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ミステリの祭典

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文生さんの登録情報
平均点:5.85点 書評数:456件

プロフィール| 書評

No.396 3点 時計の中の骸骨
カーター・ディクスン
(2024/03/09 01:02登録)
ドタバタ劇としては面白いがミステリーとしては見るべきものがないという、戦後ヘンリー・メリヴェール卿作品の典型例。特に、不可能状況での墜落死事件における真相は脱力ものでした。その他のミステリー要素もイマイチで全体的にまとまりに欠ける駄作といった印象です。


No.395 2点 大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 抹茶の香る密室草庵
山本巧次
(2024/03/08 10:21登録)
タイムトンネルを使って江戸時代にやってきたミステリマニアの女性が、現代科学を駆使して難事件を解決していくシリーズ第10弾。

江戸の風俗や歴史上の人物を絡めたストーリーはまずまずですが、タイトルに密室を謳っておいてあまりにも肩透かしの真相にがっかりしました。


No.394 8点 家畜人ヤプー
沼正三
(2024/03/03 09:55登録)
日本人男性とドイツ人女性の婚約カップルが、極端な白人至上主義&男性蔑視社会である未来帝国に連れてこられるSFストーリー。

日本3大奇書(あるいは4大奇書)をミステリーに限定しないのであれば間違いなくその一角をなすであろうカルト傑作です。さまざまな言説からの引用や蘊蓄が散りばめられていながら『黒死館殺人事件』より格段に読みやすく、奇想天外な物語ながら『ドグラマグラ』より遙かにエンタメ性が高い。性風俗雑誌の奇譚クラブに掲載されたSM小説なので激しく読者を選ぶものの、そのイマジネーションの豊かさは他の追随を許しません。その代わり、物語は単なる添え物であり、あくまでも緻密に構築された壮大な世界観を堪能する作品です。


No.393 6点 推しの殺人
遠藤かたる
(2024/02/13 09:17登録)
崖っぷちの地下アイドル3人組の一人がはずみで人を殺してしまい、グループ存続のために他の2人と一致団結して隠蔽工作を図る話。
お互い仲が良いわけでもなく、グループの先行きも絶望的なのになぜ共犯者になるのかに関しては説得力にかけるものの、語り口が巧くてテンポが良いのでなかなか楽しめました。犯罪を通して互いの絆が強まっていく展開にはちょっとぐっときたりもします。どんでん返しからラストに至る流れもなかなかに感動的。


No.392 7点 君が手にするはずだった黄金について
小川哲
(2024/02/10 16:51登録)
序盤は完全に私小説のノリでしばらくするとインチキ占い師の嘘を暴くという話になったのでここからミステリ展開が始まるのかと思ったら全くそんなことはなかった。
間違っても狭義のミステリではなく、どちらかといえば文学色が強い連作短編なのですが、これはこれで面白い。
承認欲求に踊らされる人々のエピソードをユーモアを交えて描かれており、人間の業について考えさせられると同時に、エッセイのような軽い語り口には独特の心地良さを感じました。


No.391 7点 シャーロック・ホームズの凱旋
森見登美彦
(2024/02/04 23:57登録)
ジャンルとしてはミステリというより、ファンタジーです。したがって、謎解きを期待して読むと肩透かしを覚えることになります。その代わり、ホームズのパスティーシュとしては抜群の面白さです。モリアーティー教授、アイリーン、メアリ、ハドソン夫人、レストレード警部といった具合にオールスター総出演なうえにみんなキャラが立っています。加えて、それぞれの役どころもなかなかにユニーク。ただ、ヴィクトリア朝京都という異世界設定をはじめとして少々癖のある作風は、元ネタを知っていてこそ面白味を感じられるものなので、ホームズを読んだことのない人には厳しいかも。


No.390 5点 ブラック・ショーマンと覚醒する女たち
東野圭吾
(2024/01/25 17:30登録)
『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』に続くシリーズ第2弾。
今作は全6作の連作集になっており、いずれもトラブルに巻き込まれた女性に対して、元マジシャンのマスター・神尾武史が解決の手助けをするというプロットで統一されています。なにかすごい仕掛けがあるというわけではありませんが、著者熟練の技によって手軽に楽しめる好編に仕上がっています。基本的に各編は独立した話ですが、同じ女性が再度登場し、前後編仕立てになっているなどの工夫も楽しい。ただ全体的なミステリ度は弱めかなあ。ベストはひねりのある展開が面白い「マボロシの女」。


