35登録)
作者最晩年の作品。
独特の怪奇趣味は健在だが、上下巻の大作としてはミステリー的興味があまりに希薄。

No.3 8点 シュウ
(2008/09/23 23:09登録)
確かにミステリとしては早い段階で犯人分かっちゃうし、殺人の動機も解明されないまま終わるのもあったりで(こんなに長いのに!)、
物足りない部分も多々あります。でも犯人が早く分かってしまうだけに後半の犯人の描写が多く、
最後の最後に犯人が判明する関係上犯人のキャラクターが描かれることの多くない横溝作品の中では結構貴重な存在なのではないかと思います。
その描写のせいで横溝作品一犯人が怖い作品として物凄く印象に残りまくってます。いや、マジで怖いですこの犯人は。

No.2 8点 VOLKS
(2008/03/04 16:51登録)
「鵺の鳴く夜に気をつけろ」という台詞があまりにも有名な作品。10年ぶりくらいに再読したので覚えていない箇所も多かったが、この名台詞は冒頭部分にガツンとくる件だったのでよく覚えていた。
時代を遡っての連続殺人事件、磯川警部の過去も内容と濃い結びつきがある辺り、また作者と馴染み深い岡山編、という作品のわりにもうひとつ盛り上がりに欠けるような気がするのは、その犯人像のせいか。

No.1 6点 vivi
(2008/02/11 01:01登録)
久しぶりに読み返してみましたが、
この作品は、ミステリとしては少し物足りない作品です。

横溝作品に良く出てくる、双子、複雑な血縁、鍾乳洞、孤島、と、
読者のサスペンスをそそる部分は多いですけど、
肝心の事件でいえば、トリックは大きなものではない。
この小説はプロットとシチュエーションで成り立っている、と思うのです。

その点では小説としては面白いけれど、
ミステリとしては、「獄門島」にかなわないかな~と思います。

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