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ミステリの祭典

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文生さんの登録情報
平均点:5.87点 書評数:510件

プロフィール| 書評

No.410 7点 乱歩殺人事件――「悪霊」ふたたび
芦辺拓
(2024/04/06 22:32登録)
『悪霊』は江戸川乱歩久しぶりの本格作品ということで探偵小説専門誌の新青年が大々的に宣伝を行い、1933年11月号から連載が開始されました。しかし、わずか3回で休載に入り、そのまま未完に終わってしまいます。
そして、問題の本作ですが前半部分は新青年に掲載された『悪霊』がそのまま引用されており、後半から芦辺拓がその続きを書くという形をとっています。読んでみてまず驚いたのが乱歩の書いた前半部分から芦辺拓の書いた後半部分に移っても違和感が全くない点です。また、ミステリとしても前半部の意外なところから伏線を拾い上げ、おそらく乱歩が当初想定していたものよりも魅力的な真相を提示しています。
ちなみに、乱歩は当初の構想で想定していた真相を仄めかす発言をしていますが、それを逆手にとって新たな真相を上書きしていく手管も見事です。さらに、本作では単に作中内での真相だけではなく、『悪霊』が未完に終わった理由についても言及しています。しかし、個人的にこの部分はリアリティが感じられず、あまり好きではありません。『悪霊』自体の真相であれば少々リアリティに欠けていても問題ないのですが、『悪霊』の中絶という現実に起きた出来事の真相に関しては実際にあり得そうな答えを用意してほしかったところです。


No.409 8点 紅楼夢の殺人
芦辺拓
(2024/04/06 21:21登録)
中国4大名著として、『三国志演義』『水滸伝』『西遊記』と並び称される『紅楼夢』の世界を舞台にした連作ミステリです。毎回奇怪な不可能犯罪が起き、美少年貴公子・賈宝玉と司法官の頼尚栄がその謎を解いていくという趣向なのですが、個々のトリックは正直大したことはありません。そもそも、本作においてトリックはおまけのようなものであり、より根本的な問題は、なぜ犯人は無駄に手の込んだ犯行を毎回繰り返すのかというホワイダニットにあります。この解答がなかなかに衝撃的です。『紅楼夢』の世界観を活かした仕掛けが素晴らしい唯一無二の傑作。


No.408 7点 三幕の殺人
アガサ・クリスティー
(2024/04/03 04:24登録)
善良な牧師はなぜ殺されたのか?というホワイダニットに対する解答は、現代の読者には大きな驚きを与えることはできないでしょう。しかし、当時としては読者の意表を突くものであり、また、いろいろな角度から動機を検討していくくだりもなかなかにスリリングです。三幕仕立てのプロットもよく出来ており、古き良き時代の探偵小説として読み応えがあります。


No.407 5点 火曜クラブ
アガサ・クリスティー
(2024/04/01 07:02登録)
『黒後家蜘蛛の会』の雛型ともいえる推理合戦ものですが、今読むとたわいもないものが多くて物足りません。そのなかにあって「舗道の血痕」の巧妙さはなかなか


No.406 6点 家族解散まで千キロメートル
浅倉秋成
(2024/03/30 15:01登録)
青森の神社から盗まれたご神体が何故か主人公一家が暮らす山梨の家の倉庫から出てきて大慌て。放浪癖のある父親の仕業に違いないと結論づけ、ご神体を返して許しを請おうと一路青森を目指す物語は文句なしの面白さ。家族のキャラがそれぞれ立っていますし、ユーモアも効いています。ただ、旅路の最終局面で繰り広げられる多重解決の趣向は一つ一つの解答が雑に感じられてやや微妙。それに、騒動後のエピソードとして語られる「家族のあり方論」みたいな話が結構長くてミステリー作品としては蛇足に感じました。テーマ性はメインストーリーのなかにさりげなく溶け込ませてほしかったところ。


No.405 5点 ガラスの村
エラリイ・クイーン
(2024/03/29 14:30登録)
当時アメリカで吹き荒れていたマッカーシズムを批判した社会派ミステリーであり、50年代クイーンの数少ない代表作とされています。クイーンとしては珍しい社会派作品だったり、即席裁判の趣向だったりは大いに興味をそそられたものの、やはり本格ミステリとして地味な点は否めません。