No.389 5点 受験生は謎解きに向かない
ホリー・ジャクソン
(2024/01/21 21:01登録)
ピップ3部作の前日譚という位置付けの作品なので殺人事件は起きません。友人たちと犯人当ての推理劇を行うという極めて平和的な作品となっています。とはいえ、ピップたちが黄金期におけるクローズドサークルミステリの登場人物を演じるメタ的な趣向は楽しいですし、同じく真相のメタ的なヒネりもまずまずです。ただ、本作は中編程度の長さしかなく、作品集の中の一編なら良かったのですが、これだけで1冊というのはどうにももの足りません。


No.388 6点 ファラオの密室
白川尚史
(2024/01/14 10:44登録)
古代エジプトで謎の死を遂げ、ミイラとなった神官が失われた心臓の欠片を取り戻すために蘇るが、そこでファラオのミイラ消失事件に巻き込まれ…。

2024年 第22回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作ですが、本格ミステリとしてはイマイチ。密室状況における主人公の死とファラオのミイラの消失という2つの大きな謎が提示されるものの、真相はどちらもたいしたことはありません。むしろ、ピラミッドの石材運搬にまつわるサブの謎の方が気が利いているぐらいです。しかし、古代の神々が存在する世界での奇想天外な物語のなかに本格ミステリの要素を無理なく溶け込ませており、エンタメとしてはなかなかに読ませます。本格メインの作品だと思わなければ十分に佳品です。


No.387 7点 バイバイ、サンタクロース 麻坂家の双子探偵
真門浩平
(2024/01/10 19:29登録)
第3期カッパツー受賞作ですが、本格ミステリとしての魅力は認めながらも選考会で受賞が持ち越しになったいわく付きの作品です。
なにが問題になったかといえば、登場人物の年齢。物語は主人公が小学3年生の時点から始まるのですが欠片も小学生に見えないのです。その違和感はかなりのもので、自分などは思わず「大人が小学生のふりをした叙述トリックなのでは?」と考えたほどでした。選考会では「登場人物を中学生にして書き直せば」などの案もでていましたがそれはそれで話が成立しなくなるという…。
そういうわけで紆余曲折を経て発表された本作ですがその凄まじい違和感にさえ目を瞑れば、ロジック主体のミステリーとして唯一無二といっていい、個性と魅力に満ちています。双子の兄弟が異なる着眼点から推理を披露し合う趣向がユニークですし、予想の斜め上をいくロジックにも唸らされます。なかでも、密室殺人の解明が思わぬ方向に転がっていく「黒い密室」と、解明すべき謎がどんどんずらされていく「誰が金魚を殺したのか」の2つが傑作です。一方、最終話はかなり衝撃的な展開を見せるのですが、ちょっと唐突すぎて気持ちがついていけませんでした。そういう点も含めてロジック系の本格ミステリが好きな人にとっては必読の問題作といえるでしょう


No.386 7点 真夜中法律事務所
五十嵐律人
(2023/12/26 07:58登録)
この作者の作品は登場人物の行動に納得できないことが多くて相性の悪さを感じていたのですが、本作は素直に面白かったです。地縛霊を成仏させるために犯人を見つけて法の裁きを受けさせるという発想がユニークですし、特殊設定を活かしたトリックもよく出来ています。ただ、話を成立させるために、設定を盛りすぎている感があるのが気になるところ。


No.385 6点 ナキメサマ
阿泉来堂
(2023/12/17 14:08登録)
村の古い因習に基づいたホラー小説で、次第に立ちこめてくる不気味な雰囲気にはゾッとさせられました。一方、著者の特徴であるホラーと謎解きの融合はデビュー作である本作からすでに顕著ではあるものの、ミステリーを読み慣れた人なら真相を見抜くのはそう難しくはないでしょう。とはいえ、二段構えのどんでん返しはそれなりにインパクトがありました。


No.384 4点 魔女の原罪
五十嵐律人
(2023/12/12 10:08登録)
著者の作品を読むのは『原因において自由な物語』『幻告』に続いて3作目なのですが、どうにも自分には合わないように思います。というのも、登場人物の行動に納得できないことが多いからです。本作でも前半の不穏な空気と学園日常ミステリー風の物語は悪くないのですが、問題は後半に起きる女子高生の全身から血を抜かれた事件の真相。いくらなんでもあの動機はあんまりだろうとすごくもやもやしました。(以下ネタバレ)








※ネタバレ
息子に流れる犯罪者の血を消し去りたくて、他人の血と入れ替えるって、犯人は医療従事者なのだから、犯罪者の血なんてものはあくまでも言葉の綾であって物理的に血を入れ替えてもなんの意味もないくらい(たとえ医療従事者でなくても現代人なら)わかるだろうに


