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ミステリの祭典

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kanamoriさんの登録情報
平均点:5.89点 書評数:2463件

プロフィール| 書評

No.1803 6点 疑惑の夜
飛鳥高
(2012/09/24 22:07登録)
戦後すぐに短編でデビューした作者が10年後に初めて書いた長編ミステリ。仁木悦子「猫は知っていた」が受賞した第3回江戸川乱歩賞の最終候補作を改題したものらしい。

あらすじは、主人公の男女が謎の脅迫者を追及・対峙するというスリラーなんですが、ある理由で主人公が工作したアリバイの証人たちが皆”そんな憶えがない”と否定される「幻の女」パターンの不可解な謎が魅力的で最後まで引っ張ります。密室状況下の殺人や人間消失、最後に明かされる〇〇トリックと、本格ミステリの要素を複数詰め込んでおり、古臭い文章に我慢できればそれなりに楽しめます。


No.1802 5点 消えたエリザベス
リリアン・デ・ラ・トーレ
(2012/09/22 13:55登録)
18世紀の英国で実際に起きた迷宮入り事件を、当時の膨大な証拠・証言などの資料をもとに再構成し、作者が謎解くという歴史ミステリの路傍標的作品。
18歳の女中エリザベス・キャニングの失踪監禁事件は、日本の読者には全く馴染みがないのですが、ジョセフィン・テイもこの事件をモデルにグラント警部ものの「フランチャイズ事件」を書いているほどで、英国ではかなりセンセーショナルな事件だったようです。
本書は、史実をありのまま正確に伝えようとしたため、歴史研究論文を読まされている感じを受ける。特にエリザベス側と被告のジプシーの老婆側の関係者の証言が延々と繰返される裁判場面の数章は正直しんどかった。真相(作者の結論)はミステリ的な驚きもあるものの、全体的に物語性に欠けた。作者を探偵役にせずに、登場人物の一人たとえば本書で脇役になっているヘンリー・フィールディング(盲目の治安判事ジョン卿の兄)を探偵役にするなどのエンタメ志向だともっと楽しめたかもしれない。

(追記 2012.9.24)
たまたま論創社のホームページをのぞいてみたら、刊行予定にデ・ラ・トーレの「サミュエル・ジョンソン博士傑作集」が挙がっているではないか。同じ18世紀英国が舞台ながら、こちらは「クイーンの定員」にも選ばれた、”ホームズ&ワトソン”スタイルの連作ミステリだから期待できるかな。


No.1801 5点 ベートーヴェンな憂鬱症
森雅裕
(2012/09/18 20:13登録)
東野圭吾「放課後」と乱歩賞を同時受賞した「モーツァルトは子守唄を歌わない」の探偵役、ベートーヴェンとチェルニーの師弟コンビが再登場する連作短編集。

コミカルな表紙絵とは裏腹に、後半の作品になるにつれて、老境のベートーヴェンの哀切な実情を描くことに力点が置かれ、ややミステリから離れた内容になっているのは好みの分かれるところかもしれません。
個人的には、小生意気で毒舌家の少年チェルニーとの出会いの物語でもある「ピアニストを台所に入れるな」と、皮肉屋のベートーヴェンが恋に悩む「マリアの涙は何故苦い」の前半の2編が好みでした。


No.1800 6点 第五の墓
ジョナサン・ラティマー
(2012/09/17 22:58登録)
怪しげな新興宗教団体”ソロモンの葡萄園”に囚われた女性の救出という本筋があるのですが、ホテルで見かけた女性にちょっかいを出すは、ギャングの親分に睨まれ銃撃戦を始めたりで、私立探偵の”おれ”こと、クレーヴェンの行動は行き当たりばったりです。それらが結果的に核心の人物との接触につながるのですから、やはりご都合主義的プロットといわれてもしょうがありません。
また、結末は面白いのですが、ただ”意外性のみありき”でかなり無茶です(笑)。
ビル・クレインを主人公にしたシリーズと比べると、語り口のシニカルなユーモアは抑えめで、展開にちょっとハメット風ハードボイルドを思わせるところもあるのですが、やはりB級感は否めないです。


No.1799 6点 泡坂妻夫引退公演
泡坂妻夫
(2012/09/16 22:05登録)
雑誌に掲載されたままだった短編を、シリーズ・キャラクターや類似テーマ別に分類・編集した、箱入り2冊セットの単行本未収録作品集。