No.404 5点 中途の家
エラリイ・クイーン
(2024/03/29 14:13登録)
中途の家という殺人現場の設定は面白く、裁判シーンなどもまずまず楽しめたのですが、犯人を指摘するロジックにはあまり感心できませんでした。なかには鋭い指摘もあるものの、どうしてもこじつけめいた推理が少なからず含まれている点が気になります。自分がロジックものが苦手なのは、こうした断定できない根拠を積み重ねて犯人を特定してしまうところにあります。ロジックの切れ味自体も『オランダ靴の謎』などに比べると劣る印象で、全体的な評価は低めです。


No.403 6点 災厄の宿
山本巧次
(2024/03/27 23:05登録)
大型台風が接近している最中に散弾銃を持った男が旅館に押し入り、疑惑の人物をテレビに出演させろと要求。さらに、クローズドサークルと化した旅館では殺人事件が起き、土砂崩れの危機までといった具合にイベント盛りだくさんでリーダビリティの高さはかなりのものです。その反面、一つ一つのネタは小粒だったり、ご都合主義的に感じたりともの足りなさを覚えました。面白かったけれどミステリーとしての満足度はいまひとつといった感じでしょうか。


No.402 4点 象は忘れない
アガサ・クリスティー
(2024/03/23 09:18登録)
トリックはありふれていても巧みなミスディレクションによって読者の意表を突くのがクリスティの真骨頂ですが、晩年の作品においてはそのテクニックにも衰えがみられます。本作も過去の事件の真相を探っていくという物語自体は結構引き込まれたものの、トリックはバレバレでした。ミステリーの場合、物語はそれなりに面白くても真相があまりにもバレバレだとさすがに興が削がれてしまいます。デビュー時から晩年まで一貫して当たり外れの少ない作家といわれるクリスティですが、個人的には『ポケットにライ麦を』や『葬儀を終えて』を発表した1953年までが全盛期でそのあと20年は衰えが目立つという印象。


No.401 4点 殺める女神の島
秋吉理香子
(2024/03/21 16:53登録)
イヤミスの女王がクローズド・サークルに挑戦ということで、外部との連絡を断たれた孤島にて連続殺人&美女7人によるドロドロ展開が始まります。このイヤミスとクローズド・サークルの組み合わせはなかなか相性が良くて読ませますし、どんどん謎が深まっていく展開にも引き込まれるものがあります。意表を突いた動機もホワイダニットものとして悪くありません。しかし、事件の真相といい、犯人の計画といい、あまりにもあり得なさそうなことが多すぎます。スケールが大きいが故に本格としては大味で、納得度の低さがかなりのマイナスポイントです。


No.400 5点 チャイナ蜜柑の秘密
エラリイ・クイーン
(2024/03/16 05:19登録)
あべこべ殺人は謎の魅力に対して真相があまりにも凡庸。もう一つのトリックも発想はユニークではあるのですが、文章で説明されても分かりづらいのが難点です。着想の面白さは随所にみられるものの、総合的な評価としては凡作どまりといったところではないでしょうか。


No.399 5点 無人島ロワイヤル
秋吉理香子
(2024/03/15 12:42登録)
無人島に置き去りにされた8人が特技を活かして殺し合いを始めるという、まんま『バトル・ロワイアル』な話です。
元ネタと比べてあっさり風味でコクがない分、テンポがよくて気軽に楽しめるので暇つぶしには最適。ただ、メタ的に考えると結末が容易に予想出来てしまうのが残念ではあります。物語の構造と作者の作風を考えるとまあ最後はあれしかないでしょうって感じで。


No.398 7点 プレーグ・コートの殺人
カーター・ディクスン
(2024/03/09 10:12登録)
幽霊屋敷の石室で血まみれになって絶命した霊媒師、完全な密室状況に意表を突くトリック、加えてヘンリー・メリヴェール卿の初登場作品と、カーの魅力が初めて完全な形で出揃った記念碑的な作品です。同時に、不可能犯罪ものの教科書的な傑作だといえます。また、密室トリック以外にも交霊術の蘊蓄や意外な犯人、巧みなミスリードなどミステリーとしての魅力が満載です。ただ、中盤までがやや冗長で読みづらく感じた点が難。


