(2024/01/14 20:41登録)
(ネタバレなしです) ピップ三部作の最終作である「卒業生には向かない真実」(2021年)の創元推理文庫版の巻末解説でピップの初めての事件を描いた中編作品があることが紹介されていましたが、まさかそれが単行本で読めるようになったのは驚きです。創元推理文庫版で150ページ少々の薄い作品で、三部作に続いて2021年に発表されていますが作中時代は「自由研究には向かない殺人」(2019年)の少し前の設定です。主要登場人物はピップとその友人たち7人で構成されており、三部作で激変する前の安定した人間関係が描かれています。但しページ数量が限られているので三部作のような濃厚な心理描写はなく、謎解きのみに集中したプロットです。レノルズ家にみんなで集まって犯人当てゲームをするという展開で、横溝正史の「呪いの塔」(1932年)やアガサ・クリスティーの「死者のあやまち」(1956年)のようにゲームの最中に本当の事件が起きてしまうというようなことはありません。第11章で(犯人役も含めた)全員が誰が犯人かの推理を発表するという本格派推理小説ならではのクライマックスが用意されているのですが、登場人物間で「そんなのズルいよ」「たんなるゲームなんだから」と意見が分かれていますけど、これは本書を読んだ読者の間でも同様の賛否両論になりそうな結末ですね。作者は謎解きの完成度より「自由研究に向かない殺人」へつながる物語を書くことを大事と考えていたように思います。
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