亜智一郎やヨギ・ガンジーのお馴染みのシリーズもののほか、紋章上絵師の「わたし」が関わる家紋にまつわる因縁話の連作シリーズ、奇術道具専門店シリーズなど、作者のプロフィールを具現化したような多彩な作品が揃っているので、(作品の出来はともかく)往年のファンのひとりとして楽しく読めました。
なかでも、江戸城の雲見番・亜智一郎シリーズ7編のトボケタ雰囲気が相変わらず面白い。もし最終話が書かれていたら、幕末動乱が背景になるだろうから、タイトルは「亜智一郎の遁走」とでもなったのだろうか。
あと、どの分類にも入らない作品では、ホラー系やSFコントのほか、中編の本格ミステリ風戯曲「交霊会の夜」が印象に残った。


No.1798 6点 エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件
ジョン・ディクスン・カー
(2012/09/15 17:51登録)
チャールズⅡ世統治下の17世紀ロンドンを時代背景にしたカーの歴史ミステリ第1作。
実際の歴史的事件である治安判事の殺害事件を膨大な研究資料をもとに再現し、ミステリ作家の視点で真相を導き出すという構成なので、後に多く書かれた”チャンバラとロマンス”の歴史ミステリ群と随分テイストが違います。(「時の娘」やデ・ラ・トーレの「消えたエリザベス」などの先駆となる作品と言われているようです)。
そのため、政治的また宗教的対立関係を中心に当時の英国事情がこと細かく描かれており、馴染みのない日本の読者には敷居が高い感じもあるのですが、現在の感覚ではありえない裁判の実態などが興味深く読めました。


No.1797 6点 疑わしきは罰せよ
和久峻三
(2012/09/12 22:11登録)
”赤かぶ検事”こと柊茂(ひいらぎ・しげる)検事が活躍する連作短編集。シリーズはなんと100作以上出ているらしいのですが、本書はその記念すべき第1作です。

シイタケ栽培用のビニールハウスで中毒死(第1話の表題作)など、飛騨高山という舞台を活かした話がなかなか味があっていいです。娘の弁護士との父娘法廷対決(第4話)なんていうシチュエーションも地方都市ならではでしょう。検事に転勤はつきものとはいえ、大都市に異動になってからのシリーズは、楽しめなくなったような気がします。


No.1796 5点 ブラックサンデー
トマス・ハリス
(2012/09/11 22:55登録)
パレスチナ・ゲリラ“黒い九月”による、アメフト・スーパーボール競技場の爆破計画を描いた緊迫のサスペンス。
情報をつかんだイスラエル情報機関”モサド”と米国FBIは、アメリカ大統領をはじめ大観衆が集まった会場を無差別テロから守るため必死の情報戦を展開するが・・・・というストーリー。

本書は、「羊たちの沈黙」などハンニバル・レクター博士シリーズで有名なトマス・ハリスのデビュー作。あらすじ紹介を読むと派手な謀略サスペンスという感じなんですが、実際はかなり地味な展開です。中近東の情勢なり計画の実行に関する考察などがリアルかつ丁寧に描かれた情報小説の様相で、エンタメ小説としての盛り上がりという点では少々物足りなく感じました。
たまたま読了日が重なりましたが、「9.11」以降に読むこのタイプの小説は素直に楽しめないということもありますね。


No.1795 6点 カラット探偵事務所の事件簿2
乾くるみ
(2012/09/10 22:23登録)
資産家の三男坊で道楽で”謎解き専門”の探偵事務所を開いた探偵・古谷と、高校の同級生だった「俺」こと助手・井上のコンビによる連作ミステリ、シリーズの第2弾。

同じ方向を向いたネタで、真相に脱力必至の「小麦色の誘惑」と「昇降機の密室」をはじめとして、緩い謎解きが並んでいて、個々の作品の出来は4点評価ぐらいかなと思っていましたが、最終話で2点プラスです。読み流していると、キモの部分を読み誤る可能性があるという点で「イニ・ラブ」に似た味わいがあります(シリーズ前作の最後のエピソードが前提になりますが)。「つきまとう男」というタイトルの意味と、最後の2行でヤラレタ感あり。


No.1794 8点 ハメット
ジョー・ゴアズ
(2012/09/09 20:49登録)
ピンカートン探偵社を辞めて、雑誌「ブラックマスク」の作家として糊口をしのいでいたダシール・ハメットが、元同僚殺しの犯人探しにサンフランシスコの街を駆け巡る異色のハードボイルド。

ハードボイルド小説の先駆者、サミュエル・ダシール・ハメットの若かりし頃のエピソードを織り交ぜながら、1928年のサンフランシスコの猥雑な夜の情景など、オマージュと時代の雰囲気が活き活きと描かれているのが◎。また、このまま終わるのか、と思われた終盤には”どんでん返し”的なミステリ趣向が凝らされている点もポイント高いです。
登場人物では、対照的と言える二人の若い女性が非常に印象に残る。アパートの隣の部屋にすむ娘グッディのハメットへの淡い恋愛感情が物語のいいアクセントになっているし、なによりも、娼家の女中である15歳の中国娘クリスタル・タムの意外な造形が見事です。