No.397 7点 孔雀の羽根
カーター・ディクスン
(2024/03/09 01:43登録)
警察の捜査メインの作品のため、物語の起伏に乏しく盛り上がりに欠けるのは残念ですが、不可能犯罪ものとしてかなりの良作です。銃を用いたトリックが秀逸で、32の手がかりも過剰演出気味ではあるものの、カーらしいサービス精神ぶりを堪能することができました。


No.396 3点 時計の中の骸骨
カーター・ディクスン
(2024/03/09 01:02登録)
ドタバタ劇としては面白いがミステリーとしては見るべきものがないという、戦後ヘンリー・メリヴェール卿作品の典型例。特に、不可能状況での墜落死事件における真相は脱力ものでした。その他のミステリー要素もイマイチで全体的にまとまりに欠ける駄作といった印象です。


No.395 2点 大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 抹茶の香る密室草庵
山本巧次
(2024/03/08 10:21登録)
タイムトンネルを使って江戸時代にやってきたミステリマニアの女性が、現代科学を駆使して難事件を解決していくシリーズ第10弾。

江戸の風俗や歴史上の人物を絡めたストーリーはまずまずですが、タイトルに密室を謳っておいてあまりにも肩透かしの真相にがっかりしました。


No.394 8点 家畜人ヤプー
沼正三
(2024/03/03 09:55登録)
日本人男性とドイツ人女性の婚約カップルが、極端な白人至上主義&男性蔑視社会である未来帝国に連れてこられるSFストーリー。

日本3大奇書(あるいは4大奇書)をミステリーに限定しないのであれば間違いなくその一角をなすであろうカルト傑作です。さまざまな言説からの引用や蘊蓄が散りばめられていながら『黒死館殺人事件』より格段に読みやすく、奇想天外な物語ながら『ドグラマグラ』より遙かにエンタメ性が高い。性風俗雑誌の奇譚クラブに掲載されたSM小説なので激しく読者を選ぶものの、そのイマジネーションの豊かさは他の追随を許しません。その代わり、物語は単なる添え物であり、あくまでも緻密に構築された壮大な世界観を堪能する作品です。


No.393 6点 推しの殺人
遠藤かたる
(2024/02/13 09:17登録)
崖っぷちの地下アイドル3人組の一人がはずみで人を殺してしまい、グループ存続のために他の2人と一致団結して隠蔽工作を図る話。
お互い仲が良いわけでもなく、グループの先行きも絶望的なのになぜ共犯者になるのかに関しては説得力にかけるものの、語り口が巧くてテンポが良いのでなかなか楽しめました。犯罪を通して互いの絆が強まっていく展開にはちょっとぐっときたりもします。どんでん返しからラストに至る流れもなかなかに感動的。


No.392 7点 君が手にするはずだった黄金について
小川哲
(2024/02/10 16:51登録)
序盤は完全に私小説のノリでしばらくするとインチキ占い師の嘘を暴くという話になったのでここからミステリ展開が始まるのかと思ったら全くそんなことはなかった。
間違っても狭義のミステリではなく、どちらかといえば文学色が強い連作短編なのですが、これはこれで面白い。
承認欲求に踊らされる人々のエピソードをユーモアを交えて描かれており、人間の業について考えさせられると同時に、エッセイのような軽い語り口には独特の心地良さを感じました。


No.391 7点 シャーロック・ホームズの凱旋
森見登美彦
(2024/02/04 23:57登録)
ジャンルとしてはミステリというより、ファンタジーです。したがって、謎解きを期待して読むと肩透かしを覚えることになります。その代わり、ホームズのパスティーシュとしては抜群の面白さです。モリアーティー教授、アイリーン、メアリ、ハドソン夫人、レストレード警部といった具合にオールスター総出演なうえにみんなキャラが立っています。加えて、それぞれの役どころもなかなかにユニーク。ただ、ヴィクトリア朝京都という異世界設定をはじめとして少々癖のある作風は、元ネタを知っていてこそ面白味を感じられるものなので、ホームズを読んだことのない人には厳しいかも。

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