No.383 8点 地雷グリコ
青崎有吾
(2023/12/09 10:21登録)
『カイジ』や『賭ケグルイ』などを髣髴とさせるギャンブル小説ですが、そこに本格ミステリ作家としてのノウハウを駆使し、単なる駆け引きやイカサマをの域を越えた推理やトリックをたっぷりと盛り込んでいるのが楽しい。
マイペースで勝負ごとにめっぽう強い女子高生・射守矢真兎、堅物で理論派の生徒会役員・椚先輩、審判役でつかみどころない塗辺くんなど、キャラクターもみな個性的かつ魅力的。エンタメ小説として抜群の面白さを誇る傑作です。


No.382 6点 ひらいたトランプ
アガサ・クリスティー
(2023/12/03 21:02登録)
ポアロの推理にどの程度の妥当性があるのかは正直分かりませんが、ブリッジの手や得点表から容疑者たちの心行動を読み取っていく趣向はスリリングでした。物語自体は地味ながらもぐいぐいと引き込まれていきました。ぶっちゃけ、それ以前に読んだ『カナリア殺人事件』のポーカー勝負に伴う推理が単純すぎて不満だったことが本作の印象を押し上げている面もあります。ただ、冷静に考えると本格ミステリとしてそこまで高い評価は出来ないので、点数はこのくらいで。


No.381 6点 黒い糸
染井為人
(2023/11/26 10:55登録)
クレイマー、別れたDV夫、モンスターペアレントといったイヤミス全開の登場人物が次々と現れては主人公を追いつめていく物語はサスペンス小説として読み応えあり。大人びた女子小学生や変人兄貴といった探偵役も魅力的です。テンポもよくて十分に面白い作品なのですが、ミステリーあるあるパターンに当てはめた結果、早々に犯人が分かってしまったのが個人的に残念。


No.380 6点 龍の墓
貫井徳郎
(2023/11/25 09:46登録)
メガネ型のVRゴーグルが現代のスマホ並みに普及した近未来が舞台。そこで人気VRゲームのイベントを真似た見立て連続殺人が起きるという話です。

仮想現実が身近になりつつも、あくまでも現代と地続きの世界観が魅力的で読んでいてワクワクしました。また、地に足のついた警察小説でありながら、VRゲーム見立て殺人というSFミステリーじみた趣向を盛り込んでいくのも面白かったです。ただ、事件が解決してみると、こうしたSF設定にあまり意味がなかったのにはがっかり。トリック自体はごくごく古典的なもですし、別にVRを駆使して事件を解決するわけでもありません。現代のネットゲームの見立て、なんなら漫画や小説の見立て殺人でも成立する話で、舞台を近未来にする必要があったのかな?という疑問は拭いきれないところです。


No.379 5点 グロテスク
桐野夏生
(2023/11/23 20:18登録)
未解決の東電OL事件を下敷きにしていますが、綿密な取材や作者の推理によって事件の真相に迫っていくような作品ではありません。事件は結果にすぎず、作者が心血を注いで描写しているのはそこに至るまでの主人公を始めとした女性たちの心のありようです。しかし、これがタイトルの通りグロテスクそのもので読みながらこちらの精神が削られていきました。大変な力作とは思うものの、ミステリ興味とはほど遠く、エンタメの要素も皆無なのが読み手としてはつらいところです。


No.378 6点 歌われなかった海賊へ
逢坂冬馬
(2023/11/19 16:39登録)
前作『同志少女よ、敵を撃て』と同様、日本ではあまり知られていない、世界大戦下における歴史的事実に材を取った作品です。前作がソ連の女性狙撃兵に焦点を当てたのに対して今作はナチス支配下のドイツで体制に抵抗した若者グループ・エーデルヴァイス海賊団の活躍が描かれています。しかし、個人的には同志少女のエンタメ性の高さを評価していただけに、前作ほどキャラが立ってなくて説明的な記述が続く本作にはあまりのれなかったというのが正直なところです。また、物語が現代から始まるのも本筋の展開が予見できてしまうのであまり好きではありません。ただ、後半に入って物語が動き出すと徐々に盛り上がってきますし、クライマックスの活劇シーンなどはさすがの面白さです。余韻の残るラストも前作と同じく心に染み入りました。というわけでトータル6点といったところでしょうか。


No.377 4点 僕の殺人計画
やがみ
(2023/11/18 15:17登録)
作者はホラー系の人気ユーチューバー。
天才ミステリー編集者と殺人鬼の駆け引きを描いた物語は二転三転の展開がテンポよく描かれておりそれなりに読ませます。
しかし、肝心の仕掛けがどうにもこなれていなくて納得しがたいものがあります。
素人が一夜漬けでミステリーを勉強して即席で考えたような感じです。
また、心理描写もあまりにも浅すぎて説得力がありません。
読んでいる間はそれなりに楽しめたものの、読後圧倒的な物足りなさを覚えてしまいました。

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