No.1793 6点 推理日記1
評論・エッセイ
(2012/09/05 20:48登録)
「小説推理」誌上で長期連載されていた佐野洋氏のエッセイ風ミステリー時評「推理日記」が今年の7月号で遂に終了しました。スタートしたのが1973年らしいので40年近く続いたことになります。作者には”長い間お疲れ様でした”と言いたいですね。
ときには、揚げ足取りとか重箱の隅つつきなどと辛辣な評価をされることもあったエッセイですが、ミステリ読み初心者の時期に初めて手に取ったこともあり、個人的には結構影響を受けた気がします(といっても、パートⅢまでしか持っていませんが)。
本書の内容で印象に残っているのは、草野唯雄「もう一人の乗客」をテキストにした、物語進行上の”視点”に関する考え方ですね。叙述トリックがまだ一般化していなかった時代に、フェア・アンフェアと絡めて視点の問題を考察しているのが新鮮に感じました。
あと、目次を眺めていると、「アルキメデスは手を汚さない」「暗黒告知」などの乱歩賞作品ほか「動脈列島」「スカイジャック」など懐かしい作品が並んでいて、もう一冊の”フラッシュバック”として読み返すことも可能です。先日寸評した「カーラリー殺人事件」も本書を読んで再読したものです。


No.1792 6点 グルーバー 殺しの名曲5連弾
フランク・グルーバー
(2012/09/04 17:59登録)
”人間百科事典”ことオリヴァー・クエイドを探偵役に据えた連作ミステリ。
書籍のセールスマンが肉体派の相棒をつれて全米中を回りながら殺人事件に巻き込まれるという基本プロットは、のちのフレッチャー&クラッグの長編シリーズと同じです。違うのは、”あらゆる質問にも答えることができる”という特殊能力をクエイドが持っている点で、毎回のように百科事典から仕入れた知識と機転を使って窮地を脱するのが読みどころの一つです。
語り口は通俗ハードボイルドですが、設定と謎解きのプロセスは本格ミステリで、たとえば、「鷲の巣荘殺人事件」は、脱獄囚4人組に乗っ取られた避暑地の山荘風ホテルという(石持浅海のデビュー長編風の)クローズド・サークルものですし、「不時着」は、雪山に墜落した小型飛行機の乗員乗客たちが山小屋で殺人事件に遭遇するという話でいずれも設定が魅力的です。
また、中編の「ドッグ・ショウ殺人事件」は正統フーダニットでクリスティが好んで使うようなミスリードが巧妙で、これが編中の個人的ベスト作品。
一つ不満な点は、音楽ミステリかと誤解しそうな文庫版タイトルで、やはり当初のタイトル「探偵 人間百科事典」が惹きつけるものがあっていいです。


No.1791 6点 カーラリー殺人事件
石沢英太郎
(2012/09/02 11:51登録)
北海道宗谷岬をスタートし鹿児島の佐多岬をゴールとする日本縦断カーラリーを舞台にした長編ミステリ。競馬場の売上金強盗の強奪金の行方と、愛人を謀殺された男の復讐計画という2本の隠された犯罪を主軸に、参加者のさまざまな思惑を交錯させたユニークなプロットが楽しめます。
クイズ形式のラリーでトラベル・ミステリ的興味を取り入れたり、ラリー参加者(終始マイペースを貫く老夫婦、潜入警察官コンビなど)の群像劇的要素など、色々盛り込み過ぎの感もありますが、最後は関係者を一堂に集め、探偵役で盲目の運転補助者(ナビゲーター)による謎解きもあり、単にサスペンス小説で終っていません。


No.1790 6点 エドワード・D・ホックのシャーロック・ホームズ・ストーリーズ
エドワード・D・ホック
(2012/08/29 22:59登録)
ホックが長い作家生活の間に断続的に書いたホームズ譚のパスティーシュ集。すでに同じ版元の原書房からは贋作ホームズのアンソロジーが数冊でていて、いずれもホックの作品が入っているため重複するのですが、本書はシャーロッキアンよりホック・ファンのための作品集という感じがするので良しとしましょう。
パスティーシュといっても文体の模倣は意識していなくて、ホームズ譚の構成を借りた、あくまでも”ホック流ミステリ”です。
個人的お薦めは、隠退しサセックス州で養蜂家となったホームズ宛に”あの女性(ひと)”から依頼が舞い込む「モントリオールの醜聞」と、タイタニック号の船上でホームズが”あの作家”と共演する「瀕死の客船」です。後者はワトソンの手記ではなく、ホームズの一人称で語られるのだけど、最後に明らかになるその理由には思わずニヤリとなります。


