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ミステリの祭典

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迷宮の扉
金田一耕助シリーズ(ジュブナイル)ほか

作家 横溝正史
出版日1976年12月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 4点 文生
(2024/06/05 05:29登録)
ジュブナイル作品だとは知らずに読んだので物足りなさを覚えました。
ストーリーや謎解きはそれなりにまとまっているものの、横溝ワールドを期待していた身としては大いに肩透かし。物語には外連味の欠片も感じられず、トリックもジュブナイルということを抜きにして考えれば凡庸そのもの。とはいえ、小学生高学年あたりがミステリーの入門書として読むのであればおすすめです。

No.1 6点 人並由真
(2021/03/21 14:25登録)
(ネタバレなし)
 昭和33年10月5日。三浦半島を気ままに放浪していた金田一耕助は、突然の嵐で山間の洋館「竜神館」にたどり着く。そこは訳ありの大富豪・東海林竜太郎が10年前に建てた館だった。耕助が竜神館の住人、降矢木一馬から聞く話によると、一馬の亡き妹の夫だった竜太郎はさる事情から逃亡中。その竜太郎には日奈児(ひなこ)と月奈児(つきなこ)という元はシャム双生児だったが、今は手術で分離して健常になった当年15歳の二人の息子がいる。双子は逃亡中の竜太郎にかわって、彼らの叔父にあたる一馬とその妻の五百子(いおこ)が養育していたが、やがて一馬と五百子の夫婦仲が悪化。さらに日奈児が一馬に、月奈児が五百子にそれぞれ懐いたため、大富豪の竜太郎は日奈児と一馬のためにこの竜神館を建設。さらに月奈児と五百子のためにどこか遠方にそっくりの館「海神館」を建設して与えたのだという。奇妙な話に戸惑う耕助だが、この談話の前後に、今もいずこかに潜伏中の竜太郎が竜神館に差し向けた使者の男が館の周辺で、何者かに殺される。一馬の依頼をうけて、この事件に関わる耕助だが。

「中学生の友」(小学館)の昭和33年1~12月号に連載されたジュブナイル作品。評者は今回、本作を表題作にした角川文庫版で読了。

 横溝ジュブナイルというと怪獣男爵ものを筆頭に怪人スリラーの印象が強い評者だが、これは結構、普通のオトナでも楽しめそうな謎解きスリラーになっている。
 その上でいつもの紙芝居みたいな設定やケレン味いっぱいの趣向でなかなか読ませる。
(後半には特殊な構造の館の図入りで、不可能犯罪っぽい? 殺人事件も起きる。)
 竜太郎の秘めた事情とは何なのか? 彼の莫大な財産の行方は? などの興味をふくめて、作者らしいストーリーテリングを期待するならば、そういう希求に割と応えた一編。キャラクターの配置も(一部、記号的ながら)全体的に丁寧。
 謎解きフーダニットとしてはある程度先が読めてしまうところもあるが、それなりにひねってはある。
 旧作ジュブナイルとはいえ、清張の『高校殺人事件』あたりよりは、ずっとマトモなミステリだとは思う。

 一方で終盤でかなりバカミスっぽい部分も出てきて、まあこれはこれで愛嬌。
 しかしやはり終わりの方のさる文芸ポイントというか、ある登場人物のセリフはかなりヤバイね(汗)。当時だから許された? のだろうが、今の新刊でこんな(中略)が出てきたら、確実にwebで炎上ものだろ。軽くショッキングであった。
 終わり方がややあっけないが、ジュブナイル枠としては充分に良作。
 角川文庫版にはオマケ? にノンシリーズもののミステリ『片耳の男』と幻想的な掌編『動かぬ時計』が併録されていて、どちらもそれなりに楽しめる。

 最後に、現状のAmazonのレビューのひとつが、横溝ファンかマニアならピンときちゃうネタバレなので、注意ください。まあその見識については自分もまったく同感で、読んでいて「おお、これは!」と思いましたが(笑)。

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