No.1789 6点 かげろう忍法帖
山田風太郎
(2012/08/28 20:18登録)
忍法帖シリーズの短編集(講談社文庫版)。同じタイトルのちくま文庫の忍法帖短編全集の第1巻とは少し収録作が異なり、本書は「忍者〇〇〇」で統一された8作品が収められています。

山風忍法帖といえば、奇想天外な様々な忍法による活劇や、お色気シーンが読みどころと思われがちですが、解説の法月綸太郎氏も指摘しているように、短編だとそれらは薬味で、忍者の「人間としての生き死に」を中心に描いたものが目立つように思います。といっても各話の内容は物語性ゆたかでバラエティに富んでおり、なかでもミステリ趣向もある「忍者明智十兵衛」や、家康重臣たちの権謀術数がすさまじい中編の陰謀譚「忍者本多佐渡守」などが印象的です。


No.1788 5点 アルカード城の殺人
ドナルド・E・ウェストレイク
(2012/08/25 23:12登録)
トランシルヴァニアの森に建つアルカード伯爵の古城で発生した図書館司書殺しの犯人当てミステリ。ウェストレイクには珍しいフーダニットものですが、実のところは、”ミステリー・ウィークエンド”という一般参加者が出題された謎を解くミステリ・イベントのノベライズです。
推理データとして、十人以上の容疑者の一人一人の証言を順に読んでいくうちに事件当時の状況が分かって来る構成で、各人の怪しげな個性を浮き彫りにする語り口に作者らしさは覗えるものの、決め手となる手掛かりが十分とは言い難く、犯人特定のロジックが弱いのが物足りないです。むしろ、ドラキュラ伯爵、狼男、フランケンシュタイン博士などを想起させる怪奇小説のパロディ的雰囲気を味わうのが吉かと。


No.1787 7点 ビブリア古書堂の事件手帖3
三上延
(2012/08/22 22:34登録)
人気ビブリオ・ミステリの3作目。栞子さんが謎解く古書にまつわる3編のエピソード部分も相変わらずよく出来ているが、今作はシリーズ全体を貫く”篠川家の秘密”に関する伏線を個々のエピソードに絡めた構成になっている。
サブタイトルが暗示する妹・文香の独白風のプロローグとエピローグにある仕掛けを施すところなどミステリ趣向がうれしいし、シリーズものによくみられるキャラクターによりかかるだけの作品になっていないのがいいです。
あと、個人的には、第1話の「たんぽぽ娘」を読んで「年刊SF傑作選2」をダンボール箱から引っぱり出したくなった。これがビブリオ・ミステリたる所以でしょうね。


No.1786 7点 骨の刻印
サイモン・ベケット
(2012/08/21 22:16登録)
法人類学者デイヴィッド・ハンター、シリーズの2作目。前作の閉鎖的寒村につづいて、英国最果ての嵐の中の孤島というクラシカルな舞台設定に、死体鑑定のエキスパートを置くミスマッチ的な組み合わせがユニークな謎解きミステリです。
感想を一言で言うと「どんだけひっくり返すんだ!」という感じ。
犯人の指摘があっても残りページを勘案すると、何かどんでん返しがあるだろうと予測はできるのですが、これは想定の遥か上を行く凄まじさでした(最後のサプライズはややあざといか)。一つ気になったのがアンフェアぎみの登場人物表の表記ですが、かといって代替案が思い浮かばないので、これはやむを得ないところでしょうか。


No.1785 6点 仙台で消えた女
多岐川恭
(2012/08/20 18:26登録)
「消えた女」三部作の3作目。時代小説に軸足を移していた作者の最後期のミステリ作品です。「京都」は未読ながら「長崎」がごく平凡な旅情ミステリだったので、あまり期待せずに読みましたが、これは作者らしい捻ったプロットでした。
消えた人妻を追う三人の男女、それぞれ三者三様の秘めた思惑を徐々に明らかにさせながらも、”的の女”瀬戸溶子は最終章近くまで登場させない構成の妙。殺人事件の犯人に関するどんでん返し以上に、彼女は薄倖の女なのか悪女なのかという興味で読ませます。
エピローグの一文がなんとも言えない味がある。


No.1784 6点 疑り屋のトマス
ロバート・リーヴズ
(2012/08/18 22:04登録)
酒と女と競馬をこよなく愛する”やくざな大学教授”、トマス・セロンが競馬場での調教師殺しに巻き込まれる、シリーズの1作目。
本筋の殺人事件の謎解きのプロセスはともかく、知的ユーモアと皮肉交じりの語り口が心地いい作品。主人公のトマスをはじめ、文学趣味のギャングのボスなど、ややマンガチックながら登場人物のキャラクターが生き生きしていて読んでいて楽しい。作者自身も執筆当時はハーヴァード大学の教授だったようですが、ベテラン作家の作品かと思えるほど遊び心が溢れていました。

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